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第五話・初デートは…男と!?

 わたしは駅前の時計台の下に立っていた。

 薄い青のスカートに白いブラウス、上からは青系の上着を着ている。

 女装チームによる力作のため、とても可愛く出来上がっていた。

 そのせいで何回か男の人に声を掛けられてしまって内心は心の涙でいっぱい…。

 それで、わたしがどうしていきなり女装して、しかも女の子モードでいるのかというと、それは三日前にさかのぼる。


 その日、俺はいつものようにファンレターを読んでいた。

 一応、ファンの子を大事にすることと言う文也先輩の指導で俺は一通一通返事を書いていた。

 でも、その数は毎日五〇通はあるためとても大変である。

 そんな中、親衛隊の女の子が俺の目の前に立った。

「お姉さま、実はお願いがあるんですが…」

「何にかあったのか?」

 少し深刻そうな顔で俺の顔を伺う親衛隊の子。

 それだけに俺は思わずこんなこと言っていたのだ。

 これが不幸の始まりとは思わずに。

「俺に出来ることがあったら何でもするからさ」

「ほ、ホントですか!」

 その顔に笑顔が戻る。

 俺はその戻った笑顔に頷いていた。

「それじゃ、お姉さま。実はデートしてほしいんです!」

 デートをして欲しい。

 その言葉に俺は舞い上がり、さらにOKをしてしまったのだ。


 その結果、わたしはこうして時計台の下にいる羽目になってしまったのだ。

 わたしはてっきり女の子とデートすると思っていたのに…。

「やあ、待った?」

「い、いいえ。まだ来たばかりです」

 わたしの目の前にいるのは大学生の男の人。

 この前のバレーボールの試合で一目ぼれされたらしい。

 そのせいでわたしは女としてデートする羽目になってしまったのだ。

 抵抗はしたんだけど、文也先輩まで乗ってくるとわたしに逃げ道はなかった。

「(先輩…。ちゃんと見張ってて下さいよ!)」

 わたしは文也先輩が近くで待機してくれているということで、我慢していた。

「えっと、名前は祐子だよね?」

「は、はい…」

 本当は祐介なんだけど、祐ちゃんって呼ばれていたのと女の子としてと言う事もあってわたしは今日限り杉田祐子として過ごすことになっていた。

「滝沢さん、で合ってますか?」

「OKOK。それじゃ、祐ちゃん。どこから行こうか?」

 そう言いながら滝沢さんはわたしの手を握って来る。

 わたしはこう体にさーっと鳥肌が立つのを感じていた。

 本当は…。本当は男なのに! どうして男とデートしなきゃならないのさ!

 わたしは心で涙を流すと手を引かれながら映画館に行く。

 最近、女子高生の間で流行している赤い糸の恋という話。

 赤い糸をテーマにした切なくも暖かなラブストーリー。

 ラストがまた泣けるシーンで、わたしは思わず泣いてしまった。

 映画を見終わって、ロビー。

「祐ちゃんって、涙もろいんだね」

 そう言いながら滝沢さんがハンカチを出してくれたけど、わたしは自分のというか文也先輩が用意した女の子のハンカチで涙をぬぐう。

 ちなみに滝沢さんのは汚すと悪いからって断った。

 わたしとしてはあまり男の使ったハンカチを使いたくなかった。

 それからわたしは滝沢さんと昼食をとる。

 ふふふ。この時間だけはわたしは楽しみにしていた。

 だって、食事はおごるから遠慮しないでって言ってくれたから。

 ウェイトレスの人が来て、メニューを聞いてくる。

「俺はサーロインステーキセットを。祐ちゃんは?」

「わたしも同じので、ガーリックソース。あと大盛りポテトフライにチキンバー、デザートにミラクルスペシャルデラックスパフェで」

「か、かしこまりました。復唱します。サーロインステーキのセットを…」

 ウェイトレスの人が去ると、滝沢さんはわたしを見てこういった。

「結構食べるんだね。俺、そういう子好きなんだ」

 …しまった。墓穴を掘ってしまった。

 わたしは敢えてこうすることで、わたしに引いて諦めると思っていたんだけど逆効果だった。

 ちなみに注文したものを難なく食べるんだけど、その食べっぷりに更に惚れたと言われる始末だった。

 その後、いくつかお店を回ったりすると時間はもう夜の八時である。

 そしていつの間にかわたし達は人気の少ないところに来ていた。

「今日は楽しかったね」

「え、ええ…」

 二人並んで道を歩く。

 だけど、何か緊張する感じだ。

 このシチュエーション、嫌な予感がする。

「祐ちゃん」

「きゃ」

 わたしは小さい悲鳴を上げる。

 滝沢さんに抱きしめられていたから。

「な、何するんですか!」

 わたしがそう言いながら力いっぱい引き離す。

 普通の女の子なら引き離せないけど、わたしは一応男だ。

 だから力いっぱい相手を押すことで引き離せた。

「祐ちゃんは力もあるんだね…。ますます気に入ったよ」

 誰か目の前の男を何とかしてくれ!!!

