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第33話 カレントゥ城の発展

 王都電撃訪問後、カレントゥ城・城主執務室


 月霜銃士隊の武名と勇名は大陸中に広まった。

 後はその勇名をどう活かすかだ。


「これからはその名前に恥じん中身をしっかり詰めやんとあかん」


 昌長はそう言うと、持っていた大きな領域図を机の上に広げる。


「わいらが押さえたんはカレントゥ城を中心とした碧星乃里周辺のちっさい領地だけや。青焔山周辺は青竜王殿の領地やさけな、幾ら同盟組んだかて別モンや」


 そう言いつつ部屋に集まった面々を見回す昌長。

 部屋には向かって左にフィリーシアとカレントゥ城代のレアンティア、剣兵長のリエンティンと弓兵長ミフィシア。

 向かって右側には雑賀武者の参謀役の佐武伊賀守義昌と碧星乃里郡司の湊惣左右衛門高秀、更には焔硝火薬方の芝辻宗右衛門、鈴木孫三郎重之、津田照算、岡吉次がいる。

 その隣には碧星乃里の獣人、今回正式に里長となったユエン、それに叔父で里長代行のタォルとキミン。

 正面には人身に変身した青竜王アスライルスが竜杖をその豊満な身体にもたれかけさせて悠然と座っている。


「なかなか壮観やな」

「当然であろう?グランドアース中央北部の有力者が勢揃いして居るのであるからな」


 昌長の言葉にアスライルスがゆったりとした口調で応じる。

 その言葉に苦笑する昌長。

 確かに月霜銃士隊はエンデの地と名も無き平原の領有、更にはマーラバントの征服を実力で成し遂げる事を許可された訳だが、まだ今は実質が伴っていない。

 昌長が領地としているのは、自身で述べたとおりまだ僅かな地域だけだ。


「まだまだわいらはこれからよ……今日はそれと違うて、それぞれの領地の区分と支配域の確認の為に集まって貰うたんやで」


 昌長の言葉を聞き、アスライルスはぱさりとその昌長から最近贈られた扇子を口元で優雅に広げて口を開く。


「妾は領地等どうでも良い。何れ我が伴侶と成るマサナガの物と成るのだ。一々境目等決めずとも構わぬぞ?」

「わ、私もそうですっ!エンデの一族は昌長様と共にっ」

「一番先にマサナガに従ったのは碧星乃里だぞっ!」


 すぐさまフィリーシアとユエンが激しく反応するが、アスライルスは余裕の様子で言葉を継ぐ。


「ふふふ、負け犬の遠吠えとは能く言ったものよの」

「なにっ!?」

「今の発言はおかしいでしょう?私はまだ負けていませんっ!」


 たちまち場は険悪な雰囲気に包まれる。

 フィリーシアとユエンから送られる敵愾心満々の視線を涼しい顔で受け流しているアスライルスに、義昌が額に手をやりながら言った。


「……その話はややこしなるからちょっと置いといてくれやんか」

「義昌の言う通りや、その辺にしとかんかい」


 それを見ていた昌長が苦笑を漏らしつつ仲裁すると、取り敢えず矛を収める3人。


「うう、マサナガがそう言うなら……」

「仕方ありません」

「妾は何もして居らぬ」


 場が落ち着いた事を確認し、昌長はフィリーシアの隣で自分と同じように苦笑しているレアンティアへ声を掛ける。


「レアンティアよ、このカレントゥの発展は順調そうやな?」

「はい、おかげさまで月霜銃士隊の勇名が広がると同時に、エンデの民にもこの地の情勢が伝わったようです。各地から続々とエンデに縁のある者達がこの地に集まっています。それに加えて隠れ里となっていた村邑から庇護を願う使者が続々と来ています」


 レアンティアはにっこりと微笑みながら昌長の問いに答えた。

 事実、カレントゥ城は既に城の域を超えて都市へと発展し、更には領域国家の中心へと成長しつつある。

 それもこれも偏に人口が増えたからだ。

 レアンティアが睨んだとおりエンデの民は月霜銃士隊の活躍と共に故郷の状態が好転しつつある事を聞きつけ、しかもタゥエンドリンからは少し距離を置いた、実際には置かされたのだが、昌長が治めるカレントゥの地の話を知り、続々と帰還し始めている。


