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第25話 青焔山の戦い

 驚くスウエンを余所に、厳しい眼差しで前方の山麓を見据える昌長。

 目元を険しくしたフィリーシアが近寄り、オリハルコンの鏃を装着した矢を弓に番えながら何時に無く緊迫した雰囲気で言葉を発する。


「……マサナガ様、何かが近付いてきます」

「マサナガ!あんまり良い感じがしないぞ!正面だっ」


 禍々しい気配に気付いた雑賀武者達も無言で火縄銃を構え、次いで両耳をぴくぴくと動かしながらユエンが注意を喚起した。

 その一行の前に、靄の中を突っ切って姿を現したのは巨大な竜。

 黄色の鱗を持つ、人の背丈の10倍以上、全長6丈程の巨大な獅子のような形態の竜が背中の翼を羽ばたかせて現れたのだ。

 重々しい音を立てて昌長らの目指していた平坦地に下り立ったその竜は、ごろごろと天で雷が鳴るようなうなり声を発している。


 昌長達雑賀武者は素早く散開して折り敷いたものの、相手の出方が分からない以上すぐに発砲することも出来ず、息を殺して竜の行動を観察する。

 フィリーシアとユエンは雷に打たれたかのように動きを止め、悠然と立っている昌長の後ろに隠れ、陣羽織の端を掴んで震えていた。

 しばらく周囲を睥睨していたその竜は、やがて昌長に目を留めるとその瞳を細めて岩を擦り合わせるような声を発する。


『何だ、平原人か、変わった格好をしているな……しかし命知らずなことだ。どんな物好きがこの様な場所にやって来たのかと来てみれば、平原人とは実にくだらん。命が惜しければ帰るが良い』

