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第104話 王都攻撃

大変お待たせ致しました。

 タゥエンドリン王都郊外、月霜銃士爵軍の陣


 土塁と小川によって、王都に面する南側を要塞化された昌長の陣営は、喧噪に包まれていた。

 小川には小舟が連なり、土塁の北側には夥しい数の馬車が集まっているからだ。

 それもこれも、昌長が本拠としている月霜銃士爵領から運ばれてきた、兵糧や弾薬、刀槍や弓矢などの武具といった軍需物資を満載している。

 もちろん、酒や甘味、たばこなどの嗜好品もたっぷりと持ち込まれている。

 昌長がアンデッドとの戦いで消耗したことから要請していた補給物資が、ようやく最前線に届いたのだ。


 兵士や軍属だけでなく、商人や近隣の農民達も集まり、都市とも見紛わんばかりの賑わいを見せている昌長の陣地。

 もちろん、碧星忍群や衛兵をおいての検問などで防諜には注意を払っているが、それでもそんな不便さを感じさせないほど、昌長の陣地は人を集めていた。

 ここ最近、タゥエンドリン・エルフィンク王国では北はマーラバントの侵入から始まって、西は平原人国家群の侵攻、更にはゴルデリアが中央湖沿岸を荒らし、南からはカランドリンが攻め上ってくるなど戦が絶えず、民人達は息を潜めていたのである。


 しかし昌長がそれを一変させた。


 昌長はマーラバントを攻め滅ぼし、アスライルスと盟約を結んで北の安全を確保すると、大河水族を配下に入れて東を安定させ、更には西に侵入した平原人を撃破して追い払い、エルフ諸氏族のみならず小人族や坑道人を味方に引き入れてタゥエンドリンの北半分を平定した。

 加えてその合間には闇の勢力、オーク王の軍勢を打ち破って、大陸全体の安全保障にも大いに寄与しているのだ。

 タゥエンドリンの北半分から戦が消え、治安が回復すると同時に商業活動や農林水産業が活発化し、経済が回り始めたのである。


 昌長の遠征には兵士だけでなく莫大な量の武器弾薬や兵糧が動く。

 それを当て込んで商人達がまた金銭を消費して儲けを出し、経済を回していくのだ。

 名も無き平原や旧マーラバントの地の開拓は順調に進み、農作物という新たな富を生み出し、人が増えることで需要が増して物が売れる。

 大河や北の湿地帯を通して船舶が中央湖を通って南の海に進出し、交易路を広げる。

 水路を大河水族や湊高秀がゴルデリアやコーランドなどとせめぎ合いながらも守り抜き、交易船は遥か遠方の珍品を持ち帰り財を為す。


 そして今、昌長はアンデッドを迎え撃った陣地を拠点にタゥエンドリン全土を手中に収めるべく、王都を睥睨しているのだ。

 昌長を支持する者達は、否が応にも現状に注目せざるを得ない。

 間諜や使者はもとより、商人や農民達までもが昌長の動向を探ろうとし、そのついでに小銭稼ぎを狙って陣地への出入りを願い出ているのだ。

 呆れるべき事に、一部王都の商人までもが昌長の陣営に顔を出しており、昌長の支持層の厚さと広さを知らしめる結果となっている。


 その陣営の北西の端。


 土塁が北側に折れ、小川がそのまま東に流れて別れる場所に、将卒と思われる2人の威丈夫がいた。


「慌ただしい……のう」

「しゃあないやんけ。これで根こそぎの招集や」


 カレントゥで留守居役を果たしていた津田照算と、カランドリン襲撃を指揮していた湊高秀。

 今まで後方支援役だった2人が、主戦場であるタゥエンドリン郊外の昌長の陣にそれぞれの兵を率いて集結しているのだ。

 しかし彼らは単なる増援としてやって来た訳ではなく、昌長の要請で水路と陸路を使ってそれぞれ弾薬や兵糧などの軍需物資を運んできたのであった。

 大量に持ち込まれた弾薬や予備の武具、それに兵糧や馬糧を護衛し、円滑に運ぶべく彼らが招集され、またアンデッド達を撃滅したこの地で昌長らの本隊に物資を順次補給しているのである。

 その為に昌長の陣にはちょっとした都市程度の町が出来上がってしまっており、元々設けられていた土塁や小川を利用した水堀など陣地の形と相まって、今や王都郊外の昌長の陣は月霜銃士爵勢力の最前線でありながら、重要拠点となっているのである。


