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第83話 大陸大同盟集結

 昌長が月霜城を出発してから3ヶ月後。

 候担国の東側、済廉国との国境にある荘香城に、グランドアース大陸の古の協定に従い兵を率いてやって来た各国各勢力の要人達が勢揃いした。

 未だ到着していない国もあり、また兵を派遣してこない勢力もある。

 コーランドら蜥蜴人国家はそもそも闇寄りの人族であるので、古の協定には参加していない。

 また平原人の新興国は、そのほとんどが古の協定締結後に興った国家であるので仕方が無い。

 森林人や坑道人国、力のある獣人部族は兵を派遣したり代役を派遣し、また協定に参加している小規模平原人国家は、大半が聖教への兵の派遣をもって代わりとしている。


 集まった要人達とその率いてきた兵は以下の通り。


 宗真国王エンテン、上将イン・シンキン、軽装騎兵を中心とした兵8千。

 豪藩国王テオハン、宰相サルファン、平原人の重装歩兵を中心とした兵8千。

 弘昌国王サルード、大将軍ベッサ、平原人軽装歩兵と術兵を主体とした兵8千。

 カランドリン国女王メウネウェーナ、側近官ヘンウェルメセナ 、森林人弓兵と術兵を主体とした兵2万2千。

 タゥエンドリン国王フェレアルネン、宮宰レウンデル、サラリエル族長トリフィリシン、森林人の弓兵と剣兵を混成した兵1万9千。

 ドワーフ王ネルガド、坑道長ドエルン、坑道副長ゲルトン、坑道人重装歩兵1万。

 南岸諸都市連合、指揮官ガボン、各人族から成る傭兵主体の兵5千。

 ライオネル族長ドゥリオ、軽装備の獣人戦士4千。

 ウルフェン族長ガウロン、軽装備の獣人戦士4千。

 月霜銃士爵的場昌長、青竜王アスライルス、フィリーシア王女、各人種混成の雷杖兵(火縄銃兵)を主体とする兵5千5百。

 聖教大神官グレゴリウス、平原人各国の混成兵と術兵合わせて9千。


 合計93500の大軍だが、それでもまだ豚人王バルバローセンの10万余に当たるには不足している。

 因みに地位的にはタゥエンドリンの地方領主に過ぎない昌長がこの列に加わることが出来たのは、アスライルスとタゥエンドリン王女のフィリーシアの推薦に加えて、ドワーフ王ネルガドと宗真国のエンタン王の推薦があったからである。


