表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

第十話・臨時ミスコンと打ち砕くプライド

 臨時ミスコンは予想通り理事会の全会一致で決まった。

 金田が落ち込むのではないかと心配したが意外に冷静だった。

 心配して様子を見に来た文也先輩が金田の様子を見ると鋭い目つきで言う。

「あれは俺が初めて女装でミスコンに臨んだ時に似てる」

 先輩が初めて女装したときと?

「一体、どういうことですか?」

「俺は女顔ってことで随分とからかわれて来た。

 祐介もそうだと思うが、女顔で彼女も出来なかったはずだよな?」

 頷いて答える。

「俺の時は、だったら女達のそのプライドをぶっ壊してやろうって思ったんだ」

「先輩……」

 俺の時は励ましてくれたからむしろ文也先輩が目標になってた。

 言われてみれば普通はそうだ。

 悔しいし、ふざけるなって思うもんだ。

 だけど俺は先輩のおかげでそうは思わずに楽しんで出来た。

 けど金田は違うはず。

「今回のミスコンは過去最高の得票数を得る可能性がある」

 先輩は金田の静かな姿を見てそう言う。

 俺はまるで荒らしの前の静けさのように思えるのだった。


 ミスコン当日。

 控え室で俺達は金田の女装を見て言葉を失っていた。

「まさか、ここまで可愛くなるなんて思いませんでした」

 金田はそういうとにっこりと笑む。

 破壊力は半端ではない。

 思わず結婚してくれ!と言ってしまいたくなるくらいだ。

「ここ近年で最高の出来だ! なあ、みんな!」

 お兄さん方が振り向く先には女装メイクチームの人たちだ。

 みんな雄たけびを上げながらその力作に感動していた。

「今回のテーマは、ずばり花園のお嬢様だぁ!」

「おお!」

「だからこんなに可憐なのね」

「凄い過ぎる」

「まこちゃん、可愛い」

 みんな口々に感動を口にする。

 今回の金田は黒いロングストレートのウィッグに、前回同様の薄い桃色の口紅で唇はぷるっとした感じに仕上がっている。

 ファンデーションは薄めで尚且つ自然なメイクになるようになっていて金田と言う素の良さを女性らしい方向に最大限に活かされている。

 雰囲気的にはどこかの令嬢と言えるような雰囲気だ。

 服装は大人の女性を思わせるライトグレーのスーツの上と薄いピンクのワンピース。

 スカート部分がフレアになっていて大人の女性と可愛らしさを両立した形だ。

 胸元にはバラを象ったブローチでアクセントが付けられてお嬢様、現代の姫のような仕上がりだ。

 そして金田の笑みだ。

 これがまるで王族などの言葉が合うのだ。

「杉田君、どうかな?」

「物凄くいいと思う。たぶん俺の女装よりもいいと思うな」

 微笑みながら尋ねてくる金田にドキリとしながら俺はそう応える。

 悔しいと言うのも変だけど、女装する俺からしても可愛いと思うしたぶん俺以上だと思う。

「これで勝てなきゃどんな不正があったんだって言いたくなるくらいだよ」

「そんなに可愛いんだ? なんか自信付くな」 

 嬉しそうに笑う金田は素で女の子じゃないかと思った。

「わたしもここまでとは思いませんでした。ゆう姉さま以上です」

「正直、俺も越えられたかもな」

 なおと先輩もそう感想を言う。

「彼の勝利は間違いない!」

 お兄さんが拳を握って力強く叫ぶのだった。


 今回の臨時ミスコンは女子生徒側にも事前通達が行われていて、二週間の準備期間があった。

 準備期間は女子側の代表選出のためである。

 毎回、苦渋を味わっている女子側にもチャンスをとの事であった。

 この二週間、慌しかったの確かだ。

 女子達による最強女子の選出を行うのだ。

 ここ数ヶ月間で可愛くなった女子やメイクを施すと可愛い女子を選出を各クラスから一名を選出。

 学年別で一番を決めて三人に代表候補が絞られる。

 そして三人による決選投票によって今回も最強の刺客が選出された。

「体育館にお集まりの皆さん! 臨時・女装男子も参加ミス・コンテストを開催です!

 さあ、今回は杉田君ではなく新たな女装男子、金田君が参戦!

 迎え撃つ最強女子は三年生の芹沢りえさん!

