錬金術師③
『新しい職を得た後、ギルドの斡旋する仕事を半年間、二月に一回は受けて欲しい。
職業訓練費用、職業訓練期間の食費はギルドが出す』と言われたら食費もない俺が断れる訳もない。
俺は『追放者ギルド』とやらの斡旋する、錬金術師の師匠の元へと向かった。
街外れの森の中にその老婆は住んでいた。
「アンタかい?
ワシの跡継ぎ候補って言うのは?」と老婆。
そんな話は初耳だ。
「紹介を受けて来たカリスだ」
「ふん、目上の者に対する礼儀がなっちゃいないね!」
「そりゃ悪かったな」
「イヤでもアンタに敬意を払わせてみせるよ。
『教えて下さい、師匠様!』ってね」
老婆はケケケと笑った。
まんま昔話に登場する悪い魔法使いだ。
老婆に付いて小屋に入ると、小屋を中は何もなかった。
「何を驚いてるんだい?」
「いや、本だらけだと思った」
「ワシは錬金術師だよ?
魔術師じゃない。
魔術書なんて一冊たりともあるもんか」
「いまいち良くわからない。
『錬金術』って何だ?
『魔術』とどう違うんだ?」
「魔術と錬金術が似ている部分っていうのは『魔力を消費する』って部分だけさ。
あとは全く別物だね。
ワシからお前に対するアドバイスは一つだけ。
目に見える物全てを欺け。騙せ。信用するな。
書物なんて最も疑うべきモノさ。
魔術書なんてクソ食らえだ」
「よくわからんな。
だったらアンタだって俺は信用すべきじゃないはずだ」
老婆はケケケと笑いながら言う。
「お前は筋が良い!
そうだ。
お前はワシを一切信用するな。
でもワシを利用しろ。
ワシだけじゃない。
目に付く物全てを利用するのさ!」
こうして俺の錬金術師の修行が始まった。
「真水はどんな味だい?」と老婆。
「どんな、って無味無臭だろ?」
「じゃあここのコップの水を飲んでみな?」
おれば言われた通りコップは水を飲んでみる。
「酒じゃねえか!」
「そうだ。
それは酒だ。
でもコップに注がれた時は水だった。
魔力を通して因果を曲げる事で『水』は『酒』になったのさ。
つまりお前は騙されたのさ!ケケケ!
錬金術って言うのは因果を曲げる事、事実を曲げる事、世間を騙す事さね。
お前はこれから全てを騙す事を覚えるのさ!」
「それが錬金術なのか?」
「土に金に変えるのが錬金術なら、水を下げに変えるのだって錬金術さね」
「あ、そうか」
「・・・というように人を言いくるめて騙すのさ」
「!このクソババア!」
「お前はワシの言う事も信じるんじゃないよ。
『事実を自分で作る事』が錬金術なのさ」
「・・・頭が狂いそうだ。
何を信じて良いかわからん」
~数ヶ月後~
「ようやくお前の錬金術も形になってきたね」
「元々魔力量だけは人並み外れて多いからな。
錬金術がこんなに魔力を消費するとは思わなかったが」
「物事は因果を曲げるには凄い"力"が必要なのさ。
だから錬金術には莫大な魔力が必要となる。
魔術師なんかよりもね」
「でも俺はまだまだだ。
産み出した武器も防具も道具も存在させるのは10分が限界だ」
「お前・・・それがどういう意味かわかってるのかい?」
「ババア、そんなおっかない顔すんなよ。
今はまだ10分が限界だけどゆくゆくは・・・」
「もうお前に教える事はないよ。
出ていっとくれ!」
「おい・・・」
「早く!」
俺はまたしても追放されてしまった。