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第7話 王都4

誤字脱字報告、何時もありがとう御座います。

この場で申し訳ありませんが、感謝の言葉を述べさせて頂きます。

 それまで朗らかな笑い声を上げていた昌長達の顔つきが、一瞬で厳めしい戦場の武者のものへと変わる。


「統領!曲者や!1つ仕留めたで!後5ほど庭へ逃げたが、正体はわからんっ」


 建物の屋根で周囲を警戒していた鈴木重之が怒鳴るように報告すると、再び火縄銃の発砲音が轟き、野太い悲鳴と大きな物の落ちる鈍い音が続いた。


「大事ないか!」

「大事ない、おおもん仕留めたわえ」


 昌長の問いに重之が応答する。


 その前に雑賀武者のある者は刀を手に取り、またある者は火縄銃を取ると素早く早合を使って弾薬を装填し、次いで火縄を用意する。


「慌てて外へ出んな!鎧戸の隙間へ居並ぶんや……姫さんは手の者を連れて奥へ行っといてくれへんか」

「わ、分かりました」


 昌長の指示で、修理した鎧戸の隙間へ火縄銃を持って身を預ける吉次達。

 次いでフィリーシアが、突然の出来事、しかも戦闘の勃発に肝をつぶしている補佐役の者達を促し、建物の奥へと待避する。

 フィリーシア自身も、まさか王都で戦闘が始まるとは夢にも思わず動揺しているが、昌長達を信頼しているのでその度合いは低い。

 それに応援を呼ぼうにもここは離れで、闇に紛れて襲撃してくるような相手では単身で外へ出るのは危ない。


「ご武運を」

「まあ、任しといちゃれよ。音聞いたら衛士も集まって来るやろ」


 フィリーシアの言葉に、安心させるような笑みと共に応じる昌長。

 その頼もしい背を再び見送り、いつか自分もあの人の隣に並んで戦う未来を思いつつ、フィリーシアは名残惜しげに戦場を後にするのだった。

 一方の昌長は、自分の予想が当たった事に悦に入っていた。


「やっぱり来たでえ」

「どっちやろかえ?」


 昌長の独り言に応じたのは、仏頂面の義昌。

 しかしその短く主語の欠けた言葉の意味する所を理解した昌長は、笑みを浮かべて言う。


「蜥蜴人ちゃうか、統領の首取り戻しに来てんやろ」

「ここの偉いさん連中やあらへんやろか?譜代衆は姫さん担ぎかねんワイらの事嫌うとるやろし」

「まだや、まだそんな時やない。あるとしたらワイらが都をば離れた時かその直前や」


 義昌の推論を昌長は否定しつつも、近い将来は想定される事態である事を告げる。

 それを聞いた義昌は、顔を戻して頷いた。


「左様か。そこまで考えちゃあるんやったらええわ」

「得心した所で、やるでえ」


 そう言いつつ昌長が様子を窺うも、中庭は静まりかえっている。

 無いはずの攻撃を受けた事に驚き慌てているのか、それとも撤収の算段を付けているのか分からないが、反撃も逃走も今のところ気配が窺えない。

 吉次達は息を殺して窓枠に火縄銃を差し込み、昌長の指示を待っている。

 こういう事態を想定し、鎧戸を修理するにあたってその破損箇所を利用し、まちまちの場所にではあるが銃眼を設けてあったのだ。

 屋根に上がっていた鈴木重之の報告では、曲者は全員が庭に逃げ込んだとの事である。


 それ以降の報告は無いので、昌長達は取りあえず建物の正面の中庭に逃げ込んだ敵に相対すれば良い。

 吉次達が配置に就いた事を確認し、昌長は次いで指示を出す。


「気い抜くなや……高秀、水松明をば用意して庭へ射込んじゃれ。正体暴くで」

「承知したでえっ」


 昌長は自分の鉄砲へ弾薬を装填すると、周囲に注意を出してから配下の雑賀武者で最も曲射射撃を得意とする、湊高秀に水松明の使用を命じる。

 水松明とは、竹筒に火薬や鉄粉、松脂を混合した燃料を詰め込んだ物で、耐水性があり、しかも踏んだ程度では火は消えない。

 昌長は夜間の戦闘などで相手方の陣地にこの水松明を投げ込んだり、火縄銃を使って撃ち込んだりして敵の周囲を照らし出す戦法を編み出していた。


