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第102話 アンデッド討滅戦3

「押し出せや!」


 昌長の号令に対し、即座に応じたのはドワーフ砲兵達だ。


「おう!」

「やっと出番かっ?」


 そう口々に言いつつ、木製の台車に乗せられた一貫砲を人力で移動させる、筋骨隆々のドワーフ砲兵達。

 ごろごろと木製の車輪を鳴らし、小型で軽便な一貫砲が緩やかな坂を登って土塁の切り下げに押し出される。

すかさず後方に付いていたドワーフ砲兵が、台車の楔穴に楔を打ち込み、固定する。

 金槌で三角形の楔が乱暴に打ち込まれた。


「良いぞ!」

「おっしゃ、準備良し!」

「こっちも良いぞ!」

「固定完了じゃあ!」

「こちらも良いぞ!」

「準備良し!」

「こっちも固定済んだわい!」

「わしのところは良いぞ!」

「完了!」

「こちらも完了ぞ!」

「おう、完了じゃあ!」

「準備は良し!」

「おっしゃ、何時でも良いぞ!」

「こっちもだ!」

「全て完了じゃあ!」


 15門の一貫砲が固定され、発射準備が整ったことが、それぞれの砲を担当するドワーフ砲兵から怒鳴り声で報告される。


「ええで、棟梁!」


 更にその報告を受けた、一貫砲担当の鈴木重之が昌長に報告する。

 昌長はその報告を受けて頷くと、射撃を繰り返していた銃兵を一旦下げた。


「おっしゃあ!ちかませえいっ!」


 昌長の号令と同時に、ドワーフ砲兵の砲手が火入れ口に躊躇なく火縄を差し込んだ。

 それまでとは比べ物にならない爆発的な音が腹に堪えるような衝撃と共に一貫砲の砲口から吐き出され、ぶわっと白煙が堀の上に届くまで吹き出す。

 たった15門の一貫砲だったが、その威力は絶大。

 それというのも、詰め込まれていたのは弾丸ではなく、小石を主体とした散弾であったからだ。

 黒色火薬の爆轟によって瞬間的に熱せられた小石は、白煙と閃光を引いて広範囲に飛び散り、その飛翔範囲にある物を撃ち抜き、撃ち砕く。

 川の向こうにいたり、川縁に近付いていたスケルトンとゾンビは、この一貫砲による一撃で半壊状態となった。


「次弾装填せえ!」

「ほいきた!」


 釘抜きで撃ち込んだ楔を抜き、ドワーフ砲兵達が土塁の切り下げから台車を今度は反対側へ押し、一貫砲を後方へと下げる。

 薄く砲口から煙を引いている一貫砲の砲口に、素早く洗悍を差し込んで火薬煤をぬぐい取り、再び黒色火薬と準備しておいた小石を布袋ごと詰め込む。


「1組は土塁に張り付けや!……撃てい!」


 一貫砲が装填作業をしている間、昌長の号令で再びドワーフの抱大筒が復帰し、アンデッド軍団に打撃を与えるべく、射撃を加えた。

 撃発音が轟き、先程の一貫砲と比べれば幾分小さい閃光がきらめき、白煙が上がる。

 3回の一斉射撃の後、ドワーフ砲兵が汗だくの額をぬぐいながら大声を出した。


「準備完了じゃい!」

「おっしゃ、銃兵は下がれえ!一貫砲前へ出え!」

「承知!」


 昌長の号令で重之が采配し、再び15門の一貫砲が土塁の切り下げに据えられる。


「撃てえええい!」


 がつんとした衝撃を伴った爆発音が殷々と轟き、真っ白な白煙の中を突いて真っ赤な閃光が目にもまぶしく堀の上に伸びる。

 撃ち出された小石が川の半ばから川縁までを猛烈な勢いで飛び交う。

 土煙が白煙と混じり、火薬の燃焼した焦げくさい臭いと、土埃の臭いが混じる。

 白茶色の煙が晴れた後、堀端には折り重なる腐肉と骨片が土砂と混じったもの以外に残っている物は何も無かった。

 川の中には折り重なるようにしてゾンビであった物とスケルトンであった物がある。

 そして一部は、すでに増水させられた川を流れ下っている。



 無限とも言うべき時間が過ぎる。

 昌長らの猛射とも言うべき火縄銃の攻撃や一貫砲の砲撃を乗り越え、ゾンビやスケルトン達は後方から続々と川縁にやって来る。

 前列と同じように相変わらず川底の壺や桶で足を取られてはいるが、今はそれに対応する射撃が追い付いていない。

 川を越えて陣営側に上ってこようとうするゾンビやスケルトンが多くなり始め、弓矢の近接射撃や槍で倒すまでになってきた。


