スパイ④
「迷惑なのは承知の上だ。
お願いだ、匿って欲しい!」
俺は受付嬢に懇願する。
ここに追っ手が詰めかけてきて、俺達を匿った事がバレたら受付嬢も無罪放免、という訳にはいかないだろう。
巻き込んでしまう事はわかっている。
でも今、俺達はここに隠れる以外に逃げ延びる方法はない。
「好きなだけ『当ギルド』で休んでいって下さい。
『当ギルド』はギルドメンバーの家同然、ギルドメンバーは『当ギルド』の家族同然です」と受付嬢。
受付嬢は俺達を他の誰かと勘違いしているようだ。
俺はここのギルドに加入した覚えはないし。
でも今はその勘違いを利用させてもらおう。
しかしマジョルカのお人好しが伝染したのか良心が痛む。
この受付嬢は俺達を匿ったせいで殺されてしまう可能性が高い。
「アンタもどこかに隠れた方が良い。
裏口とかないのか?
あるなら俺達がそこから逃げ出してもかまわない。
とにかくアンタは俺達と一緒にいちゃダメだ」
俺は何を言ってるんだろう?
善人、悪人に関係なく今まで殺しまくっただろう?
それに何人、無関係の人を巻き込んで殺した?
今更善人ぶるなんて、らしくない。
そんな俺の心を見透かすように受付嬢はニッコリと笑って言った。
「お気遣いは不要です。
当ギルドに入館出来るのは追放者のみ。
追っ手はこの建物に入るどころか、この建物を見つける事も出来ません」
「そんなバカな・・・」
「ウソだと思うならそちらの窓から追っ手の様子を御覧下さい。
追っ手にしてみたら目の前でお二人が消えたように見えているのでしょう」
俺は言われた通りこっそり窓から外を覗く。
そこには必死で俺達二人を探している追っ手が数十人ウロウロしている。
よくこれだけの人数から逃げ延びたものだ。
「当ギルドは安全地帯です。
ここにいる限り貴方達は絶対に危険はありません。
しばらく滞在していって下さい」
わかってる。
俺はこのギルドのメンバーじゃない。
ギルドメンバーじゃないのはすぐバレる。
俺はすぐ出て行く。
でもマジョルカだけでも匿ってやって欲しい。
「しばらくこの娘をここにおいてやって欲しい。
そうだな、俺が迎えに来るまで・・・」
嘘はついていない。
生きていたら俺はマジョルカを迎えに来るつもりだ。
そう、『生きてさえいれば』。
「良いですよ!
マジョルカさんはウチのギルドの数少ないメンバーです。
ゆっくりしていって下さい!」と受付嬢。
「アンタ、何でマジョルカの名前を!?」
「ギルドのメンバーの名前は全員暗記してますよ!
皇城を"追放"されたマジョルカさんも。
アサシンギルドを"追放"されたレオンさんも。
ここは"追放者"の皆さんが集う"追放者ギルド"ですから!」
「アンタ、俺の事も知ってるのか!?」
「もちろんですよ!」
「助かった。
でも最悪の状況は取り敢えず保留になっただけだ。
いつか俺達はこの建物から出なきゃいけない。
いくら変装しても顔を隠してもマジョルカの『皇族の紋章』は隠せない。
俺だってアサシンの刺客からいつまでも逃げ通せない。
教えてくれ!
俺達はこの先どうすれば良い!?」
こんな事はギルドの受付嬢に聞く事じゃないのは承知している。
だが俺は藁をも掴みたかったのだ。
「このギルドは追放者に新しい道を示すためのギルドです。
レオンさんはもう既に"暗殺者"でいる限りどうにもならなくなってしまってこのギルドに辿り着きました。
ではレオンさん、『適正検査』を行います。
この用紙の『○』の中に一滴、血液を垂らして下さい」と受付嬢。
「へー!レオンさん、暗殺者としての適正低くないんですね!」
「適正が高かろうと低かろうと『暗殺者ギルド』を追放された事も、お尋ね者である事も、もう暗殺者としてやっていけない事も事実だ。
適正が高くても低くても同じ事だ」
「そりゃそうですね。
・・・では今の現状を打破出来る新しいジョブを紹介します!
レオンさんは明日の朝、追っ手達が引き上げたら、この地図の場所へ行って下さい。
そこにいる人がレオンさんの新しいジョブの師匠です」
「わかった・・・が、その間マジョルカは?」
「追放されて『どうにもならない状態』なのはマジョルカさんも同様です。
マジョルカさんも『皇女』じゃなく新しいジョブを身に付けるための修行を行います」
「その修行をすればマジョルカの現状も改善される?」
「当然です。
そのための『追放者ギルド』です!」
「・・・アンタを信じるよ。
俺はマジョルカを守りきれなかった」
「レオンさんはこれまでマジョルカさんを充分護ってきましたよ。
これからは我々ギルドにお任せを!」
何故俺はこの怪しいギルドを信じる気になったのだろう?