 高秀は自分の持つ2丁の馬上筒にそれぞれ火薬のみを詰めると、棒火矢と呼ばれる銃身の長さと銃口に合わせた矢の先に水松明を装着し、装填した。

 普段であれば棒火矢は先に油や火薬を詰め込んだ筒を装備し、敵陣を焼いたり爆破したりするのに使う他、火矢代わりにして味方への合図に使ったりもする物だ。


 全て準備が終わると、高秀は片膝を立てた格好で筒先を斜め上空に向け、昌長に頷いて準備が完了した事を知らせる。

 宗右衛門と照算の2人が鎧戸の脇に陣取り、それを大きく開くべく握りに手を掛けた。


「やっちゃれ」

「おう」


 脇の2人が鎧戸を大きく開くと同時に高秀は水松明の導火線に火を付け、すかさず火蓋を開いて引き金を引いた。

 通常より大分減らされた黒色火薬が轟発し、ぼんという少しくぐもった低い音を発する高秀の馬上筒。

 銃口から白煙が上がると同時に、開かれた鎧戸から棒火矢が放物線を描いて飛ぶ。

 次いで高秀は自分の脇に置いていたもう1丁の馬上筒を素早く取り上げると、わずかに銃口の向きを調整し、再度ぽんと水松明を装着した棒火矢を発射した。


 それが終わると、すぐさま宗右衛門と照算が鎧戸を再び閉じる。


 撃ち込まれた水松明は狙い過たず中庭の左右に散開して落ち、導火線が燃え尽きた所で水松明に点火し、その周辺を明るく照らし出した。


「なんやっ?化け猫いちゃあらいして」


 素っ頓狂な重之の声が屋根から降ってきた。


「化け猫お?何でそんなモン居てるんよ、アホな事……あ、ほんまやあ、犬男も居てるでえ!」


 次いで聞こえてきたのは吉次の声だが、それもやはり後半は素っ頓狂なものになっている。

 2人の声を聞いた昌長の頭に、先程フィリーシアから受けた講義の内容が浮かんだ。

 確か獣人は部族単位で国を作らず活動しているはずだ。

 生息地域は主に西端と東端、それに一部は南。

 近年はリザードマンの攻勢にさらされ、滅ぼされたり従属したりしている部族も多いと聞いた。

 昌長は曲者達は抵抗の意思をなくしたと見たが、用心の為屋根に狙撃の得意な照算を送り込むと、残りに鎧戸を開かせてその姿をゆっくり見せる。

 そして攻撃が無い事を確かめると鎧戸を乗り越え、吉次と義昌を従えて中庭に降り立った。


 その前には、猫や犬の特徴を持ったみすぼらしい人型の者達が5名。


 水松明で明るく照らし出され、小さくうずくまっているのが見える。


「降参せえ、せえへんかったら……皆殺しや!」


 威を張った昌長の大音声に、雑賀武者達が一斉に火縄銃を構えた。

 屋根と鎧戸越しにがちゃがちゃと金属や木の触れる音がすると、正体を知らずとも、味方を撃ち倒した怖ろしい武器を向けられている事に気付いて身を震わせる獣人達。

 しばらくの間を置き、獣人達の一番前にいた猫型の女と思われる獣人は、跪いたまま半歩昌長ににじり寄ると、頭をしっかり下げたまま小さな声で力なく返答した。


「……はい、あなた方に従います」





 義昌と昌長が油断無く火縄銃を構える中、見張りに屋根の上の照算だけを残し、昌長の前でうなだれている5人の獣人達に宗右衛門らの手で縄が掛けられていく。


「おまえら全部で5人だけか……後はいてへんな?」


 既に重之の物見で獣人達の数を把握しているが、昌長はカマを掛ける意味もあって問い質す。


「……5……人?」

「こら、動くな!じっとせえ!」


 縄を打たれていた獣人達がその言葉に反応し、縄を掛けていた高秀に叱責されて地面へ押し込まれる。

 それでも全員が無理矢理顔を上げた。


「う……力強いな」

「なんじゃい、足掻くなや!無駄やで」

 宗右衛門と吉次はそう言って顔をしかめながらもしっかりと急所を押さえている。

 戦場で鍛えられた雑賀武者の膂力と技には敵わず、最終的には押さえつけられる獣人達。

 その中でも昌長に恭順の意を伝えた女獣人だけは、大きく身体を跳ねさせて鈴木重之の戒めを解けないまでも顔を上げると、食い入るように昌長の顔を見つめる。


「私たちを……どう数えた?」

「ああん?なんやそれ……お前らは5人やろう。他に数え方があるんか?」


