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スパイ③

 「マジョルカ」

 「何?」

 「こちらを向くな。

 しゃべるな。

 聞くだけ聞いておけ」

 「・・・・・・」

 「よし、訓練の通りだ」

 訓練というのは寝る前に俺がマジョルカにやらせているモノだ。


 「屋台の左横を見ろ。

 例の『ネズミの肉串焼きの屋台』だ。

 アイツが俺達をつけ回している男だ。

 マジョルカはあそこに立っている男に見覚えはあるか?」

 マジョルカはチラッと屋台の方を見ると小さく頷いた。

 「そうか」

 自分らをつけていたのが、どこの誰かはわからない。

 問題は皇女の正体を知っている人物がマジョルカをつけ回していた、という事実だ。

 『皇女は生きていた』、この事実が追っ手全体に広まったら大変だ。

 ・・・殺すしかない。

 無言でつけ回してきた男に近付こうとした俺をマジョルカが呼び止める。

 「ちょっとどうする気!?」

 「『どうする?』って、どうもしないよ。

 殺すだけだよ」

 「『殺す』!?

 叔父様を殺しちゃダメだよ!」

 「叔父様?

 マジョルカの叔父さんなのか。

 でも義母(おば)さんの味方なんだろ?」

 「叔父様は元々私に優しかったのよ。

 でも奥さんと子供を人質に取られちゃって・・・」

 「それで敵に回ったんだろ?

 だったら殺そう。

 敵は根絶やしにしないと。

 害虫は一匹見つけたら駆除しないと無限にわき出るぞ?」

 「叔父様を害虫扱いしないで!」

 「マジョルカは皇女の地位も貴族の地位も綺麗サッパリ捨てたモノだと思ってた。

 貴族時代の人間関係はそんなに大事か?」

 「そうじゃないよ!

 そうじゃないけど人殺しはダメだよ!」

 「殺さないと俺やマジョルカが殺されるんだよ?

 マジョルカはアイツの命の方が俺の命より大事なの?」

 「・・・ごめんなさい」

 「わかった。

 マジョルカの好きにしたら良い。

 取り敢えずここからは逃げよう」


 何故変装していたのに正体がバレたのか?

 皇女の左手甲には皇位継承権を持つ者の証として紋章が浮かび上がっていたから。

 その紋章は皇位継承権を持つ者同士が引かれ合って浮かび上がるモノらしい。

 つまり皇位継承権第一位の皇女と皇位継承権第十四位の皇女の叔父との紋章が互いに引かれ合い光を放った、と。

 つまりどんな完璧な変装をしても紋章が浮かび上がってしまえば隠しようがない。


 思った通りだった。

 マジョルカの叔父を見逃してから追っ手が現れるようになった。

 しかも追っ手の数は尋常じゃない。

 逃げようにも外は追っ手だらけだ。

 ここにいてもジリ貧だ。

 一か八か今夜逃げ出そう。


 俺は新月の暗闇に紛れて、マジョルカと街から出ようとした。

 だが、考えは甘かった。

 街の外に通じる道は全てで検問が行われている。

 「ここも検問か!」俺達は更に迂回せざるを得なかった。

 「ごめんなさい。

 私のせいで・・・」とマジョルカ。

 「そんな事、今はどうでも良い」

 「私を囮にして逃げて!

 お義母様の狙いは私だけ。

 私と反対方向に逃げたらレオンなら逃げ切れるわ!」

 「あのババアからだけ逃げ切れてもどうしようもないんだよ。

 俺は『絶対裏切りを許さないアサシンギルド』からも追われているんだから。

 俺に考えがあるんだ。

 俺がいざっていう時に逃げ道として活用出来るんじゃないか?と注目していた地下下水道に続く道があるんだよ。

 そうだ、肉串焼き屋台のオヤジが入って行ったあの地下だ。

 あそこから街の外に逃げれるかも知れない」

 「もしダメなら?」

 「ダメかも知れないけどこれしか逃げきれる可能性はない。

 試してみる価値はあるんじゃないか?」

 俺はマジョルカと地下を下った。

 思ったより簡単な造りだ。

 ほぼ一本道だ。

 人影はない。

 これは脱出ルートとして正解だったんじゃないか!?

 俺達はついに地上へ上がる階段を見つけた。

 ここから街の外へ一気に逃げよう。

 追っ手はきっと街の中をくまなく包囲している。

 俺達が包囲の外にいるなんて思っていないはずだ。

 俺達は地上へと上がる。

 「いたぞ!

 御触れ通りの背格好の男女だ!」地上に上がったところで俺達は松明に照らされた。

 何の事はない。

 逃げ道はここしかないのだ。

 誘い込まれたのだ。

 「マジョルカ、走って!」無駄な抵抗だ。

 俺達は脇道に逃げ込む。

 「よし、狙い通り!

 袋小路に誘い込んだぞ!」

 オイオイ、聞こえてるぞ。

 聞こえたからと言ってこちらには打つ手はないんだが。

 追っ手達が言っていた通り、俺達は行き止まりに誘い込まれた。

 逃げ場はもうない。

 追っ手は迫っている。

 絶対絶命だ。

 俺は苦し紛れで袋小路の奥にある建物の扉を開いた。

 鍵がかかっていると思った建物の扉は難なく開いた。

 俺はマジョルカの腕を引っ張り扉の中に身を隠した。

 扉の中は夜中なのに煌々と灯りがついている。

 何かの商売屋なのか、正面にはカウンターがあり、カウンターの中には受付嬢がいる。

 受付嬢は愛想良くニッコリと微笑むと頭を下げて言った。

 「ようこそ、追放者ギルドへ!」と。

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