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スパイ⑧

 「これ誰だよ!?」

 変装した自分の姿を見る。

 「お前は『スカル』、実在のディーラーだよ。

 いや『実在した』と言うべきか」

 「どういう事?」

 「スカルは見た目通り女にモテたのさ。

 で、数日前に女に恨まれて刺し殺されてる」

 「オイオイ、恨みを抱かれてる男に変装して大丈夫!?」

 「スカルに恨みを抱いてた女ならスカルと無理心中してるから大丈夫!」

 「恨みを抱いてる女が一人とは限らないじゃないか!

 それに知り合いだって・・・」

 「そんな社交性のあったヤツに変装してると思うかい?

 そんなヤツが殺された事を周りが知らない訳ないだろ?

 『あぁ、そんなヤツいたな』程度に認識されている男に変装するんだよ!」

 「何のために!?」

 「二流は『存在しない』人物に変装する。

 一流は『存在する』人物に変装する。

 超一流は『存在した』人物に変装する。

 嘘は絶対に破綻する。

 嘘を隠すためにもっと大きな嘘はつかなきゃいけない。

 その嘘も絶対にボロが出る。

 だから変装には本物の部分が必要だ。

 それが『実在する人物のパーソナルデータ』なのさ」

 「なるほど」

 「わかったらスカルの個人情報を叩き込んでおくように」


 俺はカジノにアッサリ採用された。

 ちょうどディーラーに欠員が出来たらしい。

 何でもディーラーが酔って客に猥褻行為を働いたとか。

 ディーラーは頑なに無実を主張しているらしい。

 実に不憫だ。

 なぜならおそらく彼は本当に無実だから。

 俺がディーラーとして潜り込むためにクビになったんだろう。

 気の毒ではあるが、クビになったディーラーは客のイカサマを見抜けず、カジノに大損害を負わせたので早かれ遅かれクビにはなっていただろう。


 俺はカードのテーブルにディーラーとしてつく。

 女が俺のテーブルに付かなければ、今日はそれまでだ。

 女が隣のテーブルに付く。

 今日はここまでか。

 女は負けがこんでいてイライラしている。

 『卓が悪い』

 弱いギャンブラーにありがちな責任転嫁だ。

 女は卓を移る。

 すかさず俺は女に声をかける。

 「お客様、何かご入り用でしょうか?

 何でしたら、お飲み物でもお持ちしましょうか?」

 「そうね。

 私が今すぐ欲しいのは『ツキ』かしら?」

 「勝利の女神はとても嫉妬深い、と言います。

 女神は美し過ぎるお客様には今宵は微笑まないのかも知れません」

 俺は歯が浮くような『おべっか』を口にしながら通りかかったウェイトレスにマティーニを注文する。

 そしてウェイトレスが持ってきたマティーニを自分のテーブルの対面に置いた。

 つまり女に『ここに座れ』と。

 見え見えの『おべっか』だ。

 だが、誉められて悪い気がする女はいない。

 それにこの手の『夜の女』は、客に物扱いされる事が多いせいか、ちやほやしてくれる男に何故かカモにされがちだ。


 女はニコッと笑いながらテーブルに付く。

 食いついた!

 まずはこの女を気分良くさせないと。


 テーブルには3人の客が座っている。

 左隅に座っている男はカモだ。

 正直勝とうとはしていない。

 連れている女の子に気前が良いところを見せたい、金回りが良いところを見せたい小金持ちと言ったところか。

 お望み通りムシれるだけムシろう。

 真ん中に座っている男は負けがこんでイライラしている。

 最初は少し勤め先の金を使い込んだだけだったが、ギャンブルに勝てば使い込んだ金を返せる・・・と、横領額が膨らんでしまったパターンか。

 負ける度に顔色が青くなったり赤くなったり忙しい。

 可哀想だが自業自得だ。

 コイツからもムシれるだけムシろう。

 そして右端に座っている女が今回のターゲットだ。

 俺はカードを客に配る。

 男1「降りる」

 男2「もう一枚」

 女「ステイ。これで勝負よ」


 男2「ちくしょう!バーストだ!」

 女「私の一人勝ちね」

 女の前にチップが積み上げられる。

 俺は他の男からチップをぶん取っているからカジノゲーム損害は負わせていない。

 それどころかかなりカジノに利益を与えているし見ている人達にも「このカジノは勝てる可能性もあるんだ!」と好印象を与える、理想的な場の回し方が出来ている。


 結果女の一人勝ち。

 女はホクホク顔だ。

 「ちょっと休憩に入らせてもらいます」

 俺は場を畳んだ。

 「!?勝ち逃げする気か?」と男2。

 かなり熱くなってるな。

 「いえ、私もお客様と同じように今夜は思うように勝てていません。

 こういった場合、場の空気を一旦変えてみるものなんです」

 「そういうモノか・・・」

 「そういうモノです」

 実際には知らない。

 というか、ディーラーの気分で場を畳まれたら正直、カジノに来た人間はたまったもんじゃないだろう。

 こんな詭弁に騙されるからカモなんだよ。

 イカサマ散々しても一切気付かなかったし。


 「ありがとう。

 お陰様で今夜は大勝ちよ!」女が声をかけてくる。

 今までの負けからしたら、大した勝ちじゃないだろう?

 負けた時の印象は忘れて、買った時の記憶だけ鮮明、だから負けても負けてもカジノに入り浸るんだよ。

 で、カモギャンブラーの特徴・・・。

 「今夜は気分が良いわ!

 一杯奢らせてちょうだい!」

 勝った時にだけ気前が良くなる。

 「ではご馳走になります。

 幸い、先程の卓で店仕舞いにしようと思っていたところなんです」


 ここまではシナリオ通りだ。

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