「わいは月霜銃士隊の統領にしてカレントゥ城主の的場源四郎昌長!青竜王殿に願いがあって参上した次第や、何とぞ聞き届けて戴きたい!」


 立ち去ろうと畳んだ翼を広げ、飛び上がる為に身を屈めていた竜が動きを止める。

 そして目を細めると鷹揚に頷くような仕草をして言葉を発した。


『ほう、平原人の城主如きが竜に願いとな?余程の身の程知らずが居るものよ。聞くか聞かぬかはさておき、言ってみるが良い』

「わいは青竜王への取り次ぎを依頼した。お前は誰じゃ!名も名乗らぬ無礼者めが」


 しかし傲岸にも言い放った昌長。

 その瞬間、黄色の鱗を持つ竜の怒気と殺気が膨れ上がった。

 しかし自分の怒りを真正面から受けても平然と立ち続ける昌長に、竜が怒りながらも興味を持ったように話しかける。


『ほう、平原人にしてはなかなかの胆力よ……そうさ、青竜王とな?その青竜王に平原人如きが何用か?』

「お前のような下っ端に話す謂われは無いわい。わいはここの領主の青竜王殿に願いの儀あって参上したんじゃ。使い走りであればさっさと立ち戻って青竜王殿に取り次げい!」

『わしは青竜の下っ端でも使い走りでもないわ!』


 ドスンと地響きを立てて右前足を踏み鳴らし、その竜は怒りの咆哮を上げる。

 地響きが広がり、昌長の足元を揺らすと同時に凄まじいまでの咆吼が地響きとなって山肌を駆け下る。

 もちろん、麓で荷馬車と共に拠点を張っているミフィシアとリエンティンの元にもその咆吼と地響きは届き、獣人達と共にぴたりと動きを止めて青ざめる。


「こ、これが……」

「竜の咆吼……」


 その時、リエンティンがはっと我に返った。


「いかん、このままでは戦いになるっ!フィリーシア様が!」


 そう言うとばっと同僚を振り返り、懇願した。


「私が獣人の半分を連れて見に行く!ミフィシアはここを頼む!」

「わ、分かったわ」


 リエンティンは急いで獣人の内の5名を引き連れ、山を登り始めた。

 今更ながら役割分担を変えれば良かったと後悔するリエンティン。

 最初から交戦はしないと主張する昌長を信用してしまったばかりに、この様な事態を招いてしまった。

 幾ら自分で覚悟を決めて青焔山を登ったと言えども、こうなってはフィリーシアを何とか逃がす方向で考えなければならない。

 今は無事であってくれと願うばかりだ。

 間に合うかどうかは分からないし、たとえ間に合わなくともせめてフィリーシアの状況だけでも確かめねば、自分達の敬愛するレアンティアに申し訳が立たないのだ。


「急いでくれ!」


 頼りになる獣人の荷運び人達を急かし、リエンティンは山をひた走るのだった。






 竜の怒りの咆吼は山裾はおろか昌長達が通過した寒村にまで響き渡り、寒村の村長は慌てて村人達に家へ避難するよう呼びかけ、自分も家に籠もる。


「あ、あの森林人と平原人に獣人の混ざった訳の分からんやつめっ、竜を怒らせおったなあっ!?」


 村長ががたがた震えながら叫ぶ。

 竜に襲われる恐怖は度々味わっている寒村。

 その脅威がある故に寒村となりはてているのだ。

 村人達も村長同様、いやもっと卑屈に自分の粗末な家でひたすら身を寄せ合って震えることしか出来ないまま、ただひたすら竜が落ち着くのを待つ他無いのだった。







 咆吼を収めた竜は昌長を睨み付けるが、昌長は涼しい顔で言葉を継ぐ。


「青竜王は美しき緑青の身体を持つと聞いた。しかるにわぬしは何じゃ偉そうに……ばば色こがね虫のようなきちゃない黄土色ではないか!用向きは告げたで、早う取り次がんかい」

