拗ねて放り出す子供と変わらない
「急にどうした?」
脈絡なさすぎない?
「朝に球技大会の時の話をしたからね。気になって」
「そうか。他の奴等にも言ったことあるがもうサッカーをする気はない」
「そう…話は変わるけど月読君は僕と初めて会ったのはいつだと思ってる?」
「高校に入ってからじゃないか?」
「まあそう思うよね。実は中学の時にサッカーの試合をしたことあるんだよ?」
「そうなのか」
佐々木には悪いがまったく記憶にない。
「覚えてるわけないよね。僕は月読君みたいに有名じゃなかったし、大して実力があったわけじゃないから。試合でも蹂躙されただけだし」
「………」
「僕は才能がなかった。努力は欠かさなかったけど弱小チームのスタメンになるのが限界だった。そして月読君には歯牙にも掛けられなかった」
「………」
「月読君が努力していなかったとは言えない。むしろ僕より厳しい練習をしていたと思う。そして僕は君に憧れた」
「………」
「それまで以上に努力した。僕も君みたいになりたくて。だけど結局もう一度君のチームと試合をした時に僕は折れてしまった。必死に努力してもこちらを容易く蹴散らしてくる才能の塊を見て」
「………」
「だから高校ではサッカー部には入らなかった。僕なんかじゃ本物には敵わないと思ったからね。実際に球技大会で単なる経験者にすら負けてしまうくらいだったし」
「………」
「僕の代わりにあいつらに勝ってくれたことは嬉しい。だけど…だけどさあ…」
そこで一旦言葉を区切った佐々木は何かを押さえるように俯いて震えている。そして少ししたら勢いよく顔を上げて叫んだ。
「なんで月読君もサッカー辞めてんだよ!僕なんかじゃ到底届かないような実力があるくせに!僕がどんなに努力しても手に入らなかったものを簡単に捨てるなよ!捨てるくらいなら僕にその才能をくれよ!」
そう叫んだ佐々木の目には涙が浮かんでいた。
「はぁ…はぁ…」
「気は済んだか?」
急に大きな声を出したせいか息切れしている佐々木に問いかける。
「…ごめん。こんなこと言われても困るだけだと思うし、月読君の事情も知っているから言う気はなかったんだけど抑えきれなかった…」
「気にするな。そう言われてもしょうがないとは思ってる」
真面目に努力している人間にとって俺は許せない存在かもしれない。特に中学の時に負かしたチームのメンバーなら。
俺なんて熱中し、結果も出していたことをケチが付いたから拗ねて放り出す子供と変わらない。
「本当にごめんね。月読君の気持ちも考えず…」
落ち着いたのか申し訳なさそうに佐々木が謝ってくるが、俺は気にしちゃいない。
佐々木は俺の気持ちも考えずと言うが、俺だって他人の気持ちを考えてなんかいないんだ。
そもそも人の気持ちなんて当人にしか分からないだろうに。




