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水国の流惠姫


空国は、雲の浮き島のようになっていて、沢山の人達が生活を営んでいる。

身なりは至って普通で、派手な感じはない。

琉惠姫は人質だそうだが、監禁されている訳でもなく一つの家に住まわれているそうだ。

案内された所は、北欧神話を思わせ、魔法が飛び交っていそうな家で、奥に、小さな姫が座っていた。


「琉惠姫様ですね……」

「あ……あなたは、もしかして……」


以外にも、姫は子供のように小さくて、目を閉じていた。

盲目のようだ。


「とても、とても待ちわびましたよ。虹羽の娘、胡蝶」


優しく私を抱き寄せると、閉じた目からは涙がこぼれている。


「琉惠姫様、あなたに会うように母が導いているようです。今回は、空国と水国の争いもあって、ここにまいりました」

「胡蝶、そしてお連れの方どうぞお座りなさい」


子供のような風貌だが、姫が博識高い大人であるのはすぐにわかった。


「虹羽とは、無二の親友でした。この国で彼女以上のすばらしい方はお会いした事がありません。虹羽は、すべて自分の宿命をも承知していましたから、私に子を導くように託されたのです」

「琉惠姫様、私は人間界で生まれ育ちました。そして、わけもわからずにこちらへ連れて来られて困惑しています」

「胡蝶……それは、あなたを守るため、人間界へ隠したのです」

「……それは、命を狙われていたと言う事ですか?」


琉惠姫様は、三つ編みした長い髪を揺らしながら、窓辺へ移動した。


「あなたの存在を知れば我が物にしようと動くものがいるのです」

「教えて下さい。その訳を……」


椅子に座っていた喜白も、身を乗り出している。


「信じられないでしょうが、この、「天翔七飛安国」は、1本の神樹から創られているのです……そして、その神樹に刻まれている言葉が、虹羽を苦しめてしまいました」

「……なんと、刻まれているのですか?」

「……虹の羽を持つものへ神樹を預ける。これを育むことを使命とする」

「それは、虹の羽をもつ母が、この国を預かり育てていかなければならないと言う事でしょうか」


姫は、緊張した様子で私の手を握る。


「そうです。……虹羽は愛の神として存在していました。この国は、虹羽の教えで繁栄すべきなのに、気質の違う統治者が勢力を伸ばしそれぞれに分離されてしまったのです。……そして、あろうことか虹羽が、陽国の皇帝につかまり、妃にされてしまいました」

「それでは、私の父は、陽国の皇帝なのですか?」

「虹羽が身ごもっていた事は、皇帝はご存じありません。あなたの存在を隠すために計画をしましたから」

「琉惠姫様……私は、どうすべきでしょうか?」


弱々しく見える姫は、凛とした様子で言う。


「胡蝶、この国を正せるのは、あなたしかいません。神樹が許さない状態が続くと、この国がどうなるかわかりません。虹羽は自分の宿命を知っていて、最愛のあなたにこの国を託したのです」