 2人が顔を合わせている場に、昌長が笑みを浮かべながら手を上げつつやって来た。


「おう、抑えに居残って貰うたのに、呼び立てて済まなんだの」

「何程のことも……ない。いっこも、気遣い無い」

「まあ、そういうこっちゃ。気にしよすな」


 照算と高秀も昌長に笑顔を返して応じる。

 いずれも勝ち戦故に余裕がある。


「高秀はカランドリンをよう荒らしてくれちゃあらいしょ。お陰であのオトロシ女王やらは尻べた燻べられて逃げ帰っちゃあらよ」

「まあ、あいたらの本国守護勢は全く油断しちゃあったみたいやさけな」


 高秀の肩を叩きながら褒める昌長に、高秀はにんまりと笑みを深くして応じた。

 中央湖に面したカランドリン側の主な港を軒並み焼き払い、更には小規模な漁港なども襲撃して船という船を焼き払った高秀に、カランドリンの留守を任されていた重臣達は対処しきれず右往左往するばかりで、結局はタウエンドリン遠征に出かけていた主君のメウネウェーナに泣き付く他なかったのである。


 メウネウェーナも本国を荒らされ、しかも重臣達からの救援要請に黙っていることも放置することも出来ず、昌長の本軍が急進してきたことと相まって引き上げを余儀なくされたのだ。

 そのお陰で昌長は労無くしてタゥエンドリン王都を手中に収める寸前にまで漕ぎ着けることが出来ている。


「照算もご苦労やったな」


 次いで津田照算の背中を撫でる昌長。

 照算は黙って頷くのみだが、留守居役として武名高く、しかも雑賀の7人衆の中で尤も重々しい雰囲気を持つ彼が居残ることで、各地の不満分子は蠢動を見事に止めている。


 昌長らが南方遠征に出た後、コーランドを主体とするリザードマン勢力が月霜銃士爵の隙を突くべく兵を集め始めたが、岡吉次の先制攻撃と津田照算の適宜適切な援軍の派遣によってその出足を挫かれていた。

 そして今、彼らの援軍と補給を得て昌長は漸進を始めようとしているのだ。


「しかし……カフィル王子か、厄介やな」

「はん、まあしょうもないことするわ」


 高秀の言葉に、昌長は不満を隠そうともせずに言う。

何を隠そう、カフィル王子がカランドリンの撤退に乗じて王都に入り、行政と王都の守備を掌握したという報せが先程入ったのだ。

 碧星忍群のユエンからもたらされた情報だったが、最初月霜銃士爵軍の首脳部はその情報を半信半疑で聞いていた。


 しかし次いで王都からカフィル王子の使者が陣営を訪ねてきたことで、その情報が紛れもない真実であることが明らかとなったのである。

 カフィル王子の使者は、昌長らに対する侮蔑や軽侮を隠すことなく前面に押し出し、傲慢な提案を恩着せがましく読み上げた。


「しかし……現状追認以外に何もこちらに寄越さないちゅうのは……あまつさえ、エルフ衆の支配権は手放せとは……いかにも虫が良すぎる」


照算が珍しく怒りを含んだ声色で訥々と言うと、高秀もその事を思い出し憤懣やるかたない表情で頷いて言う。


「誰のお陰で王都に入れた思てんのや、わいらがカランドリンの本国を叩いて、昌長の統領が北から南へ攻め下ったからやろがい。いっこも連携も、繋ぎの使者も送ってけえへんで、今になって空き巣カマしてエエ気なもんやの」


 カフィル王子側が昌長に提示してきた条件はいくつかあるが、その中の主なものについては以下のとおり。

1、月霜銃士爵は、現在地で軍を停止させ、カフィル王子と講和すること。

2、月霜銃士爵は、サラリエル、エンデ、リンヴェルティの各氏族の支配領域を元の氏族長に返還すること。

3、月霜銃士爵には、ハーオンシア4郡・カレントゥ2郡・マーラバント新領・名も無き平原新領を安堵する。

4、月霜銃士爵を昇爵させて月霜大公とし、大公国を立国する。

5、月霜大公国は、タゥエンドリン・エルフィンク王国に従属する。

6、月霜大公国は、北への領地拡大は自由にして良いが、南への領地拡大はタゥエンドリン・エルフィンク王国との協議により決定する。

7、月霜大公国は、タゥエンドリン・エルフィンク王国への防衛義務を負う。

8、タゥエンドリン・エルフィンク王国は、月霜大公国の内政に干渉しない。

9、フィリーシア王女はタゥエンドリン・エルフィンク王国の王位継承権を放棄して月霜大公と婚姻し、その子が月霜大公国を継承する。

10、月霜大公の縁者若しくは重臣は王都に駐在すること。


いずれも昌長には認められない内容だ。


 タゥエンドリン国内の昌長の領地は、獣人や小人が優位になっている地域だけを認める形で、その領域は半減どころか3分の1ほどになる。

 それに加えて全てをタゥエンドリン優位に位置づけ、昌長の頭を抑え付けようとする意思が明白な内容だ。


「火事場泥棒とは正にこの事や。腹立つわえ。王都をわいらよりちと早うに抑えただけで王様気取りや」


昌長も不満を隠すこと無くそう吐き捨てた。


「しかし……本当にカフィル王子が……提案全てを考えたのか?少し……疑問、やの」


 怒りを滲ませつつも、照算が言う。

 確かに、王都で初めて会った時のカフィル王子は現実的な思考をする人物のように思えたし、他人族に対する偏見も強くなかったように思える。

 しかし昌長はその辺については全く考慮に入れるつもりは無かった。


「カフィル王子がそう思うてへんかっても、その周りにおる家臣連中はわいらのことを見下して馬鹿にしくさっとんじゃ。王子1人だけがエエていうても、最後は家臣連中の思惑が働いてわいらと衝突するわ。王子のことだけ考えても意味ないわえ」