「増援を左翼に寄越して下さい!」

「犬獣人の槍兵隊500を連れて行っちゃれ」


 左翼の指揮を執っていたリエンティンから直接の要請を受け、昌長は予備兵力を即座に投入する。

 先程もドワーフ歩兵を500程右翼に送ったばかりであり、それ以前から綻びが出そうな所には兵を送っている。

 兵力の遣り繰りを頭の中でしていた昌長の耳に、悲鳴と破裂音が聞こえて来た。


「ちっ、暴発か?」

「ドワーフ銃兵の1人が倒れたようじゃ」


 つぶやく昌長にアスライルスが答え、手にしていた杖でその方向を示す。

 破裂した抱大筒の傍らに、腕を血に染めたドワーフ兵が倒れていた。

 すぐに後方から輜重兵がやって来ると、容態を確かめてから後方へと運び出す。


「このままでは保たぬのではないか?」


 アスライルスが危惧したとおり、兵の持つ火縄銃は既に連射に次ぐ連射を続けていることで過度の負担がかかり続けており、火薬を込めるのも困難な程熱を持ってしまっている物や銃身の鋼鉄が熱で緩んで撃発時に歪んでしまう物も出て来ている。

 そういった形で各部隊においてちらほら故障する火縄銃が見受けられるようになり、弾丸切れや焔硝切れも深刻だ。


 後方の輜重隊も頑張って前線に物資を届けているが、そもそもここまでの消耗は予想していなかったので、どうしても対応が後手に回りがちだ。

 最初は輜重兵が直接担いで弾薬を運んできていたが、それでは到底足りなくなってきているので、昌長は各陣に対して荷駄を直接持ち込むように指示を出した。

 馬が射撃音になれておらず暴れてしまう可能性があるため、馬車や荷車が人の手で押されて各陣に持ち込まれる事でようやく弾丸不足が若干解消したのである。


「ほんまは危ないからやりたないんやけどなあ」


 昌長は渋面を作りながら指揮を執っている義昌を見ながら言う。

 あまり前線に火薬を起きっぱなしにしていては、かつての千石堀のように敵の火矢1本で壊滅的な爆発を招くおそれがある。


 幸いにも相手は火などは使ってこないだろうが、先程のように暴発もある状況下では危険に過ぎるものの、弾薬不足を招く方がより怖い。

 危険と隣り合わせの策を講じてようやく迎撃が小康状態となり始めているところであるが、しかしそれでも無尽蔵とも思えるアンデッドの群れ。


 これと直接対峙する時間や機会が増えてきてしまっている。


「く~くっさいのう!」

「し、しかたありませんっ!」


 アスライルスが杖を置いて傍らにあった丸太を転がり落としながら顔を歪めてそう言うと、傍らで風術を使いながら矢を射るフィリーシアも同じように顔を歪めて応じる。


「ほんまに臭いだけはどうにも慣れやんな」


 その横では昌長が火縄銃を撃って川縁を登ろうとしていたスケルトンの頭蓋骨を砕き割った。

 アスライルスの投げ落とした丸太は、土手を登ろうとしていた周辺のスケルトンやゾンビを巻き込んで川に落ち、川に流れる途中でも落とし穴に填まって立ち往生しているアンデッド達にぶつかり、更に多くを巻き込んで下流へと流れていく。

 フィリーシアの射た矢は直前にいたゾンビの顔を吹き飛ばしながら貫通して、その後方にいるスケルトンやゾンビ達を貫通し、最後は対岸の川縁を下りようとしていたスケルトンの腰を砕いて終わる。


 ドワーフ兵が戦錻でスケルトンの腰を砕き、獣人兵が槍でゾンビを突き倒し、エルフ兵が弓射や術でスケルトンやゾンビの頭を射貫いていく。

 平原人兵が剣でゾンビの首を飛ばし、小人兵が投石でスケルトンの胸骨を割る。

 その合間に火縄銃による一斉射撃で小康状態を作り出し、一貫砲の砲撃で僅かな休息時間を作る。

 喊声と砲声、銃声が満ち溢れ、白煙と土煙が戦場を覆う。

 弓射の弦音は時折するものの、剣戟の音は聞こえない不思議な戦場。


 グランドアース世界において初めてとなる、アンデッドの群れと火縄銃を装備した軍との戦いが延々と繰り広げられていた。











「竜王殿よ、周囲が見えやんのでな、いっちょ風術使うてくれやんか?」

「心得た」


 見張り台に再び上った昌長の求めに応じ、アスライルスは掲げていた丸太を投げ落としてから傍らに寝かせてあった杖を取るとすぐに風術を行使し、戦場を覆い尽くしていた各種の煙を吹き流す。

