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第18話 碧星乃里

「はっ?」

「へえっ?」


 思わず気を抜いて声が出るタォルと犬獣人の里長補佐キミン。

 しばらく何とも言えない沈黙が下りる。

 その沈黙を破ったのはキミン。

 昌長の発言に何の反応も示さず、微笑を浮かべたままのフィリーシアを大いに気にしながらキミンが勇気を出して昌長に尋ねる


「あの……その、もう一度宜しいでしょうかな?」

「おう、何遍でも言うで、この地はこれからこの的場源四郎昌長の領地や。まあ獣人けものびとが自治すんのは認めちゃるけどな」


 その言葉に肝を潰す獣人達。

 しかしそれであれば悪い話ではない。

 徴税の範囲は広がるが、自己申告で構わないという。

 ただ、重大な懸念があった。


「た、タゥエンドリンはこれを認めるのでございますかっ?」

「さあ……」

「さ、さあって、フィリーシア様っ」


 その懸念を払拭すべくキミンが息せき切って尋ねるも、この地に縁深いタゥエンドリンのフィリーシアは人差し指を顎の下にあてて首を傾げる。

 余りの無責任発言に、狼狽えるキミンとタォル。

 混乱している獣人達を面白そうに眺めてから、フィリーシアは徐に言葉を継ぐ。


「そう言われましても……私が管轄しているのはエンデの地の守備のみです。領土を広げろとの指示も頂いておりませんし、封土についての権限もありませんので、この地については何ともお答えしかねます。私がここに居るのはただの付き添いですから」

