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獣国の黒龍王



私の新しい住み家は、獣国にある「雲慶宮」という名の宮で、山の頂上に座している。

標高が高いせいか、薄雲の上にプカリと浮かんだように見える。

樹木や花々の咲く野原も広がっていてとても美しい所だ。

そこから見下ろすと、町なのか、レンガ風な建物が沢山立ち並んでいた。


「人が、たくさん住んでいるのね」

「いっぱい、いまちゅよ」


マウマウは、木の葉についた朝露をペロッと舐めて、目を細めた。


「ちょこに行こうと思ったでちゅね……まだだめでちゅ」

「そう? 」

「そうでちゅ。だめでちゅ」

「なんで? 」

「力がちゅいてからでちゅ」

「そっか……」


見物するよりも先に、やる事があるみたいだ。


「胡蝶様、まずは本来の力を回復させねばなりません。」


喜白が穏やかに言う。


「しかし、それよりも先に、黒龍王こくりゅうおう様に、ご挨拶に伺わねば……」

「黒龍王様? 」

「はい、胡蝶様の叔父上様にあたられます。お母上様のお兄様で……」


喜白は途中で言葉を濁した。


「喜白、それはそうと、父や母には挨拶に行かなくていいの? 」

「そ、それは、おいおいと……」


話しをはぐらかされたようだが……


「と、とにかくまいりましょうか。黒龍王様は「獣麗宮」におられるでしょうから」

「そこは、ここから近いの?」

「はい……」


喜白は、出立を急がせる。


「マウマウは、……行きまちぇん」

「えっ? どうしたの……? マウマウ」


そう言うと、マウマウはプイッとどこかへ行ってしまった。


「胡蝶様、マウマウ様はきっとバツが悪いのでしょう」

「なんか、いろいろあるのね。まだ皆のこと知るには時間かかりそうね。でも理解するようがんばるからさ」



***



獣麗宮は、「天翔七飛安国」の七つある国のうちのひとつ、「獣国」の王宮だ。

黒龍王は、獣国を統治している。

七つの国は、それぞれ、陽・空・月・水・海・植・獣の気質を持つ。

そして更には、陽・空・月の3国は天族、水・海・植・獣の4国は地族に、属性が別れる。

天国のようなこの国でも、天族と地族は、種族の違いから争いがあるそうだ。


獣麗宮へは、魔法のようにヒュンと一瞬で到着した。

どうやったのかわからないが、喜白が手を振り上げた瞬間に違う場所にいたのだ。

キョロキョロしている私に喜白は


「申し訳ございません。いきなりで驚かれたでしょう……」

「そ、そうね。ちょい前もって教えてもらってたらよかったかなぁ……」

「ここでは普通なのですよ……」

「……やっぱ、すごい所なのね……」



獣麗宮は、とても大きな石造りの建物で荘厳な感じだ。

積み上げられた石柱の高さに圧倒される。

この石の積み上げ方を知れば、エジプトのピラミッドの謎も解けるかもと思った。

ひんやりとした宮の空気が、胡蝶を緊張させる。


「やばい所に来たのかも……」


鎧をまとった兵士が、ずらりと通り道を囲っていて、視線をこちらに向けている。

その一番奥にいるのが、多分、王様だ。

なんと、黒龍王は、艶々とした長い黒髪をなびかせた、超カッコイイ王様だ。


「は、はじめまして、王様……」


「……そなたは、わが妹、虹羽こううの忘れ形見であるのは承知しておる。だが、陽王の子でもある。胡蝶よ、そなたの使命を果たすよう精進するがよい」

「使命……? 」

 

なぜか、あまり歓迎はされてないみたいだ。

サッサとどこかへ行ってしまった。


「でも、あんなにカッコイイ王様に会えて嬉しいな。もうちょっと話したかったけどね」

「私の母も美人なのかなぁ……」

「そりゃあ。もう……」


喜白は、目をランランと輝かせた。


「虹羽純妃様は、とてもお美しい方でございました。羽を伸ばされたお姿を見れば心を奪われない人なんていませんよ。天翔七飛安国にも美人は山ほどいますが、虹羽様よりも輝いている方には出会ったことがありません」

