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第93話 闇との戦いの終わり

「今度こそ終わったのう……強敵やったわ」

「うむ、バルバローセンは1000年を生きる謂わば魔王の1人、マサナガは其れを討ったのだから、大陸中に名が轟く事に成ろうぞ」


 残敵の掃討作戦を遠望しつつつぶやいた昌長に、アスライルスが静かに応じる。

 人族が総力を結集した1000年前の戦いでは、勝利こそしたもののこのグランドアース大陸から追い払うのが精一杯だったのだ。

 それを寡兵で打ち破ったのみならず、しかもオーク王バルバローセンを討ち取ったとなれば、昌長の名声は大陸中に知られる事になる。


「あとは……面倒ですが戦後処理ですね。各地の勢力図が塗り変わります」


 フィリーシアが昌長に声を掛ける。

 諸王の中には討ち死にしてしまった者もおり、これまでは一国単位でまとまっていた平原人の国々も、否応なしに後継者争いや勢力争いで戦乱を迎える事になる。

 昌長が一応所属するタゥエンドリンも王が行方不明となり、しかも兵を大量に失った。

 後継者は氏族の数だけおり、混乱の中各地の王臣は独立の気配を示すだろう。

 力を温存した氏族が素直に自分達の系譜に連なる王族を推挙するのか、そして軍事的にどう動くかのかは全く分からない。

 もちろん昌長も軍閥の1人としてフィリシーアとエンデ氏族を押し立て、タゥエンドリンの覇権争いに加わるつもりだ。


 平原人の雄国であった候担国も、オークの攻撃によって国土が荒廃してしまった。

 それに加えて救援に駆けつけた連合軍へも何らかの対価を支払わねばならない。

 隣接国であるならばまだしも、昌長としては遠隔地である候担国の領土には興味が無かった。

 しかしながら疲弊しきった候担国に、領土以外で支払える物があるとも思えない。


「褒美は思案のしどころやな」

「まあ……今回の戦功は昌長が間違い無く第一だろう。望みの物を得られると思うが?」

「領土は要りませんけれどもね」


 昌長の言葉にアスライルスが笑顔で言い、フィリーシアが思案顔で応じる。

 何れにしても旬府を囲んでいる残余のオーク軍1万を討ち、候担国をオークの魔手より完全に解放してからの話になるだろう。

 程なくして残敵の掃討が終了し、各国の軍が集結と再編成の準備に入ったのが分かった。

 月霜銃士爵軍も隊長が点呼を取り、集結を図っているのが見えた。


「ほなウチも集合や!」






 しばらくして月霜銃士爵軍1万5千が集結する。

 昌長はすぐに砦への撤収を決め、軍の先頭に立つ。


「勝ち戦の時の油断はほんまに大敵やで。一旦砦へ戻って今日は兵をばよう休めちゃろうか……旬府への進撃をば決めるんは明日でかまへん」


 とは言っても大勢は決している。

 バルバローセンの首を前面に押し立てて進撃すれば、旬府に居残ったオーク軍の残党も潰走する事だろう。

 それよりも明日以降の事だ。

 早くも諸王から昌長の下に使者が派遣されてきている。

 戦後の戦利品の取り分や、戦功の確認の為と称してはいるが、どの使者も昌長と自分の主君が1対1で会談することを望んでおり、情勢を鑑みればただの戦功確認で終わるはずがなかった。


