空国の雲定王
「マウマウもいきまちゅ」
待ってましたとばかりに、ピョンと、マウマウは浮想に乗り込む。
前もって、3人乗ることをイメージして席を用意していて良かった。
前の席には私とマウマウが、後ろの席に喜白が着席した。
力を使えば、水国まではヒュンと行けるらしいが、今は水国と空国の関係が悪いらしく、状況を見ながら行くのに浮想が役に立つそうだ。
天翔七飛安国には、7つの国(陽国、空国、月国、水国、海国、植国、獣国)があり、それぞれに統治をする王様がいる。
ここは天国かと思いきや、国同士が結構争っているらしい。
それは人間界と同じなのか。
浮想は、この前よりも高い位置でフワフワと飛ぶ。
草原を抜け、しばらく進むと、高い山々が連なりあう山脈が見えて来た。
山からは、いくつもの滝が流れていて美しい虹もでている。
「胡蝶様、ご覧ください。あの滝の向こう側が、水国の流素宮です」
喜白が一つの滝を指さす。
「ああ……兵士達がたくさんでていますね……近づくのは、今はやめたほうがよさそうですね。空国の兵士達も潜んでいるようです。」
引き返そうとした瞬間、両国の兵士達が戦いを始めてしまったようだ。
あわてて喜白は、浮想にシールドのような魔法をかける。
「ここから離れましょう。」
兵士達は剣を片手に振り回し、血を流している者もいる。
私はその光景を見て涙がこぼれてきた。
兵士の強健さはなく、多くがひどく痩せていて悲しくてしょうがなかった。
「琉惠姫は、無事だといいでちゅ……」
マウマウも心配そうだ。
おそらく母が会うように伝えている琉惠姫は、母が最も信頼している人に違いない。
今は、姫の無事を願うばかりだ。
喜白は、滝から離れた所に浮想を止めた。
「マウマウが行くでちゅ」
「マウマウ様……しかし」
「大丈夫でちゅよ……ここで待つでちゅよ」
そう言うと、ヒュンと消えて、行ってしまった。
「大丈夫かな?巻き込まれはしないかな……」
「マウマウ様はおそらく平気ですよ。お強いですからね」
「えっ?強いの?」
「ハイ」
「はんとに?」
「ハイ、とても……」
と、喜白は言い切ったけれど、しばらくして帰って来たマウマウはひどく汚れて疲労困憊していた。
「ど、どうしたの?大丈夫?」
「平気でちゅ……琉惠姫はいまちぇんでちゅた」
「……なぜ?」
「そもそも今回の争ちょいは、空国の雲定王が、水国を支配ちようと攻めて来たみたいでちゅよ。琉惠姫は雲定王につかまっちゃったみたいでちゅ」
「助けなきゃ……でも、どうすれば」
シーンと皆が静まりかえった。
「ここは、獣国へもどって、黒龍王様に兵を出してもらうようにお願いすべきでしょうか」
何事にも慎重な喜白が先頭をきる。
「だめでちゅ……姫一人のために兵はだしまちぇんよ。王はケチケチでちゅ」
「そうかあ……そうだよね、他の国の戦争なんだからね」
「胡蝶様、一旦帰りましょう」
喜白は急いで戻りたいようだ。
「私は……帰らないよ」
「胡蝶様……」
「胡蝶ぉ……」
「私がここへ来た理由を見つけに行くよ」
「喜白、空国の兵士の着ているもの、手に入らないかな?」
引っ込み思案な美羽の時からは考えられない行動に私自身、驚いた。
自然と怖いもの知らずの力が湧いてきて行くべきだと思った。
「……それは、胡蝶様」
「ちょい待つでちゅ」
マウマウは、またヒュンと消えると、すぐに兵士の服を持って来た。
「さあ行くよ、兵に紛れて空国へ」
雲定王の住む蒼蒼宮に忍び込むのは結構簡単だった。
喜白と私は、兵士と同じ動作をするだけで仲間と思われている。
蒼蒼宮は、雲の上に建ち煌びやかな装飾のとても豪華な宮だ。
多くの兵士が宮を取り囲んでいる。
私達も同じように整列して機会をうかがっていると、以外にも早くチャンスは訪れた。
水を汲んで雲定王の所に行くように命令されたのだ。
ここでは、なぜか水が厳しく管理されているようで、水の入った桶を物々しく渡された。
