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第七話・男として? お姉さまとして?

「好きです! 付き合ってください!」

 俺の目の前にいるのはファンクラブの子の一人だ。

 制服のブレザーに校章の下にあるファンクラブのバッジが付けてあるからな。

「えっと…。俺、男だよ? それ分かって言ってる?」

「はい! お姉さまは男です!」

「で、その好きって言うのは?」

「もちろん、お姉さまとしてです!」

 これなのだ。

 最近、俺に告白してくれる子が多いのは嬉しいんだけどそのほとんどが『お姉さま』としてなんだ。

 いや、俺を『お姉さま』としてみているとしても告白は嬉しいんだ。

 だけど、男としての俺が悲鳴を上げているんだ。

 俺は男だと。

 女として付き合うって違うだろう!って。

「それで…。どうでしょうか…?」

 恐る恐る俺を見るファンクラブの子。

 見た目はまあ可愛いほうだと思う。

 性格は分からないけど、悪くは無いだろ。

 でも、俺がここで付き合うと言っても、お姉さまとしてだ。

 きっとデートも女装してお買い物とか言うんだろう。

 そこまで考えて俺はこう言った。

「俺と付き合うと他の子はどうするんだ?」

「え…?」

「いやな。君さ、俺をお姉さまとして見てるならこれって抜け駆けじゃん? どうなのかなって」

 そこまで言うとその子の顔が青くなっていく。

 まあ、これは仕方ないこと。

 この子自身が撒いた種だ。

 すぐに芽が出る。

「そこぉ!!」

 ほら来た。

「抜け駆けは禁止事項よ!」

 やって来たのはなおだ。

 親衛隊隊長がダッシュしてやってきた。

「わたしがトイレに行っている間にすみません。お姉さま」

「いや、いいんだけど…。ねえ、君。そういうことなんだ」

「わ、わたし…悪気があったわけじゃ…」

「みんなね、最初そういうのよ…。あなたたち」

 そういうとなおの後ろからざっと残りの親衛隊が現れる。

「はい。隊長、何ですか」

「この子をファンクラブ室へ。会長に事情を話して」

「わかりました。行くよ」

「ご、ごめんなさい! 許してください!」

 親衛隊に引きずられながら哀れなファンクラブの子が俺の前から連れ去られていく。

「なあ、なお」

「はい、お姉さま」

「ちょっと厳しくないか?」

「いいえ。”ファンクラブ規約第二章禁止事項第三項お姉さまへの告白について”に違反している以上は例外は認められません」

「そ、そうか…」

 いつの間にそんな規約が出来たんだろうな…。

 気になるのは第二章が禁止事項だと第一章は何だろう?と言うこと。

 ファンクラブの規約は知らないんだ。

「規約って全部で何ページあるんだ?」

「二〇三ページです」

 に、二〇〇ページもあるのかよ…。

 恐るべしファンクラブ。

 そして、恐るべし俺の美貌…。

 って、美貌って?

 美貌って何なんだ!

「あ、あのお姉さま? 頭を抱えてどうしたんです?」

「あ、いや。何でもない」

 俺は頭を振ると美貌と言う言葉を消去する。デリートする。ゴミ箱ぽいだ。

「あの…」

「なに?」

 なおが少し顔を赤くしながら俺を見る。

 また何か変なお願いがあるんじゃないだろうか…。

「今度の日曜日暇ですか?」

 また、男とデートだろうか?

「空いてるけど?」

「そうですか! それじゃ…」

 なおの言葉に俺は驚きのあまり声を失った。


 日曜日。

 珍しく俺は男の服装で駅前に立っていた。

 先日、なおにわたしの家に来ませんか?などと誘われてしまったのだ。

 俺がまた女装して行くのか?と聞くとその必要はありませんと。

「これって、デートだよな? …しかもいきなり女の子の家って」

 俺は舞い上がってしまっていた。

 だって小学校から女の子から同姓扱い。

 中学でも。

「可愛いけど、彼氏じゃね…」

 とか言われ続けていた俺が女の子とデートなんだ!

「良かった…。ようやく男として見られるようになったんだ…」

 俺は今日ほど男として生まれてよかったと思うことはない!と思った。

「お待たせしました!」

 振り返るとそこには赤いシャツに白いスカートを穿いたなおが走ってきた。

 いつも制服姿ばかりだったが、こうして改めてみると可愛い。

「いや、まだ来たところだから」

 実は楽しみで一時間も前から来ていますなんて言えない。

 絶対にこんな事ないと思ってたのに、嬉しさのあまりなかなか寝付けず、しかも家をかなり早く出てしまったのだ。

「それじゃ行きましょう」

「ああ」

 俺はルンルン気分でなおの家に行ったのだ。

   

 なおの家はなかなか大きい一戸建てだった。

 ざっと見ても六部屋はありそうだ。

「なおの家って大きいんだな」

「そうですか?」

 きっとこの子にはこの家が普通なのだろう。

 俺の家なんか三LDKだ。

 決して小さくないけど、ここはその倍はある。

「ただいま~ 連れてきたよ~」

 連れてきた?