「つ、付き添いで戦に参加されたのですかっ?」

「そうですよ、その証拠に私はお付きの者以外に兵を率いていません。これは純粋にマサナガ様の私闘です」


 驚き、慌てふためく獣人達にそうさわやかに応じると、フィリーシアは笑顔で掌を上にして横の昌長を示す。

 それを受けて再び昌長がずいっと身を乗り出して言った。


「ちゅうわけや。わいがこの地を支配するでえ~」

「は、ははあ~」


 思わず頭を下げるキミンとタォル。

 それを見ていたユエンが笑って言う。


「あはははは、キミン爺もタォル叔父もマサナガの前じゃ形無しだなっ。マサナガはこれでここの王様だ!」

「ユエン様、そんなお気楽な……」

「キミン、諦めてくれ……あの娘はもうあっち側だ」


 絶句するキミンの肩をそっと持ち、首を振りながらタォルは慰めるように言う。

 実質的に里長を継承しているユエンが認めた上で里の獣人達が認めるのなら、昌長はこの里の支配者となる。

 タゥエンドリンの支配を脱するというのであれば、王を名乗る事も可能だろう。


「それに悪い話ではない。これからは月霜銃士隊がこの里を守ってくれる」

「……ううむ、確かに。今までのように理由無く蔑まれる事も無くなるであろう」


 武力は力であり、威を伴う。


 リザードマンの大戦士長を打ち破った傭兵隊の本拠地、しかもその地の住人となれば、獣人といえども他種族もそう無碍には出来まい。

 それに自治を認められただけでなく税は相当安くなるのだ、良い事の方が多いのは明白だった。

 加えて獣人達が自分達を蜥蜴人から解放してくれた月霜銃士隊に入れ込んでいるのは、キミンやタォルが見ても明らかで意見を聞くまでも無いだろう。

 キミンとタォルは目配せし合った後で再び昌長に頭を下げた。

 それを見て昌長は口を開く。


「まあ王はまだ名乗らんが、よう民と話してくれ、頼んだで」

「……分かりました、ドグネッサの民には私、キミンから話しましょう」

「カタリニアの民には私とユエンで話をさせてもらう」


 こうして碧星乃里は、的場昌長の所領となったのだった。






 よく晴れた日の碧星乃里の広場。

 先日の戦いの跡もきれいに消え、平和な日常が戻ってきた。

 獣人から選ばれ、月霜銃士隊に参加した犬人族の若者達が、新たに作られた物見櫓や見張り台に登り、周囲の警戒を行っている。

 そうして蜥蜴人からの襲撃に対する備えこそ怠っていないものの、村には日常が戻ってきており、子供達も里のそこかしこを走り回っていた。


 そんな里の一角、里の中心部に位置する広場では、今までに無い光景があった。

 列を成す獣人達である。


 それというのも大量の獣人達が、月霜銃士隊の命令によって集められているからだ。

 しかもそれぞれが手にしているのは、様々容器に入れられている、少しぱさついた土。

 そんな黒っぽい土の入った桶や笊、木箱などを抱えた獣人達が列を成している先には芝辻宗右衛門と津田照算が大きな木桶を前に、彼らを待ち構えていた。


 とは言っても鎧兜を脱ぎ、大小の刀を腰に差しただけの2人が行っているのは、指定した場所の真新しい大桶の中に獣人達が持参した土を入れさせているだけで、特に何かを徴収しているという訳ではない。

 彼ら3人がしているのは集まってきた獣人がきちんと列を作るように指示しているのと、木桶に土を投入するよう命じているのみだ。

 獣人達も訳が分からない様子ではあるものの特に何かを強要されているという訳ではないようで、その指示に素直に従って作業している。


 税として生産物の3割を徴収する以外に、昌長が領主としてまず獣人達に命じたのは、自宅の床下の土の収集と提出であったのだ。

 前に居た犬獣人のおばさんが土を空けていなくなったので、その後ろに並んでいた若い猫獣人の男が、ためらいがちに宗右衛門の前へ進み出る。


「お、なかなかエエ土です!」

「あ、ありがとうございます?」


 突然宗右衛門から肩を叩かれ、床下の土を褒められた猫獣人の若い男は、本当に意味が分からない様子で目を白黒させて応じる。

 永遠に続くかと思われた暴虐非道な蜥蜴人の支配がたった1日の戦闘で終わり、新たにこの地の領主となった異相の平原人、的場昌長とその配下である月霜銃士隊。

 税を徴収するという通告があったもののその割合は良識の範囲であり、獣人達は密かに喜んだ。

 しかしその直後、自宅の床下にある土をかき集めて広場へ持参するようにと言う何とも奇妙な触れが出た事に、里の獣人達は皆一様に首を傾げる。


 碧星乃里は池や小川の畔にあり、大河とも近いので浸水被害を避ける為からその家々の床は高く作られており、腰の高さまで床を上げるのが普通だ。

 なので、土の収集自体は容易に出来るのだが、その理由が分からなかったのである。

 それ以外にも、川に流していた便所の中身を保管する事を申しつけられたりしたので里の獣人達は傾げた首を今度は反対側へ傾げる事となった。

 里長補佐のキミンや新たに里長補佐に命じられたタォルの話では、リザードマンを打ち破った雷杖の魔術触媒に使用する物資を製造する為と聞いたが、それでも首を傾げざるを得ない。


 魔術や神術の触媒と言えば霊水や霊石、霊木と言った物が普通で、便所や床下の土を使って、しかも触媒を製造するなどと言う話は聞いた事が無かったからだ。

 ただ言われた作業は簡単であるし、あの凄まじい威力の雷杖を使う為に必要とあれば協力しない訳には行かない。

 触れを見聞きした里の獣人達の全員がそう思い、そして触れを出した翌日、広場には床下の土を様々な容器で集めて持ち寄った里の獣人達による長蛇の列が出来上がったのであった。


