迷走するのは思春期の特権
「うしっ、夏休みの課題終わり!これで気兼ねなく夏休みを満喫できるな!」
リビングで課題をしていた兄さんがシャーペンを放り出してそんなことを言いました。
課題の中で日記を一番最初に終わらすというぶっ飛んだことをしていましたが、もう全部終わらせてしまうのも飛ばし過ぎです。まだ7月ですよ?
まったく課題に手をつけないで遊び呆けるよりはよほどマシなのでしょうが、今日から二学期まで勉強しないのも学生としてはどうなのでしょう?
長期休暇の課題が多いのは休みの間に勉強から離れてしまわないようにしているからであって、毎日少しずつ進めるのが本来のあるべき姿なのではないのでしょうか?
まあ私は今年高校受験を控えている身ですので仮に課題が終わったとしても自主的に勉強するつもりではいますけど。
私の志望校は兄さん達の通う高校です。一応合格圏内の学力はあるのでそこまで必死になってはいませんが、受験生としてはサボるわけにもいかないのが辛いところ。それでも息抜きに出かけるくらいはしたいのですが…。
「…………」
課題が終わり、片付けまでした兄さんは早速無言で読書をしています。夏休み初日に兄さんの書いた日記によれば何日かは忘れましたが、7月のうちに童心に帰って山へ虫取りに行った等書かれていたはずです。しかし分かってはいましたが完全にガン無視です。やはり家族で出かけたと書いた日も出かけるつもりはないのでしょうか?
夏休み前はほとんど家にいなかった兄さんですが、夏休みに入ってからは買い物に行く時くらいしか外出していません。一緒に過ごせる時間が増えたのは嬉しいですが、ほとんど課題をしているだけでした。
学生の私達が夏休みに入っても両親は相変わらず仕事が忙しそうでほとんど家にいません。頑張って働いている両親には感謝しています。ですが兄さんの日記に書いてあったように海に行きたいとは言いませんが、近場でいいので一緒に出かけたり、せめて家族で団欒する時間くらいは作ってくれないでしょうか?
家族四人で過ごす時間は昔に比べてかなり減ってしまいました。思春期の身としましては家族で過ごすのは気恥ずかしい気持ちもありますが、それでも時折寂しさを感じます。
気持ちが矛盾したり迷走したりするのは思春期の特権だ、などと昔兄さんが言っていましたがこれがそうなのでしょうか?
「…………」
兄さんは相変わらず黙って読書をしていますが、私が出かけたいと言えば一緒に来てくれるでしょうか?日記を見た時に出かけたいと言った時は気が向いたらと言っていましたがどうなのでしょう?
そもそも兄さんは私と出かけたとして楽しめるのでしょうか?二人で気まずい思いをするくらいならこうして家で過ごすほうが…でも課題が終わってしまった兄さんは一人で出かけるかもしれないし…。それにやっぱり私もどこかへ出かけたい…。友達を誘うにも受験生だから誘いにくい…。そもそも受験を控える身で遊んでていいのでしょうか?
気持ちがあちこち迷走して自分が何をしたいのか分からなくなってきます。
そんなことばかり考えているので、課題が終わってしまった兄さんと違って、私の課題は遅々として進みません。