「はははは、ようやくわいの時代が来たでえ!」


 月霜銃士爵、的場源四郎昌長の覇業はこれから始まるのだ。





 候担平原決戦より10日後、旬府近郊の麦畑の中に置かれた連合軍の陣地。

 その中、的場昌長の本陣では会議を開くべく諸王が集まり始めていた。

 そんな諸王が入っていく天幕から出て来たのは昌長。

 後方には佐武義昌と津田照算の2人が付き従っている。

 フィリーシアとアスライルスの2人は今も天幕の中で諸王を出迎えているのだが、昌長は諸王の集合までまだ少し時間があると言う事で、一息入れるべく天幕を出たのだ。


 周囲の様子を改めて見回す昌長。


 うっすらと煙を上げる焼け焦げた麦畑。

 破壊され、散乱する攻城兵器やオークの武器防具。

 正にそこはつい先程まで戦場であった場所だった。


「まあ……これを再建するんはそれなりの時が要るやろうなあ」


 昌長が言うと、佐武義昌と津田照算の2人も周囲を見回して言う。


「農民は可哀想じょ……ほいでもいっぺん敵はいてへんようになったよって、まあぼちぼち畑作り直しちゃりゃええわいしょ」

「……ご苦労やな……ほいでも今年の麦は……あかんようになるわえ」


 照算はしゃがみ込み、近くにあった焦げてしまっている麦穂を手に取って無念そうな顔をしている。

 昌長は腕を組み、再度周囲を見回す。

 本来そこに在るべき広大で見事な麦畑は、あちこちにまだ残り火を含む戦場跡と化しており、それだけで候担国が大きな打撃を受けた事が窺える。


「まあ後は王さんが面倒見ちゃりゃええんじょ……そこにはわいも入っちゃあるみたいやけどなあ」


 首を捻りつつ言葉を発する昌長。

 それまでの地方領主という扱いは既に無く、昌長はこの対オーク戦争の盟主へと祭り上げられている。


「ほなぼちぼち戻るかえ」


 戦場跡に背を向け、自分の天幕へと向かう昌長。

 そこには今や連合軍の総司令部となった三日月に霜の旗が翻っていた。






 候担平原決戦の後、一旦砦に戻った昌長達は余勢を駆って旬府を包囲していたバルバローセンの残軍1万余りを苦も無く打ち破ったのだ。

 攻城兵器を主に操作する役目を負わされたオーク兵達にはまともな指揮官はおらず、昌長は火縄銃と十貫砲の一斉射撃を散々浴びせかけた後に正面から攻撃し、この残党部隊を撃滅したのである。

 ユエンを使って直前に旬府に籠もる候担国へ繋ぎを付けていた昌長。

 包囲を受けていた旬府の候担国軍も昌長の撃たせた石火矢の合図で討って出て、それまでの攻囲戦の鬱憤を晴らすかのように暴れまくり、散々にオーク兵を追い散らして討ち取ったのだ。

 その際に、昌長はグランドアース大陸には幾つもの広大な平原が広がっているという現実を目の当たりにする。


「ここの地は日の本と違うてなんと広大で平坦な場所が多いことよ……大戦するにしても、大国を攻めるにしても、鉄砲だけではいずれきっと威力不足になるわ。その為に十貫砲をばようよう試して使えるようになれやんとあかんな」


 現に昌長の布陣するこの場所も、オークに焼かれてしまったとは言え広大な平原の一端の、しかも麦畑である。

 火縄銃は威力が大きく射程もそこそこあることから、防御設備や鎧、盾などの防具を破壊する力も強い。

 高価であるとは言えオリハルコンの弾を使えば、かつて黄竜の鱗を貫通できた程にまで貫徹能力も高まる。

 しかもシントニアというドワーフ都市を吸収し、青焔山とその領主であるアスライルスの協力を得られている昌長に、オリハルコンを採取して精錬する事は不可能でも困難でもない。


 しかしながら明国や朝鮮で見られるような都市を丸ごと囲む高く長大な城壁の存在。

 ただただ広く平坦な大陸特有の地形と、その大陸を流れる幅広く流路も極めて長い大河の数々。

 そして、今回初めて味わった術による攻撃。

 正面突破力としての火縄銃の装備はこれからも必要であり、また有用であるが、これからこのグランドアース大陸において他国を攻め取るにあたっては、砲の有効活用が不可欠だと昌長は見抜いたのだ。


