エボシ貝(ピエ・デ・カブラ)
真夜中に運ばれてきた
敗血症患者と、
べっとり塗った
タールの様な夜の港に
打ちあげられてしまった
発泡スチロール・・
その躯に付いた
無数の烏帽子貝達の
不吉な死の運命を想う。
ああ!!
病院に腸管を運んできた
手術を受けた男達。
息を引き取る事を拒絶した死者。
消毒され死んでしまった
グラム陰性菌。
クラムチャウダーに浮かぶ死骸。
幸福で不健康な老女と、
沼地に清浄を求め、
異歯目を植える不幸な医者。
この病棟では命と死が交差し、
不適切な数の棺桶と、
不適切な数の生者が輩出され、
十字架の下、
何度も何度も暗算される。
古びた肉体は
墓地の土壌に放置され、
再利用される。
敗北を望み、
キリストの土を受け入れた者は
勝者となり、
勝利を望み、時間を得た者は
有限の奴隷になる。
死肉が失うあらゆるものは、
元来、持っていなかった荷ゆえ、
去り行く者の顔は安らかだ・・
烏帽子貝達は
セメントの上で乾いてゆく・・
それは最早、
海に焦がれもしない。
キリストは言った。
「私は乾く」
そうだ!!
この世では、
尊い物は全て乾いて砂になり、
その肉体を維持できない。
この世では、
尊い物は全て笑い者にされ、
侮辱され、踏みにじられ、
失われる。
故に、
失う事を愛せぬ者達は、
気高さを知らぬ。
失う事を愛せぬ者達は、
永遠に夜の奥に
囚われたままなので、
死んだ烏帽子貝の事も、
キリストの深夜の喪失の事も
知らない。




