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第四話・理不尽な依頼・バレーボールで女装!?

 俺はその日もファンレターを一通一通見ていた。

”お姉さま、いつも遠くから見ています。もうお姉さまはお姉さまにしか見えません”

”この前、お姉さまを街で拝見しました。凛々しいお姉さまのお姿が見られてわたしは幸せです”

”お姉さまの…”

「はあー」

 俺は複雑な思いをため息という形で吐き出す。

 だってさ、考えてもみてくれ。

 ファンレターやラブレターの類など貰ったことのなかったのに、いきなり貰うようになったんだ。

 ちょっとは嬉しいだろ?

 しかし、その内容は喜んでいいのだろうかと悩んでしまう。

 あの女装は俺の意思だったのは確かだし、やるなら先輩のようにと思っていた。

 そして、男としては悲しきことだとも思う。

 だから複雑なんだ。

「よ、お姉さま」

「ああ、佐々木か…」

 俺の前の席に座ったクラスメートが挨拶をしてくる。

 佐々木利一。普通の男子高校生である。

 たぶん、この高校では俺以外の男は’普通の’男子高校生だろう。

「お姉さま、どうかしたのか?」

「下駄箱に入りきらないファンレターをもらえて嬉しいんだけどさ…」

「お姉さまってのが辛いってとこか?」

「そうなんだよぉ〜」

 俺はそう言うと机にうつぶせる。

 顔だけを上げて、佐々木を見ると俺のファンレターを読んで…笑っていた。

「あははは! いつ読んでも傑作だよな! お姉さま、だぜ!」

「なあ、俺が今、悩んでいるって言ったばかりだよな?」

「それとからかわないのは別だ」

 最悪だ。

 だが、俺の味方もいるわけで。

「お姉さまになってこというんですか!」

「そうです。わたし達のお姉さまをいじめないで下さい!」

 そういうのはファンクラブ親衛隊の女の子達だ。

 ああ、そうなんだ。俺にはファンクラブ専属の親衛隊が取り巻いている。

 下駄箱で俺が拾いきれないファンレターを丁寧に袋に入れてくれる。そしてそれを持って俺の教室まで来てくれるのだ。

 授業中は当然来ないが、昼休みは俺が友達と昼食を食べている後ろでちゃっかり食べていた。

 ちなみにうちのクラスの女子の半数はファンクラブのため、この子たちを注意する人はいない。

 今やファンクラブの実権は先生達をも凌いでいるのだ!

「…お姉さま? 突然立ち上がってどうなさったんですか?」

「あ、いや…。なんでもない」

 俺の解説に力が入ってしまったらしい。

 無意識に立ち上がってしまった。

「それよりお姉さま」

「ん? なんだい?」

 ああ、もう俺はこのお姉さまと言う呼び名になれてしまった。

 もう俺は戻れない世界に足を踏み入れていたのだ。

「お姉さまにお願いがあるんです」

「お願い?」

「はい…実は」

 …。

 ……。

 ………。

「というわけなんです」

「ちょ、ちょっと待った。それで俺がその試合に出るのか?」

「はい。ぜひ!」

「ちょっと待てぃ!」

 俺はどう突っ込んでいいのか分からないが大声を出して講義をする。

 いや、何があったかと言うとそうだな簡単に言おう。

 俺が女装してバレーボールの試合に出るって事なのだ。

 で、どうしてそんなことになったかと言うと…。

 今回レギュラーメンバーが一人怪我をして出られないというのだ。

 と言うか、うちの女子バレーボール部には補欠がいない。

 つまり誰か一人が怪我すると試合に出られないのだ。

「お願いします! 我が校のバレーボール部のためです!」

「いやだから! それでなんで俺が女装しないとならないんだよ!」

 そうさ。女子なら他にもいるんだ!

 俺じゃなくてもいいはずなのだが…。

「我がファンクラブの決定事項です」

「納得できない!」

 っていうかそんな決定事項認めていいのか!!