「私なんかに、出来るでしょうか。わ、私には虹の羽なんて……ありません」


姫は、ゆっくりと深く頷いた。


「あなたが誕生した時、虹羽と同じ、虹の羽をもつものだと確信しました」

「なんですって?」

「さあ。これから水国の素玉妃に会って来るのです。会って、これをお見せなさい」


手渡された小箱には、虹の羽が入っていた、母の羽だ。

喜白は、それに紐をつけて、首に掛けてくれた。


「喜白、さあ行くよ。琉惠姫様、待っていて下さいね、きっとお迎えに来ますから」



***



私は、雲定王に、一時攻撃を中止するよう求めた。

王は、3日間は待つ事に同意して、水国への使者として私と喜白は行く事になった。

マウマウは、空国へ来てからは姿を見せなく、喜白が心配ないと言うので置いていくようになった。


「また、マウマウは機嫌悪くしないかなぁ」

「ははは……お姿を隠しておられるだけですよ」


水国の流素宮は、滝の内側にあり、外からは見えない所に建っている。

水国の人達は、皆、小人のように小さい。

でも、風貌には確かな知識と上品さが見受けられる尊敬すべき人達だ。


「琉惠姫様は、この国を統治していた清王の第2王女様で、清王亡きあと、継母にあたる素玉妃が女帝として現在治めているそうです」

「喜白は、物知りだね。助かるよ」


女帝の素玉妃は、背の高いほっそりとした女性でした。


「この小娘が使者ですって?……笑わせるわ、いったい何しに来たのよ」


初対面からどうやら好戦的だ。


「素玉妃様、はじめまして、胡蝶と申します」

「ふーん。それで、あのデブの雲定は何と言っているのかい?」

「雲定王様は何も言ってはいません。私が素玉妃様とお話をしたくて来たのです」

「へっ、お前は何様のつもりで、この私に意見でもするのかい」


私の顔をまじまじ見ると、首に掛けている羽に気が付く。


「お、おまえ、その羽は、虹の羽ではないのかい」

「ハイ、私の母のものです」

「母だと……すると虹羽の、娘だって?」


とても驚いているようで目をキョロキョロさせている。

気を静めようと椅子に腰を落とす。


「どうか、教えて下さい。争いの理由を」

「虹羽には、誰も逆らえないさ……空国と戦っているのは、この国を守るためさ。やつらは、こっちへ来ては水をゴッソリ盗んでいくのさ。水国の民は普通の人よりも多くの水がいるのに、お構いなしさ」

「お尋ねしますが、空国が雲を集めて雨を降らすのに貢献しているのをご存じですか」

「そ、それは……」


どうやら、この争いは素玉妃のご自分主義が原因のようだ。


「琉惠姫様が、人質にとられていますね、それはどうされるお考えですか」

「あの姫は、私のする事に意見ばかりするのさ、いなくてせいせいしてるよ」

「そ、そんな……」


私は姫に対する態度に頭にきた。


「今すぐに、重臣、将軍、主だった方を集めて下さい」

「なぜじゃ。どうする気じゃ」


金切り声をあげてゴチャゴチャ言っていたが、逆らえないと思ったのか、仕方なく素玉妃は従った。


「親愛なる水国の皆さん。私は虹羽の娘です。今から、素玉妃には引退いただき、私がこの国を治めます」

「なっ、何だって」


誰もがいきなりの宣言に驚いた。


「あなたが、虹羽様の娘だとすれば、そして水国を治めるとおっしゃるのなら、この戦いはどうなるのですか」

「そうだ、それに虹羽様に娘がいたなんて、聞いた事がないぞ」


側近達が立場を奪われるのではないかと詰め寄る。

私は羽を高く上げ、母の存在を知らしめようとしたが、その時、急に体がフワフワして宙に浮いていた。

背中から蝶の羽が生えていた。

しかも、虹の羽だ。

水国の人はその姿に、皆ひれ伏した。


「喜白、すごいタイミングで、羽生えて来たね」

「胡蝶様、何のんきな事言ってるのですか」


素玉妃も怯えている。


「水は、誰のものでもありません。今後、分け合うようにして下さい。その為に争うなんてとんでもないことです。すぐに鎧を脱ぎ捨て、お互いを尊重する仲間になって下さい。またこれからは、水国の管理はすべて琉惠姫に任せます」

「承知いたしました」


一番偉そうな大臣がお辞儀をする。

水国はこれで大丈夫だと思ったとたん、羽は見えなくなった……と言うより、体の中に収納されたみたいだ。



***



空国の蒼蒼宮へ戻ると、雲定王とマウマウが一緒に、碁のような遊びをしていた。


「マウマウ、ここにいたのね」

「帰ったでちゅね。もうちょっとで勝ちそうでちゅよ」

「胡蝶……様、素玉妃とのことは、すでに聞いておる。心からお礼を言わせて下され。琉惠姫からも必要な水を自由に使ってよいと言われ、争うこともなくなった。今回のことで、この国の主はそなたなのだとよくわかった。感謝申し上げる」


雲定王は深々と大きな体でお辞儀をした。


「空国の民への思いやりを持つ王様、これからもどうかその美しい心で導いて下さい」


マウマウは勝負に勝ちそうなので、先を急がせている。


「今から、姫をお迎えにあがりますね」

「胡蝶様、兵士達に乗り物を用意させましょうか?」

「ありがとう。必要ありません。乗り物ならスゴイのがありますので……それから、また、しゃっくりが出たら呼んで下さいね」


マウマウが遊びに勝つのを待ち、姫の所へ向かった。


「お迎えに上がりました。琉惠姫様」

「胡蝶……ありがとう。ありがとう」


さて、夢想の出番です。

来た時と同じくそれに乗って水国へ行き姫を送り届けた。


「喜白、マウマウ、色々あったけど、両国が仲直りして良かったね」

「胡蝶様、喜白は、なんか誇らしいです」

「マウマウもでちゅ……」

「ところで、さっきの雲定王とのゲームみたいなのに勝った時、もらっていた賞品は何だったの?」

「そ、それは、秘密でちゅ……」


マウマウはなぜか、顔を赤くしていた。

水国が、豊かな水の水音を響かせていつまでも平和であるように願いながら私達は雲慶宮へ戻つて行く。



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