第六話・ダブルスは女装して…?
女子テニス部。
その伝統的な白いユニフォームのウェアで、ミニスカートはやっぱり男の憧れだ。
ゆれるスカートから見えるスコートが男の目には保養にも毒にも成りうる。
「お姉さま、ニヤニヤしながら女の子のお尻を眺めないで下さい」
俺は少し遠目でテニス部の練習を眺めていると、親衛隊隊長がそう言いながら俺の隣に座る。
名前を桐原なおという。
同じ一年生だ。
一年生でありながら俺の親衛隊隊長を勤める。
「いいじゃん。俺だって男なんだ」
ここ最近、なおとは仲が良かった。
お姉さまとして扱いを受けなければ恋人候補とかにしたいくらいだけど、なおは俺をあくまでお姉さまとしてしか見てくれない。
この現実はとても悲しい…。
「まあ、いいです。お姉さまにも着てもらうユニフォームですし」
で、何気なくとんでも無いことを言い出すのもこの隊長なのである。
「ちょっと待て! 今度はテニス部に助っ人がいるのか!」
「はい、お姉さま」
極上の笑みを浮かべてそう告げるなお。
聞きたくないが、一応これも聞くことにしてみた。
「これもファンクラブの?」
「決定事項です」
そんなもん! 決定するな!!
俺の心の悲しみは誰にも分かってもらえない。
ああ、俺の男としての青春はどこへ行ってしまうのだ…。
「と、言うわけで祐ちゃん。早速テニスの特訓よ!」
そういうの超が付くほどノリノリの文也先輩だ。
白いウェアに身を包んで、お決まりのピンクのヘアーバンドをつけている。
どうして、この人はここまでノリノリなんだろう…。
文也先輩は尊敬してるけど、けど…。
俺、尊敬していいのかな?
それにしても先輩、綺麗だな…。
「ふみ姉さま!! 最高です!」
「ふみ姉さま! あとで一緒にお写真を!」
「ゆう姉さま! 可愛いです!」
「ゆう姉さま! 一回転してください!」
テニスコートの外にはファンクラブの子達が詰め掛けてきていた。
ちなみに俺の格好も白いテニスウェアだ。
髪は今回ポニーテールで、先輩と同じくピンク色の髪留めを使ってる。
着替えてから鏡を見たとき、ちょっと俺自身がやばかった。
思わずその場で一回転して、自分で赤面してたし…。
ううう。自分がこんなに可愛いと男として悲しすぎるよ…。
で、俺の文也先輩が一緒になるとお姉さまというと被る上に、文也お姉さまとか祐介お姉さまでは言い難い上に可愛くないからと「ふみ姉さま」と「ゆう姉さま」と言うことに成ったらしい。
「あー先輩。俺達…」
「祐ちゃん! 男言葉はダメでしょ!」
あ、そうだった。俺…じゃない、わたしは今女装してるから女の子になりきらないとならないんだ。
うっかりしてたわ…。
でも、わたし…って言葉が慣れてきそうで最近怖いんだよね…。
「気を取り直して…。先輩、わたし達なんでテニスなんてしないとならないんですか?」
そうなのだ。
実はテニスウェアに着替えさせらたのはいいんだけど、どうしてこんな事になっているのか説明を受けてなかったのだ。
だけど、その内容があまりにひどいものだった。
「祐ちゃんのテニスウェアが見たかったから☆」
「先輩の…」
わたしはテニスボールを上に上げる。
ボールは一度頂点に来ると落下して来た。
そこをわたしが思いっきりサーブを打ち込みながらこう叫んだ。
「ばかぁぁぁぁぁ!!!」
わたしのサーブはテニスコートを通り過ぎて、フェンスの網にめり込んだ。
その後、わたしはちゃんとした説明をなおから聞いた。
と言うか、なんで始めに説明をしてくれないの?
わたしは説明を聞きながらそんな不満を思っていた。
「と、言うわけで今回、ふみ姉さまとゆう姉さまにダブルスをやってもらいます」
「…。いつも思うんだけど、わたしって何でも屋じゃないんだけど…」
何でも、今度インターハイを掛けた試合があるらしんだけど、その練習相手にわたし達が選ばれたらしい。
理由は、一応男だから。
だったら男としてやらせてくれてもいいじゃないか!!