「文也お姉さまからも支持を得ています」

「うぅっ…」

 しかし俺は文也先輩を出しにされると勢いが無くなる。

 というか先輩はやれと!?

 うぅぅ。先輩の指示となると断るに断れない。

「お姉さま、よろしいですね?」

「っく。先輩が言うんじゃ仕方ない!」

 何が仕方ないんだろうっていうツッコミはこの際無視だ!

 そうさそうさ。

 俺は文也先輩のように…。っく。そのためなら一肌でも二肌でも脱ごうじゃないか!

 俺の気合は遠く、文也先輩にも届いたそうだ。


 そして。

「まさか、お兄さん方まで来ているとは…」

 俺は例の女装専用教室に来ていた。

 試合は我が校の体育館。

 そして、向こうは俺の存在を知らない。だからこそ、俺がこの教室で女装をして出て行こうと思ったのだ…。

「祐介君。何を言っているんだい? 文也が来る以上、俺らも一緒だ!」

 お兄さんがそう言って振り返ると、女装セッティングチームのメンバーが吼えた。

 教室の窓が割れんばかりに振動している。

「そうだよ。祐ちゃん!」

「せ、先輩!?」

 そこにいたのはなんとチアガールに女装した先輩だった。

 黄色いノースリーブのシャツに、膝丈よりやや短めのミニスカート。

 そして肩までのセミロングのウィッグを被っていてとても魅力的だった。

 先輩はその場で一回転してこう聞いてきた。

「似合う?」

「似合いすぎます!って言うかなんで言葉使いまで女なんですか!?」

 俺の言葉に先輩の目が光った。

「ふふふ、甘いよ祐介君! そうよ、理事長の娘の処分以上に甘いわ!」

「って、そのネタ古すぎです!」

「まあまあ、祐介君。なんで女言葉が必要かというとだな。バレーボールでの掛け声で必要なんだ!」

 先輩の代わりに先輩のお兄さんが答えた。

「なんですか、それは!」

 俺が身を乗り出す。

「バレーボールといえば。”そーれー”とか”はい!”とか可愛らしい声が飛び交うだろう!」

「まあ、それはそうですが…」

 ちょっと古い気もしなくもないけど、あながち間違いじゃない。

「それなのに一人だけ”行くぞぉ!”とか”おう!”などと言ってみろ。一発で女装がバレるじゃないか」

「うっ…」

 た、確かに女装はバレるとまずいだからと言っても女言葉だなんて…。

「ほらほら、練習だ」

「って、いつの間に!」

 俺はすでに女装が完了していた。

 先輩と同じくセミロングのウィッグでポニーテールになっている。それから何故かヘアーバンド。

 胸は少し小ぶりの付け乳房が付けられていて、一年生らしい感じになっている。

 極めつけは服装だった。

「なんでブルマなんですか!? この学校はハーフパンツですよ!」

「いいんだ。学校の許可は得ているんだから」

「そ、そんなぁ〜」

 俺は改めて鏡の前に立ってみる。

 白い体育着の上着に、右上には”杉田”と書かれたネームが入っている。

 そして下は体育着をインした状態でブルマが穿かされていた。ちなみに色は紺である。

 最後に白いハイソックスだ。

「こ、これは恥ずかしすぎますよ!」

「じゃあ、ビーチバレーとどっちが良かった?」

 そういうと俺の前には何故か合成された俺の写真が…。

 こ、この絵は恥ずかしすぎてコメントできない!!

 これならこっちの方がマシだよなぁ…。

 って言うか、俺嵌められてる!?