「フーン、そうなの。でも子どもの私は、残念ながら似てないんだね」


驚いたように喜白は言う。


「胡蝶様は、虹羽様にそっくりですよ……」

「ええ……母に?」

「超美人の母に……そっくり……?」


確かに、美羽だった時は、顔立ちは整ってはいたが、国一番の美人でもなんでもない普通クラスだと思う。

天翔七飛安国の女性らは、見た目悪い人が多いのだろうか……それとも美人の視点が違うのだろうか。

でも、喜白には言わなかったが、記憶にない母でも、もう会えないと思うと悲しい気持ちでいっぱいになった。



獣麗宮を出ると青々とした草原が広がっている。

周りに人々が集まって来て、胡蝶にお辞儀をした。


「胡蝶様、お帰りなさいませ」

「よくぞご無事で……」

「胡蝶様」

「え……っと、皆さん、こんにちは……ありがとう」


状況がわからない私は、笑顔でこの場をやり過ごそうと思った。


「皆様は、たいそう心待ちにされておりました。胡蝶様は希望なのですから」


喜白は、意気揚々とし、人々も嬉しそうに微笑んでいる。

私は、何か重大なお役目を担っているようだ。

だが、それを知るのは怖いと思った。



 ***



喜白が面白い乗り物があるというので、獣麗宮の裏側まで行ってみた。

そもそも、ここへ来るにも、ヒュンと一瞬で来れたのに、今更乗り物が必要なのか疑問だ。

連れて来られた所の門には、「浮想楽」と書かれている。


「おじゃま致します。想司老そうしろう様はおいでですか……」

「……おお、喜白ではないか、久しいのう」


奥から、長い白髭をたらした仙人のような老人が出てきた。


「想司老様、ご無沙汰しております。こちらは主の胡蝶様でございます」

「は、はじめまして」

「こ、これは、胡蝶様……ご挨拶申し上げまする」

「ささ、どうぞ、こちらへ……」


浮想楽は、トンネルの中のような通路を抜け奥の開けた居間に続く。

通路には、一輪挿しのような小ぶりな壺が所狭しと置かれていた。


「喜白……乗り物って、車? 馬?」

「あはは……はずれで~す」


喜白は、面白がっているようだ。


「そうじゃな……どれがいいかの」


まだ何も言わないのに、想司老様は腰を低くし、形や色柄の違う壺を指差しながら選んでいるようだ。

程なく、エメラルドグリーン色に、白色が混ぜ合わさった小さな壺を手に取った。


「いいのう……これはいい、スピードも出るし、優しい香りもする」


クンクンと鼻を鳴らして香りを嗅ぐ。


「胡蝶様、これをお使いなされ……」

「……あっ、ありがとうございます」


手渡された壺は、陶器では無く、見た目とは正反対の柔らかい綿花のようなものでした。

優しい目をした想司老様は、ゆっくりと話される。


「さあ……浮かべてごらん。創造してごらん。乗りたいものの姿を……」

「乗りたいもの……? そうだなあ……昔、空飛ぶ舟なんか憧れたなあ。二人乗り位のを、ダンボールを接ぎ合わせて作った事もあるよ……ガタガタなやつをね」


次の瞬間、小さな壺の中からシュルシュルと雲のようなものが現れて、あっと言う間に、胡蝶が今思った舟の姿に変わったのです。


「ひゃ~すごい。すごいよ喜白……これは魔法……?」


喜白はニコニコしながら立っている。

現れた舟は、昔ダンボールで作ったものにそっくりで、ボタンで作った計器に似せたものまで付いている。


「これって乗れるの?」

「もちろんですよ。これで、雲慶宮まで帰りましょう」


フワフワとした手触りだ。

恐る恐る乗ってみる。

座り心地はよく、意外と安心感はある。

喜白も乗り込むと、スッと空高く上がった。

落ちないかと心配したが、昔描いた夢がこんな形で実現した喜びでそれどころじゃない。


「雲に乗ってるみたいだね」

「そうですね。これは、浮想ふそうと言って、創造したものを形にする乗り物なんです。手軽に持ち歩けて便利です。想司老様に許されたものにしか使えませんけどね」

「ふ~ん。そうなんだ。喜白も持ち歩いてたの? 」

「とんでもない。私ごときには許されませんよ……昔、想司老様のお手伝いをして顔見知りなだけです」


獣国の地を見下ろしながら、スイスイと浮想は進んで行った。



 ***



雲慶宮にもどると、マウマウの姿が見えなかった。


「どこに行ったのかな?」


小狐はクスクス笑う。


「もうすぐお戻りですよ。胡蝶様の事が心配でならないみたいですから……」


後から聞いた話では、獣麗宮まで後をつけて来ていたらしく、喜白と浮想で帰ったのでヤキモキして町へ遊びに行ったそうだ。


「私も町へ行きたかったなあ」


そこへ、ヒュンとマウマウが現れる。


「だから、まだ、だめでちゅって……」

「わかってるよぉ……力がまだなんでしょ……ところでマウマウ酔っぱらってない?」


顔を赤くして、足も千鳥足だ。


「酔っぱらってなんていまちぇん……」


そう言いながら寝てしまった。


「大丈夫……」


動物がお酒を飲むなんて、信じられない。

だらしなく寝ているマウマウを見て心配しながらも、その日は、私もウトウトと眠りについた。


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