スパイ⑤
マジョルカを置いてあの怪しげなギルドを出るのは気が引ける。
でも俺ではマジョルカを助けられないのは明白で、あの受付嬢は『ここにいる限り安全だ』とハッキリ言った。
数%でも彼女があそこにいれば生き残れる可能性があるなら・・・俺と一緒に逃亡生活を送っても逃げ延びられる可能性は皆無なんだ。
俺は翌朝、追っ手がいない事を確認して『追放者ギルド』を出た。
マジョルカが疲れて泥のように寝ているのを確認してだ。
無理もない。
ここ数日まともに安心して寝ていなかったのだ。
そう簡単には起きないような深い眠りについているのだろう。
俺もここ数日まともに寝てはいなかったが、暗殺者として仕込まれていたので短い睡眠時間で深い眠りを取れる訓練は受けていた。
念のため変装はしている。
よっぽどの事がない限り、マジョルカの追っ手には正体がバレる事はないだろう。
だがアサシンギルドの連中にはバレるかも知れない。
だから日が昇ってから活動するのだ。
アサシンギルドは文字通り『暗躍する』のを得意とする。
つまり昼間とは相性が悪いのだ。
アサシンギルドの連中は極端に人の視線を嫌う。
で、あれば人の視線が集まる時間帯ならアサシンギルドは寄って来ない・・・はずだ。
だが昼間はマジョルカの追っ手の活動時間なのだが。
つまり昼間も夜中も24時間追っ手は活動している。
だから動けなかったのだ。
マジョルカを連れてはこの時間は動けない。
でもマジョルカ抜きならこの時間は俺が唯一動ける時間だ。
受付嬢に指定された建物を見上げる。
街から離れるのかと思いきや、建物は街の一番の中にあった。
「ずいぶん目立つところにあるんだな・・・」
俺は少々怪しみながら呟く。
この建物の2階が受付嬢に指定された場所だ。
俺は2階に上がる。
階段は建物の横についている。
建物の四階から上はまだ建造途中だ。
出来た階からテナントが埋まっていっているんだろう。
取り敢えず四階の屋根だけ先に作ってあるのは「屋根がないと雨水が各部屋に溜まるから」かも知れない。
俺は二階の右端の部屋を教えられたようなリズムでノックする。
中から気だるそうな女性の声が聞こえる。
「どなた?」
「名乗るほどのもんじゃありません」
これは教えられた合言葉だ。
ドアが開くとそこにはマジョルカと同じくらいの年頃に見える娘が立っていた。
年頃は同じくらいだが、娘は比べものにならないくらいマジョルカよりスレて見えた。
しかし耳が尖っている。
これは妖精族、エルフ族などの特徴で実は見た目の年齢より遥かに年上だったりする。
「俺は・・・」
「大丈夫、アンタがどこの誰かは掴んでるよ」
「何で・・・」
「情報が私らの命綱だからさ。
私らはこの街に関する全ての情報を把握しようと動いてる。
勿論、そこにはアンタがアサシンギルドを追放、除名になった事も皇女様が城から逃げた事も情報としては入ってるよ」
「あ、アンタらは何者なんだ!?」
「私らはスパイ。
ここはスパイ養成施設・・・ってところかな?」
「なんだ、スパイか」
「おや?
何かお気に召さない様子だね?」
「そりゃあそうだ。
『アサシン』と『スパイ』じゃやる事に大差はないだろう?
隠密任務をやるのも、殺しをやるのもかわらないだろう?」
「確かに情報を得る過程で戦闘になる事もあるさ。
でも『スパイ』と『アサシン』じゃ目的が全く違う」
「目的?」
「『最終地点』とでも言えば良いかな?
『アサシン』の最終目的は何だ?」
「『殺し』・・・だな」
「『スパイ』の最終目的は『情報奪取』だ。
殺さなくては話が終わらない『アサシン』とは違う」
「『アサシン』を見下すのか!?」
「そうじゃない。
お前だって痛感したはずだ。
『大きな力に対抗するには力じゃ勝ち目がない』と。
『殺し』じゃマジョルカ皇女を助けられない、と。
皇帝を一人殺せば終わりの場面では『アサシン』は大活躍する。
でも『マジョルカ皇女を助ける』という任務の時、『アサシン』は無力だ、違うか?」
「・・・その通りだ。
俺はどうすれば良いんだ?」
「その前にお前は現状を把握しているか?」
「現状?」
「マジョルカ皇女が皇国に反逆した末に逃亡した事になっているのは知ってるか?
皇子の母親が『皇子こそ真の次期皇位継承者だ』と言っているのは知っているか?」
「知らなかった・・・」
「この情報を手に入れる事を第一に考えるのがお前が軽く見ていた『スパイ』だ。
そして皇子の母親の企みを暴くのが『スパイ』の仕事で、唯一この皇国でマジョルカ皇女を無事に城へ帰す事が出来るのが『スパイ』だ。
お前はマジョルカ皇女を助けたいか?」
「それはもちろん!」
「それならお前は『スパイ』になれ!」




