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第十一話・新たな親衛隊となおの想い

 昼休み。なおと教室で昼食にしていた。

 親衛隊の子達は隣の机を占領して俺の警護に当たっている。

 警護と言っても俺に対してのルール違反を取り締まるのと、俺に近寄る虫を排除するらしい。

「そう言えば、金田に親衛隊って付いてるのか?」

 俺はなおが作って来てくれたお手製お弁当のおかずを食べながら聞く。

 実は正式に金田はお姉さまとして迎えられたのだ。

 だから親衛隊も付くんじゃないかと思う。

 その辺は俺よりなおの方が詳しいから聞いてみたと言うわけだ。

「金田君にも親衛隊は付いてますよ。

 実は親衛隊の規模が拡大する事になって、第一親衛隊がゆう姉さま親衛隊と呼ばれてお姉さまの警護をする事になりました。第二親衛隊が金田君、つまりまこ姉さまの警護をします。名称もまこ姉さま親衛隊と呼ばれます。

 更にそれに伴って統括親衛隊が新設されてわたしが隊長となりました」

「そ、そうなのか」

 何か凄いことになってる気がする。

 統括親衛隊に第一親衛隊と第二親衛隊の新設。

 統括親衛隊もなおを隊長として二人の副隊長と二人の統括親衛隊員で構成されるとのことだ。

「ちなみにどう変わるんだ?」

「はい……。わたしは統括親衛隊長として親衛隊本部にいる事が多くなります。

 親衛隊もそれぞれ十五名体制となり新しい親衛隊長がゆう姉さまとまこ姉さま付きになります。

 わたしは……お姉さまと、裕介君と一緒にいられる時間が少なくなります……。

 お姉さまとしての親衛隊長はこの昼休みが最後なんです」

 寂しそうになおが呟く。

「そんな……。なおと一緒にいられないなんて」

「ごめんなさい。でも、わたしのお姉さまへの想いは変わりませんから」

 何か決意したような表情で俺の目を見る。

 なおは俺の恋人でもあるんだ。

 こんな事で二人の絆は壊れないはず。

「そうだな。俺達の関係は今まで通りだな」

「はい!」

 なおはそう嬉しそうに返事をしてくれた。

「桐島統括親衛隊長、もういい?」

 そこへ隣で食べていた親衛隊の一人がなおの横に立つ。

 御堂恵子先輩だ。二年生で親衛隊の一員でもある。

 髪はふわっとしたボブカット。

 なおよりも背が少し高くて女の人として好感が持てる感じの人だ。

「御堂先輩。いえ、御堂第一親衛隊長でしたね。後はよろしくお願いします」

「ええ。わたしに任せて。今日からわたしがお姉さまをお側でお守りするから」

 なおは立ち上がると御堂先輩にお辞儀をする。

 俺に一度視線を向けると申し訳なさそうに教室から出て行ってしまった。

 俺は統括親衛隊長としてのなおをただ見送る事しか出来なかった。


 親衛隊としては御堂先輩も優秀だった。

 俺に付かず離れずで絶妙なポジションにいる。

 しかも隙あらばと俺に告白してこようとする非ファンクラブの子をやんわりとガードし、ファンクラブの子へも秩序ある行動を促していた。

 俺への気配りも良く出来ているし、さすがなおの後継だと感心した。

「お姉さま、本日分のファンレターです」

「ああ、ありがとう」

 そう言われて渡された三十通のファンレター。

 実はファンクラブの規約が改正されていてファンレターの受付は一日三十通に制限されたのだ。

 しかも皆、公平にファンレターが出せるようにと整理券が配られると言う配慮まで。

 逆を返すと一日三十通はほぼ確実に俺の手に届けられるのだ。

 ファンレターを一通一通読んでいく。

 いつもの事だが俺への憧れに関しての事がほとんどだ。

「お姉さま、どうぞ」

 机にお茶が置かれる。

 お姉さまになってからファンレターを読んで一息つこうかと思うとこうしてお茶が出てくるのだ。

 俺が休憩しようとするタイミングが分かっているんだからさすがは親衛隊だと思う。

「なおもそうだったけど、俺が休憩したいタイミングって分かるもんなの?」

「ええ。わたし達はお姉さまをサポートするのも役割の一つだからちゃんとその兆候は分かってるの」

「凄いもんだな」

 出されたお茶を啜りながら再びファンレターに目を落とすのだった。

 放課後はファンクラブ室によってなおと少し話をする。

 お姉さま成りたての金田にもお姉さまの振る舞いを教えたりとかしていた。

 ってお姉さまの振る舞いって言うとあれだが、要はファンクラブの子との接し方やファンレターの扱いだったりである。


 そんな日常が一週間くらい経った日、俺は朝早くになおに呼び出されていた。

 場所は体育館裏である。

 時間は七時半で、朝練をする運動部以外は来ていない。

 体育館裏に行くとそこになおが壁に寄りかかって待っていた。

「なお」

 なおを呼ぶと俺の方に振り向いて泣きそうな表情をすると抱きついて来た。

「な、なお、どうしたんだよ」

「裕介君、裕介君!」

「なお……」

 何だか良く分からないが、俺はなおを抱きしめてやる。

 一体どうしたと言うんだろうか?

「なお、どうしたんだよ?」

 俺がそう尋ねるが黙ったまま首を横に振るだけだ。

 だけど何も無いわけが無い。

「俺はなおの恋人でもあるんだよ。言ってくれないと分からないって」

 なおが統括親衛隊長になってから忙しいのか一緒に入られる機会が少なかった。

 だから俺は敢えて恋人と言うところを強調した。

「……嫌なんです」

 ぼそりと呟く。

「え?」

 良く聞こえなかったから聞き返すと今度はハッキリと言う。

「裕介君の傍にいられないのが嫌なんです!」

「なお……」

 なおは更に力を込めて俺に抱きつく。

 なおが泣いているのに俺は嬉しかった。

 泣くほど俺の事を思ってくれていたからだ。

「なお、ありがとう。そう思ってくれて嬉しい」

「御堂先輩が裕介君と一緒にいるのを見ると苦しいんです。

 本当はわたしが隣にいたはずなのにって。

 でも、会長から統括親衛隊長に指名されて嫌だって言えなくて……。

 お姉さまたちを守るためなんだって。

 裕介君を守るためなんだって。

 言い聞かせてました。

 でも、やっぱり苦しいんです」

 独白だった。

 ここまで思われている俺は本当に幸せ者だなと思う。

 女装してお姉さまって呼ばれるような存在なのに、こんなに好きでいてくれるなんて。

「なお、確かに立場は変わっちゃったけどさ。俺たちは恋人だから。

 だから休みの日とかもっとデートしよう。

 学校にいる時は仕方ないけどさ。

 外でならいいだろう。

 放課後さ、待ってるから一緒に帰ろう」

「うん!うん!」

 俺の言葉になおは力強く頷いていた。

 まさかこんなに思いつめているとは分からなかった。

 俺も彼氏としてはまだまだだなと思う。

 こうして新しい日常はなおとの関係も深めてくれるのだった。

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