「取り回しのええ仏郎機砲も整備しやなあかんな」

「1貫砲やったら……馬車に乗せて撃てるんと……ちゃうか?」


 昌長の言葉を聞き、義昌と照算が相次いで意見を述べる。


「おう、城へ帰ったらドワーフと宗右衛門に言うて作らしちゃらんならんな」


 天幕へと戻りつつ会話をする昌長達。

 そしてエルフ兵とドワーフ兵が衛士を務める天幕の出入り口をくぐると、上座に置かれた椅子を空けて王達が勢揃いしていた。


「おう、待たせたのう」


 照算と義昌を手前で返し、昌長は王達の前を通り抜けて上座へと着座する。

 集まっている王達は以下の通り。

カランドリン=エルフィンク王国女王、メウネウェーナ。

ゴルデリア王国国王、ネルガド。

宗真国国王、エンテン。

候担国国王、タイロン。

ライオネル族族長、ドゥリオ。

ウルフェン族族長、ガウロン。

タゥエンドリン=エルフィンク王国国王臨時代行、フィリーシア。

青竜王アスライルス。

そして

月霜銃士爵、的場昌長

である。


 豪藩国と弘昌国、そして南岸諸都市連合、聖教は既に軍が崩壊しており、国王に代わる人材も全て国元へ逃げ帰ってしまった。

 タゥエンドリンはフェレアルネン王が行方不明となっているのだが、昌長がフィリーシアを後継に推す形で会議に参加をさせている。

 既に兵力は敗残兵を吸収の上再編成して1万5千を越え、連合軍の総指揮を執って見事闇の勢力の一翼を担うオーク王バルバローセンを討ち取った昌長の意見に異を唱えられる者はおらず、昌長の申し入れはそのまま通ったのだ。

 会議に入る直前メウネウェーナが昌長に囁く。


「……マサナガはフィリーシア姫をタゥエンドリンの次期国王に推すつもりかい?」

「まあ姫さんも、諸王に顔つなぎしといた方がええやろ」


 メウネウェーナの言葉にしれっと、しかし肝心な所はぐらかして応じる昌長。

 昌長はここでフィリーシアを次期国王として諸国との会議に参加させ、王不在の中で外交をやり遂げたという実績を造り、今後のタゥエンドリン国内での地歩固めに利用する腹積もりなのだ。

 ただ全てを告げる事はせず言葉を濁したのは、ここがまだタゥエンドリンとは遠く離れた地であるからである。


 ここで下手に色気を出していることを察知され、本国へ通報されて諸勢力に警戒されてしまってはやり難くなる。

 しかしメウネウェーナの副官ヘンウェルメセナは、昌長の言葉を漏れ聞いて顔を険しくしていた。

 ヘンウェルメセナは反対側に座るサラリエル族長のトリフィリシンをちらりと見るが、彼は更にその隣に座ったネルガド王と会話をしているようで、こちらの会話には気付かなかったようだ。


「では会議をば始めるで」


 その昌長の言葉で、ヘンウェルメセナは視線を正面に戻す。

 そこには不敵な笑みを浮かべた昌長の顔があった。




「まずは古の協定に基づき、闇の勢力に攻められた我が国を助けてくれた諸王に感謝を申し上げる。もうこの世に居られぬ方もおありになるようだが……国元へは後ほど使者を立てて感謝の意を伝えたいと思う……また、協定に加わっておられぬにもかかわらず、兵を派して頂いた諸氏にも最大限の感謝と賛辞を贈りたい。ありがとう」


