お兄さんがいいならそれでいいんじゃない?
「あっ、お兄さんじゃん」
「本当ですね。お久しぶりです月読さん」
西条達と遊んで佐々木の家から帰る途中に同い年か少し下くらいの女子達に話しかけられた。
「夏休みに入ってから全然ウチに来てなかったから久しぶりね」
「あの後何度か楠木さんの家にお邪魔させてもらったのに全然会いませんでしたからね。もう私達に飽きちゃったんですか?」
人聞きの悪いことを言いながらこちらに寄ってくる女子達。記憶を失う前の俺は何をしていたんだろうか?
「…すまん。事故に遭ってここ二年くらいの記憶を失ってるらしいんだが、俺は君達に何をしたのだろうか?」
そう言うと女子達きょとんとした顔をした。
「なに?言い訳のつもり?」
「やっぱり私達のことは遊びだったんですね」
「マジで俺は君達に何をしたんだ」
記憶を失う前の自分が何をしたのか分からなくて焦っているとジト目を向けてきたり、泣き真似をしていた彼女達が訝しむような目を向けてきた。
「本当にお兄さん?それともさっき言ってた記憶がないって言うのが本当だとでも?」
「君の言うお兄さんが俺かは知らんが俺の名前は月読蓮夜だし、記憶がないのも本当だ」
「ふーん?」
当然ながらすんなりとは信じられなかったみたいだがいろいろと問答を繰り返しているうちに納得したようだ。
「本当に記憶を失くしているみたいね」
「記憶喪失なんて物語の中だけのものだと思っていました」
「俺も自分が経験するまでそう思ってた」
「いきなり自分が記憶を失ってるなんて言われたら戸惑うことも多いのでは?」
「そりゃあ最初は信じられなかったし、今の自分の記憶と違うことばかりで戸惑ってばかりだな」
「その割には人と遊びに行く余裕があるのね。記憶がないなら初対面みたいなものじゃないの?」
そう言いながら楠木(さっき自己紹介した)が少し離れた所にいる西条達に目を向ける。
「俺が覚えてないだけで友人には違いないんだから遊んだっていいだろう。仮に初対面だったとしても遊べない訳ではないしな」
幼馴染達と遊ぶことが多かったが、俺は別に人見知りという訳ではないから初対面の人とも遊べる。なんならグイグイ行く。
「そうなんですか?なんかイメージと違いますね」
「そうね。お兄さんから積極的に距離を詰めるのは違和感があるわ」
「やっぱりそうなのか」
会う人会う人みんな戸惑っているからな。やはり俺はクールキャラで高校生デビューをしていたみたいだな。
「まあ慣れてくれ。前の俺よりこっちの方が親しみやすくて良いって言われたからな」
「それ誰に言われたの?」
「あっちにいる友人達にだが?」
「ふーん…」
何か思うところがあるのか楠木が西条達の方を見るがすぐに目を逸らして溜め息を吐いた。
「まあお兄さんがいいならそれでいいんじゃない?」
「なんか適当だな。クールキャラの方が良かったか?」
「別にクールキャラだから良いって訳じゃないわよ」
「……ああ、なるほど。楠木さん的には思うところがある訳ですね」
「?」
どこか呆れたような楠木になにか納得したような星宮。なんだなんだ?
「別に気にする必要はないわよ。少なくとも今はまだ」
「何かあるなら言って欲しいんだが…」
「今言ったところで意味はないわよ。あんまりあの人達を待たせるのもあれだし私達は帰るわ。またねお兄さん」
「それでは失礼します。また遊びましょうね月読さん」
そう言って楠木と星宮は帰って行った。
「話は終わったのか?」
「ああ、待たせて悪かったな。どうやら俺の知り合いだったみたいだが西条は知ってるか?」
「前に蓮夜と話しているところを見たことがあるがどういう知り合いかは知らないな」
話が終わるのを待っていてくれた西条に楠木達のことを聞いてみるがよくは知らないらしい。
「ちなみにどんな話をしたか聞いてもいいか?」
「大した話はしてないぞ。記憶喪失って伝えたくらいだ。やっぱり前の俺とイメージが違うみたいだな。あとなんか気になる反応をしていたが」
「気になる反応?」
「まあ気にする必要はないって言ってたから気にしなくてもいいだろ。前の俺を知ってるから違和感があるとかそんなのだろう」
「そうか?ならいいんだが…」
考えたところで分からないなら考えるだけ無駄だ。ならば楠木の言う通り気にしないでいいだろう。今はまだってことは記憶を取り戻したら分かるかもしれないしな。