 やがて見えてきたのは、夥しい数のアンデッドであったものが倒れ伏した凄惨な戦場の様相。

 川を流れていくものもあり、その先頭は遥か遠くにまで達している。

 気付けば銃声と喊声が止んでおり、兵士達は呆けたように自分の正面を見つめている。


「どうじゃ?」

「……ほぼ撃ち倒したわ」


 昌長の問いに答えるのは、ドワーフ砲兵を指揮していた鈴木重之。

 その言葉どおり、わずかに動くものはあるが、最早アンデッド軍団にまともな戦力として残っている者は存在しなかった。




「……やったか?」

「おう、おそらく……やけどな」


 銃声が鳴り止んだのを察し、後方から照算が駆けつけて来るなり問うと、昌長は白煙を薄く引く火縄銃を手に、ゆっくりと頷いてから答えた。

 昌長の備えに反し、南側以外の方向から村に攻め寄せる勢力は無かったのである。

 


 昌長は周囲の銃兵達に指示を下した。


「油断するな……順次鉄砲の手入れせえ」


 それを合図にして、銃兵達も火縄銃の構えを解き、槊状の先に少し湿らせた布を巻き付け始めた。

 猛射によって銃身内部にこびりついた火薬煤や、鉛滓を拭い取るためである。

 そして、今回大いに威力を発揮した一貫砲も楔を抜かれ、火縄銃と同様、手入れのために一旦後方へと下がる。

 2組が静かに土塁へと取り付き、油断無く周辺を見張る中、昌長はふっと息を吐いた。


「気遣い無いか?」

「おう、まあちと疲れたわ」


 義昌の問いに笑みを浮かべて答える昌長だったが、実際は肝を冷やした場面も多々あったことは否めない。


 火縄銃とアンデッドは、非常に相性が悪い。


 生物には絶大な威力を誇るが、肉体その物を打ち砕かなければ倒せないアンデッドに対しては、いかに威力が強かろうとも穴を穿つだけの火縄銃による攻撃は威力不足なのだ。

 人であれば骨を砕かれ、肉に穴を空けられれば死ぬか大怪我で動けなくなるが、既に死体であるアンデッドは、痛みも怪我による機能低下も無いので、いくら身体を傷付けられようとも、動作そのものに影響が無い。


 つまり、火縄銃で撃たれたぐらいでは大した打撃も無く、そのまま歩き続けることや動き続けることが可能なのである。

 辛うじて散弾を使用することで打撃力を増し、落とし穴と川を組み合わせた防塁を築くことで五分に持ち込んだが、これが無ければおそらく防衛網はアンデッドの海嘯に飲み込まれて陣営は敢えなく陥落していたことだろう。


 しかし、何とかしのぎきった。


 一時的にせよアンデッド軍団は壊滅し、南側正面は正に死屍累々の有様。

 時折身体を動かそうとしているゾンビやスケルトンがいるが、偵察に出た兵達に相次いでとどめを刺されている。

 時折喊声が聞こえ、棍棒や剣で肉を叩く鈍い音や、槌や斧で骨を砕く乾いた音が響く。

 うごめいていた死体が次第に無くなり、陣の南側正面は硝煙と腐臭の漂う地獄絵図の様相を露わにし始めた。


 本来ならばすぐさま油をかけて焼き払ってしまいたいところだが、陣に近過ぎる上に川の中にある死体も多く、更にここは穀倉地帯だ。

 むやみやたらと火をかけても意味がなく、大火事を引き起こすようなことがあってはならないので、昌長らは逐一止めを刺しに回っているのだ。


「しかし、なかなか終わらんかったな……」

「お陰で焔硝も弾ももうあんまりないわ、いっぺんカレントゥから運んでこなあかんな」

「一気に王都へ迫りたいところやが、弾薬不足では遅れを取りかねんわ。しゃあないけどここでしばらく待機やな」


 やって来た義昌の言葉にそう返すと、昌長は傍らに居た使い番の兵に指示を出す。


「すぐに残りの焔硝と弾丸の量を報告するように、荷駄隊へ伝えてくれやんか」

「はっ」


 獣人の使い番は昌長の指示にさっと頭を下げてからすぐに後方へと向かう。

 その素早い身のこなしを見送りながら、昌長は言葉を継いだ。


「まあ、もう一戦したら終わりの感触やな。義昌の方でカレントゥへ弾丸と焔硝、それに兵糧を送るように手配してくれ」

「おう、心得たわ」


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