 わたしはそう思いながら抱きつこうとする滝沢さんから逃げる。

「ふふふ、いつまで逃げていられるかな?」

「な、何か趣旨が違ってません? それに俺は男だ!」

 もう我慢が成らない!

 俺は女の子モードを解除した。

「そんな嘘だとバレバレなことは言うなって」

 しかし、信じてもらえない!?

 俺が、男だって言っても信じてもらえないって当たり前か…。

 いつもみたいに完璧な女装だし…。

 俺があまりに逃げ続けるものだから滝沢さんは何か変になった来た。

 こう手つきもいやらしいというかなんというか…。

 って、文也先輩はいつ助けに入ってくれるんですか!

 そんなことより、どうして周りに人が誰も居ないんだ!!

 俺はいろんな意味で泣きながら逃げる。

 そして、俺はとうとう滝沢さんに捕まってしまう。

「もう逃がさないよ」

「離せ! このやろう!」

 向こうも本気なのかこっちが思いっきり力を込めてもびくともしない。

 こんなとき、俺が小柄なのがホント悔やまれる。

「祐ちゃん…」

 そういうと滝沢さんが顔を近づけてきた。

 こ、これはまずい!

 キスするつもりだ!

 俺は何とかして滝沢さんから逃れようとするけど、しっかり捕まえられていて逃げられない。

「くそ、この変態! やめろ!」

 いっそ相手を怒らせれば、やめてくれるだろうと思って叫んだ。

 だが、効果はまたしても逆効果で。

「いいね、その抵抗が堪らないよ」

 そういって、さらに力をこめてくる。

 もう、滝沢さんの唇が目の前に迫ってきている。

 俺のファーストキスが…。

 何も抵抗できない。もう、目を瞑るしかなかった。

 父さん、母さん、ごめんなさい。

 俺は男なのに男に唇を奪われてしまいます。

 そうやって諦めた時だった。

 ゴーンという低い音と共に滝沢さんが転がっていた。

「た、助かった?」

 俺はそういうとその場に座り込んでしまう。

 顔を上げるとそこには文也先輩と親衛隊の子がいた。

「すまん、すまん。うっかりはぐれて探すのに手間が掛かった」

「お姉さま、大丈夫ですか!」

 親衛隊の子はそういうと俺に抱きつく。

 そして、しきりにごめんなさいを連発していた。

 俺は、親衛隊の子を抱きしめてあげると大丈夫だよと言ってあげるのだった。


 その後。

 俺は帰り道を文也先輩と帰っていた。

 ちゃんと男用の着替えを用意してきてくれていて、俺はトイレで着替えたのだ。

 あ、トイレと言っても多目的トイレ。

 さすがにあの格好で男子トイレに入る勇気はなかった。

 なにせ男に襲われるようなところだったのだから。

「全く、本当にキスされるかと思いましたよ〜」

「悪いな。でも、なかなか体験できないことが体験できたじゃないか」

「冗談じゃないです! 俺は男ですよ? 男にマジでキスされたなんていったらシャレにならないっす」

 そう文句をたれる俺。

 しっかし本気でやばかった。

 あともう少しで俺のファーストキスは男に奪われるところだったんだからな。

 親衛隊の子も泣きながら謝ってたっけ。

 とりあえずミッションコンプリートだ。

「しかし…。あのシーンはなかなかおいしかったな…」

 俺の隣で文也先輩が小声で呟く。

 小声だったから俺は前半を聞き逃したけど、それが間違えだったのを後で知ることになる。

「何がおいしかったんですか?」

「あ、いや、あのレストランのサーロインステーキだよ」

「ああ、確かにあのステーキはうまかったですよ」

 こうして、俺の女装でデートな一日が終わりを告げていく。


 おまけ。

 

 翌日。

 俺は登校して昨日の文也先輩の小声の意味を知ることに成る。

「お、お姉さま!! これはどういうことですか!?」

「わたしのお姉さまの唇が!!」

「お姉さまは大丈夫なんですか!」

 そう迫ってくるファンクラブの子達をなだめながら俺は何があったのか聞いてみる。

 そうすると一枚の写真が…。

 それは俺があの滝沢って男にキスされそうになって観念したときの写真だった。

 って、なんで写真が??

 そこで俺は文也先輩の小声の意味に気が付いた。

 おいしいのはステーキじゃなくて、あのシーンことだったんだ。

「先輩はめたな! 文也先輩のバカやろうおおおおお!!!!」

 俺の叫び声は構内にとどろいたという。


 さらにおまけ。


 ここはファンクラブの部室。

「お姉さまのあの時の顔が…あまりに可愛くて」

「確かに、このお姉さま可愛すぎる…」

 例の親衛隊の子もしっかり写真を持っていて、他の親衛隊の子と一緒に写真を眺めていたという。

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