『わ、わしの誇り高き黄金色の身体を侮辱するのみならず、わしの位まで貶めるのか!蛆虫め!』


 目眩を覚える程の怒りに包まれ竜は叫ぶように言うが、やはり昌長は涼しい顔。

 一方涙目のフィリーシアはまるで嫌々をするかのようにその背後で首を左右に振り、ユエンは恐怖で静かに泣きながらぷるぷる震えていた。

 スウエンなどは口もきけずに青白い顔でガタガタぶるぶると震え続けている。

 しかし昌長にはどうしてもこの竜が青竜王とは思えず、また青竜王に代わる者とも思えないのだ。

 故にその正体を探るべく挑発を繰り返しているのだが、なかなか肝心な事をこの竜は言わない。

 そうこうしている内に件の竜は怒りばかりをためてしまっている。


「おかしいのう……ええかげん正体をば露わしゃええんに」


 流石の雑賀武者達も竜の怒りに触れて武者震いが止まらない。

 一応試射の結果岩をも撃ち抜けることが証明されたオリハルコン製の鏃。

 弓矢で射た場合でも竜に効果があると言う事だから、おそらく火縄銃で撃ち出せば相応の威力はあるだろうけれども、何せあの巨体だ。

 竜鱗を撃ち抜けたとしても、果たしてどれほどの打撃を竜自身に与えられるのか分からない。

 雑賀武者達は山麓に伏せて竜を狙いつつも、油断無く周囲の警戒をし、そして昌長の戦闘開始の合図を待つ。


「ウチの頭領は胆据わっちゃあるどころの話やないな。頼もしけど、恐ろしわえ」

「ほやけどあの竜……確かに聞いてた竜の色と……ちゃうな」

「にせもんか?そいで竜てそんなようけ色々居てるんかいな?」

「分かれへんけどよ、頭領の口上聞く限りやったら、にせもんやろう」

「それはそうとこの鏃、効くんやろうか……」

「それ、今更言うなや、効かんかったら終わりやな。他に手立ても無いよって、性根据える他無いわ」

「せやな、その時は目一杯やるしかないわ」


 ぼそぼそと伏せたまま話す雑賀武者達も、大概度胸が据わっている。

 そんな会話が自分の足元で行われているとは知らないまま、竜が再度吠えた。


『無礼者が!わしを侮辱しおった罪をその死をもって償うがよい!』


 先程の雑賀武者達の声が聞こえていたのかどうか、竜の叫びに負けじと昌長が再びドスの利いた言葉を吐いた。

 誘ってしゃべらない相手には直言するに限る。


「良い加減答えい!わぬしは何者じゃ?青竜王殿を出せ!汚らしき擬き者は下がれいっ、擬き者の口上など聞く耳持たん!」

『何を貴様あ!青竜など、わしの膝下に屈して久しい卑しい雌竜に過ぎぬわ!我が名は黄竜王ガラルネイドス!黄渴山を本拠とする大竜王よ!我こそを崇めよ平原人!我に願え平原人!今ならば貴様の死と貴様の生国の廃滅のみで許してやろう!』


 その言葉を言い終えると同時に、黄竜王が翼を広げ、羽ばたいた。

 これで昌長の知りたい事がまず一つ判明した。

 この傲慢な竜は青竜王ではない、と言う事は、交渉相手ではない。

 そしてこの竜の言葉から、青竜王はまだ生きている事が分かった。

 ただ、何らかの理由で青竜王はこの竜の配下となっている。

 ならばその理由は?


