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第54話 エンデ領域制圧戦2

 意気盛んなリザードマン居留地を見て取り、岡吉次は嘲りの笑みを浮かべる。


「しょうもないやっちゃ。自分らが無勢なことも最早分からんか……」

「ヨシツグ様、如何しますか?」


 犬獣人の兵長が怯えたように問うのを聞き、つぶやいていた吉次は笑みを深めて答える。


「積年の恨み晴らしちゃら!奇策は必要ないっ、正面から仕掛けるで!正面からぶち破って自分らが負けたことをしっかりと自覚させちゃれ!」


 吉次の力強い言葉に、犬獣人はぶるりと武者震いをする。


「弾込めいっ、火縄を点じよ!槍兵は槍立てて居並べい!剣兵は剣抜け!弓兵は矢を用意せえっ、やるでえっ!」


 続いて吉次の号令が発せられ、各人族の銃兵達がそれぞれの兵長の指示で戦の準備を始める。

 相次いで武具の準備を終えた各兵長からの報告を受けた吉次は、一つ頷くと再度号令を掛ける。


「進めえ、エンデでの戦はこれで決まるで!」






 リザードマンの戦士団は今までどおり戦士長であるラークシッタとフラーブフを先頭に鉈のような剣を振りかざし、威嚇しつつ突撃隊形を造る。

 一方の岡吉次率いるエンデ方面軍団は湿地帯に進出しつつも深入りは避け、銃兵を正面に配置すると槍兵を左右に並べ、正面後方に剣兵と重装砲兵、弓兵を並べた。


「雷杖何するものぞ!我らリザードマン戦士の皮の厚さを見せてくれる!」


 ラークシッタの鼓舞に応え、リザードマン戦士が月霜銃士爵軍目掛けて吶喊する。


「ええか、落ち着け!気張ることはないで!調練どおりにやればええんや!」


 火縄銃を使った実戦は初めての者達が多いため、岡吉次は時折兵達に声を掛けては逸りすぎる気を落ち着ける。

 そして吶喊が始まったのを見て取り、にやりと不敵な笑みを浮かべた。

 兵達は思いの外落ち着いており、しかもしっかりと敵を見据えている。

 今までの獣人兵や森林人兵であればとっくに怯えて動揺を走らせている場面だが、現在のところそのような兆しはなく、平原人や坑道人の兵士達も落ち着いている。


 これは勝った。


 確証を得た岡吉次の視界に、リザードマン戦士達が撃ち頃の間合いに入ったのが入る。


「今ぞ前列!撃てや!」


 吉次の号令と共に最前列に位置していた獣人銃兵100名が一斉に引金を絞った。

 凄まじい、今までとは比ぶべくもない撃発音がエンデの地に轟く。

 白煙が噴き上がり、きらめく閃光の中から鈍色の鉛弾が撃ち出された。

 低めに構えられた獣人銃兵の持つ100丁の6匁筒の目当ては先頭を走るラークシッタに集中し、たちまちその屈強な肉体を穴だらけにする。


