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第98話 王都上洛1

何時も誤字訂正ありがとう御座います。

また、いいね、をありがとうございます。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 カレントゥ城・大会議室


 フィリーシアの決断を受け、昌長はカレントゥ城に主立った将帥を呼び集めた。

 月霜銃士爵・的場昌長

 タゥエンドリン王・フィリーシア

 青竜王・アスライルス

 副将・佐武義昌

 副将・鈴木重之

 カレントゥ守護、カレントゥ城代・津田照算

 東エンデ守護、中央湖水軍統領・湊高秀

 マーラバント守護・岡吉次

 武具奉行・芝辻宗右衛門

 武具奉行並・ナルデン

 碧星忍群統領・ユエン

 カレントゥ政所執事・レアンティア

 カレントゥ政所次席・ホルフィク

 碧星乃里政所執事・タォル

 碧星乃里政所次席・キミン

 シントニア守護・バイデン

 ハーオンシア守護・シルケンス

 リンヴェティ衆統領・ニレイシンカ

 サラリエル衆統領・トリフィリシン

 大河水衆統領・ユハニ

 大河水衆次席・ヘンリッカ

 森林将・リエンティン

 森林将・ミフィシア

 森林将・マルメーシア

 森林将・サインスティル

 森林将・ナーフェン

 坑道将・リンデン

 坑道将・ガンドン

 坑道将・ダエリン

 平原将・灌三丈

 平原将・シルラ

 集まった面々を見た昌長が満足そうに言う。


「わいらも大きなったもんやな」


 それもそのはず、今や的場昌長と言えば大陸中央部北方に堂々たる力を保持する、正に一大勢力なのだ。

 北は名も無き平原を営々と開拓中。

 東はかつてのマーラバントの領域から大河流域、中央湖、サラリエルの地まで。

 南はハーオンシア。

 西はリンヴェティまで。

 全盛期のタゥエンドリン=エルフィンク王国の領域を遥かに超え、かつてない強大な勢力圏を築き上げている。

 しかし明確な国名はまだなく、昌長は未だタゥエンドリン王から与えられた月霜銃士爵という低い位階を名乗り続けているのが実態だ。


「ほやけど、タゥエンドリンの実権握るまではこのままでいかなしゃあないやろ?」

「そうやな。タゥエンドリンの枠から外れる訳にはいかん。政権奪取の口実がなくなってしまうわえ」


 義昌の言葉に昌長は如何にもといった風に頷く。

 そして集まった面々を見回してから、昌長は徐に口を開く。


「今は北の名も無き平原の開拓も順調やし、マーラバントへの入植もエエ勢いで進んでる。エンデの地の復興はもう成ったも同然やし、ハーオンシアも平穏を取り戻して商いがエライ勢い付いとる。大河もそうや……もう後数年経ったらわいらの国力は中央随一にまで発展することは間違い無いわ」


 そこまで一気に話した昌長は、固唾をのんで自分を見守る集まった将帥達を見てから不敵な笑みを浮かべた。


「他もそう思てるやろ?月霜銃士爵はしばらく内政に力を注いで動けへん……とな」

「……動くんかえ?」


 津田照算がぼそりと尋ねると、昌長は笑みを嬉しそうなものへと変えて言う。


「そうや!今こそタゥエンドリンの全土を支配する」

「武具や兵糧は十分集まってます」


 昌長の言葉を受けて芝辻宗右衛門が言うと、傍らで補佐役のナルデンが頷く。


「北は落ち着いてるわ、コーランドもシンランドも攻めてくる様子はないで」


 次いで旧マーラバント領を統治する岡吉次が言うと、湊高秀が発言した。


「水軍衆は中央湖を使ってカランドリンを攪乱しちゃろう。任しちゃれ」

「我々はゴルデリアを牽制しよう」


 湊高秀の言葉を受けて言うのは、サラリエル族のトリフィリシン。

 一応盟友という位置づけではあるが、今や昌長に従う森林人勢力の急先鋒だ。


「西の平原人は我々で押さえられる、心配ない」

「ふん、リンヴェティとハーオンシアを同時に敵に回せば負けは必定だ」


 そう相次いで発現したのは、かつては犬猿の仲であったリンヴェティの森林人族長ニレイシンカとハーオンシアの小人族代表、シルケンス。

 彼らはタゥエンドリンの西に入り込んだ平原人の軍兵を得意の伏兵や襲撃戦術で翻弄している。

 お陰でタゥエンドリンに平原人の勢力は満足に入り込めていない。

 シルケンスはともかくニレイシンカは昌長に敵対的だったが、今は昌長による軍事的庇護と経済圏の合一の恩恵を十分に受け、リンヴェティ氏族が豊かで平和になったことで、氏族の不満は解消されつつある。