蒼蒼宮の中に入るやいなや、大きな怒鳴り声が聞こえてきた。
「いつまで待たせるんだ、この役立たずが」
「雲定王様……は、はいすぐに」
回りの人達は焦っている。
まるまると肥った巨体の王は、大きな鼻をフンと鳴らす。
私達が水桶を差し出すと、いきなりガブガブ飲み出した。
「ハア……ハア……」
まわりの人達が、雲定王に注目する。
「……ヒック、ヒャック…ヒック……」
しゃっくりが止まらないみたいだ。
私は笑いをこらえるのに必死だ。
「クソ……水だ、もっと水をもってこい」
更に大きな声を上げて怒鳴り散らす
聞いた話によると、しゃっくりが何か月も続いて、医者も直せないそうだ。
神様の国でも、しゃっくりを直せないのだろうか。
私達は、厳重に兵士達に囲まれた水を貯めてある所まで再び水を汲みに行った。
「ヒック、ヒック……」
「王様、水をどうぞ」
「なかなか治りませんね」
「ヒック……誰だ、お前」
肥った体で、ギョロギョロした眼を私に向けた。
そばで、喜白は冷や汗をかいている。
「王様、私が治して差し上げましょうか」
「何だと、こやつ、医者でも治せないのを、ひよっこのお前が治すと、ヒック……言うのか」
「お疑いならどうぞご勝手に、でもそのしゃっくりが一生続くと思えば耳を貸したでしょうに」
さっさと帰ろうとする胡蝶に、雲定王は剣を向けた。
「胡蝶様」
思わず喜白は叫んだ。
「胡蝶?…ヒック……誰だお前……」
「殺すならどうぞご勝手に、でもね、そのしゃっくりは、私しか治せないよ」
「うーむ……では、ヒック……胡蝶とやら、治してみせよ」
胡蝶は剣を向けられたまま、背を向けた。
「いやだね」
「な、なんだと……こやつ……ヒック」
胡蝶は太陽を背に、被っていたものを脱いだ。
次の瞬間、雲定王とそこにいた人達は驚いている。
「……こ、虹羽」
「虹羽様」
「わ、私は虹羽の娘、胡蝶です」
蒼蒼宮は、先程までの騒ぎは消え、シンと静まり返った。
「……虹羽の娘、では父親はいったい誰なのじゃ」
雲定王の、しゃっくりはおさまったようで、目をガッと見開いて私を見つめている。
「そ、それは……とにかく、王様、ほうらご自身を見てごらんなさい。しゃっくり止まりましたね」
「おお……止まったぞ。これはどうしたことか」
他の方法も一応考えていたが、しゃっくりが止まったようで上手くいったみたいだ。
「胡蝶、何の魔法をつかったのじゃ。詳しく聞かせておくれ」
「えっと……詳しくは言えませんが、私にしかできない事なのです。王様……」
「ともあれ礼を言うぞ、望むものがあれば申すがよかろう」
「王様、お礼とかは結構です。それよりも王様とお話があります」
雲定王は、まわりの人達を下がらせた、喜白は心配そうだが、命令には逆らえない。
「王様、自然界では、空と水はお互いに尊重すべき間柄であるべきなのに、なぜ戦おうとなさるのですか?」
「フン……お前は水国の肩を持つ気か」
「そうではありません。原因を知りたいだけです」
「……昔は、こうではなかった。そなたの言うとおり、空国と水国は切っても切れぬ仲。雨を降らせて水を生む……あたりまえの事であった。だが、素玉妃が権力を独り占めにすると同時に、我が空国から得た水をも独占してしまったじゃ。水が無くては生きられぬ。自然の摂理が災いして、戦を強いる結果となっているのじゃ」
「……ふーん。そうだったんですね。お話くださりありがとうございました。でもなぜ、琉惠姫を人質にされたのですか」
「わしとて、戦いたくはないのじゃ。脅しでなんとか言うことを聞いてもらえないか試している所なのじゃ」
肩を落としている雲定王は、見かけは恐ろしいが、民を思う王だった。
「王様……私を信じて、琉惠姫に会わせてもらえませんか?お願い致します」
「胡蝶、そなたは虹羽の子に違いない。虹羽には、誰も逆らえるはずもない」
「ありがとう王様。私を信じてくれてありがとう」