 遠くはもう1つの森林人国家であるカランドリンや坑道人の都市国家群、平原人国家の南嶺国や宗真国、朱輪国などから遠路はるばる戻ってきているのだ。

 廃城を修復しただけで僅か100名程の兵と官吏が居るだけだったカレントゥ城は、この半年余りで数千名のエンデの民が集まる町となった。

 同時に森林人の樹木農業が復活し、カレントゥ周辺はいくつもの新たな村落が出来はじめている。

 また使者を送ってきた村邑は10を下らない。


「カレントゥの人口は約5000名にまで増えました。使者を送ってきた隠れ里が10、それ以外にも村落が10個、新たに営農放棄地に成立していまして、その全てが昌長様の統治下に入るので庇護を願いたいと申し出てきました」

「……なかなかの成果やな」

「ありがとうございます。因みに全部が昌長様への納税に同意していますよ」


 昌長の言葉に、レアンティアは頭を下げながら説明する。

 昌長の治める月霜銃士爵領とアスライルスの青竜王領は統一税制を採る事になっており、レアンティアが双方を一括して統括している。


「こちらも人が集まり始めている」


 次いで発言したのは碧星乃里の里長代行、ユエンの叔父であるタォルだ。

 タォルはレアンティアに対抗するかのようにちらちらと彼女を見ながら言葉を継ぐ。


「タゥエンドリンの各地から昌長様の威徳を慕って獣人が移住してきている。また、マーラバントの地から逃れてきた者が大勢里に加わった。獣人の郷も10あまり帰服を願い出てきている」


 現在の月霜銃士爵領はカレントゥ周辺の俗称カレントゥ郡のみ。

 月霜銃士爵領はリザードマンの居留地を奪還した地域に獣人達が村をいくつか作り始めており、これと碧星乃里の周辺を含む地域を新たに碧星郡としている。

 また他にカレントゥと碧星乃里の間にある廃棄町スウェントがエンデ族の流入で復活したので、これを連結して合計で2郡が支配下にある。


 因みに昌長はタゥエンドリンの曖昧な行政単位を整理し、集落を下から順番に邑、村、里、町、都市と呼称し、地域については郡、州と呼称する事にしている。


 郡は中心となる里以上の集落1つと、それ以外の小規模な邑や村を10から20含む地域、州は郡をいくつか集めた大きな地域を示す。


 最大の領域区分単位は、日の本のように紀伊国や大和国等の国としたかったのだが、既に平原人が国の呼称をあちこちで用いている為、混同する事を避けて決めたのだ。

 次いでアスライルスが相変わらずゆったりとした様子で口を開く。


「妾の方もマサナガの宣伝工作のお陰で復活が周囲に知れ渡った、それ故村落から傘下に入りたいとの申し出が引きも切らぬ。交易で手に入る珍かな食物も良いが、取れたての野菜や果物は他に代え難い物が有るのでな。大変助かっておる」


 青竜王領にはかつての丙正国に属した自由村落、と言えば聞こえは良いが、ただの没落村邑が相次いで支配下に入っている。

 これも雑賀武者達が黄竜王を討ち取ったことと、青竜王が復活した事を昌長らが宣伝して回った事が大きく影響していた。

 彼らも昌長や青竜王の庇護を受け、黄竜王による竜撃が消滅した事でより生産性が上がる上に、その安全になった旧街道を復活させれば各地との交易で潤う事になるだろう。


「具体的にはどんだけよ?」

「マサナガの行政区分で言うところの1郡だな……尤も、人の住む場所にはかなりばらつきが有るようだが」


 竜杖を手にして答えるアスライルス。

 確かに村邑が集まっている場所と、散在している場所があるものの、青焔山の北と東、つまりはカレントゥ城の北西の地域を青竜王が治める事となったのだ。

 その答えを聞いた昌長が重賢に問う。


「1郡と言う事は集落は10は下らんな。ざっと勘定して5万石から10万石か?」

「こっちは麦が主体やさけもうちっと低いやろうが、まあ、そんなもんか」

「さすが青竜王殿やな、もう既に大名並みか」


 義昌の答えに納得した昌長が感心して言うと、アスライルスは少し眉を寄せて応じる。


「そうは言っても疲弊し切った没落村落ばかりだと言う事を忘れて貰っては困る。今は行区分を含めた再編成と復興に力を注ぐ他有るまい。何れにしても直ぐの徴税は無理だ。広範囲に散らばって居る野盗連中も何とかせねばならぬのだが、政務も執らねばならぬ。妾だけではとても手が足りぬわ」