 まず平原人の圧迫や侵入、エルフを狙った奴隷狩りが昌長の武名を畏れて鳴りを潜めた。


 リンヴェティ地方から産出される物品が昌長の勢力圏下に輸出されると共に各地の珍しく廉価な商品が流入し、経済的にも豊かになったのだ。

 ニレイシンカ個人の意向はともかく、氏族全体の意思としては様々な意味で役に立たなかったタゥエンドリンの中央政権、もっと言えばフェレアルネン政権より昌長の支配が好意的に受け止められているのである。


「硝石……の採掘・・は順調だ、心配は何も要らない……そう何も要らない」


 アスライルスが僅かに頬を染めながら言うと、昌長や宗右衛門ら事情を知る者は苦笑を漏らす。

 アスライルスの糞便から硝石が大量に析出されているというのは秘事中の秘事。

 アスライルスの乙女の事情からも外に漏らすことは許されないのだ。


「硫黄と木炭の生産も順調ですぞ」


 ナルデンが次いで言うと、昌長は満足そうな笑みを浮かべる。


「ええこっちゃな、ここしばらくは戦も無かったよって、玉薬がようけ生産できちゃあるわ」


 昌長の言葉どおり、訓練に使用する玉薬も馬鹿にはならないものの、何より闇の勢力との戦い以降は大きな戦いがないことが幸いし、カレントゥ城には日々戦略物資の集積が進んでいる。


「マサナガ!タゥエンドリンやカランドリンの獣人からはキョウリョクのショーダクが来ているぞ!みんなマサナガの到着を待っているぞっ」

「おう、ユエン、助かるわ」


 昌長の礼の言葉に嬉しそうに目をすがめるユエン。

 ユエンに命じて獣人の忍びをタゥエンドリンのみならずカランドリンにまで昌長は送り込み、その地に暮らす奴隷となっている獣人達に連絡を取らせたのだ。

 いくら優秀な猫忍とは言え、メウネウェーナの目の光る地に長期間派遣するのは危険度が高いと判断した昌長は、現地の獣人達の解放や開拓の進む名も無き平原やマーラバント領への移住を承諾するのと引き替えに協力を求めたのである。


 程度はタゥエンドリンよりましとは言え、獣人達が虐げられていることに違いは無く、彼らは同じ獣人のユエン達の言葉を信じたのだ。

 むろん、一定の裏切りがでることは承知の上だが、昌長は進路となる町や村などだけでなく、タゥエンドリンとカランドリン全土に使者や密偵を送った。


 さすがのメウネウェーナも自国の全土に渡って獣人達に仕掛けを施されているとは思っていまい。

 事が露見しても昌長の進路を予想して罠や伏兵を仕掛けるか、警戒を強める程度。

 解放を餌にして全土での獣人蜂起を促している昌長の意図にたどり着くには相応の手間と時間が掛かるだろう。


 その隙に昌長は北から攻め掛かるのだ。

 世界情勢は昌長に味方している。


 先にカランドリンがタゥエンドリンの王都オルクリアに入ってしまったのは誤算ではあったが、フィリーシアを王に押し立てて侵攻する昌長には王都解放、タゥエンドリン再興の大義名分が備わっている。

 あの計算高そうなメウネウェーナがそのことを考慮の外に置くとは思えず、防御戦闘を展開できるという以上に何か利があってのことだろうが、たとえ何が待ち構えていようが踏みつぶすだけだ。


「マサナガ様、まずは……」

「分かっちゃあるわ」


 フィリーシアの言葉に、昌長は頷く。










「まさか大神官様が戦死なさるとは……」

「未だ大神官は決まっていないそうですが、混乱してしまうのでしょうか?」


 エウセビウスのつぶやきにエクセリアが不安を隠そうともせずに問う。

 オーク王バルバローセンとの戦いに赴いたグレゴリウスは、無残にも戦死した。

 その事実は聖教の権威失墜だけに留まらず、戦役で周辺諸国や聖教の兵を大規模に喪失したことから単純な実力不足にも陥っている。

 ここサリカの町における工作も、最上位で指揮を執っていたグレゴリウスが死んでしまったことでどうなるか分からない。


 平原人の兵や将官に密かに布教を続け、昌長の支配の転覆を狙ってきたものの、次に選出された大神官がどの様な方針をとるか分からない以上、動きようがないというのがエウセビウスらの実情だ。