 会議冒頭に発言許可を求めた候担国のタイロン国王が諸王に深々と頭を下げて礼を述べる。

 候担国は平原人国家の雄国の1つであるが、今回のオーク軍による襲撃で甚大な被害を被り、今後は雄国の地位を維持できるかどうか怪しいところだ。

 兵力は現在で4000余りを残しているが、国土はオークの襲撃で荒廃し、民はオークの餌と成り果てた。

 西岸地域から旬府に至るまでは、無人の野の如しとなっている。

 他国との係争とは異なり、闇の勢力との戦いになると正に生きるか死ぬかの戦いとなる。

 民を狩り尽くされた候担国の国力は大幅に低下してしまうだろう。


「古の協定に基づく出兵なれば気にする事はない。しかし出兵費用をある程度まかなって貰わぬことには我らも立ちゆかぬ」


 席に着いたタイロンに対し、ネルガド王が容赦なく対価を求める。

 ゴルデリアは古い国ではあるがネルガド王の代になって伸張したことから、新興国的な性格を持つ。

 メウネウェーナやエンテンが対価を求めない中、遠方から出張ってきたと言う意識があるのか最初に出兵費用の負担を候担国に求める。


「古の協定なれば、負担は求めぬのが道理のはず……」

「浅ましいぞネルガド王よ」


 それにタイロンが反論するより早く、ガウロンとドゥリオがネルガド王に噛み付いた。

 獣人は最も遠方の大陸東部からこの地にまではせ参じている。

 その獣人達が対価を求める事を諫めたのでネルガド王も渋い顔となったが、さりとてあきらめるわけには行かない。


「そう言われてものう……周囲に敵も多い中駆けつけたのじゃ。何の見返りも無しとは、いかに古の協定に基づくといえども頷くわけにはいかぬわ」

「理由は理解できるが、やはり対価は求めるべきじゃないよ」


 メウネウェーナもネルガド王を窘める。

 確かに古の協定が発動されたにも関わらず、兵を送らなかった国も多い。

 ネルガド王と敵対する国々は、軒並み兵を送っていないという事実もある。

 ネルガド王は古の協定に反したという悪評を吹聴される事を嫌い、また戦功を上げる事で周辺国に対する睨みを利かせたいという思惑があったので出兵に踏み切ったのだが、もしその周辺国と戦争中であれば兵を出したかどうかも怪しいところだ。