 どういうことだ?

「お邪魔します」

 俺はとりあえずそう言いながらなおの家に上がる。

 その時、俺は気が付くべきだった。

 何やら靴が多いことに…。

 俺が通されたのはリビングだ。

 そこにいたのは、なおのお母さんらしき人。

 らしき、と言うのは若くて綺麗なのだ。

 でも、お姉さんと言うには年が行っているようにも見える。

「なお、なお。あの人はお母さんか?」

「はい。そうですよ」

 小声で尋ねると肯定が帰ってきた。

 しかし若いよな…。

「祐介君だったわね?」

「あ、はい」

「女性をじろじろ見るものじゃないわよ?」

「す、すみません。若そうだなっと思ったもので」

「若いわよ。わたしまだ三二歳だもの」

「あ、そうなんですか……。って三二歳ですか!」

 三二歳って、どういうことだよ?

 俺達が今年で一六だぞ?

 なおは一六の時の子供だって言うのか?

 おいおい、待てよ。

 そんな一六の時に子供を作るような感じには見えないんだが?

「祐介君。表情でだいたいわかっちゃうわよ?」

「す、すみません」

「まあ、いいわ。今日は手伝ってほしいことがあって、なおに頼んで呼んだの」

「手伝うことですか?」

「そうよ」

 そう言ってお母さんは内容を話し始めた。

 そして、俺は愕然とした。

 なぜなら、モデルになってほしいというのだ。

 何でもなおのお母さんはファッションデザイナーらしいんだけど、この前専属モデルが入院してしまったらしい。

 他のモデルを探したところマッチする人がいなかった。

 そして、なおから女装すると綺麗な男の子がいるということで俺が…。

 なお! 僕を裏切ったな! みんなと同じで僕を裏切ったんだー!!

 っと某アニメのような叫びは置いておいてだ。

「俺、一人じゃメイクとか無理ですよ?」

「あら、専属の人たちがいるんでしょ? 来て貰ってるわよ」

「祐介君、お先に来てるぞ~」

 そう言って奥から出てきたのは先輩だった…。


 結局俺は先輩達の手によって女の子にされてしまった。

 今日のウィッグは茶髪のセミロング。

 今回は体のラインが出るものもあるらしく下は超きついサポーターを穿かされた。

 しかも、しかも女性物の下着まで穿かされる始末!

 ブルマはまだ体操着などと言う概念だったし、スコートの下はブリーフだった。

 でも、今回は下着だぞ?

 男としての尊厳が…。俺にはもうないのだろうか。

「い、痛いんですが…」

 サポーターの締め付けがきつすぎて痛い。

 もう少しきついと男として危ないんですが…。

「我慢してね?」

 だけど、なおのお母さんに笑顔で言われると何も言えない。

 何か怖いのだ。

「それにしてもよく出来てるわね…」

 そう言いながら俺に付けられた付け乳房をいじって楽しむ。

 別に神経が繋がっているわけじゃないからいいけど…。

 何か汚された気分だ。

「で、始めに着るのはどれです?」

「まずこのワンピースからかしら?」

 そう言って取り出されたのは赤いワンピースだ。

 最近、ここまで原色のワンピースってあるのだろうか?

 それに袖を通すと、俺は移動する。

 そこは撮影スタジオになっていた。

「じゃあ、ポーズってね」

 お兄さん達にそう言われ、俺は指定されたポーズを取った。

 前かがみ、少し横を向いたり、上を見上げたり…。

 体育座りをして膝に顔を乗せるとか…。

 俺、男だよな?

 な、なあ、誰かそうだって言ってくれないか?

 俺は久しぶりに女装に対して不安を覚えた。

 それでも撮影は続いていく。

 ボディースーツ(サポーターが必要だったのはこれ)や新作のキャミソールやパジャマまである。

 スーツ姿に、タイトスカート。

 スポーツウェア。

 そして最後…。

「こ、これは絶対に嫌ですよ!」

「あら、どうして? ボディースーツも着たんだし同じじゃない」

「そうだぞ。祐介君。ここは覚悟を決めないとな」

「だったら先輩が着ればいいじゃないですか!」

「今回の依頼は祐介だ」

 何をそんなに嫌がっているかと言うと…何と水着なのだ。

 しかもビキニタイプだ。

 しかも白! ホワイト!

