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6階の総務部で、切なくて、うれしくて、戸惑う翔太

 山内君に、金沢さんと会う機会を作ってほしいなんて、お願いされたけど、さて,どうしよう。

 だいたい、金沢さんとは、同期だっていうだけで、ほとんど話したことがない。

 用件もないのに、いきなり会いにもいけないし。

 変に話を持ちかければ、完全にセクハラ、コンプライアンス委員会行になっちゃう。

 下手をすれば、ストーカーだ。


 翔太は、嫌な約束をしてしまったと思っていた。

 いや、約束はしていない、依頼されただけだ。

 だけど、鋸岳登山の前日、早く帰らしてもらった、恩もある。

 

 なにか、良い案を考えていた。



 次の日の朝礼……。



「9月16日に消防訓練が、行われます。みなさん、なるべく参加お願いします。詳細は、総務部から後日……」


『これだ!』


 翔太はひらめいた。


 彼女は総務部。

 消防訓練をネタにして、話しかけてみる。

 そのついでって感じで、たまにはみなんでご飯でも。

 そう、みんなでっていうのが大切。

 そんな感じで!誘ってみよう。

 我ながら、良い作戦じゃないか。


 翔太にとっては、女性関係が最も苦手な分野。

 本当に、大変なお願いをされたものだ。


 だけれど、山内君はきっとふられる。

 いや、その前に、相手にされない。

 金沢さんとは、つり合いがとれるはずないのだ。

 それは、山内君だからという話ではなし、彼女の容姿に限った話だけじゃない。


 実は金沢さんは、本当のお嬢様。

 長野の実家は、味噌の製造業を営んでいる。

 自分では、『味噌屋の娘』なんて、言ってるけど、名に通った大会社のご令嬢。

 百貨店の地下にも、卸していて、人気がある。

 何時だっただろうか、翔太の百貨店の社長と総務部長、金沢さんのお父さん、それと金沢さんで食事をしていたと、話題になった。

 翔太にとっては、社長はほとんど話したこともない遠い存在。

 育ちが違う、生きる世界も違う。


 そんなこと、有名なのに、山内君は知らないのだろうか。




 次の朝、翔太はいつもと同様、レジ金を両替しに経理に行く。

 途中、彼女のいる、総務部を通る。

 その時、総務にいるメンバーや空気感によっては、例の作戦を 実行に移そうと思っていた。

 だけど、翔太にそんなこと、できるのだろうか。



 経理と総務部は6階。

 持ち場の売り場である4階から階段で、上がっていく。

 なぜか、もう、胸が高鳴っていた。

 山内君の願いを、叶えるだけなのに……。

 それなのに、なぜ、自分がこんなに緊張しなくてはならないのか。

 不思議だった。

 もともと、女性が苦手。

 だけど、それだけじゃないのかもしれない。

 金沢さんだからなのか?

 いや、そんなことはない。

 意識したこともない。

 いや、ないといったら、ウソになるかも。



 そして、6階、もう、本当に心臓が飛びだしそう。

 ドアを開けた。

 チラリと総務部を覗く。

『あ、金沢さんだ』

 パソコンに向かう、彼女の姿。


 やっぱり、私には無理。

 ここは、スルーする。

 山内君には謝ることにする。

 何食わぬ顔して、先にある両替機に向かうべきだ。


「あ、遠藤君、お疲れ様です」


「えっ」 


 反則だ。  

 思いがけないことだった。

 なんで、なんで彼女が……。

 本当に心臓が止まりそうだった。

 彼女が席を立ち、近づいてくる。

 まずい、逃げなくては!


 ミイラとりがミイラになった。

 何年も毎日ここを通っているのに、なぜ、今日に限って!


 聞こえないふりして、歩く足を早める。

 早く、早く。

 だけど、そんなふうに、見られないように。


「ねえ、遠藤君、遠藤君!」


 もう、これだけ名前を繰り返されたら、聞こえなかったことにはできない。

 立ち止まり、恐る恐る振り向いた。

 数年前の研修会以来、久しぶりに近くで見る金沢さんは、すごく、きれいだった。

 少し、大人っぽくなったというか、どこか、充実しているようなキラキラ輝いてみえた。

 彼氏が、出来たのだろうか。

 自分には関係ないことだが、少し、嫉妬してしまう。

 それにしても、なんて、やさしい笑顔だ。


 そんな、彼女を前にしていると、正気ではいられなかった。

 身体中から、汗が噴き出た。

 もう『ドバー』って感じ。


「久しぶり、同期なんだから、たまには、声かけてよ」

 それができないから、こうして、今、汗が噴きでている。

 だいたい、自分と話したところで、楽しくないはずだ。

 そんな自分と、無理に話をするのは、大変だろうし、私だって切ない。

 正直、やめてほしい、最初からあきらめている。


「そうだね、は、は、は」

 完全に卑屈な、変に乾いた笑いになっている。


「まだ、山に登っているの?」

「ん、まー」

「前、連れてって、て言ったの、覚えてる?」

「えっ、そんな事言われたっけ」

 それはそうと、どうする、この額の汗。

 エアコンが効いてそんなに暑くもないのに、どう見てもおかしいじゃないか。

 自然に、そう、自然にハンカチで汗を拭わないと。

 自然を装い拭くのは、難しいぞ!

 やばい、メガネも曇って来た。

 もう、完全に、気があるって言っているのも同じじゃないか。

 『ごめん、忙しいって』逃げよう。


「本当に山に登ってみたいんだ。

 だっけど1人じゃ登れないし。

 周りに、登山する人いないし。

 ねえ、遠藤君、本当に連れてって」


 もしかしたら、今、彼女にお願いされたのだろうか。

 たぶんそれは、二人きりってことだ。 


 翔太は制御不能に陥った。

 立ち尽くすだけで、声を発することも、頷くことも、彼女を見ることもできなくなっていた。

 もし、言葉を話そうとすれば、突如奇声を発してしまいそう。

 裏声で話せれば、まだいい方だと真剣に思っていた。


 横にたたれると、彼女は僕の頭一つ小さかった。

 正直、理想的な背の高さだ。

 後ろで束ねた髪が、フワフワ柔らかそうだった。

 これは香水?柔軟剤の匂い?いや、石鹸のような、懐かしくていい匂いだ。


 一瞬、彼女と山を登っっている姿を想像していた。

 山ガールのスタイリングをした彼女。

 健康的な汗を流す彼女。

 疲れて、ちょっとふてくされ彼女。

 登頂して、ハイタッチする彼女。

 下山後、温泉からあがり、山ガールのスタイリングから、普段着に着替えた彼女。

 彼女、彼女、彼女。

 本当にそうなれば、楽しいだろうな、幸せだろうな。

 そう思った。


 もう、山内君のことは、忘れていた。


「たしか、遠藤君とSNS繋がっているよね。

 今晩、連絡していい」

 『当然、いいよ、連絡待ってるね』という、言葉がでなかった。

「……。」

「それじゃ、連絡するね、またね」


 翔太は、いつのまにか、4階の担当フロアに戻っていた。

 少し細かい両替だったが、間違いないくできていた。

 しかし、両替した事は、まったく覚えていない。


 それから、不思議に、高価な時計が、立て続けに売れた。


 無事に、今日の予算が達成できた。









 






 




 


場面は、山から職場に移る。

今回は登山かありませんが、次回は金沢さんの故郷の飯綱山に、登る予定。


もしかしたら、金沢さんと一緒?


次回をおたのしみ!


また読んでみたい方は、是非ブックマーク、下の評価、宜しくお願い致します。


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