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第50話 カレントゥ城下町の発展2

 サイカの町の町並みは、素材である木材をこの地に卸している森林人の影響を多分に受けている。

 それに加えて獣人達が労働力の主体を担っていることもあり、獣人の建築物の影響も多く受けているため、はっきり言えばグランドアース大陸の何処にも無い町並みとなっていた。

 獣人の高床式の建物の要素を残しつつ、柱や壁は森林人が切り出して製材した木材を使用していることからおとなしめの装飾が施されており、また屋根は昌長の指示で板葺き屋根の上に黒っぽい薄焼きの煉瓦を載せているので、まるで日の本の商家のようだ。


 ごちゃまぜではあるが、それが逆に特色となってサイカの町並みがグランドアース世界において異相である事を主張する。

 昌長が瓦もどきを家屋に使用させたのは、主に防火対策の為。

 それ以外にも石材や漆喰、粘土を壁面に使用したりと、昌長は攻撃を受けた際のことを考慮した町造りを行っていた。

 街路自体は戦時を考慮せず、平時に住人や商人が行き来し易いようにカレントゥ城を中心に据えている為に若干歪ではあったが、碁盤の目状の町を構築している。

 商業街区では様々な人種の様々な部族が商店を構え、文字通り百貨を取り揃えていた。


 坑道人の鉄器や銅器、森林人の木工細工や木の実などの森林作物、獣人の河魚に稗や粟などの穀物類、平原人の乾野菜や塩、畜産物、麦類。

 水族のもたらす河床鉱石や河川魚類、海洋魚類の干物に、大河を利用した河川航路で海外地域や島嶼部、それにグランドアース大陸の遠隔地の産物もちらほら入ってきている。

 もちろん青焔山からは種々大量の鉱石と共に硫黄と硝石が移入されており、木炭は高品質な物がタゥエンドリンの有力氏族であるサラリエル族の地から輸入され、また硝石の製造所が碧星乃里からカレントゥ城内へと移された。


 荷運びの馬車や人の引く荷車が騒々しく、かつ頻繁に行き交い、商人達の客を呼び止める声が商業街区に響き渡る。

 移住者の列は大陸側の街道と河川航路を使って今も続々とやって来ており、シントニアの民を大量に受け入れたことと相まってサイカの町の人口は急速に膨れ上がっていた。


 グランドアース大陸各地の言葉や方言が飛び交う碧星乃里の大河に面した港湾区では、深海王が討たれたことが周知され、船や水族の行き来が一気に増えた。

 桟橋には大型の船舶や河川船が続々と停泊し、坑道人の作った起重機や水車利用の動力機を用いて荷物の積み卸しを盛んに行っている。

 その周囲の軍港にはこの地で製造された関船が5隻停泊しており、水族や坑道人、森林人の兵士達によって整備を受けている様子があった。


 またカレントゥ城内では元々あったものに加えて兵糧庫や弾薬庫が地下を掘り下げて設けられており、水槽も併せて設置された。

 こうして万が一の籠城に耐えうる態勢が着々と整えられたのだ。

 同じ城内の別の場所では兵の調練が進められ、火縄銃を使った雑賀衆独自の戦術や射撃術が森林人や坑道人、平原人や獣人の兵士達に叩き込まれてゆく。

 同時に各部族や人種に応じた得意兵科を整備することも、昌長は決して忘れていなかった。


 因みに昌長が編成している兵科は、以下の通りである。

 森林人の弓兵と、狙撃用の長筒兵。

 坑道人の重装歩兵と、抱大筒兵。

 平原人の軽装騎兵と、馬上筒兵。

 犬獣人主体の獣人軽装歩兵と、6匁筒兵。


 それ以外にも、猫獣人主体の忍衆と水族の水軍兵、各種人族の歩兵を養成している。

 平原人はこのグランドアース大陸で人族の人口の約5分の2の多きを占めるが、昌長達とは接点が無いこともあって、サイカの町や月霜伯領で見かけること自体が少ない。

 ごく僅かな商人が出入りしているくらいである。

 因みに青竜王領の住人のほぼ全てが平原人であるが、農民が主体の住人達はサイカの町までやって来ることはほとんど無い。

 その中でスウエンら平原人の寒村から連れてこられた十数名の子供達は、昌長ら雑賀武者達からその才能を見極められ、それぞれの師について鉄砲や武技の稽古をここカレントゥ城で本格的に始めていた。