 しかし出したからには実益がなければならない。


「……我が国としても、物品面で何らかの礼はしたいところだが。無い物は無いのだ……我が国土は荒廃し、民はオーク共の腹の中に収まってしまった」


 タイロンが心底疲れた表情で言うと、さすがのネルガド王も唸るしかなかった。


「ほな、わいらの集めたオーク共の鎧兜や武具をネルガド王に引き渡すちゅう事でどうやろうかえ?」

「……何?」


 オークの使用している武具の原材料は、黒鋼と呼ばれる闇の勢力がよく使用する鋼材で出来ており、その製造方法は謎だ。

 ここ1000年の研究にもかかわらずドワーフにもその謎は解けていない。

 黒鋼を手にしたいのであれば危険を冒して西方に渡るか、闇の勢力に属する兵や戦士を倒す他ない。

 西方へ渡るのは非常に危険であるし、また今やグランドアースにほとんど存在しない闇の勢力に属する者を探すのはほぼ不可能であろう。

 しかし今回オーク軍が所持していた武具はほぼこの黒鋼で出来た物で、それが7万組程も手に入ったのだ。


 その多くが戦功第一である昌長の手に落ちたのは言うまでもないが、これは古の協定とは全く別の戦場の習い。

 それぞれが倒して得た物を、それぞれが戦利品として手に入れただけのことだ。

 昌長が獲得した黒鋼の量に比べれば、メウネウェーナやネルガドが得た物はごく僅か。


「それぞれが帰国する費用分はわいがそれで用立てちゃるわ」


 それを昌長は戦費に充当できるよう配分すると言う。


「う、ううむ……」

「それは助かるけど……良いのかい?」


 ネルガド王が唸り、メウネウェーナが目を丸くする。


「……我が国も恩恵に預かれるのか?」

「おう」


 エンテン王が恐る恐る尋ねると、昌長は快く応じる。

 紀州人の気前の良さが惜しみなく発揮された瞬間だが、付いてきた義昌や照算は渋い顔だ。

 義昌や照算も黒鋼の希少性を聞いており、得られた黒鋼でこの遠征における費用をまかなえると皮算用をしていたのだが、これでご破算だ。

 ただ2人は昌長の狙いも何となく理解しているので口を出さない。


「……良いのですか、月霜銃士爵殿?」

「おう、まあ任せよし」


 やつれはてた候坦国王タイロンがほっとした様子で発した質問に機嫌良く答える昌長には、義昌らが予想したとおり当然思惑がある。

 タゥエンドリンでこれから始まる覇権争いにおいて、ここにいる雄国の支援や支持を得たいのだ。

 カランドリンやゴルデリアと戦うのはまだ先の話。

 しかし、タゥエンドリンでの覇権争いは、おそらく昌長の帰国と同時に始まる。

 ならば得られた戦利品で雄国の帰国費用を支払い、その支持を得られるのならば安い物だ。


 そもそも昌長は自力で交易と農業、商業を興して基本的な費用を賄い、大陸での覇業を成そうと考えている。

 戦利品でことを成そうとは考えていないので、特に損をしたとは思っていない。

 そんな昌長に厳しい眼差しを向けるのは、副官として各王に付き添っているヘンウェルメセナとイン、そしてゲルトンだ。

 しかし王達は現実問題として、帰国費用をまかなえるのであれば昌長の申し出に応じたいと考えている。


 いくら古の協定と言えども、世知辛い話であるが軍を動かせば莫大な金が掛かる。

 それを昌長は自腹ではなく得た戦利品から支払うというのであるから、出所はさておくとしても都合が良い。

 王達も当然ながらただで昌長が帰国費用を供出するとは思っていないのだが、1回か2回昌長に対して恩を返せば十分だろうとも考えていた。


「では遠慮無く!」

「助かるよ」

「……ありがとうございます」


 ネルガド王、メウネウェーナ女王、エンテン王が昌長の申し出を受諾し、続いてドゥリオとガウロンの獣人族長達も承諾した。

 トリフィリシンに対しては帰国先が同じなので、当初から費用は昌長が持つ事を話しており承諾を得ている。

 昌長は全員が自分の申し出を承諾した事を確認し、別の案件をおもむろに切り出す。


「ほいでよう……代わりっちゅうんもなんやが、連合軍の敗残兵の処遇はわいに任せてもらうで」


 昌長は、対価として敗残兵を自軍に組み込むことについて承認を求めた。

 敗残兵とはいえ元々は各国の軍兵であるから、本来は帰国させるのが筋合いだろう。

 しかし、そうなるとまた別枠で帰国費用を考慮せねばならず、各国の取り分は減る。

 それに帰国して貰わなければ、居残った敗残兵は何をするか分からない。

 盗賊化してただでさえ荒廃した候担国内を荒らし回り、治安の悪化を招いたり、そのまま難民となって復興の負担増加や障害の原因になる恐れがあった。


「むう……仕方ないの」

「我が国としては助かりますが……」


 昌長の申し出に対してネルガド王は渋々承諾し、候担国王のタイロンは再び胸をなで下ろす。

 その他の王達も自軍に組み込むには人数が多すぎる上、帰国費用の増加を避ける為に敗残兵については目を向けていない。

 昌長としては逆に軍兵の吸収について後々難癖を付けられても面白くないので、あえて諸王の諾否を確認したのだ。


「自力で帰国したい者についてはその意思を尊重し、阻害しないことを約束して欲しいねえ」

「それは承知したわ」


 メウネウェーナの発言に昌長は快く応じるが、一瞬2人の目は鋭く交錯する。

 タゥエンドリンと国境を接するカランドリンとしては今後隣国の動静について注視していかなければならないが、その中でも台風の目となり得る昌長とはある程度誼を通じておきたい。

 それでも昌長がそれ以上の野心を抱いていれば、衝突する可能性はある。

 力を付けさせたくないのが本音だが、今この時点で動く事は出来ない。

 メウネウェーナの精一杯の抵抗だったが、昌長は内心はともかく表向きはこれを快諾した。


 しかしこれで戦後の問題はほぼ片付いたことになる。

 残敵の掃討と復興は候担国に一任する他ないし、各国も国内外に火種を抱えたままの長期遠征となっている事から、王達は早く帰国することを望んでいる。


「他に言いたい事ある者はいてへんか?いてないんやったらこれでしまうで」


 昌長の宣言に応じる者は無く、これで古の協定に基づく戦いは終わったのだった。


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