錬金術師④
俺は追放者ギルドへ帰ってくる。
「カリスさん、お帰りなさい!
どうでした?
錬金術は身に付きました?」
「ごめん。
折角職業訓練期間の諸々の費用出してもらったのに追い出されちまった」
「そうですか。
こんな時に言うのも何ですけど、職業訓練期間が終わったらギルドの斡旋する仕事を受けなきゃいけない決まりなんですよ。
仕事を受けて貰えますか?
それともギルドを辞めますか?
ギルドを辞めたとしても特にペナルティはありません」
「当面の生活費も必要だし、またギルドには世話になりたい。
今、ギルドを辞める訳にはいかんよ。
ギルドの斡旋した仕事は受けるよ」
「わかりました。
カリスさんに頼む仕事は薬草採取ですね」
「まあ、なり損ないの錬金術師が一人でこなせる依頼としちゃ妥当だとは思うぜ」
俺は街を出て依頼のあった平原で薬草を採取する。
「この薬草、わざわざここまで来なくてもどこでも生えてるんじゃねーの?」
俺は悪態をつく。
出来る事ならこういった雑用は受けたくない。
もっと胸が踊るような冒険をしたくて冒険者を志したのだ。
早く薬草採取を終わらせて街へ帰ろう。
そう思っていると冷たい風が流れて来る。
イヤな予感がする。
これはダンジョンで強めのモンスターが隠れていた時感じる感覚に似ている。
それよりヤバめの感覚だ。
「強い魔力に誘われて来てみれば雑魚が一匹いるだけではないか」後ろから声がする。
俺はガバッと振り向く。
後ろには鎧の騎士がいる。
彼がただの鎧の騎士でないのは鎧の首から上が無いこと、鎧の頭の部分は騎士の左脇に抱えられている事でわかる。
「デ、デュラハン・・・」
こんな大物モンスター、俺のレベルで、しかも一人で討伐できる訳がない。
俺は必死で拾った石を投げつける。
「無駄だよ。
我を傷つけるなんて貴様には出来ない」
デュラハンは遊んでいるようだ。
「まあ過去には我を傷つけた武器もあったが。
確かダモクレスの剣だったか?」
「ずいぶん優しい事だ。
自分の弱点を晒すとはな」と俺。
「『弱点を晒す』?
それを知った所で何も出来まい。
それにダモクレスの剣はすでに存在しない。
我を突き刺すと同時に折れたのだからな。
憎き聖剣のせいで我は数百年の眠りについた。
しかし我は復活を遂げたぞ!
この度は我を封じる聖剣も存在しない!」
ミスマッチだ。
勇者なら、英雄なら、復活したデュラハンを再び封じれるかも知れない。
でも雑魚パーティですら追放される俺が何が出来る?
俺は後退り逃げようとする。
「逃げるな。
もう少し楽しませてくれよ」
デュラハンは光線のような弓を俺の足元に撃つ。
「逃げようったって無駄だ。
我の撃つ矢は鋼をも穿つ」
もう逃げるのは無駄なようだ。
俺は覚悟を決める。
「ほう、立ち向かう覚悟を決めたか。
その意気や良し!
一思いに息の根を止めてやろう」
デュラハンが一気に間合いを詰めてくる。そして近距離から弓矢を放つ。
俺は錬金術で盾を産み出し、デュラハンの弓矢を受け止める。
「馬鹿な!我の矢を受け止める盾などあろうはずもない!」
しかしデュラハンは勢いよく突っ込んできており止まれない。俺はデュラハンとすれ違いざまに錬金術で産み出した剣でデュラハンを袈裟斬りに叩き斬った。
「バ、バカな!
ダモクレスの剣だと!?
既にその剣は存在しないはずだ!」
既に鎧はバラバラになり、デュラハンは消える寸前だ。
「そうだな。
ダモクレスの剣は確かに存在しない。
だが、俺はダモクレスの剣を錬金術で10分だけ複製出来る。
同じようにお前の弓矢を受け止められるアキレウスの盾も10分だけ複製出来る」
「我が紛い物に敗れた、というのか・・・」
「俺の産み出した物は本物と寸分の違いもない。
・・・まぁ、10分限定ではあるがな」
「油断した・・・。
油断がなければ或いは」
「そうかもな。
しかし結果が全てだ。
俺は勝ち、お前は負けた」
俺の台詞の途中でデュラハンは霧のように消え去った。
「デュラハンをここに呼び寄せたのはババア、お前か?」
俺の後ろから老婆が現れた。
「さて、どうだろうね?
ケケケ!」
「惚けるな。
別に俺の魔力に引き寄せられたなら、このタイミングじゃなくても良いはずだ。
デュラハンを復活させたのもババアだろ?」
「人聞きの悪い・・・。
デュラハンにかけられた封印はいつ解けてもおかしくない状態だったんじゃ。
ワシはお前が街の外に出るタイミングに、そこにデュラハンを呼び出したに過ぎん」
「もし俺がデュラハンに負けたらどうするつもりだったんだ?」
「その時のためにワシもここに出張っておろうが」
「本当にババアはデュラハンと闘う気があったのか?
そうだったら一緒に闘えば良かっただろうが」
「さてねえ?」
「ババアの言う事はどこまで本当で、どこからウソか全くわからん」
「言ったはずだよ。
『全てを疑え』と」
そう言いながら立ち去る老婆の姿は、スラっとした美女だった。