 そんな昌長の思惑も知らず、中空に浮かぼうとする黄竜王が三度叫ぶ。


『返答するが良いウジ虫!』

「あほかお前、さっきから言うてるやろ、わいは青竜王殿に会いに来たんや。お前は失せろや、擬き者」


 ひらひらと手を振り、馬鹿にした様子で答える昌長に黄竜王が切れた。


『貴様ああっ、惨たらしく殺してやるわ!』


 中空から溜の姿勢を作り、胸元を黄色く光らせる黄竜王。

 それを見たフィリーシアが叫ぶ。


竜炎ブレスです!伏せてっ」

『小賢しい人族どもめ!これでも喰らって燃え滓となるが良い!』


 その直後、破れ鐘のような大声が響き渡り、黄竜王の口が大きく開いた。

 同時に激しい燃焼音と共に衝撃と熱波が吐き出され、業火が昌長達を襲う。

 昌長やスウエンと一緒に伏せたユエンとフィリーシアが悲鳴を上げ、前線にいた雑賀武者達が顔を引き攣らせて地面に一層深く伏せた。

 その上を黄色い剛炎が通り過ぎてゆく。


「姫さんよ、なんで青竜王の領分にあのババ竜が居てるんや?」

「お、おそらく青竜王が黄竜王に負けて領地である青焔山を奪われたのだと思いますが、詳しいことは分かりかねます……きゃあっ?」


 再度の剛炎にフィリーシアが悲鳴を上げて昌長にしがみつき、ユエンがうなり声を上げて身を寄せる。

 先程黄竜王の発言からすれば、青竜王については黄竜王の膝下に屈したということだ。

 この黄竜王を退けられれば、存命の青竜王と何らかの交渉は持てるはず。

 青竜王が黄竜王に完全に屈しているのであれば、わざわざ黄竜王自身が昌長達を偵察に来る必要は無いのだ。

 それこそ平原人など、配下となった青竜王にあしらわせれば良い。

 黄竜王は青竜王を下しはしたが、完全な形で屈服させることは出来ていないのか、もしくは単に何らかの原因で本調子でない青竜王を一時的に支配しているか。

 どちらにしても青竜王は未だ黄竜王に抵抗している部分があるのだろう。

 昌長の予想通りであった場合、黄竜王を排除さえ出来れば青竜王との話し合いに持ち込めるはずであった。

 この竜を討った後に青竜王を探すなり助けるなりすれば良いだろう。

 後は昌長達の武力でこの竜を討てるか否かである。


「ふうむ、これは予想外の展開やな。まあ、上手くいったら青竜王と取引をば出来るかもしれやんな……よし」


 昌長が地面に伏せたままつぶやくと、再度頭上から声が降ってきた。


『ぐむ、上手く避けおって!今度は避けられまい!』


 忌々しげな口調でそう言った黄竜王は、地面に下り立ち、伏せている昌長目がけて長い首を更に持ち上げ、口を大きく開いた。

 しかしそこは丁度平坦地が山肌に変わる場所。

 先程雑賀武者が伏せた場所であった。


「そうはいくかい!構えい!」


 雑賀武者達が身体の下に抱え込むことで竜炎の熱を防いだ装填済みの火縄銃の銃口が、一斉に声の持ち主に向けられる。

 それを見た巨体の持ち主が嘲った。

 黄竜王は雑賀武者の存在に気付いていたものの、取るに足らない平原人と見下して全く対処するつもりが無かったようだ。


『はん!下賤でひ弱な平原人が!いい加減、馬鹿の1つ覚えは止めたらどうだ?!そんな弱々しい魔力の欠片も感じられぬ魔道杖などわしには効かぬわ!』

「ほう、それはどうやろかいなあ?」

『なに?』


 不敵な笑みを浮かべて発せられた昌長の言葉に、不審を感じた黄竜王が訝るが、ふと下を向き、自分に向けられている魔道杖に穴がある事に気付いた。

 その穴の中には、鈍い青色に光る鏃が……詰められている。

 10里先の人族を見分けられるその目が驚愕に見開いた。


『ま、まさかっ!』

ち込めい!!」


 昌長の号令で4丁の6匁筒が一斉に轟発する。

 轟く銃声に真っ赤な閃光が白煙を貫き、熱せられて青白く光った鏃が凄まじい風切り音を立てて次々と飛来する。


『ぐぎゃああああああ!』


 鋼のような硬度を持つ黄竜王自慢の黄金色の鱗がオリハルコンの鏃に打ち砕かれ、あるいはそれが貫通する。

 黒色火薬の激発に熱せられた円錐形の鏃が、黄竜王の巨体奥深くに突き刺さった。

 ある鏃は黄竜王の巨体の後足を打ち砕き、ある鏃は内臓深くに達して諸々の臓器を傷付け、またある鏃は左目を撃ち抜いてその視力を奪う。


『こ、こんなあ、こんな馬鹿なあああっ、わしが平原人如きにいいぃぃ!!』


 凄まじい痛みと衝撃に、身体を連打され、絶叫する黄竜王。

 あちこちから血しぶきを噴き上げ、のたうち回る。

 怒りにまかせて傷をものともせず向き直った黄竜王の残された右目に、大粒のオリハルコンの鏃が突き刺さる。

 フィリーシアの放った矢が見事に命中したのだ。