っと、ちょっと男言葉が入っちゃった。
「おかげで祐ちゃんのテニスウェアが見れるからいいじゃないっ」
ニコニコ顔の先輩はそう言いながら頷いている。
先輩はすっかり女の子。
わたしも本当は見習わないといけないんだよね…。
でも見習っていいのかなぁ…。
「そう言えば、どうして男子テニス部に助けてもらわないの?」
そう。引っかかるのはそこだった。
単に練習をしたいなら男子テニス部を相手にした方がいいに決まってる。
なのにどうして、わざわざわたしが女装してまで?
「簡単です。男相手だとその目がいやらしくて女子には毒なんです」
「わたしだって男よ?」
「お姉さま方はいいんです。可愛いから…(ぽっ)」
何? ぽって何?
結局、それが一番メインなんじゃないの??
わたしはその疑問が一番大きかった。
練習が始まった。
わたしと文也先輩チームと、インターハイを目指す女子チーム。
「いくわよ!」
文也先輩がそう言いながらサーブを打つ。
バシュ!
風を切る鋭い音と共にボールが一瞬で見えなくなる。
そして、そのボールを女子チームの女の子がボールの速度と負けじ劣らずの速度でボールに追いついて打ち返した!
そのボールの速度も凄まじい!
わたしはバッティングセンターで一三〇キロのボールを打ったことがあるけど、比較にならない!
でも、わたしだって何も出来ないままじゃ情けない。
ボールを打った位置、彼女の予想腕力とタイミングを計算。
わたしは瞬時にボールの落下位置を計算すると、その場所で思いっきりラケットを振りぬく。
「はああああ!」
わたしの気合を込めたラケットがボールを捉える。
だけど!
「お、重いぃぃ!!」
ラケットがミシミシと音を立てる。
とても持ちそうに無い。だけど、それで終らすわけには行かなかった。
わたしは更に気合を込めるとラケットを振りぬく。
「やあああ!」
わたしの放ったボールは炎を纏ながら相手コートに落ちていく。
その瞬間、あまりの威力にボールがコートにめり込んだ。
「はあ、はあ、はあ…」
まだ、たった一球目なのに恐ろしい体力を消費していた。
「さすが、ゆう姉さま…。侮れません」
そういう女子がラケットを回しながら再び構えなおした。
その後、某テニスマンガ並みの白熱した試合が続いた。
俺は当然、そんな試合について行けるはずも無く…ということも無く、普通にラリーが続いたのだ。
でも、失念していた。
俺はあの時テニスウェアを着ていたのだ…。
翌朝、俺が登校するとある教室に行列が出来ていた。
その教室はファンクラブが仕切る教室。
そこから嬉々として下敷きを持って帰る生徒達。
ん? 下敷き?
まさか!
俺は慌てて一人の女子に話しかける。
「ねえ、君、その下敷きは?」
「あ、お姉さま! これですか? どうぞ」
その女子は嬉しそうに見せてくれる。
そして俺はその下敷きを見て、わなわなと震えていた。
そこにあったのは俺がボールを返すワンシーン。
当然、激しい動きをするからスカートもゆれる訳で…。
その、恥ずかしくて言いにくいんだけど、俺のスコートが丸見えなのだ…。
ちなみに自分で言うのは悲しいが、何故か自分でもグラビアか何かと勘違いしそうだ。
「な、なあ。ちなみにこれっていくらで売られてるんだ?」
思わず気になって聞いてみる。
「高かったんですよ〜 一枚千円もするんですから〜」
高っ!!
ファンクラブ恐るべし!
「そ、そっか、ありがと〜」
それから他の女子にも声を掛ける。
結果…。
ラケットを構える俺。(いい絵である)
打ち返す俺。(最初の子に見せてもらったもの)
サーブする俺。(サーブの際にスカートが捲くれてる…)
転ぶ俺。(やっぱりスカートが捲くれてる…)
ハイタッチをする俺と先輩。(純粋にいい絵になってる)
ラケットを取りこぼして手を押さえる俺。(何故か色っぽい…)
と様々な下敷きがあった。
…。
……。
俺、男としての資質なし?
先輩を目指し始めて今更気づいた事実だった…。