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ご令嬢と王子様

お嬢様と王子様 その5

作者: まい

 シリーズものです。


 シリーズ未読の方でしたら、出来ればシリーズ初回(1話目)だけは先に読んで頂いてから、今回のを読んで下さると嬉しいです。


 あと今回のは2話目も微妙に関わってくるので、そちらも未読でしたら先に読んでくださると更に嬉しいです。


 既にシリーズ通して読んで下さっている方でしたら、いつも読んで下さってありがとうございます。

 とある農業大国にて元気で(ほが)らかに育つ、今はまだ幼き王子とその婚約者たる令嬢。


 将来美人になる事を簡単に夢想(むそう)できる容姿のふたりだけど、今はまだ可愛らしさと大人ぶりたい生意気さが大爆発している時期。


 そのふたりは今日も仲良く王宮の王家用食堂で、昼食を()って………………。



 いなかった。



〜〜〜〜〜〜



「我が婚約者! 貴様とは道を(たが)えてしまった!

 (ゆえ)に貴様とは婚約破棄し、(わたし)は新たに食肉牧場の娘と婚約し、食肉家畜(かちく)の改善・改良をして行くこととする!

 貴様は貴様で、愛する肉と婚姻を結ぶといい!」


「そんなっ!? (わたくし)と共に肉のより良き未来を模索(もさく)して行くと誓ったではないですか!!」


「道を違えたと言った! 温情で貴様には追放令を出さないでおこう。 さらばだ、我が()婚約者!」


「殿下っっっ!!」











「…………なんだコレ?」


「何でしょうね?」


 

 王家用の食堂。


 そこで給仕(パーラー)メード達に見守られながら、()()()()()()()()()()一冊(いっさつ)()を、隣り合った席で一緒に読んでいた。


 内容は“肉王子”と“肉姫”と呼ばれる婚約者の間に“お肉(たべもの)”が割って入り、なんやかんやあってそれぞれが違う幸せを探す、本当に理解不能な肉(ラブ)本である。


 本では畜産農家の娘と結婚しようとしている王子だが、別にその娘を特に愛している描写等は無く、ひたすらに肉を愛している描写しかないのも理解不能具合に拍車をかけている。


