なんで?
「陽菜、準備できた?」
「うん、瑠璃ちゃんは?」
「私も準備できたわ。待ち合わせの時間が迫っているから急ぎましょ」
最後に姿見で変なとこがないか確認。うん、大丈夫……なはず。
姿見に姿見に映るのは水色の浴衣を着て巾着を持った自分。多少は自信を持ってもいいと思う。
「陽菜?」
「ごめん、すぐ行く」
準備できたと言いつつ動かない私に声をかけてきたのはピンクの浴衣を着た瑠璃ちゃん。普段ポニーテールにしている髪を結い上げているからいつもと印象が違って見える。
浴衣を着るのは小さい時以来だから準備に手間取ってしまった。去年は行かなかったから二年ぶりの夏祭り。去年までは毎年行っていたからか一年行かなかっただけで久しぶりに感じる。
待ち合わせの時間が迫っているので瑠璃ちゃんと急いで向かうが、動きづらいし人混みが酷くて思うように進めない。待ち合わせ場所に着いた時には待ち合わせ時間を過ぎてしまった。
「俺達も今来たところ…って言えばいいのか?」
「付け足した部分がなければ正解だぞ相川」
そんな風に言う二人は本当に気にしていないのか自然体。ありがたいし遅れたのは申し訳ないけど私達の格好を見ても自然体なことに少しガッカリ。付き合いが長すぎていつもと違う格好をしただけでは何も思わないのかな?
「言い忘れてたが二人とも浴衣よく似合ってるぞ」
先に行った巧真君を追いかけようとした時に思い付いたように言われた言葉。それだけでも嬉しく感じるから私って単純だ。
「二人はどれが欲しい?」
そう聞かれて答えたリクエスト通りの物を取ってくれたのは素直に嬉しい。わざわざもう一回やって瑠璃ちゃんの分も取ってあげていたのにはちょっぴりジェラシー。でも私だけ渡されても遠慮しちゃいそうだからよかった。このぬいぐるみは部屋に飾ろう。
その後はいろんな食べ物を買う為にあっちへフラフラ、こっちへフラフラ。慣れない浴衣を着ていた為か少し疲れた。神社の近くで花火が上がるまで待つ。浴衣が汚れないように気をつけながらいろいろ食べる。カロリーが高そうな物ばかりだけど今日くらいはいいよね?
見ているだけで胸焼けがしてきそうなほど食べる巧真君に呆れつつ雑談タイム。四人で集まるのは久しぶりだったけど、長い付き合いだからか話すことには困らない。高校生になってからさらに疎遠になってきていた為にこのまま関係が自然消滅してしまわないか危惧していたけど少し安心した。今日誘ってくれた巧真君には感謝している。
花火が上がるとみんなして空を見上げる。毎年恒例だったけど去年は見れなかった花火。もう四人で見ることはなくなるのかと去年の今頃は不安だったけどまたこうして四人で見ることができた。みんなはどんなことを考えながら空を見上げてるんだろう?また来年もこうして花火を見に来れればいいな。
「藤林に宮本、悪いけど先に行っててくれないか?蓮夜と少し話したい」
珍しく(失礼)真面目な顔をしている巧真君にそう言われて私と瑠璃ちゃんは少し先を歩くことにした。何を話すんだろ?
気にはなるけど詮索するつもりもないので帰りがけに買ったわたがしを食べながら帰路に着く。花火綺麗だったね、体重計に乗るのが怖い、ぬいぐるみ取ってもらえて嬉しかった等瑠璃ちゃんと笑い合いながら。
「今日は楽しかったわね」
「うん、また来年もみんなで一緒に行けるといいね」
蓮夜君が冤罪で捕まった日から私達の関係はギクシャクし、会話もどこかぎこちなくなることもあった。蓮夜君は私達のことを苗字で呼ぶようになったし、距離を取るようになった。高校生になってから巧真君も私と瑠璃ちゃんのことを苗字で呼ぶようになった。巧真君に理由を聞くと「ケジメみたいなものだ」って言ってたけどなんでなんだろう?よく分からない。だけど今日は子供の頃のように楽しめた。私達が蓮夜君にしたことは許されないことで、一生をかけてでも償うつもりはある。でもいつか子供の頃のような関係に戻りたいと願っていた。それが少しでも叶って嬉しい。
毎年恒例だったことを二年ぶりに行ったからか、祭りの雰囲気に当てられたからか、今日はみんな子供の頃を思い出しているようだった。毎日が楽しかったあの頃を。
過去に引っ張られた部分はあったとしてもあの頃のように過ごせたのだ。いつか特別な日じゃなくてもあの頃のように過ごせるようになればいいな。
そんな風に少し浮かれて考えていた為か気付くのが遅れた。赤信号でも止まらず交差点に侵入してきた車に。
気付いた時には車が間近に迫っていた。驚いて体が固まってしまう。
(あの頃のように戻りたいなんて思っていたからバチが当たったのかな?)
動かない体に反して動いた頭で考えたのはそんなこと。思えば償いたいと思いつつ私はまだ蓮夜君に何も償ってはいないのだ。誠心誠意謝ったし、何でもするつもりだけど蓮夜君は私に何も求めない。謝罪は受け取ってもらい許してもらったけどそれだけでは償ったとは到底言えない。だけど今更理解したところで…。
避けようと思っても体が動かない。もともと咄嗟に飛び退けるような身体能力はしていないし、今は動きづらい浴衣を着ている。驚きで体が固まっていなかったとしても避けれたかどうか…。どちらにせよ今の私は車が近づいてくるのを見ているしかなくて…。
そこまで考えたところで腕を引かれた。かなり強いで引かれて腕に痛みが走るが、投げ出されるように体が動く。
(蓮夜君?)
掴まれた腕の方に視線を向ければそこには幼馴染の姿。彼は左右の手でそれぞれ私と瑠璃ちゃんの腕を引き……私達の間を抜けて前に出た。
(なんで?)
なぜ自分は投げ出されたのか、なぜ彼が私達と入れ替わるようにそこにいるのか、なぜ彼は「思いつかねぇ」と言ったのか。
ドンッ!
なぜ彼が倒れているのか。
真っ白になった私の頭では分からない。分かりたくない。




