第三話・意志を継されるもの
俺の通う高校にはとてつもなく恐ろしいイベントが存在していた。
何でも三年前から始まったらしい…。
今年入学した俺にとって、これはとてもつらいイベントだった。
「そういうわけでな、杉田君。君が今年の代表になった」
「そ、そんな理不尽です!」
「これは理事長も御認めになっていることなのだ」
「ですが!」
「君には拒否権がないのだよ。杉田君」
「っく…」
俺に出来る事と言えば拳を握り閉めるだけだった。
俺が可愛いからミスコンテストに女装して出場なんて…。
酷い仕打ちだ…。
こんな学校…入学しなければ良かった。
その後俺が連れてこられたのはある教室だった。
「杉田祐介君だね?」
そういうのはとても綺麗なお姉さんだった。
さすがに俺もドキッとしてしまう。
「女装、いやなのか?」
「え? あ、はい」
綺麗だけど、話し方が男っぽい?
「さすがに俺のときと違うか」
「え? 俺?」
「そ、俺、男だよ?」
「え? ええええええ!」
俺は目の前の女性…じゃない。女装した男の人に大声をあげていた。
そして、このミスコンの何たるかを男の人に教えてもらったのだ。
文化祭当日。
俺は文也先輩に教えてもらった。
女装で女子を倒すべく戦いに参加する意義深さに。
そして感動した!
男でもあそこまで綺麗になれるなんて!
文也先輩はまさに女の中の女だった。
「祐介君。準備はいいかい?」
「あ、はい! よろしくお願いします!」
俺の前には総勢一五名に上るメイクアーティスト集団。
その中には女装した文也先輩がいた。
俺を勇気付けるために、わざわざ今日女装してくれたのだ。
しかし、文也先輩の人気は凄かった…。
あの日、教室から出ると文也先輩のファンの女の子たちが殺到して大変だったのだ。
文也先輩はそれでも威風堂々として女子たちにサインをし、一緒に写真をとっていたのだ。
あの時、唖然としてしまったが、俺も文也先輩のように堂々としたいと思った。
もう女顔とか言って馬鹿にされたくなかった!
回想している間に、俺のメイクなどの女装が終わった。
「うわ…」
俺は鏡に映る自分を見て赤面してしまう。
目の前にいる美少女は誰だ…って。
だけど、これが自分だと認識すると俺は武者震いを起こす。
「どうだい?」
文也先輩が俺の肩に手を載せて尋ねて来る。
「す、凄いです! 俺ってこんなに可愛いんですね!」
自分で言ってて悲しいけど、そう俺は極上に可愛いのだ。
まず、ウィッグで髪の毛でロングヘアーにする。
化粧は薄めがいいと聞いていたが、少し化粧をしただけで俺は別人だった。
唇は薄い赤の口紅がうっすらと付けられている。
胸は何でも特別製の付け乳房。だけど、よりリアルに作られていて感触までリアル。
ただ女の人の胸を触ったことないからこれが本当かは知らないけど。
で、大きすぎず小さすぎない程度になっていた。
とどめは服装である。
「今回は基本に立ち返ったシンプル・イズ・ベストだ!」
そういうのは文也先輩の親戚のお兄さんだ。
お兄さんは拳を握り締めて叫んだ。
「テーマは、草原の美少女だぁぁぁ!」
こうドドーン!!と効果音がありそうなくらい気合が入っていた。
そう、俺の格好は白いワンピース一枚だけである。
髪は日本人らしく黒! その黒いロングヘアーがすらっとしていて、見事なまでに綺麗に仕上がっている。
少し動いただけでサッと髪が揺れて、また元の鞘に納まった。
「俺…負ける気がしないです!」
「そうだろう。そうだろう」
文也先輩は満足そうにうなずいていた。
そして舞台は決戦の地、体育館。
何でも文也先輩がやり過ぎたために、昨年から女子との一騎打ちになったらしい。
女子は女子だけで予選が行われて厳しい戦いを勝ち抜いた美少女が選ばれているらしい。
