傭兵組合の一日
傭兵組合とは傭兵に対して仕事の斡旋を行っている組織だ。
国家を股にかける巨大な組織で各地に支店が存在する。
傭兵組合は傭兵を使う組織だが、傭兵は戦闘にのみ使用される人員でもない。
金のためなら何でもやるが、彼等に頭脳労働は向いていない。
結果多くの肉体労働需要がこの組織に舞い込むことになる。
組合員でも早番の連中は早朝から出社だ。
出社するや否や遅番連中から引き継ぎを受け、その日に傭兵へ斡旋する業務の確認をして壁に張り出す。
本部からの連絡が来ていないか確認も行う。
本部からはいろいろな連絡が届く。
国家間の争いは日々行われており、それらは組合の仕事の元となる。
朝の鐘が鳴る頃、続々と傭兵達が建物に押しかけてくる。
この時が一番忙しい。なるべく彼等の要求に見合う仕事を斡旋しなくてはならない。
傭兵らしくない仕事もたくさんある。一肉体労働者としての需要は事欠かない。
日銭を稼ぐためにそれらを選ばざるを得ない傭兵達もまた多くいるのが実情だ。
昼の鐘が鳴る前には仕事の斡旋が終わり傭兵達はあらかた居なくなる。
ここから夕方までは比較的暇な時間で主な客は仕事の依頼主になる。
傭兵に仕事を依頼したい人達が訪れて業務の登録を行ったり、依頼主から完了した仕事の報告を受けることが主な業務となる。
仕事を受けてすっぽかす傭兵も途中でバックレる傭兵も居る。
そんな傭兵に報酬を渡すわけにはいかない。
だから職員は依頼主に傭兵達が問題なく仕事をこなしたことを確認をしなくてはならない。
夕方の鐘が鳴る前に遅番の連中が出社してきて、鐘がなった後には日雇い仕事を受けた傭兵達が帰ってくる。数日にわたる仕事を受けた傭兵達が帰ってくるのはこの時間に限らないが。
彼等から仕事が完了した報告を受けて従事した仕事の内容を確認する。
傭兵達に価値も感じていない人間は山ほどいる。
依頼内容を異なる指示を現場で出されるなんてことは珍しくない。
だから傭兵に彼らが現場で何をさせられたのか聞く必要がある。
彼らからの報告を受け、依頼主に確認をとって初めて仕事が完了する。
こういった業務形態のため、2つの問題が発生する。
仕事の完了タイミングと業務内容の食い違いだ。
仕事の完了タイミングについて説明すると、傭兵は仕事の報告をした時点で仕事が完了したと認識する。
しかし、組合としては依頼主から報告を受ける必要がある。
傭兵は一刻も早く仕事を完了して報酬を受け取りたいからすぐに報告に来るが、依頼主にとって完了報告は急務ではない。
だから翌日以降の報告となることが珍しくない。
そうなると傭兵達が報告した時点では仕事が完了しない。
仕事が完了していないので傭兵に報酬を渡せない。
そうなれば当然、傭兵達は憤る。
納得してくれる傭兵もいるが、そうでない傭兵もいる。
また日銭がないと暮らせない傭兵だっているのだ。
傭兵組合としては依頼主の完了報告が遅くなれば、依頼主に対してペナルティを課すことはできるが1日程度の遅れであればそれは難しい。
そのため依頼主の翌日報告はもはや常態化している。
結果、傭兵組合が仮払いを行う仕組みができた。
ただし報酬の先払いとなるため本来の報酬より少ない額しか払われない。差分は組合側が負うことになるリスクの補填となるためだ。
本来提示されていた満額を受領できない傭兵達はやっぱり憤る。
業務内容の食い違いはもっと面倒くさい。
傭兵側からは提示された業務内容と違うが主な主張になる。
実際そういったケースも多いが、傭兵達の認識誤りもまた多くある。
依頼された業務内容をそもそも理解していないことすらある。
依頼主側に落ち度があることも多い。
彼等の業種は多岐に渡る。
業種毎の慣習も多くあり、そういった慣習は文言として業務内容に記述されることは少ない。
そういった記述から漏れた業務に従事させられた場合、その業務に関しては別途報酬をもらわなければならない。
それに納得できない依頼主は多い。
誰だって金が絡めば強情にも強欲にもなるのだ。
そういった複雑にメンドクサイ状態になった場合も双方に話を聞き、場合によっては第三者にまで話を聞きに行き客観的に判断して適正額を算出し依頼主に請求するのも組合員の仕事だ。
そうやって如何にか裁定を行うがここでも問題が発生する。
一度でた裁定に文句を言う依頼主は少ない。何せ組合は大きな組織だから正面きって喧嘩を売るような真似はしない。
だが、組合員の裁定に納得できない傭兵もいる。学のない連中だから理屈が通じないことが多い。
納得できない傭兵は職員を恫喝して少しでも多くの報酬を得ようとする。
ここで怯むわけにはいかない。
恫喝を受けた場合は速やかに常駐している荒事担当に連携。彼等が憤っている傭兵に対して説得してくれる。
説得方法は人それぞれだが、ほとんど大きなトラブルにはならない。
だから組合には荒事担当が常駐する。
ちなみにこれも傭兵への斡旋業務で当然ながら傭兵が担当している。
多くの日雇い業務を終えた傭兵達がいなくなるころ早番の連中の業務が終了する。
ここからは遅番連中の仕事だ。
組合を訪れる人は激減し、書類業務が多くを占める。
その日終わった業務に対して依頼主、受注した傭兵双方の評価をして書類にまとめる。
こういった作業により依頼主と傭兵のランク付けが行われていく。
業務内容に偽りのない依頼主や、業務に誠実な傭兵は評価が上がる。
優良顧客に対してアドバンテージをつけることは組合の重要な仕事だ。
書類仕事を黙々行う中、緊急な仕事が入る場合がある。
滅多にないことだが発生した場合、ほとんどはヤバい事態になっている。
戦争の勃発だったり、領主に対する武力蜂起だったり、魔獣発生だったり。
いずれの場合も速やかな対応が必要となる。
遅番の人数は少ないので、それぞれが走り回ることになる。
組合長への報告は必須だ。
あとは業務内容によって領主への報告だったり、所属する有力な傭兵団への緊急依頼だったり。
場合によっては街中を回って避難勧告をする必要も出てくる。
だから遅番の連中は緊急連絡が入らないことを願いながら書類仕事をこなす。
何もなく朝を迎えることができれば何より幸せだ。
こうして傭兵組合の一日が終わる。
人々の日常においてなくてはならない組織だが、感謝を受けることは稀である。
大陸から戦争はなくならない。魔獣は発生し続ける。
領主に不満を持つ人もいなくならない。何より日雇い要員の需要がなくなることはない。
皆が当たり前に必要としている組織だ。だから傭兵組合はなくならない。