 何が悲しくて水着まで着ないとならないんだよ!

「まあ、いいわ。このためにみなさんに来てもらってるんだから」

「祐介君、君が大人しくしていれば手荒なマネをしなくて済んだんだけどな」

「俺達で着替えさせてやるよ」

「まあ、楽しもうや」

 そんなことを言いながら先輩+お兄さん方が手をわきわきしながら俺を取り囲んでいく。

「さあ、覚悟!」

「こんなのいやだぁぁぁぁ!!」

 何本もの手が俺を押さえつけて服を脱がして行く。

 こんなのレイプだ!

 ひどい、ひどすぎる!

 あんまりだぁーーーー!!!

 …。

 ……。

 そして。

「汚されちゃったよ…」

 俺は真っ白なビキニ姿でカメラの前で崩れ落ちていた。

「これはこれでいいわね」

 そんな、なおのお母さんの声が聞きながら俺はされるがままに写真を取られていった。

 

 写真撮影が終ってようやく来た時の服装に戻った。

 俺はショックのあまり少し呆然としていたが、意識が戻ると帰ることにした。

「お邪魔しました…」

「今日はありがとう。また来てね☆」

「たぶん、もう来ません…。ええ着ませんよ」

 俺はそう言いながらなおの家を後にした。

 帰り道、俺の横にはなおがいた。

「あの、お姉さま」

「なに…」

 俺の周りは絶対零度の空気が漂っている。

 超を通り越すほどのブルーだ。

 しばらく男の手が怖くて仕方ないだろうな…。

「その…。ごめんなさい」

 そういうとなおが頭を下げて謝った。

「いいよ…。お姉さまだから…」

 俺がそういうとなおが抱きついて来た。

「なお?」

「ごめんなさい…。ちょっとお母さん強引だから」

「もう、いいって」

「それでも…」

 なおに抱きつきながら頭を振る。

 この子は……親衛隊隊長なんだなと思った。

 何だかんだいろいろと要求されるけど、お姉さまを大切にする親衛隊隊長だ。

「はあー、わかった。元気出すからさ」

 そう言って俺は自分の顔を叩いた。

 肌が叩かれる乾いた音が道に響く。

 痛みで少し気合が入った。

「さて、改めて行くか!」

 そう言って歩き出したとき、俺はなおに手を取られた。

 それで俺は歩みを止める。

「どうした?」

「あ、あの…。わたし…」

 そう言って顔を赤くするなお。

 今は純粋に可愛いと思う。

「わたし、お姉さまとしてじゃなくて、祐介君として好き!」

 また告白か…。

 でも、ね…。

「おいおい、いいのか? 第二章に引っかかるぞ?」

「いいんです! だって、わたしは祐介君が好きだから」

「だからお姉さまとして…って、え?」

 なんていった?

 お姉さまとしてじゃなくて祐介君として?

 それって?

「な、なあ、それは俺を男として見てるってこと?」

「そ、そうです。わたし、お姉さまじゃなくて祐介君が好きになったんです」

「え、えーと。これは喜んでいいんだよな?」

「は、はい!」

 おいおい、本当に好きだってよ!

 男としてだぞ?

 今まで一度として男として告白を受けたこと無いんだぞ!

 男にマジ告白受けるような男だぞ!

 男にファーストキスを奪われそうになる男だぞ!?

「間違いじゃないんだよな?」

「もちろんです!」

「でも、どうして?」

「カッコイイから…」

「可愛いんじゃなくてか?」

「可愛いけど、カッコイイんです!」

 詳しいことは分からないけど。

 俺は男として告白を受けることが出来た!

 これが再び波乱の一歩の始まりになってしまうとも知らずに…。


 おまけ。


 翌週の水曜日になって、俺はクラスメートの佐々木にある雑誌を見せられた。

「お前ってもう女確定だな」

 そんなこと言って見せられたページに何とこの前の写真が載ってるではないか!

 最初のワンピースの宣伝のだ。

 うわぁ…。

 俺ってめっちゃ可愛いじゃん…。

 ……。

 ああ、何か悲しい。

「しかもお前、女物の下着穿いてたんだな?」

「え?」

「ほら、このページ」

 そんなこと言われて見た写真。

 それは体育座りをして何パターンか取ったうちの一つだ。

 スカートの奥が見えてるんですが?

 これはどういうことですか!?

 だいたいワンピースの宣伝だろ!!

 グラビアにしてどうすんだよ!

「お前さ、男やめたら?」

「俺は、男だぁぁぁぁぁ!!」

 俺の叫びは久しぶりに学校中に響き渡った。

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