「盗賊退治か……まあ、それは追々手立て考えるわ」


 昌長が言うと、アスライルスは嬉しそうにほほえむ。

 それを聞いていたレアンティアが不思議そうに首を傾げて問うた。


「青竜王様、政務はお一人で執っておられるのですか?」

「無論じゃ」


 得意げに竜杖を持ったまま胸を張るアスライルスに、レアンティアが申し出る。


「それでは手が足りないのも当然です、さぞ大変でございましょう。私どもの配下から官吏を派遣したしましょうか?」

「手が足りぬのはそう言う意味ではない。官吏の役を果たす者共は既に居る故に、其れは必要無いのだ」


 そう応じつつアスライルスが竜杖を軽く振ると、その周囲から数体の小妖精が現れた。

 呼応するように宗右衛門の肩にも小妖精が現れる。

 現れた小妖精達を手先でもてあそびながらアスライルスは言葉を継ぐ。


「書類の整理、運搬、送付、謁見の案内、諸事雑用等々此の者共が政務については随分と手伝ってくれるのでな、心配は無用だ」

「……青竜王領は完全に復活しましたね」


 フィリーシアの感心したような言葉にアスライルスは顰め面で言う。


「政務や外交等の妾が行う事柄については問題ない、然し先程申した様に国力の回復には相応の時と手間が必要だ」

「分かった、基本的な青竜王領と月霜銃士爵領の商業圏自由化を最低限保証してくれたら、内治は青竜王殿が思うように進めてくれたらええ」

「承知した、妾が今日に至るまで溜め置いた知識の精髄を以て、北の地随一の繁栄をもたらして見せようぞ」


 昌長の言葉に、アスライルスは笑みを深くして答えるのだった。








 会議終了後、雑賀武者達だけがその場に居残り内輪の話し合いを続ける。


「今後はしばらく内治に意を注がなあかんな」

「そうやな、しばらくは国を富み肥やし、来る大戦に備えて兵の補充と訓練をば進めようかえ。後は……交易路と鉄砲の張り立て(製造)、造船か」

「それについてはまずわいから話があります……申し訳ありません統領っ」


 義昌と昌長がそれぞれ発言した所で、芝辻宗右衛門が勢いの無い声で言った。

 その声を聞いた義昌が頷き、昌長は薄々察してはいたものの敢えて宗右衛門に問い質す。


「どないしたんや?」

「玉薬の製造過程で事故を起こしてしもたんですわ」

「被害はどの程度や?」


 昌長の問いに宗右衛門は溜息と共に言葉を吐き出す。


「硝石と硫黄が箱一個分、1貫目ほど消し飛んだ……人死には出てへんけど、大怪我した者が8人程おります」

「獣人は大雑把であかんなあ……細かい作業にはいっこも向いてへんわ。あいつらに慎重という言葉は意味をなさへんのや」


 惨状を既に詳しく聞いていた義昌が言うと、昌長も唸る。


「まあ焔硝が暴発した割に被害は少のうて良かったいしょ……ほやけど焔硝が1貫目いかれてしもたんは痛い」

「すんませんっ、混合だけでもわいでやれば良かったんですが、他の作業の裁量やらもあったんでつい獣人にやらしてしもたんです」


 宗右衛門の説明を聞き、更にうなり声を上げた昌長。

 しかし雑賀武者に死んで責任を取るという思考は無い。

 傭兵稼業で失敗すれば即戦死であるのでその辺はなかなか容赦が無いが、その他の事については失敗したなら次は失敗しないように工夫すれば良いだけの事である。

 失敗の原因を考えず、何の工夫も無いまま同じ失敗をすれば馬鹿にされるだけ。

 次は仕事を任せてもらえなくなるだけの事だ。


「事故で獣人らは焔硝をば扱うのを怖がっちゃありますし、次から玉薬の製造と調合はわいだけでやりますわ」

「……それでは手が足りへんな」


 宗右衛門の説明に照算がぼそりと言う。

 雑賀武者は貴重な火縄銃を自由自在に操る強力無比な戦力であり、軍事調練の教官であり、優秀な指揮官であり、更には焔硝や玉薬の製造技術者である。

 加えて鉄砲制作や造船、農法や漁法の指導者でもある。