 ざらざらと笊の土を空ける猫獣人の若者に、宗右衛門がその作業を見ながら問う。


「御仁の家は建ててからどんだけ経ちますか?」

「父の父の父の時代からで、よ、40年位です」


 宗右衛門の問いに若い猫獣人の青年は戸惑いながらも、丸い笊に入れられた自宅の床下から採取した土をこぼれないよう大きな木桶の中に流し込みながら答える。

 それを聞いた宗右衛門の笑みが深まった。


「いい、実にいい!……今まで水害に遭うたことはありますか?」

「いえ、ここ50年ほどは無いはずです。昔はしょっちゅう池が溢れたそうですけど、大河へ運河を掘ってからは無くなったそうで……」

「ほう!それは益々ええですね!!」


 笊の中の土を移し終えた若者の肩を再度どやしつけ、宗右衛門が礼を述べる。

 若者は訳が分からないままでも感謝された事については純粋に嬉しいのだろう。

 引きつった笑顔を浮かべつつ、頭を下げて家へと戻っていった。


「ほいたら次……その土ここへ入れてください」

「は、はい」


 芝辻宗右衛門の指示で、次に並んでいた獣人達が自分の家の床下から集めた土を盛り上げる。


「なかなかようけ持って来ちゃあらして!」

「は、はいっ?」


 そんなおかしな光景がしばらく続き、やがて獣人達の列は途絶えた。







 宗右衛門らの前には、大きな桶の6割程までに土が入れられている。


「ほなやりましょう、津田様」

「おう、早めにせなな……池の水でええか?」

「きれいやし、ええと思います」


 宗右衛門の声に照算がすかさず応じ、小さめの木桶を使って土の入った大桶に水を汲んでは入れてゆく。


「あ、皆さん、ちょっと手伝うて欲しんよ」


 近くには月霜銃士隊の詰め所となった建物があり、吉次や重之達が筵を広げて火縄銃の手入れをしている。

 銃身の根元のねじを外し、こびりついた火薬滓を槊状と濡らした布を使ってこそぎ落としている者。

 槊状や引き金、火蓋や火挟みなどの各部品を点検している重之。

 焚火の上に鉛柄杓を翳して鉛を溶かし、弾鋳型に流し込んで弾丸を製造している高秀。

 出来上がった弾を冷ましてから、ヤスリで仕上げ作業をしている吉次。

 重之は先の作業を終えて照星と照門の具合を再確認している。

 かく言う照算と宗右衛門も先程まで火縄銃の手入れをしており、早めに終わったので昌長から頼まれていた土集めをしていたのだ。


「おう、ええで」


 声を掛けた宗右衛門に応じ、作業を終えていた重之が木桶を手に水くみ作業へ加わる。

 その周囲にはいつしか獣人の子供達が集まっており、雑賀武者達の火縄銃の整備作業や水くみを興味深そうに見守っている。


「吾がらどこから来たんよ?」

「おう、そこいらは危ないよって、もっと離れとけよ」

「お前こまいのう、よう飯食いよし」


 整備を続けている吉次達が子供達の頭を撫でて注意したり、話しかけてタゥエンドリンから支給されている焼麦煎餅を宛がったりしている。

 獣人の子供達は変わった服を着て変わった髪型をしている、これまた変わった言葉遣いと顔をした平原人の集団に興味津々で、貰った物を頬張って嬉しそうに笑ったり、頭や耳元を撫でられて目を細めたりしている。


「何や犬猫と童が合わさったみたいで、えらいかわええな……」

「くせになってまうな、これ」


 一方の雑賀武者達も、久々に戦から離れた平和な一時を、子供達とのふれあいという意外な形で実感する。

 また獣人の子供達はとても人なつこく、可愛らしい仕草ですり寄ってくるので、戦場働き抜群のむさ苦しさが売りのような雑賀武者達も思わず顔を緩める。

 月霜銃士隊の詰め所の入り口で、そんな里の新たな平和の様子を微笑ましげな笑みを浮かべて見ているキミン。


 その横には、口角を上げた的場昌長が立っている。


 しばらく雑賀武者と子供達のふれあいを見ていたキミンだったが、その傍らでせっせと桶に池の水を汲み、大きな木桶に入れている宗右衛門や照算、重之を示して昌長に問う。


「マサナガ様、あれは一体何をしているのでございましょうか?」

「おう、何、あれで焔硝をば製造するんよ」

「エンショウとおっしゃいますと……あの、雷杖の触媒の一つであるとか言う薬品でございますな?」


 昌長の答えにキミンが得心がいったというように頷きつつ言う。

 床下の土を収集するようにという触れを、碧星乃里の獣人達に直接伝えたのはキミンとタォルである。

 故にその作業の意味は昌長から伝えられていたのだが、具体的にどういう手順で焔硝を取り出すのかは聞いていなかったのだ。

 それを察したのか、昌長は言葉を継いだ。


「集めて貰うた土をば水に漬けての、よう混ぜた後に寝かして泥を沈めるのや。それから水だけを取り出して鍋で煮るのよ。今度は別で用意した灰汁を入れた容器にその水を入れてのう、最後に目の細かい布で漉してから煮詰めるのや。ほしたら焔硝が出来る」