 かみ合わない遣り取りをしている昌長と女獣人。

 もしかして何かを間違えてしまったかと怪訝そうに首を捻る昌長を余所に、女獣人は昌長を穴が開く程見つめ続けている。

 獣人とは言えまだ年も若く、美しい娘だった。

 茶色の虹彩を持つ大きな瞳に、とがった鼻、小さな顔の頬には薄茶色の毛があり、耳は人と異なり随分と大きく、まさに猫の耳と言う以外に無い。

 茶色の襤褸を纏った身体は小柄で、やせてこそいるものの服と同じ色の体毛に覆われた腕や足、腹や背にしっかりと筋肉の詰まった良い体をしている。


 忍び働きには最適の体付きと言えた。


 昌長が感心したように女獣人を上から下まで眺め回していると、何を勘違いしたのか女獣人は身体を捩って居心地悪そうに昌長から視線を外した。 



 一方その女獣人、ユエン・ミ・キトは戸惑っていた。

 最初は荷物の搬送や雑用係としての従軍強制だったが、その後森林人エルフの王宮に忍び込み、討たれたリザードマン戦士長の大剣を取り戻すという仕事を強制された。

 エルフの都は戦争中だというのに警備も緩く、忍び込むのが容易い事は知れている。


 身軽で身体能力に優れた猫人のユエンにとっては更に容易い事だ。


 今までにも情報収集の為に何度か忍び込みには成功していたので、特に問題は無いと思われたが、自分達の監視役として戦士が2人付いてきた事には正直危惧を覚えた。

 リザードマンは優れた重戦士であるが、軽快ではない。

 故に潜行の足手まといになると思ったのだ。

 しかし、それを伝える事も拒否する事も出来ず、ユエンはむしろリザードマン戦士の忍び込みを手伝わされる格好となったのだ。

 戦士達の様子を見るに、どうやら死んだカッラーフ戦士長の副将格の2人らしく、戦士団の後継を巡って主導権争いをしている事が分かった。


 手柄や名誉に関わる事柄についてリザードマンに何を言っても無駄だということは理解していたし、そもそも言える立場にも無い。

 なので大人しく従って王宮へと忍び込み、先行させていた獣人の手引きで離れの廃城砦へとたどり着いたのだが、そこで待ち構えていた平原人の武人に敢えなくリザードマン戦士は2人とも討ち取られた。

 命を懸けるような義理も無く、さりとて失敗の責任を負わされる事を考えるとリザードマンの死体をそのままにして撤収する訳にも行かず、ユエン達が戸惑っていた所に昌長から降伏を勧告されたのである。

 強力な統率力と武力を持った隊長の出現に、ユエン達は逃走を諦めた。


 見ればそこかしこから気配尋常ならざる平原人の武人が、冷たい殺気を放ちつつ油断無くリザードマンを一撃で仕留めた強力な魔道杖を自分達に向けている。

 ここで今更じたばたしても逃げられないと諦めて降伏する事にしたものの、ただ死の恐怖にだけは抗い難く身を震わせていたユエン達。

 身体能力に優れながら国家や文化を積極的に持たない獣人は、他の種族からは一段下に見られがちだ。

 如何に素直に降伏しようが、そんな獣人の捕虜に待っている未来は奴隷になるか命を戯れに奪われるかしかない。

 しかし大概は“匹”等という侮辱的な数え方すらされる彼らを、この隊長は普通の人族に接するのと同じように言葉を掛けて接してきた。


 しかも何故かユエンの身体をなめ回すように何度も見ている。


 若い娘らしく戦陣に身を置いて居る事で薄汚れてしまった自分の身体を恥じ、隠そうとするがそれも縄を打たれて果たせないで居た所へ更に視線がまとわりつく。

 他の種族からは汚れた獣人としてしか見られた事の無いユエンにとって、昌長やその配下の雑賀武者達の蔑みの混じらない視線は、ぶしつけなだが新鮮なものだったのだ。


「ふむ、ええ身体してるな」


 昌長の言葉に縛られたままのユエンの身体がびくんと跳ね上がる。

1話冒頭でも記載しましたが、出直し投降となります。

是非とも感想、評価を宜しくお願い致します。

今後ともどうぞよろしくお願い致します。

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