それだけにとても厳しい戦いが予想されると文也先輩が言っていた。
「緊張するか?」
文也先輩が隣で俺の肩に手を載せる。
「さ、さすがに」
「まあ、舞台に上がったらそのときだけは優越感に浸れるから大丈夫だ」
そして、場内アナウンスが流れる。
会場では歓声が。
「”それではただいまより文化祭恒例となりました。男子も参加!ミスコンテストを行います!”」
司会の人がそういうと会場は割れんばかりの歓声に包まれる。
体育館が…揺れている。
「先輩、凄まじいんですが…」
「こんなの序の口だ」
「”まずは女子代表の飯田ひよりさん!”」
こうして俺のミスコンテストデビュー戦に巻くが上がる。
飯田さんの登場に女子側からの歓声がヒートアップする。
「飯田! 今年はあなたに女子の威厳を頼んだわぁぁぁ!」
「あなたはジャンヌダルクよ! 革命を起こすのよぉぉぉ!」
「全てはあなたのガッツで決まるのよぉぉぉ」
…。女性の応援は凄まじい。
これほど女子が怖いと思ったことはない。
「”そして、今年からは新たに女装してくれる杉田祐介君!”」
「気合を入れて行って来い! この一ヶ月の訓練でお前は女以上の女だ!」
「はい!」
俺は文也先輩に気合を入れてもらって体育館の裾からおしとやかに歩きながら登場する。
スポットライトが俺に当たった。
その瞬間、大歓声が上がる。
「うおおおおお! 超可憐だ! お前! これ終わったら俺の教室に来い!」
「俺たちがお前を可愛がってやるぞ!!!!」
「祐介!! 後でサービスだぁぁぁ!!」
……。先輩が言っていたとおりだ。
男子の声援は自分の身が危険だというのを教えてくれるって。
ああ、母さん。俺、男の恐ろしさを今知りました。
男はあまりに野蛮です!
そして、女子側からも歓声が。
「祐ちゃん、可愛いぃぃぃ!!」
「お、お姉さまの復活ですぅ!!!」
「ああ、またこの奇跡を見れるなんてぇぇ!!」
「お姉さまと呼ばせてください!!!」
……。こ、これが文也お姉さまファンクラブの声援!?
凄い黄色い声援だ!
これはもう一〇〇人力だぞ!
「”それではまず、ひよりさんから中央へ!”」
この後、ひよりさんが中央へ行ってポーズを何回か取ると戻ってい来る。
俺も同じようにして中央へ行った。
そこで男子を落とすためのポーズと、ファンクラブの子達を落とすポーズをそれぞれ決めて戻ってきた。
結果は俺の勝利に終わった。
飯田ひより・二二五票。
杉田祐介・二七五票。
圧倒的というほどではないが、文也先輩からは初めてにしては上等だとほめてもらえた。
文化祭が終わった翌週。
俺が登校すると、とてつもない事がおきていた。
「こ、これは…」
それは下駄箱に入りきらないラブレターと思われる数々だった。
そして、その一通一通の内容を読んで俺は愕然とした。
”今回、女装を拝見して一気にファンになりました! あなたをお姉さまと呼ばせてください。いえ、呼ばせていただきます!”
”祐介さん、あなたこそ真の女性です! 今度良かったら一緒に買い物に”
”新しいお姉さまが誕生して、わたし感激です! わたしの方が年上ですが、お姉さまって呼ばせてもらいます!”
「な、なんだこれはぁぁぁぁぁぁ!」
俺のお姉さま生活はここからが始まりだった。
おまけ。
俺が廊下を通ると、ファンクラブの子たちに囲まれる。
「お姉さま! 文化祭は感激でした!」
「もう、わたしお姉さま一筋で生きていきます!」
「お姉さま、今度わたしの得意なレアチーズケーキを食べてください!」
「ああ、お姉さま!」
……。
こ、これが先輩の言っていたことだったのか。
先輩のように堂々としていたいのは山々だったのだが、あまりの圧倒に俺は思わず叫んでいた。
「俺は男のはずなんだぁぁぁぁ!!!!」
俺の叫びはむなしく校舎に轟いたという。