「おまはんが復帰しちゃあるとはなあ……」

「ははははは、お陰様でな!今度は負けんぞ!……だが差し当たっては協力してオーク共の処理だ」


 呆れを含んだ昌長の言葉に機嫌良く応じ、その腰を力強く叩いたのはゴルデリアの将軍ゲルトン。

 ネルガド王に昌長を推挙したのは、シントニアで干戈を交えたゲルトンであった。


「お主が月霜伯か。ゲルトンから話は聞いておる……シントニアでは随分世話になったそうだな?」

「お初にお目に掛かるわえ、的場源四郎昌長や……まあ、ゲルトン殿はのう、少しばかり胸を貸してやっただけや、気にせんといてよ」


 気安い昌長の言葉にネルガド王は目を丸くすると、直後に大笑いし始めた。

 そして一頻り笑ってから昌長に不敵な笑みを向けて言う。


「大した奴め!あれ程我が軍を手酷い目に遭わしておきながら、胸を貸しただけとは!」


 そしてゲルトンと同じように、昌長の腰をばしばしと叩くネルガド王。

 背丈の関係で背中には手が届かないのだろうが、力はやはり強い。

 昌長が腰への衝撃に辟易していると、ネルガド王は言葉を継ぐ。


「タゥエンドリンなどの地方領主で収まるタマではなかろう。どうだ?我が国へ来ぬか?上将軍の地位をくれてやろう」

「……陛下、私の目の前での引き抜きはご遠慮下さいますよう」


 すかさず警戒心も露わに言ったのは、昌長の横にいたフィリーシア。


「おうフィリーシア姫、おったのか?まあよい……マサナガよ、考えおいてくれい」


 フィリーシアにやんわり窘められたネルガド王だったが、悪びれることなくそう言い、笑いながらゲルトンを従えて去って行く。


「傑物やな」

「おそらく坑道人は彼の王の元で統一されることでしょう」


 昌長の感心に、フィリーシアは苦い顔で応じる。

 次いで昌長のもとへやって来たのは、カランドリンの女王メウネウェーナ。

 浅黒い肌に銀髪を持つ、妙齢の美女だが、年齢は800歳近く。

 今は厳めしい戦装束だが、その中にもどこかに艶やかさを感じさせるのはその仕草であろうか。

 しかし彼女の口調は男そのものだった。


「お前がマサナガとやらか……」

「おう」


 興味津々といった様子で、短く自分の言葉に応じた昌長の出で立ちを上から下まで舐めるように見回すメウネウェーナ。

 険しい顔をしたアスライルスとフィリーシアがすっと前に出る。


「お主、男を漁る癖は変わって居らんのう」

「ふん、変わってたまるか……青竜王殿は随分角が取れたな?」


 自分の不機嫌そうな顔を見つつ何故かそう言うメウネウェーナに、アスライルスは訝しげに首を傾げる。

 それを見て再びメウネウェーナは、あでやかな笑みを浮かべて言う。


「そうそう、それそれ。前はその様なあざとい仕草をする事は無かったぞ。黄竜めに手籠めにされて変わったか?」

「あ、あざといとは何じゃ!第一手籠めになどされては居らぬわ!」


 顔を真っ赤にして怒るアスライルスに、メウネウェーナはお付きの者達を従え、艶っぽい笑い声を残して去って行く。


「何ともまた、なかなかの女傑よ」

「……ふん、齢を重ねただけの年増じゃ。相手にするでない」


 昌長の再びの感心に、アスライルスは怒りながら応じるのだった。





 各国の兵達は思い思いの場所に布陣したが、向きだけは候担国の主都を包囲している豚人軍の方向を向いており、一応この軍が統一した意思を持って集まっていることが分かる。

 ほとんどの軍はこの城とこの場所を一時的な駐屯地と考えており、準備も天幕程度に止めている。

 兵達は一部が城に入っているものの、大半は周辺に野営している。

 防御や戦闘を考えているわけではないので、その配置もなおざりであった。

 しかしそんな中でせっせと働いている軍が1つだけある。


 昌長の率いる月霜銃士隊である。

 昌長はその中心の突出した場所に布陣し、兵達に命じて周辺の林から木材を切り出させては柵や柱として加工し、周辺の村や町から買い集めた荷馬車へ積み込ませていた。


「マサナガ様、この地は一時的な布陣場所に過ぎませんが……それにおそらく行われるのは会戦方式の戦いです。陣地構築用の資材はそれ程必要ないのではありませんか?」


 そう問い掛けられた昌長の姿は、いつもどおりの雑賀鉢に武者鎧、腰には大小の刀を下げ、そして肩には愛用の火縄銃を掛けている。

 無論、他の雑賀武者同様に玉薬や弾丸入れ、早合の詰まった胴乱も身に付けている。

 肩に掛けた火縄銃の位置を直しながら、昌長は後方の荘香城を見た。

 昌長も呼ばれているが、間もなく進撃路や役割分担に関する会議が行われることになっている。


「荷馬車もこの様にたくさん用意して……大丈夫なのですか?」


 野戦に必要のない陣地構築資材は廃棄しても良いと考えているフィリーシアは、月霜城から大量の物資を運ばせたのみならず、未だ資材や食料を増やそうとする昌長の意図が分からないのだ。