「と言う訳だ。俺も付き合ってやるから練習だ!」

「は、はい…」

 俺は力なく頷くのだった。


 当日。

 わたしはバレーボール部の中に入っていた。

 え? なんで女言葉かって? それは身も心も女になり切るのが女装の極意だ!って先輩から言われたからなの。

 だから、俺…じゃなかった。わたしは女のつもりでいるわけ。

 ちなみに酷いことに、わたしだけ何故か体育着にブルマを穿かされてる。

 周りの女子部員は全員ユニフォームでハーフパンツなのに…。

 これは恥ずかしい…。

「お、お姉さま! 可愛いです!」

「お姉さま! 頑張ってぇぇぇ!」

「ファイトです! お姉さま!!」

 わたしは異様な応援に包まれる中、応援に来ているファンクラブの子達に手を振ってみる。

「きゃあああ! お姉さまがわたしに手をふってくれたわ!!」

「違うわ! わたしよ!!!」

「お姉さま! 後で一緒に写真を!!」

 凄まじい歓声に、バレーボールの応援に来ているのか、それともわたしの女装を見に着たのかさっぱり分からなくなった。

「みんな、今日は助っ人だけどよろしくね!」

「祐ちゃんがいれば一〇〇人力よ!」

「お姉さまがいれば負けませんわ!」

「よろしくね、祐ちゃん!」

 そういうとみんな、わたしと握手を交わす。

「それじゃ、今日は絶対勝つわよ!」

「おおお!」

 わたし達はそういうと試合の開始の笛がなるのだった。


 結果はわたし…ごほ、ごほ。

 改めて…。

 結果は俺達の勝利で終った。

 しかし、身も心も女になり切るのは正直大変だった。

 さっきみたいにいきなり女言葉が出てくるために修正するのが大変なんだ。

 で、試合の流れなんだが、俺は結局男ってこともありサーブでだいぶ点数が取れた。

 相手チームのエースすら俺の重いボールに手こずりなかなかボールが取れないのだ。

 そして、何よりもファンクラブの子たちの応援が殺人的なのだ。

 一部紹介しよう。

「お姉さまに当てたりしたら殺すわ!!!」

「お姉さまが取り易い球を打ちなさい!!!」

「お姉さまのためにみんな死んでください!!」

 以上。

 いや、これ以上は精神をきたすため紹介できないのだ。

 何せ、試合が終る頃には相手チームの女子はぐったりしていた。

 試合の疲れというよりも気疲れと言うのが一番いいだろうと思う。

 それくらいファンクラブの応援(妨害とも言う)は凄まじかったのだ。

 ともかくそんなこんなで無事(だったのは俺達だけ)、試合が終ったのである。


 おまけ。


 それは試合の終った次の日である。

 俺が教室に入ってさあ、授業の準備をしていたときだ。

「そ、それは何だ!!!!」

 俺が見たのは隣の女子が俺のブルマ姿で必死にボールを取ろうとするシーンの下敷きを持っていたところだ。

「ああ、祐介君。これいいね〜 わたし女の子だけどほれちゃった」

 そういいながらうっとりした目をする女子。

 この女子はファンクラブの子じゃないんだが…。

 これだと…。

「お姉さま!!!」

「サインを下さい!!!」

 地響きを立てて、俺の回りにやってくるファンクラブの子達。

 その手には様々なバリエーションの下敷きが…。

「この下敷きにぜひサインを!」

 そういう一人のファンクラブの子をが取り出したのは俺がボールを待ち受けている姿だ。写真はアップにされていて、付け乳房で作られた胸の谷間が写ってまるでグラビアアイドルのような格好だ。

 っていうか、この角度どこから取った!? ってかいつの間に!?

 そ、それより、こんなのが俺だって?

 認められない。

 認めちゃいけない気がする!

「これは俺じゃないぃぃっぃ!!!!!」

 俺の否定の声は空しく教室に響くのだった。


 さらにおまけ。


「なあ、お姉さま?」

 佐々木がそう言いながら俺に一枚の下敷きを見せる。

「なんだよ…。ってその下敷き!」

「いいだろう〜 お前、今度から女装して登校しろよ。もうその辺のグラビアよりいいぞ!」

 悲しいことに男子は男子でやたらと色っぽい格好の俺の下敷きを持っていたのだ。

 はっ! まさか写真部のやつらの仕業ではないか!

「そんなもの! 今すぐ回収してやる!!!!!!」

 俺の叫び声とは裏腹に、下敷きの回収は一枚も出来ないのであった。

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