 今回も熱い戦いの火蓋が切られました!」

 司会の第一声に会場内は熱気と歓声で大きく揺れた。

「やっぱり凄いよね」

 と呟くのは金田だ。

「この前はこの会場の中だったからあまり気にしなかったけど参加側は緊張するね」

「気にするなって、俺の時もそうだけど舞台に立つと優越感に浸れるさ。ね、先輩」

「そうね!」

 いつの間にか女装した女の子モードの文也先輩がウィンクする。

 うっ……。

 先輩も可愛いな。

 金田を励ますと言ってあの後、女装したのだが大人の女性の雰囲気を出していた。

 ロングヘアーのウィッグは後ろで束ねられている。

 服装はブラウスに黒い膝丈までのスカートに同じ色のカーディガンだ。

 俺はちなみに女装しなかった。

「僕も先輩や杉田君みたいになれますか?」

「もちろんよ! 保障してあげる!」

 先輩のお墨付きで金田は頷いて会場を見据える。

「それでは! 今回参戦の金田君の入場です!」

「さあ、行って来て! この二週間でまこちゃんも立派な女性に引けを取らないから」

「はい、行って来ます!」

 金田が会場中央へと足を運ぶ。

 金田の登場に会場は一際は大きい歓声が上がる。

「金田! すげえ可愛いぞ!」

「可憐だ! 可憐過ぎる!」

「もう男でもいい! 俺と付き合ってくれ!」

 と男性陣からは激しい歓声と言うか雄たけびが聞こえてきた。

 それに対して金田は笑顔を一つ男性陣に向けて手を小さく振る。

「うわぁぁぁぁ!」

「ダメだ! 俺、もう女装男子しか好きになれないかもしれない!」

 男達が悶えた。

 罪な金田。そして余裕がある。とても、初めてとは思えないくらいだ。

 そしてファンクラブの子達。

「お、お姉さまです!」

「奇跡が一年に二回も見れるとは思わなかったわ!」

「まこ姉さまって呼ばせて下さい!」

「金田君、可愛い! もう明日から女子の仲間入りしちゃおうよ!」

 大興奮だ。

 とりわけ同じクラスの子が意外にノリノリである。

「それでは、今回迎え撃つ最強女子芹沢さんの入場です!」 

 今回は紹介があった三年の芹沢りえと言う女子。

 少し大人びた雰囲気にそれで居て幼さが完全には抜け切らない絶妙な雰囲気を持っている。

 髪はウェブの掛かったセミロングで少し茶に染めていた。

 服装は黒いパーティー用のカシュクールワンピースでスカートが二段ギャザーになっていて右サイドを花柄のシャーリングされていてリボンが付いている。

 可愛らしさとセクシーさを両立されたデザインだ。

「りえ! 全てはあなたに託したわ!」

「りえ先輩! 女子の、女子の威厳を頼みました!」

「芹沢さん! 女子の誇りはあなたに全て託したわ! 女子の意地を見せてあげて!」

 女子側は気合が十分だ。

 毎回、苦渋を味わっているだけにその気迫は年々凄まじくなっているらしい。

 そして男子。

「芹沢! 好きだぁ! 付き合ってくれ!」

「やべえ、すげぇ可愛いぞ!」

「芹沢! 俺にサービスしたら無条件で内申書を良くしてやる!」

 と言う具合だ。

 毎回、良からぬ事を考える教師がいるのはけしからん。

 なおを通してファンクラブ経由で理事会にあの教師の処分をお願いせねば。

 そして二人のアピールタイムが始まる。

 と言っても前回と同じで会場中央へと伸びるところを歩いて戻ってくるだけである。

 ファッショショーのような感じでそこで一度ポーズを取って戻ってくるのだ。

 最初に金田が優雅に中央へと進み、そこで恥じらいの入った笑みを向けて戻ってくる。

 この時、ファンクラブと男子が悶絶したのは言うまでもない。

 芹沢先輩は堂々とした態度で中央へ進み、余裕の笑みを見せて戻ってきた。

 女子からの声援が凄かったのは当然、男子からも少しため息が漏れた。

「それでは、投票をお願いします!」

 ついに投票が始まった。

 

 結果は俺の時よりも得票率を伸ばしての圧勝に終わった。

 芹沢りえ、一七〇票。

 金田誠、三三〇票。

 過去最高得票率で金田が勝利を収めたのだった。


 ミスコン後、金田がわずかに上気した表情で言った。

「杉田君が言った優越感、分かった気がするよ」

「そうか。俺も先輩に言われて分かったけどあそこに立っていると一時的にスターになった気分になるんだよな」

「そうだね。まさか僕の女装であんなに盛り上がってくれるなんて。

 僕、自分に自信が付いた気がするよ」

「明日から大変だぞ」

「大丈夫だよ。杉田君も一緒だから」

 その笑顔は本当に女の子顔負けだった。

 そして翌日から大量のファンレターにどうしたらいいのかと聞きに来る金田が居るのだった。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