「で、やるんか?」


 昌長の怒りの言葉を聞いた高秀が問う。

 しかし昌長は不満の表情をそのままに、苦り切った口調で口を開く。


「王都を戦火に包むのは忍びない、姫さんが言うんや。それに、配下の森林人兵エルフへいもあんまり乗り気やない。坑道人ドワーフや小人、獣人連中はわいらと一緒で火事場泥棒の王子様に怒ってるけどな……思案のしどころや」

「……ここで姫さんか、どうする?ヤるか?」

「最後にタゥエンドリンを潰すのなら……今斬っておいたほうが……エエんとちゃうか」


 獰猛な笑みを浮かべる高秀や凄みをにじませる照算に、昌長は負けじ劣らじの凶暴な表情で言う。


「今ここで姫さんヤったら、本拠にいてるのも合わせて他の森林人連中もみなヤらなあかんやろ?それはちと勿体ないし、今やったら王都攻めどこや無くなるさけ……まあ、姫さんらには巧いこと言うて王都をば包囲してよ、門の一つでも破っちゃりゃカフィル王子らも考え改めるやろ。そっから交渉してみて、エエ結果出たらそれでもかまへんわ」

「ほな、使者はどうするんよ?返したらこっちの思惑がすぐばれるで」


 高秀の問いに、よっこらせと腰を伸ばしながら昌長は事も無げに言った。


「殺すわ」









 昌長の陣地に高秀や照算がやって来てから更に10日後。


 カランドリンの撤退からカフィル王子の入城を経て一旦平穏を取り戻していた王都オルクリアは、今三度戦乱の空気に包み込まれようとしていた。

 配下に組み入れた王都守備隊の伝令からの急報を受けたカフィル王子は、急ぎ護衛の兵士を引き連れてオルクリアの北城門へと向かう。


「こ、これはっ……!」

「使者はまだ戻っておりませんぞ!?」


 驚く側近達を余所に、カフィル王子の顔は苦々しく歪む。

 北城門の望楼から見えるのは、月霜の軍旗をはためかせて整然と並んだ軍兵の群れ。

 月霜銃士爵的場昌長の率いる約3万の兵が王都に向かってきたのだ。


「くっ、軍兵を現在地で留めよという提案は破られたようですな」

「使者がまだ戻っておらぬので油断をしてしまいました。まさかマサナガめがこうも急に軍兵をこの地に進めてくるとは……」

「……」


 側近の1人の言葉にカフィルは唇を噛み締める。

 そうしてカフィルらが圧倒的な光景を眺めている間にも、昌長の軍兵はゆっくりと王都の北側に展開していく。

 中央に大きな筒状の物を幾つも設置し、左右に若干開いた歩兵の斜陣を展開させ、筒状の物の後方には更に横陣を幾重にも敷いている。

 騎兵は少数が本陣と思われる場所の後方の左右に配置されており、昌長があまり騎兵を持っていないことが分かる。


 やがて昌長の軍陣が展開を終え、その兵達の動きが止まった。


 右往左往しているのは中央の筒状の物を設置した場所の兵士達だけだ。

 坑道人や小人と思われる兵達が筒に何かを詰め込み、火種を用意し始めたのが分かる。

 その中心には、小さな椅子がいくつか設えられ、やがて異相の鎧兜を身に纏った40絡みの大柄な男と、王冠を被り、エンデ族の武装を身に纏ったエルフの若い女性が中央に並んで座った。


「フィリーシア……」


 エルフの若い女性、異母妹のフィリーシアを見つけたカフィル王子は短くつぶやく。

 フィリーシアもカフィル王子を見つけた様子で、じっと見上げてきているのが分かった。


「王子、すぐに兵を招集して北門に集めましょう」

「……頼む」


 側近の何人かが大わらわで走り去ると、北門周辺の市街地から騒ぎが起こった。

 どうやら民人達が昌長軍の接近に気付いたようだ。

 叫び声や怒鳴り声、それを収めようとする衛兵の大声が聞こえて来る。

 そしてそれをかき消すような砲声が次々と北門の外から轟いてきた。

 カフィル王子が驚いて昌長の軍陣を振り返ると、中央に置かれた筒状の物から盛大に白煙が立ち上っているのが見えた。

そして次の瞬間。

 王都オルクリアの北城門は轟音と共に揺れ、破片を飛び散らせる。

 あちこちで悲鳴が上がり、それは周辺に広がっていく。

 ここに王都オルクリアは史上初めて大砲による攻撃を受けたのだった。

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