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第89話 大同盟分裂3

 しかし異変は唐突に訪れる。


 それまで順調にオークを追い散らしていた連合軍だったが、丘陵の切れ目で突如頑強な抵抗を受けたのだ。


「こしゃくな!」

「噛み破れ!」


 テオハン王と傭兵隊長ガボンが相次いで配下の兵卒に喝を入れるが、それまで順調だった戦線は止まってしまう。


「くそ!逃げ散っていたオーク共が……!」


 驚くテオハン王を余所に、わらわらと沸き立つように集まってくるオーク兵。

 そして、地を這うような震動と共にオークの野太鼓が激しく打ち鳴らされた。


「こ、この太鼓の音はっ!」


 フェレアルネン王が驚愕に目を見開く。

 かつて闇の勢力の一翼を担った、オーク王バルバローセンの早太鼓。

 この後に襲い来るのはオークの山津波の如き怒濤の攻勢だ。

 はるか過去に闇の勢力との戦いに従事した経験のある、フェレアルネン。

 彼にしか理解しえないこの早太鼓の意味は、死。


「いかん!退け退けえい!」


 フェレアルネン王が必死に叫ぶが、しかしもう遅い。

 いつの間にか正面に軍陣を敷いて待ち構えていたバルバローセン率いるオーク重装歩兵の津波が繰り出される。

 それまで前戦で必死に戦っていたドワーフ兵がオークの棍棒で叩き潰され、エルフ兵が文字通り踏みつぶされる。

 平原人の騎兵が馬ごとオークにひっくり返されて平たくなるまで叩かれ、術兵はオーク術兵のカウンターマジックで術をたちまち無効化されると、雪崩れ込んできたオーク重装歩兵に命ごと蹴散らされた。


 オーク軍に浸透するように攻め立てていた連合軍の最前線は一瞬で瓦解し、それまでの光景が僅か数瞬の間に逆転する。

 怒濤の波頭となり攻め寄せるオーク兵の勢いに押し込まれる連合軍は、何とか踏み留まるべく、本陣の兵を集めて分厚い陣を敷き直そうと躍起になっているが、情勢ははかばかしくない。

 血飛沫が舞い、肉片が散乱する阿鼻叫喚地獄の様相を呈し始める戦場。

 オークは叩き潰した敵兵の肉をそのまま口にし、気勢と喊声を上げて攻め寄せてくる。




 

「ガボン傭兵隊長率いる南岸諸都市軍が壊滅、壊乱しました!」

「サルード王討ち死に!」

「大神官様がどこにも居りません!」

「オーク軍が我が備えの中段を食い破りました!」


 次々に上がる劣勢の報告、そして敵勢進出の知らせ。

 わなわなと手を震わせ、フェレアルネン王は怒りと恐怖を押し殺す。

 横を見れば、平原人の雄、テオハン王も防戦一方なのが見て取れる。

 そしてそれは唐突に開始された。

 どっと崩れるテオハン王の陣営。


「豪藩国軍壊滅!敗走を始めましたっ!」


 それと同時にタゥエンドリンの親衛隊が後退を始める。

 いや、むしろ積極的に周囲の兵に混じって後方へ逃げ出したのだ。


「わしはまだ命令を下しておらぬわ!」


 その台詞と同時に天幕が踏み破られ、オークがどっとフェレアルネン王の元へと押し寄せた。






 意気揚々と引き上げる昌長達であったが、フィリーシアは1人浮かない顔。


「姫さん、どないしてんよ?」


 昌長の問いに、フィリーシアは逡巡の素振りを見せるが、意を決したように口を開いた。


「マサナガ様、いくら連合軍の指揮権を掌握したと言いましても、私たちの兵数の少なさは致命的です。万が一にも王達がマサナガ様の指示に従わなかった場合、自由に出来る兵力が少ないというのは……」


 フィリーシアが心配そうに言うとおり、連合軍の指揮権を一応は掌握した昌長だったが、不安が無いわけではない。

 1つは本当に王達が昌長の指揮に従うのかと言う事。

 自軍に損害の多い命令や作戦を忌避する可能性は、決して否定できない所だ。

 2つめはそんな場合に自分の自由に出来る直属の兵が極端に少ないこと。

 たとえば戦線のほころびに投入する予備兵力が、昌長にはほぼ存在しない。

 王達が命令や出動を忌避するとすれば、正にそう言った激しい戦いの繰り広げられている場面や場所であろう。

 しかし昌長はにんまりと笑みを浮かべるとフィリーシアの肩をぽんと軽く叩いて言う。


「気遣いないわえ、その辺はすぐにどうにでもなるさけ、まあ任せよれ」

「……しかし援軍のあてはありませんし」


 気安く言う昌長に対してフィリーシアは首を傾げるが、昌長は全く意に介した様子も無く言葉を継いだ。


「それはおいおい分かるわ、今後の兵力不足も解消できる策やさけ、まあ気遣い要らん」





 昌長は早速兵達から指揮官を選出することにした。


「ええか、おまんらはもう実戦を経験した一廉のつわものや!帰ったらそれぞれ部将や隊長になる!ほやけど今この場においては自分らの中で一番将に向いちゃあると思うもんを互選せえ!」