 むしろ重い荷物や足の遅い荷馬車は行軍の妨げになるばかりか、下手をすれば他の軍の足枷ともなりかねない。

 そんなフィリーシアの疑問に、昌長は笑みを浮かべて答えた。


「それは気遣い要らん。おそらく戦いは防御戦になるわ」

「え?」


 昌長の言葉に驚いて振り返るフィリーシア。

 綺麗に結い上げられた金髪が僅かに揺れる。

 手にしていた森林人弓エルフィンボウを腰の吊革に引っかけ、要所を鋼鉄で補強された革鎧の位置を直しつつ、髪に手をやるフィリーシア。

 自分の考えとは、正反対の考えを昌長が持って居ることに驚きと戸惑いを感じたのだ。

 防御戦と言っても、この大軍を収容できるような大きな城郭や砦は旬府周辺に存在しないし、小規模な砦などは偵察の報告を聞く限り全て陥落しているか、自落している。


 つまり、防御戦闘を行えるような拠点もないのだ。


「豚人王は候担国の主都を攻撃している。此方側が攻め掛かる形に成るのではないか?」


 豚人軍が遙か遠くで候担国の主都城壁へ盛んに攻めかかっている状況を見ながら、不思議そうに言うアスライルス。

 人化して長身の女となったアスライルスは、いつもとは異なり青い長衣の上に昌長から贈られた日の本風の緑青色の鎧を付けている。

 そしていつもの緑青色の頭鐶を填め、長い青色の髪を後ろで纏めて垂らし、手には竜王杖を持ち、腰には短刀があった。


 アスライルスは竜王杖を地面につき、目をすがめた。 

 南部広平野の入り口付近である、荘香城は若干の高台にあり、この場所から北方には高原があり、更にその東方には山脈が広がっている。

 故に南方の南部広平野は広く見渡すことが可能で、丁度正面には候担国の主都である、旬府の状況を見ることが出来た。

 しかしそれは見るものを十分に恐れさせるものである。


 高い尖塔を中心にした、ほぼ円形に近い形の旬府を、黒い粒の集まりが完全に包囲しているのだ。

 時折その黒い粒の集まりの内、旬府に近い場所から小さな塊が打ち出され、放物線を描いて城壁にぶつかったり、城郭部分に着弾したりしている。

 おそらくは大規模な攻城兵器による攻撃が行われているのだろう。

 旬府の周囲は既に焼け野原で、村落や小さな町であったと思われる茶色の塊からはちらちらと赤い炎が見え、筋状の黒煙が幾つも立ち上っていた。


「豚共が彼所から離れるとは思えぬが……」


 アスライルスの言うとおり、オーク軍は攻城戦にかかり切りになっており、こちらに攻め寄せてくる素振りや、陣替えをしているような様子はない。

 昌長はそんな2人に顔の前で手を左右に振りながら口を開いた。


「おそらく接近した所で相手側が攻め掛かってくるわえ……あいつらはわいらが集まっちゃある事を知って、誘ってるんよ」


 昌長はオーク軍を遠望しながらアスライルスの疑問に答える。

 10万近い兵が見通しのよい平原の先にいるのだ、分からない方がおかしい。

 それを見越した上で攻城戦を中止しないというのは、何か意図があってのことに違いない。

 昌長が見る限り、候担国は平原人国家の列強の1つに相応しい備えと防備をもって抵抗を続けているようである。


 現在の時点で豚人王も、守りの固い旬府を昌長らの大陸連合軍が到着するまでに陥落させられるとは思っていないだろう。

 攻撃も激しくはあるが無理押しをしているようには見えない。

 あくまで通常の攻城戦を行っているのみだ。

 昌長の説明に納得すると同時に感心するアスライルスとフィリーシア。


「ほう……」

「それは……会議で発言すべき事柄ですね」


 フィリーシアが言ったとおり、確かに会議で言うべき事だろうが、昌長はこの自分が感じた勘としか言いようのないものを披露する気はなかった。

 それは実際に会議をしてみれば分かるだろう。


「まあ、言えっちゅうんやったら言うわ」


 気乗りしない様子の昌長に首を傾げつつ、フィリーシアとアスライルスは、踵を返して城へと歩き出した昌長の後を追うのだった。

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