 弾かれたように後方へ吹き飛ばされた戦士長やその周辺の戦士達。

 たちまちリザードマンの突撃陣正面に大きな穴が空く。

 緊張を見せつつも素早く後方へ下がる獣人銃兵に代わり、森林人銃兵が前に出た。


「中列!撃て!」


 次いで発せられた吉次の号令で再びの轟音。

先程と同様の白煙と閃光が発せられ、今度は後方で戸惑っていたリザードマン戦士達が狙い撃たれ、リザードマン達の混乱がいや増した。

 軽い身のこなしで後方に下がる森林人銃兵の影から、のっそりと分厚い身体を持つ坑道人銃兵が姿を現す。

 彼らが手にしているのは短銃身の抱大筒だ。

 中に込められた大きな鉛玉が、恐れ戦くリザードマン戦士の目に止まる。


「ま、まて……」


 思わずそう口にしたリザードマン戦士に構わず、狙いを付けられた抱大筒の銃口が定まった。


「撃てや!」


 三度発せられた吉次の号令により、先の2度より更に大きな轟発が地を揺るがした。

 その音を心地よさげに聞き、吉次は満面の笑みで言う。


「やっぱり鉄炮は集中運用が肝よな、これぞ我がふるさとの音よ!」


 抱大筒から発せられた真っ赤な閃光が白煙を押しのけ、発射された鉛弾が残ったリザードマン戦士達を容赦なく打ち倒す。


「よっしゃあっ敵は崩れたで!追討ちじゃ!」


 吉次の号令で陣全体がどっと前に出た。

 算を乱して潰走状態に陥ったリザードマン戦士の背中に矢が突き立ち、獣人槍兵やエルフ剣兵が追撃を仕掛ける。

 居残った戦士達は、銃兵を割るようにして進んで来た坑道人重装歩兵に敢えなく討たれていくのだった。







「北エンデの戦いで御味方大勝利!」

「おっしゃああああ!」


 カレントゥ城の城主の間で岡吉次からの伝令を聞いた昌長は手を打って叫ぶ。

 待ちに待った知らせがやって来たのだ。

 報せをもたらしたのは、猫獣人の使い番。

 薄く汚れを纏った革鎧に兜、臑当てを身に着け、跪く姿は正に精兵のそれであった。

 かつておどおどしている事しか出来なかった獣人達の姿は最早そこには無く、一端の兵士の生気溢れる姿が目にまぶしい。


「戦況はどないやった?」

「正面から敵戦士長ラークシッタの居留地に迫りましたところ、突如リザードマン戦士500ほどが討って出て参りました。ヨシツグ様は慌てることなく進軍途中で陣を敷き、迎え撃ってこれを散々に破り、敵の戦士長ラークシッタを討ち取って多くのリザードマン戦士を倒しました。その後、リザードマン達はそのほとんどがエンデの地から退去しました」


 傍らに控える義昌の問いに、伝令兵は笑顔を浮かべながら答える。

 それを聞いた昌長はそれまでの喜びの表情を消して問う。


「逃げた蜥蜴人はどこへ行ったんよ?」

「ハッ、方向からすれば恐らく故国であるマーラバントかと思います」

 