 昌長の説明したのは、いわゆる古土法と呼ばれる焔硝製造方法で、昌長の時代広く日本で行われていたものである。

 尤も、製造される焔硝は質が悪く、製造量も限られている上に継続して焔硝を製造出来ないという弱点が多くあり、昌長達雑賀衆と呼ばれる紀伊の惣国一揆では船舶交易で海外から質の良い硝石を輸入していた。

 しかし、この世界に転移してから硝石と呼べるような物を見る事は無く、昌長達は当座の硝石を確保する為に古土法によって繋ぎの焔硝を手に入れる事にしたのだ。


 幸いにも領地と呼べる集落も手に入り、その素材となる原料を手に入れる事も出来た。

 硝石丘でもって焔硝を製造する方法は年単位の時間がかかるので、それはカレントゥ城でフィリーシアの母親である元王妃とも呼ぶべきレアンティアが集めて準備している。

 昌長に告げられたとても真っ当には取り扱う事の出来ない物品の数々。

 それを眉目秀麗な元王妃が至極真面目に収集しているのだと思うと、頼んだ本人である昌長でさえどこか滑稽さを感じずには居られない。


 尤も、頼まれた方のレアンディアとフィリーシアも、真面目にその物品、糞尿や雑草、鳥獣の死骸や生ゴミと言った物を真面目に集めてくれと言う、昌長達の真剣な様子に笑っていたのであるが……