「狙いは悪くはなかったんじゃがなあ」


 今も富と力を集積し続けているサリカの町とカレントゥ城。

 しばらくの間は内政に注力するだろうが、この地の支配者である的場昌長の目はタゥエンドリンの中央に向いている。

 フィリーシアを王に立てた以上、そう遠くない未来に王都を目指すのだろう。


 昌長の軍は強大だ。


 闇の勢力との戦いで王を失ったタゥエンドリンに抵抗する力は最早なく、その隙を突いたカランドリンとの戦いになるのだろうが、何れにしても長年大陸中央で世界の中心として君臨し続けたエルフの大国は荒れ果てる。

 いよいよ世界の中心は西の平原人の元へと移動するのだ。

 その際に更にその中心に聖教があるのが望ましい、いやあるべきなのだ。

 それにはタゥエンドリン荒廃のきっかけを作った昌長をどうにかして味方に付けるか、あるいは排除して月霜銃士爵の勢力を乗っ取らなければならない。


「本国からの援助が見込めない以上、工作は少し控えて潜伏に意を注ぐべきではありませんか?」

 神官の1人がそう言うと、エウセビウスは首を左右に振る。

「いや、浸透工作は今までどおり続ける。時が来たらすぐに蜂起するか、あるいはサボタージュでマサナガの兵を止め、あるいは行政を行き詰まらせることが出来るようにしておくのだ」

「それはわややな。ほんまにやられたら困ったどこの話やないで」


 聖教大使館の2階からエウセビウスの言葉に応じた声は、侮蔑の色に満ちていた。


「なっ、何者!?聖教上神官の居館に無断で立ち入るとは無礼なっ!」


 驚きつつも闖入者である男、鈴木重之に言葉を叩き付けるエクセリア。

 しかし重之は全く動ぜずに言葉を返す。


「間諜の巣に無礼も糞も無いわえ」

「間諜の巣とはまたずいぶんなお言葉ですな。ここは我らの……」


 エウセビウスは完全武装の兵や重之を見て自分達が詰んだことを悟り、それでも何とか挽回の道を探るべく時間稼ぎの言葉を紡ごうとしたが、それはあっさりと重之に断ち切られた。


「いらん、やれ」


 重之の号令で2階から侵入した猫忍達が一斉に短剣を神官達に投げると同時に、1階からは犬獣人の官吏兵が雪崩れ込む。

 エウセビウスは複数の短剣をその太い身体に受けてあっさりと事切れ、エクセリアや数名の工作神官は必死の抵抗も虚しく完全武装の犬獣人兵の槍にその身を貫かれた。


「皆殺しにせえ、容赦は要らんで」


 斯くして聖教の文字通り手先となり、タゥエンドリンやマサナガの勢力圏下に盛んに仕掛けを施そうとしていた平原人勢力、聖教の出先機関である大使館は制圧され、そこで働いていた神官達は皆殺しにされる。

 







「統領、何人かは逃げられたけどまあほとんどやりましたわ」

「おう、ご苦労やったな……追手は向けたか?」

「無論や、ユエンとこの優秀な猫忍が後をつけちゃあら」


 報告を受け昌長は重之をねぎらうと、傍らで一緒に報告を聞いていたフィリーシアに向き直った。


「姫さん、いよいよや。覚悟はええか?」

「元より出来ています、マサナガ様」












「慌てやんでええけど急げよ」


 軍の編制の目処も立ち、後は訓練と銃兵の拡充を図り、それと同時に硝石の運搬と黒色火薬の製造、そして弾丸の製造を急がせる宗右衛門。

 同時に王都進撃に備えて食料の集積と、武器防具の整備も行い、昌長は宗右衛門に物資輸送に備えて小荷駄隊の編制、そしてその指揮を執るように命じたのだ。

 ナルデンを筆頭に他の者達も手伝ってくれているが、お陰で宗右衛門はてんてこ舞いの忙しさだ。

 そこにフィリーシアを伴った昌長が様子見に訪れた。


「棟梁、気遣いは無用です」

「そういう事やないんじゃ」


 宗右衛門の言葉に昌長はふっと大きく息を吐き出してから言葉を継ぐ。


「今回は雇われ戦やないし小手調べの戦でもないし、然りとて領域支配の戦でもない。本気で天下取りの戦じゃ……万が一にも手抜かりがあってはあかんからな。まあ信頼はしちゃあるけどな」