 見守るメード達もその本の朗読を聞いていて、内容なんてそっちのけで本を音読する王子たちの様子をガン見していた。



 読んでいる本人達が理解不能で、メード達は微妙に肩を(ふる)わせながら王子達を見ているだけ。


 非常にカオス。



「作中に挟まれるお肉への感想の濃厚さから、この本から伝わるのはお肉への愛だけですわね」


「うん。 確かにお肉は美味しいし大好きだけど、流石にそのためだけに牧場へ婿(むこ)入りはしないかな」


 困惑しかない、本への感想。


「殿下も、こんな思い切った行動はしないで下さいね?」


「え? まさか。 そんなことをしたら、色んなお肉が食べられなくなるから、やらないさ」


「…………それって色んなお肉がもっと食べられるなら、そっちへ婿入りするって事ですの?」


 王子のアレな発言の言葉尻を捉え、目つきがちょっと険しくなるご令嬢。


 だが6歳なんて幼い男女で、男の子ではこの機微(きび)なんて察知できるものではない。


 なので、王子はのほほんと何も考えず返す。


「婿入りと言うか、僕なら国のチカラでお肉を美味しくしたり、もっと美味しい食べ方を探す研究所を建てて、このまま二人(ふたり)で一緒に研究するかな?」


 「…………!?」


 その返しに面食らい、なおかつ“一緒”のところでしっかり見()えられ、まん丸お目目になるご令嬢。


 ついでにその(ほお)には紅が差されて、硬直するご令嬢。




 …………スゥー。


 その光景に、妙な呼吸音っぽいのがメード達がいる壁際から聞こえてきたような気がするが、二人には全く耳に入らなかった。




〜〜〜〜〜〜




「へぇ。 ニンジンの葉をお茶にすると、ミントを混ぜたハーブティーみたいになるのね」


「お嬢様」


「国民の中にはニンジンの葉を()でて食べる人もいるって聞くけど、独特な味で好みがハッキリ分かれるから苦手な人も多いって話もあるわね」


「お嬢様」


「味の強いお菓子にこれを()えれば、いつもよりお菓子に手が伸びそうですわね」


「お嬢様」



 あの後、昼食の時間になったのでそのまま食事。


 それが終わって王宮の自室へと戻ってきたお嬢様は、現在のんびりタイムである。



「なによ?」


 何度もご令嬢の侍女から呼びかけられ、流石に無視できなくなったらしい。


 イヤそうだが、カップを受け皿(ソーサー)へ戻し、体面の席に座って一緒にお茶をしている侍女の呼びかけに応じるご令嬢。


「殿下からプロポーズされたと聞きましたが」


 なんともストレートな質問に、思わず苦笑するご令嬢。


 この王宮内では、噂がすぐに飛び回る。


 その噂が出回る超スピードには、呆れるほかない。



「アレにそんな甲斐性(かいしょう)はまだ無いわよ」


 存外冷静に返すご令嬢の様子に、侍女は(まゆ)が少し動く。


 この大人ぶって大人の言葉を使いたがる幼き主人を可愛らしく思っていても、それとは別の感情がユラリと動く。


「ずいぶん冷静ですね。 言われた瞬間は顔を真っ赤にしていたと聞きましたのに」


「それは多分怒りからよ」


 なんて言うご令嬢だが、言っているご令嬢の頬に少し赤みが差したのを見るに、多分誤魔化しているつもりだろうと見当をつけた侍女。


「お嬢様は、どうお怒りになられたので?」


 なので話に乗って、ちょっとイタズラで揺さぶってみようとする悪い侍女。


 これでも侍女なりの愛情なのだ。


「殿下はまだ子供ですもの。 どうせあの発言に、恋愛感情なんて含まれていません。

 なのにあんな気がありそうな言葉を使って……馬鹿にされていると受け取ったのですわ」


 そう言っているご令嬢の頬の色は、変わらず。


 これを確認して、それはもうニヤニヤしだす侍女。


「プロポーズされたと瞬間的に浮かれた自分が恥ずかしくて、八つ当たりしたんじゃないのですね?」


 ニヤニヤしたまま言い放つ侍女。


 ちょっと喋ったから、口を湿(しめ)らそうとカップへ手を伸ばしていたご令嬢の動きが、ビクリと一瞬動いてから完全停止する。


「好きな殿方(とのがた)から告白(まが)いの言葉をかけられて、そっちへ考えが行ってしまうのは仕方ないですよね。 流石、幼くても女は女ですからね」


 侍女の(した)は絶好調。


 ご令嬢へのからかい方に、年季を感じる。


「…………ふんっ!」


 そしてご令嬢もからかわれて来ただけはある。


 侍女に悪意が無い事は、長年一緒にいる関係でよく理解していて、硬直がとけてから鼻を鳴らしてそっぽを向く仕草もやり慣れている。





「殿下から本当にプロポーズして下さる日は、いつになるのでしょうね?」


(わたくし)()きたい位よ!」


 そっぽを向いたまま会話に応じるご令嬢の姿に、ニヤニヤではない、小さな笑みを作る侍女だった。

蛇足



肉の本



 なぜ城下町で流行っているのかは不明。


 国政に不満があって、遠回しに批判するために出した……なんて経緯は一切無い。


 本当にただの娯楽小説。


 ……なんだけど、一部で哲学書扱いされているとかいないとか。




ニンジンの葉



 現実でも食べるらしい。


 味は清涼感が有るとか。


 なお、茹でると灰汁(あく)が出るらしく、茹でるのはちょっと面倒っぽい。




ニンジンの葉茶



 王宮の料理長の趣味、野菜で捨てる部分を使ったお茶作りで出来たもののひとつ。


 リアルでもレシピがあって、健康“そう”だとして健康茶のひとつに数えられるらしい。


 ニンジンの葉茶を推すページを見たけど、ちゃんとしたデータは出してない。


 葉に含まれる栄養素や効果の話はするけど、どの位お茶として出てくるかの計測値を出しておらず、推測しかなかったので。




侍女が主と同席してお茶



 他の人の目のある場所なら問題だが、ある程度気を許せる関係なら、主がそれを求めるなら、超個人的(プライベート)なお茶の席で同席しても問題ないと自分は思います。




拳銃所



 修正前に作中に出ていた謎の場所。


 研究所と書こうとして、謎の予測変換の暴走と誤タップで出てしまった模様。


 修正済みだが、なんか面白かったので記念にセルフ晒し上げ。

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[良い点] ほのぼのいただきましたぁ~♪ [気になる点] 女心を揺さぶる意図しない発言はなんかもっとありそうですね? その都度頬を染める令嬢を間近で見てみたいもんです。 きっとメイドたちと一緒にこらえ…
[良い点] 6歳児たちのニヤニヤ話。 姫、まだまだ異性という感覚の芽生えが無い男の子とは、これはこれで良いものでございます(愉悦) [気になる点] なんとなく健康そう、なんとなく効きそう、たぶんそれが…
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