 偏に雑賀武者といっても、全員が鉄砲傭兵が本業という訳ではない。

 普段は漁民であり、農民であり、交易商人であり、鍛冶師であり、船乗りである。

 様々な職歴を持つ者がいるのだ。

 それ故にこの世界では引く手数多でなかなか1つの事に専念させるのは難しい。


「ほな……どうする?」


 昌長に対し弱った様子の宗右衛門を擁護するべく、津田照算が言う。

 かく言う彼も漆器の製造やその漆器に使う漆、木蝋、養蜂業などを碧星乃里で手がけており大変に忙しい。

 照算の言葉に再び宗右衛門が重い口を開く。


「鍛冶屋に試しに鉄砲筒巻かしてみたけど、全然あかんし工夫もせえへん。それにそもそも製鉄技術がわいらより数段劣っちゃある」

「船もそうやな、平底船以上はよう作らん。家も自分らの住む奴に近いもんは作れるけども、注文して何か作らそうと言うんはなかなか難しい、獣人は不器用やな」


 続いて船舶方でもある湊高秀が発言する。

 それを聞いて昌長も苦笑を漏らさざるを得ない。


「まあな、あいつら身のこなしはええし、力はえらいあるけど粘り強さと辛抱は無い。性格は明るいし気のええ奴が多いけど、ものすごい雑やしなあ……あんまり考える事もせんよって」

「何れにしてもこのままではまずい、鉄砲の製造も火薬の調合もわいら抜きで出来る体制をば作らんとあかん……他に鍛冶や大工を招聘するしか無いな?」


 義昌の提案に、頷く昌長。


「ふむ、前に言うた坑道人ドワーフを招くんはどうやろうか?今やったら遠征できる余裕はあるやろ……高秀、蜥蜴人はどんな様子や?」

「今は戦力を温存しちゃあるみたいや、攻めてきてへんしその兆候も無い。まあしばらくは大丈夫やで」

「ほうか……」


 碧星乃里の防衛担当でもある湊高秀が答えると、昌長は頷いてからしばらく考える。


「近隣の蜥蜴人をば一ぺん叩いとくか、焔硝も一部吹き飛んだかてまだ余裕あるし、青竜王殿のお陰で目処も立った」

「青竜王殿のうんこには感謝しきりやな」


 その言葉を聞いて混ぜっ返す吉次に、昌長は顔を引きつらせながら言う。


「それあんまり本人の前で言うなえ、また面倒臭なるよって……焔硝のためや、支配下の村々から軒下床下の土を集めるように命令も改めてしとこうら」

「ほな指揮はわいに任せちゃれ」


 昌長の言葉に吉次が意気込んで言った。

 確かに吉次は戦巧者であるし、ずっと傭兵家業で諸国を渡り、遂には彼の織田信長の本陣を襲撃し、成功に導いた経験と実績がある。

 実際幾度かは蜥蜴人の散発的な反撃を湊高秀と共に撃退もしているのだ。

 それに遠征準備も同時に進めなければならないし、昌長はカレントゥ城の改修と碧星乃里に河川港を建て、その間を街道で結ぶことを考えており、その下準備もしたい。

 なので、自分や義昌はしばらくこの周辺を離れられないし、宗右衛門や照算、重之にもそれぞれの仕事がある。

 昌長はそう考えてから吉次の提案に応じる事にした。


「よっしゃ、おまはんに任そう。犬獣人の兵50と猫獣人の密偵10、それに森林人の弓兵20と剣兵20をば指揮せえ……重之と照算は支援しちゃってくれるか?」


 現在の昌長の持つ兵は、雑賀武者7名に犬獣人兵100、猫獣人密偵50、更にはエンデゆかりの森林人弓兵が100に剣兵が100である。

 その他にもスウエンら平原人の子供達が20名程いるが、まだ戦力に成り得ない。

 全てがカレントゥ城にいるが、何れ昌長は雑賀武者にそれぞれ兵を預けて各方面への同時侵攻を画策している。

 宿敵織田信長の真似をするのは業腹だが、これは効率も良くとても理に適った戦略であるのは誰もが認めるところ。

 

「おう、任せえ」

「まあ分かったよ」

「……承知」


 そんな昌長の思惑を余所に、勢い良く応じる吉次と高秀に静かに返答する照算。

 再びエンデの地に戦雲が迫っていた。

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