 今まで月霜銃士爵軍の戦いは、数千単位の兵を動かす形が多かった。

 しかし、今回はそう言う戦いではない、万単位の兵が初めて動く。

 メウネウェーナか昌長か。

 タゥエンドリンの頂点を目指し、互いに全力を掛けて互いを叩き潰すために戦うのだ。

 一度は味方同士で肩を並べたが、最早手加減や手打ちといったものが存在する余地は一切無い。

 最終的には、昌長が死ぬか、メウネウェーナが死ぬかしなければ決着がつかない、そう言う戦いなのだ。


 それ故に無用の混乱を避け、相手の調略や寝返りを搦めた謀略を防ぐために、昌長は宗右衛門に後方を任せることにしたのである。

 正面戦力に強力な雑賀武者を出したいところだが、昌長は戦術家としての冷徹な判断から宗右衛門を後方へと下げたのだ。


「まあ統領、姫さん。わいに後ろは全部任して下さい。期待にきっちり応えますわ」

「左様か……ならばこれ以上は言わへんわ。頼んだで」


 宗右衛門も昌長の大一番の大戦に出られないと言うことについては、一抹の寂しさもある。

 ただ、その言わんとするところは知っており、大人しく引き下がる方がよいことも理解している。

 しかし寂しさや不満以上に、昌長がこの場面においても私情を排して最善を尽くしていることに、頼もしさも感じる宗右衛門。

 そんな宗右衛門の気持ちを察してか、昌長が言葉を発する。


「宗右衛門には悪いけどよ、今回はそういう訳じゃ。まあ、荷駄の整理におまはんらに就いてもらわなあかんのは紛う方無き真実じょ」

「よろしくお願いします、ソウエモン様」

「それこそ気遣い無いわ、役目はきっちり果たしますよって」


 フィリーシアと昌長の労いの言葉に、宗右衛門は満面の笑顔で応じる。

 これから宗右衛門は万を超える軍兵の糧秣や弾薬、そして武器防具の補充や負傷した兵士の後送や戦利品や捕虜の輸送という過酷な任務が待っているのだ。

 宗右衛門は昌長とフィリーシアに向けて小さく手を振ると、小荷駄隊の編制を行う宰領所をもうけるべく、カレントゥ城の郊外に向かうのだった。






 宗右衛門と分かれた後も昌長は必要な指示を下し続け、フィリーシアと共に各所の視察を終えると、カレントゥ城の楼台へ登る。

 日は傾いてはいるが、日差しは十分にあり、カレントゥ城やその周辺は未だ明るい。

 夕方が近付いてきたカレントゥ城は、城壁や尖塔の影を長く引いている。

 しかしその程度の微々たる暗がりでは、この城に集った者達の熱い気持ちを静めることは出来なかった。


 城内では活気ある号令や指示があちこちで飛び、食料や武器防具の蓄積が行われ、郊外では激しい訓練が実施されている。

 調練の号令や、指揮官が兵を怒鳴る声が響くと同時に、射撃場として使われている練兵場からは銃声が微かに聞こえて来ている。

 昌長の支配を受け、また影響力のある各地から集まってきた軍兵が一堂に会しているのだ、静かに済むはずが無い。


「マサナガ様、何を考えておいでですか?」

「うん……まあ、なかなかエエ塩梅になってきたわと思うてよ」


 フィリーシアの問に笑みを浮かべながら答える昌長。

 思えば何の因果か滅びる寸前であった紀伊雑賀郷からこの地に7人で転移し、最初は弱小でも良く言い過ぎなくらいの勢力でしかなかった昌長。

 それが今や大陸の政情を左右し、タゥエンドリンの覇権を争うまでになったのだ。


「まずは……タゥエンドリンの天下を握っちゃるわ。姫さんには苦労掛けるが、まあ頼むわえ」

「はい、お任せ下さい」


 にっこりと綺麗な、それでいて強い意志を感じさせる笑顔を浮かべて応じたフィリーシアに、昌長も再び笑顔を返すのだった。


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