『ぐげええええ!わしの目があっ、おのれええええ!』

「はあはあっ」


 黄竜王の怒気に当てられたフィリーシアが慌てて身を隠した瞬間、光を失って暴れる黄竜王の口中に、吸い込まれるように青く光る弾丸が吸い込まれた。

黄竜王の口内で小さな爆発が起きた。


『うげ……おげえええっ?』

「ふっ、姫さん……良い仕事やで……」


 照算が長鉄砲から放ったオリハルコンの弾丸が黄竜王の喉を破壊したのだ。

 だらだらと喉から血を流し、息も絶え絶えに項垂れる黄竜王に、昌長は更なる追討ちを掛ける。


「抱え大筒!」


 その昌長の号令で、抱大筒を持った鈴木重之が駆け込み、素早く折り敷いた。


「弾は……おりはるこん鏃を込めちゃあるな?」

「おう、20個ほども詰め込んじゃあるで!」

「おっしゃ、羽と肩狙うちゃれ……撃てい!」

「おうさ!」


 威勢の良い返事と共にドスンという低く鈍い音と共に轟発した抱大筒。

 白煙が濛々と立ちこめ、発砲炎と共に多数の青い鏃が飛び出した。

 重之が持つ抱大筒には、大量の黒色火薬と共に本人が言ったとおり、オリハルコンの鏃が20個も込められていたのだ。

 雑賀武者達が散らし玉と呼ぶ、抱大筒や大口径の火縄銃で使用される散弾。

 普通であれば釘や播き菱、鉛玉を集めて込める物を指すのだが、今回は竜鱗をも貫くと謳われたオリハルコン製の貫通力強化型、円錐形の鏃。

 それが20個も詰め込まれていたのだから威力は推して計るべし。

 銃口から火薬の爆発力によって放たれたオリハルコン製の鏃は、黄竜王の持つ右の翼と肩を連打する。

 再度の悲鳴じみた咆吼と共に血を撒き散らしつつ右から崩れ落ちる黄竜王の巨体。

 絶叫と苦しみの咆吼が青焔山の山肌に跳ね返り、名も無き平原へと響き渡った。


 戦いの音響は名も無き平原のみならず、カレントゥ城や碧星乃里を含めた周辺の地域へも届く。


 今は失われたはずの町や村に暮らす平原人や獣人達は、その絶叫を聞いて心身を恐怖で奮わせ、身を寄せ合って事が終わるのをただひたすら祈るのだった。





 凄まじい地響きと悲鳴が轟き、山腹に濛々たる土埃が舞い上がる。

 四肢を上にして崩れ落ちた黄竜王の巨体。

 その信じられない光景に、少し前に戦場へと到着し、成り行きを見守っていたリエンティンに率いられた獣人達が喚声を上げる。


「油断すんな!次弾装填じゃ!」


 一緒になって喚声を上げる雑賀武者に鋭く注意と指示を出し、昌長はそれこそ油断無く敵が弱るのを待つ。

 雑賀武者達は昌長の指示に従い、再び弾薬を銃口に注ぎ、次いで青い小さな円錐形をした鏃を落とし込んだ。

 これぞ100年前、青竜王アスライルスに向けられるはずだったオリハルコンの鏃。

 昌長と獣人達が協力して掘り出した成果だった。

 巨体が隠れるほどの激しい土煙が周囲に広がり始める。

 その中から突き上げられている四肢が弱々しく痙攣し、背中の大きな羽が断末魔の声のようにバサバサと意味の無い動きを繰り返して土埃を再度巻き上げる。

 くぐもった声で痛みを訴え、呪いの言葉を吐き散らし、血を撒き散らしながら繰り返し悲鳴を上げている巨大の持ち主の頭上に、火薬と弾の再装填を素早く済ませた雑賀武者が迫った。


『ぐお……ぎ、貴様ら、あえ、お、ご、如きに……おげっ』

「仕舞いやな、覚悟せえ、容赦はせんよって」

『や、やめろ……っ』

「撃て」


 最後の抵抗を試みようと頭を上げかけた巨体の持ち主の頭蓋に向け、雑賀武者達が次々と発砲する。

 至近距離からオリハルコンの鏃を火縄銃で頭に打ち込まれ、のたうち回る巨体の持ち主。

 悲鳴と絶叫が鏃を撃ち込まれる度に響き、その恐ろしいまでの咆吼を聞き、周囲に居る平原人や獣人が恐ろしさで震え、遙か彼方の町や村に住み暮らす人々は更に身を寄せ合って縮こまる。


 やがて巨体から発せられる咆吼は射撃の数が重なるにつれて弱く、小さくなり、最後は僅かな痙攣と息の漏れる音のみが弱々しくその口から漏れるばかりとなった。


「これで終わりや!」


 最後に昌長が至近距離からその天頂部分へ容赦無く轟発すると、巨体は一瞬ビクリと強く震わせてから、どっと大量の血を口から吐き、とうとう息絶えた。

 火縄銃を引き、油断無く後ずさりする昌長と雑賀武者達。

 しかしその巨体は再び起きあがることも、息をする事も無かった。


「……黄竜王ガラルネイドス、的場源四郎昌長率いる、月霜銃士隊が討ち取ったり!」


 昌長の勝ち鬨に、銃口から白煙を未だ薄く引いた火縄銃を掲げ、鬨の声と共に雑賀武者達が勢い良く応じるのだった。


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