 尤も鉄砲武者として養成されることが決まったのは、スウエンを含めてわずか3名。

 他の子供達は弾込め役などとして雇われることになった。

 因みに火縄銃の稽古を受け持つのは、狙撃が得意な根来衆出身の津田照算と早撃ちが得意な湊高秀である。


「ええか……スウエンよ。元目当てと先目当てを……上手く合わせるんや」

「ゆ、揺れて合わないよ……ないです」

「……左様か」


 照算から忠告されるが、未だ身体も小さく重い火縄銃を上手く把持できないこともあって、スウエンの持つ空の火縄銃の筒先はゆらゆらと頼りなく揺れている。

 筒先の揺れを止めようと汗を掻きながら悪戦苦闘するスウエンを、しばらく眺めていた照算はゆっくりとその背後へ近寄った。


「あっ?」


 照算がスウエンの前のめりだった姿勢を直すべくその腰を手で前に押し出し、両腕の外からぽんと軽く叩いて開いていた脇を締めさせると、ぴたりとスウエンの持つ火縄銃の狙いが定まった。


「……手だけで持とうとしてはいかん……身体で把持するのや」

「は、はい」

「では……もう一度構え方からやな……」



 湊高秀は目の前の女の子達を見て腕を組んで唸る。


「おなごやないけ」

「わ、私達はスウエンより年上ですっ」

「火薬の調合だったら、私達にも出来ます!」

「ほやけどのう……」


 女の子達は一様に黒い髪を後ろで結び、雑賀武者の持ち込んだ袴や着物を元にして最近作られた綿の前袷の服と袴を身に付け、革の胸甲と手甲、臑当を装備している。

 見方によっては凛々しく、張り詰めた彼女達の雰囲気と相まってなかなか勇壮だが、湊高秀はそれでも彼女達に軍事訓練を施すことを渋る。

 雑賀の鉄砲傭兵として戦場に数え切れない程立ってきた湊高秀は、水軍衆を率いていた事もあって明国や朝鮮での海賊働きもしてきた。

 他の雑賀武者達も同様だが戦場の過酷さと残酷さはよく知っている。

 他ならない自分達がその過酷さであり残酷さを体現してきたからだ。


 戦闘の際、乱取に遭った村落の女子供は掠われ、犯され、奴卑や奴隷として売られる事も少なくないし、そのまま殺されてしまうことも普通にある。

 その恐ろしさや悲惨さは言葉に尽くし難いものであるし、村落の酸鼻極まりない様子は見るに忍びないものだ。

 自分達が何の因果かこの場所へ飛ばされてしまったその直前、紀伊の各村落や集落は豊臣軍によって正にその憂き目に遭っていた。

 口の中に苦い物が広がるのを感じつつ、さりとて明確に拒絶することも出来ずに湊高秀は再び唸る他無い。


 完全に拒絶できないのは、湊高秀の表情を見て発せられた彼女らの言葉にあった。


「私達は……村から売られた身です。もう自分達の行く末を他人に任せるような、そんなことにはなりたくありません!」

「ここで戦う術を身に付けなければ……村にはもう戻りたくありません」

「お願いですミナト様、私達にも戦場に立つ術を教えて下さい」


 再び口々にその言葉を発する平原人の乙女達に、湊高秀は顔をしかめて再び唸る。


「ぬううっ」


 湊高秀は首を左右に振り、ひねり、腕を組んだままもぞもぞと動かしながら悩んだ後、愚痴めいた言葉を小さく小さく呟いた。


「統領は狡いわえ」


 昌長から新しく弾込役の養成を頼まれた時は二つ返事で応じたが、その時の昌長の含みある笑みと言葉の意味を今ようやく理解した高秀。

 昌長からは個人の意気と覚悟を良く汲んでやって欲しいと言われていたのだ。

 その上で戦場で使い物にならないようであれば、湊高秀の裁量で調練はしないでも構わないとも言われている。

 女性の養成とは夢にも思わず、意気揚々と調練場に乗り込んできた数刻前の自分を殴ってやりたい気分だ。


 雑賀衆において確かに火薬調合役は装填役と兼ねて後方の役目だが、戦場に立つことには何ら変わりなく、また射撃役が斃された時はその役目を引き受けなければならないこともある。

 決して安全な後方などではなく、銃弾飛び交い刀槍きらめく最前線で射撃役を補助するのがその役目なのだ。


「お、お願いします!」

「うむう!」


 縋り付くように目を緩ませて迫る彼女達の気迫に圧されて再び唸る湊高秀。

 そして顰め面をそのままに腕組みをとくと、ゆっくり言葉を発した。


「しゃあない……おせかえしちゃる」


 その言葉にわっと喜びの声を上げる少女達にばっと掌をかざし、高秀は宣言するように言った。


「但し!護身の術を鈴木重之から学び、鉄砲放ちの稽古も併せてするんやで!戦場においては自分の身は自分で守らなあかん!」


 元気の良い少女達の返事を聞きながら高秀は顰め面のまま額に手をやる。


「義昌がしょっちゅう顰め面してるわけがよう分かるわえ……」


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