 昌長が硝石の確保についてあれこれ頭を悩ませ、それに付随して発生した事柄を思い出していると、いつの間にか宗右衛門が、満面の笑顔のユエンを伴ってやって来た。

 昌長が自分達に気付いた事を知ると、ユエンは顔を更に輝かせて手を大きく振った。

 昌長もちょいちょいと手を振って答えてやると、更に嬉しそうに大きく手を振るユエン。


「マサナガ様、ユエンは良い娘です」

「おう、さっぱりした気性のエエ奴や」


 キミンが遠慮がちに言うと、昌長はあっさり応じる。

 絶句しているキミンを余所に、ユエンと宗右衛門は詰め所へとやって来た。


「やあ、マサナガ!」

「おう、元気か?」

「ああ!とても元気だぞっ」


 嬉しそうに、本当に嬉しそうに挨拶をするユエンに、キミンは哀れみの表情を浮かべる。


「どうしたんだ、キミン爺?」

「いえ、何でもありませんわい」


 それに気付いたユエンが訝って問うものの、キミンは目をそらして言葉を濁す。

 そして一方の宗右衛門が昌長に言う。


「頭領、取り敢えず焔硝は一旦何とかなりそうです」

「そうか、どのくらい取れそうなんや?」

「……ええとこ2貫から3貫、まあわいら7人分やったら当面は十分です」


 宗右衛門の報告に昌長は満足そうに頷く。

 ざっと考えて1000発分以上の硝石が確保出来る計算になる。

 ただし、この獣人の里の床下の土が日の本のそれと同じであればと言う前提であるが、昌長の経験上、里の床下の土にはたっぷり硝石があると見えた。

 そう悪くない成果が出ると思われたので、昌長は笑顔でその労をねぎらいつつ、今後の展望について話す。


「ご苦労さんやったな、取り敢えずそんだけあったらええ、十分や。これから硝石丘も作るし、坑道人とも交易したら焔硝はもっとようけ手に入るやろ」


 宗右衛門はそれでも渋い顔を解かずに言葉を継ぐ。


「まあ、取り敢えず一番厄介やと思うてた物は片付いたんですが、まだ難題が残っちゃあると思います」

「そうやな、後は硫黄やな……」

「銅や鉄も要りますよって」


 昌長は宗右衛門の言葉に同意するように頷く。

 そこには先程までの笑みは無かった。


 差し当たっては焔硝と木炭の入手について算段が付いた。

 しかし、日の本では容易に採掘出来た硫黄が無い。

 昌長達が持っていた硫黄の粉末をユエン達にも見せてみたが、見覚えが無いという。


「困ったわえ」

「……もう少し周辺を探してみますか?」


 昌長があっけらかんと言うと、宗右衛門が渋い顔で言う。

 昌長と宗右衛門の2人が頭を抱えるのを、ユエンとキミンの2人が不思議そうに眺めている。

 2人も月霜銃士隊の雑賀武者達にとって、欠くべからざる触媒の1つが入手困難と聞いて思う所もあるが、そもそも火縄銃を平原人の使う魔道杖と勘違いしている。

 なので、その強力な雷杖を使用するにあたっての触媒が足りないのだと思っているのだが、魔道杖は全ての触媒が揃わなくとも効果を発揮出来る。

 もちろん威力や効果は著しく劣ってしまう事になるが、ただでさえ強力な雷杖である。

 3つの内の1つ位無くとも十分ではないかと思っているのだ。

 しかし昌長ら雑賀武者達にとって木炭、焔硝、硫黄、この3つの火薬原料はどれも欠く事の出来ない物だ。

 1つでも入手出来なければ、黒色火薬は製造出来ないのであるから、当然と言えば当然だろう。

 あれこれ悩んでいる昌長と宗右衛門、それを不思議そうに見ているユエンとキミンという、奇妙な構図が出来上がった所へフィリーシアがお付きの兵を連れてやって来た。


「マサナガ様、母より書状が届いております」


 フィリーシアは昌長から依頼されていたカレントゥ城への指示に対する返信を持ってきたようである。

 そのほっそりとした手には、丁寧に折りたたまれた白い紙がある。

 フィリーシアから声を掛けられた昌長は、一旦思考を中断して顔を上げて答えた。


「おう、フィリーシアか、無事こちらの手紙は届いたみたいやな?」

「はい、滞りなく……王都へはもうしばらく時間がかかりますでしょうが、おそらくリザードマンの居留地には届いている頃でしょう」


 フィリーシアが昌長の言葉に淡々と応じる。

 それを聞いた昌長がユエンに顔を向けていった。


「そうかえ……ユエン、蜥蜴人に動きはあらへんか?」

「うん、今のところ監視に就いている者からは何も言ってきていないぞ」


 昌長の問いに、猫獣人を主体とした偵察隊を率いるユエンがはっきり答えた。

 昌長の予想どおり、蜥蜴人達は昌長からの手紙を受け取った、そして動かない。

 いや、おそらくは撒かれた新たな火種を気にして動けないのだ。

 おそらく手紙を受け取った戦士長と、手紙を送られてさえいない戦士長の間でいがみ合いが始まっている頃合いだろう。


「硫黄探しに行くには時間はありますね、ええ時期やと思いますが……」


 宗右衛門が言いかけるが、途中で言葉を切ってしまった理由は昌長もよく分かる。

 有望な火山が近くにあるからだ。


「何処を探すか、やろうな……フィリーシア、あの火山には温泉無いか?」

「温泉ですか……あるにはありますが」


 望んだ答えが返ってくるとは思っていなかった昌長は思わず身を乗り出し、宗右衛門も目を丸くしている。


「何処にあるんや?何か黄色い物が石とかに付いてヘンか?」

「それは分かりませんが……ここからも見えますが、北に行った名も無き平原の南の果てにあの火山があります。温泉もありますよ」

「ほうか!直ぐ行くで宗右衛門!」


 それを聞いた昌長の目つきが変わる。

 そして直ぐに傍らの宗右衛門に声を掛けるが、目の前に居るフィリーシアが硬い顔で首を左右に振って言った。


「お待ち下さい、何をしに行かれるのかは大体分かりますが、とても危険ですし、第一山に入るのは無理です」

「そうだぞ、マサナガ。このエルフの言うとおりだ。幾らマサナガが強くても死んでしまうぞ!」

「確かに、自殺行為ですわい」

「何?」

「一体何があるんですか?」


 ユエンとキミンもフィリーシアに同調するように言うのに、訝る昌長と宗右衛門。

 その2人に、フィリーシアはゆっくりと噛んで含めるように言った。


「竜が住んでいるのです」

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