 5500余の兵を全て集めた昌長が言う。

 エルフや獣人が顔を見合わせ、ドワーフと平原人が相談し合う。

 その今までに無かった光景に昌長はほくそ笑む。

 戦いを通して培われた絆は、深く強くなる。

 今まで互いを蔑んでいた者達が、次第にその偏見の目をなくしつつある光景を見て昌長は策が図に当たったことを確信した。

 ただでさえ発展途上で人手が足りず、また多種多様な種族を集めざるを得ない地勢上、政治上の理由がある為、あらゆる分野において各種族が入り交じっている。

 昌長は、部下達が下らないしがらみにとらわれ、いがみ合って戦いや生産活動に影響することを嫌ったのだ。

 しばらくするとダエリンというドワーフと、マルメーシアというエルフが銃兵達から支持されて選出された。


「ほなおまはんらに500人ずつ兵をば預けちゃる。よう励め」

「ははっ!」

「承知致しました」


 手にした火縄銃の銃口を上にして地面につけ、膝を付くダエリンとマルメーシア。

 昌長はそれぞれドワーフ銃兵とエルフ銃兵を主とした部隊を預けることにする。


「それから……リンデン、リエンティン。後で櫓へ来てくれ」


 部隊の顔をあわせと作業再開を命じてから、昌長は部将の内から2名を呼び出した。







 月霜銃士爵の砦の最前面にある櫓で、昌長は悠然と砦の外にあたる森の入り口付近を見下ろしていた。

 そこには緑色の忍び装束を纏ったユエンの姿があり、昌長を認めると盛んに手を振ってからその奥にある森の中を何度も指さした。

 昌長が大げさに頷くと、ユエンは嬉しそうに再び手を振り、森の入り口の横合いへと配下の猫獣人達を率いて去って行く。


「もう一端の忍びやな」


 笑みを浮かべた昌長の下へ、先程呼び出した2名の部将がやって来た。


「手短に頼むぞ!わしは作業の指揮で手一杯なんじゃ!」

「何かご用か?」


 2人が呼び出された理由を問う中、昌長は櫓の中へと身体を向け直すと、ゆっくりと口を開いた。


「おまんらには少しばかり困難な仕事を頼みたいんや」


 昌長の言葉に互いの顔を見合わせる2人。

 どちらの顔も、今の任務以外にまだ困難な仕事があるのかといったものだ。

 そんな2人を見て昌長は笑みを深くすると、言葉を継ぐ。


「おまはんらには新し部隊をば預けるよってな」

「新しい部隊?」


 リンデンが眉をしかめ、リエンティンが首を傾げる。


「新しい部隊など何処にあるというのだ?」

「援軍の話は聞いておらぬぞ」


 リエンティンが傾げていた首を戻しつつ問い、リンデンが半信半疑の体で言う。

 昌長は武将達の言葉を聞いて頷きつつ、肩に担いでいた火縄銃で砦の外を示した。


「……外?」

「そちらは敵しかいないはずだが?」


 リンデンが訝り、リエンティンが再び首を傾げる。

 その直後、黙って外を示し続ける昌長の火縄銃の銃口の先にある森の入り口付近にある木が一斉に揺れた。


「なんじゃい!敵かっ」


 リンデンが慌てて駆け下りようとするのを手で制止し、昌長は言った。


「気遣い要らん、あれは連合軍の敗残兵じょ……おまんらにはあれをまとめてわいの配下に組み込んでもらうで」 

「敗残兵ですと?」

「そうや」


 リエンティンの驚きの質問に応じる昌長。

 そして昌長の言葉の直後、どっと人族の兵が森から転がるようにして現れ、たちまち砦の下にあふれかえった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >カンナビス上神官閣下がどこにも居りません そりゃ随分前にダチョウになって死んだんだから何処にも居ないでしょうよ……
[一言] そういう役割なんだろうけど、一番最初に助けられた姫さんがいつまでも昌長らを信じきれずにウジウジしてるのがウザく感じてストレスw
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