 その回答に眉をひそめる昌長達を見て取り、フィリーシアやレアンティア、ユエンらが訝しむ。


「どうしたんだ、マサナガ。難しい顔をしているな?」

「エンデに攻め込んで来たリザードマンを撃退したのですから、問題は無いのでは?」


 ユエンとレアンティアの言葉を聞き、昌長は苦笑を浮かべて答える。


「メンツの問題じょ。恐らくマーラバントの王さんはここへ攻めてくるで」








 マーラバント・リザディス王国


 リザードマン国家、マーラバントの王であるレッサディーンはかつて大戦士長であったカッラーフの配下だという戦士を引見していた。

 全身傷だらけで身に付けた鎧も大きく破損しており、本来であればとても王の前に出るような格好ではない。

 しかも格好だけではない。

 顔には火傷と思しき傷が大きく広がり半面を覆っており、尾も半ばから切断されている。

 手や足の傷は言うまでも無い。

 今も荒く巻かれた麻布の包帯の合間から血が滲み出ている。

 湿地帯では貴重な木材をふんだんに使用した、壮大な宮殿には誠に似付かわしくない風体でかしこまる戦士長フラーブフ。

 そのフラーブフを見て、レッサディーンは金で出来た頭鐶をしゃらりと揺らして問う。


「お前達が敗亡したのは分かった。彼の大戦士長カッラーフも討たれたとあっては、まとまりも維持できまい、帰順と家族共々国内への移住を認める」

「有り難き幸せ……」


 かすれる声で礼を述べるフラーブフに鼻を鳴らすレッサディーン。

 レッサディーンの左右に居並ぶ大戦士長達が、それに合わせたかのように不満の鼻息を漏らす。

 しかし、表立って言葉を発する者はいない。

 彼らは既に王の意思を聞かされているからだ。

 カッラーフは離反と行って良い状態で一族や配下の戦士達を率いてエンデの地に侵攻したが、さりとて全く縁が切れた訳ではない。


 タゥエンドリン侵攻が一定の成功を収めた段階でカッラーフが新たに領域を立て、それをレッサディーンが承認する形でマーラバントの領域を広げる意図もあった。

 マーラバントを始めとするリザードマン国家は、大戦士長が率いる部族を王が束ねる形で成り立っている。

 もちろん王自身も大人数の部族を抱える大戦士長であるが、その大戦士長の中で最も優れた者が王に選出されるのだ。

 レッサディーンはカッラーフと王位を競い、そして勝った。


 敗れたカッラーフは一族の不満を内部で爆発させないため、そして自分自身の可能性を信じてエンデの地に攻め入った。

 結果としてそれは失敗に終わったが、レッサディーンはかつての盟友が大きな可能性を残してくれたことに気付いている。


 そこまで思考を巡らせたところで、レッサディーンは自分を下からじっと見つめてくる視線に気付いた。

 その視線の主は先程礼の言葉を述べた満身創痍のフラーブフ。

 レッサディーンは再び鼻息を1つ吐くと、首を振りながら言う。


「エンデ侵攻の件は既に準備が進んでおる。心配するな、もう既にマーラバント中の大戦士長には触れを出した。程なく1万の戦士が集まる。我らリザードマンの矜持にも関わる故に」

「おお……ではっ!」

「……無論、お主達の参加は認めぬ」


 自分の言葉に喜色を浮かべたフラーブフに、レッサディーンは冷たく言い捨てる。

「そっ、それは何故で御座いましょうかっ、我ら程月霜銃士爵軍の恐ろしさや戦法を知っている者達はおりませぬ!」

 一瞬呆けた後、慌てて言い募るフラーブフにレッサディーンは言う。


「戦法などたかが知れておる。1万もの蜥蜴人戦士が集まれば、たかだか一千や二千の平原人などものの数ではないわ。雷杖何するものぞ。お主らはゆっくり傷を癒やして一族をまとめよ」

「そ、それは……有り難いお言葉ですが、敢えて申し上げます。我々もたかが平原人と侮って戦いに赴き、廃滅の危機に瀕しております。どうぞご再考を!」


 フラーブフが傷口が広がることを厭わずにはなった諌言。

 しかしレッサディーンはちらりとフラーブフを見てから周囲の大戦士長達を見る。

 大戦士長達はいずれもフラーブフを敗北者としてしか見ておらず、その目には蔑みの色がある。

 レッサディーンとしてもかつて王位を競ったカッラーフが討たれている事を鑑み、決して油断するつもりはない。


 それ故の大招集であり、一万もの戦士なのだ。


 後背は山脈が有るとは言え、大河の入り口に押さえの戦士団を残しただけのほぼ全力出撃であり、同じリザードマン国家であるコーランドやシンランドに隙を見せることにはなるが、ここでエンデの地を得ることの利益は計り知れないと判断したからだ。

 フラーブフの忠言を聞き入れない理由はないが、ここで下手に協力をさせては大戦士長達が敗北者の力を借りようとしていると断じて自分を侮る。


 マーラバント始まって依頼の大招集であり、失敗は許されず、大招集の根幹を担う大戦士長達を掌握するにはここでフラーブフを捨てなければならない。

 レッサディーンは円座からゆっくりと立ち上がると、跪くフラーブフに再度声を掛ける。


「ご苦労だった、後は我らに任せてゆっくり休むが良い」


 無念そうに目をつぶって頭を下げると、フラーブフは黙って立ち上がり、足を引きずりながら宮殿を出る。

 大戦士長達の嘲りの目と鼻息がその背後を襲うが、フラーブフは振り返らなかった。

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