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08.トスキア

 ――さぁ、これからどんな冒険が待っているのだろうか。


 どんな魔物に出会い、戦うのだろうか。

 こんなことになるのなら、メジャーなRPGものくらいやっておくんだった。

 あの、スライムや魔王が出てくる有名なゲームの一つくらいは、クリアしておくべきだったかもしれない。


 あ、でもそれだと魔王は倒されてしまうからダメか。



 そんなことを考えながら旅立ったけれど、その日のうちにビートは「さぁ着いた」と言ってその村の宿を一室借りた。


 そこは以前大熊蜂(べアービー)を売りに来た村、トスキアである。


 なんだ、案外近かったな。と、落胆する思いだけど、ここである程度お金を稼いでから本格的に出発する予定のようだ。

 討伐依頼や素材の要請が出ている魔獣を倒し、旅の資金を稼ぐ。

 つまり、ここトスキアには一時的に滞在するだけのようである。


 それに、ビートはなんだかんだ言いつつ、離れる前にこの村の人たちの役に立ってあげたいのではないかと思った。

 ビートがいなくなり、強い魔獣がこの村を襲えばひとたまりもなく村の者たちは殺されてしまうだろうから。


 というわけで、前回もお世話になった気の良い男――名をオジルというらしいが、彼から討伐要請の出ている魔獣の情報を聞き出し、ビートは数日かけてそれを片っ端から倒していった。


 もちろん魂と魔力の回収も忘れない。

 魂の抜けた本体はいちいち村まで運ぶのが面倒なので、それはオジルさんの部下に頼んで回収してもらう。


 大熊蜂(べアービー)も何頭か見たけど、オジルさんの話によるとやはりあの尻尾には猛毒があり、無抵抗の亜人程度では刺されると一瞬で死に至るらしい。

 けれどそれは武器の素材として使えるようだ。

 ビートは毒を漏らすことなく討伐するので、その価値を保ったまま出荷できるのだそうだ。



 宿は、お金を稼ぐための滞在なので安いところを選んだ。

 三人(二人と一匹)で一部屋だけど、宿屋のご厚意で一番いい部屋を用意してくれた。

 まぁそれでも古宿という感じだけど、正直ビートの小屋よりはマシである。ベッドも二つあるしね。


 食事は宿屋に併設されている食堂で食べている。

 この世界の安い定食屋さんという感じだ。

 やはり私が住んでいた日本の料理には劣るものの、肉をただ焼いて塩をまぶすものよりは味わい深い。


 本当はそろそろ味噌汁が恋しくなってきたんだけど……贅沢は言えない。


 とにかく、ビートは誰よりも強かった。この村の中では、まるで英雄扱いなのである。



 トスキアに滞在して数日。


「明日、この村を出る」


 宿屋で夕食をいただいているとき、ふとビートが言った。


 資金も貯まり、この辺りで力のある魔獣はある程度討伐しきったようだ。


「……いよいよ本格的に冒険が始まるのね」


 ゴクリとスープを飲み込んで、私は気を引き締め直した。



 ドタドタドタ――!!


「ビイトさん!! いるか!?」


 そんな中、突然オジルさんが物凄い剣幕で私たちの前に走ってきた。


「どうしたんですか、そんなに慌てて……」

「鉱山に、大猛猿(ラージコング)が出たんだ! 鉱石の発掘に行ってた奴等が何人かやられた!」


 大猛猿(ラージコング)? オジルさんの慌てっぷりを見る限り、なんだかヤバそう。


「うちの村の奴等じゃ何人でかかっても敵わねぇ! 頼む、ビイトさん! あんたが明日発つつもりなのは聞いたが、どうか倒してから行ってくれないか? もちろん礼は弾む!」


 ビートの前でガバッと膝を着き、床に置いた両手の間に頭を下げるオジルさん。

 必死な様子がひしひしと伝わってくる。


大猛猿(ラージコング)ね……いいだろう。出発はそいつを倒してからだ」

「本当か!? ありがとう、ビイトさん!!」


 少し楽しそうに口元を持ち上げて軽く受けるビートに、オジルさんは顔を上げて彼の手を掴む。


 きっと今までの魔獣より強いんだろうな。そんな予想ができるけど、ビート一人で大丈夫なのだろうか? と同時に心配にもなる。


 安堵すると、再び慌てた様子で帰っていくオジルさんの背中を見送ってから、私はそっとビートに問いかけてみた。


「この村の人たちが何人でかかっても敵わないって……いくらなんでも危険なんじゃない?」

「だからいいんじゃねぇか」

「え?」


 もしビートが負けたとしても、この村の住民じゃないから構わないのだろうか。そんな私の心配を他所に、やはりビートは楽しそうに笑って言う。


「強ければそれだけ大きな魂を狩れるだろ?」

「そうかもしれないけど……でも、」

「なんだよ、俺が負けるとでも思ってんのか? 早く魔王になりてぇし、それくらいさっさと終わらせてやるさ」


 自信満々に言いながら「な、ルウ」とそこに伏せていたルウの頭を撫でるビート。


 ルウはあまり興味がなさそうにしているけれど、それはビートの強さを信用しているからなのだろうか。


「怖ぇならお前は留守番してろよ、どうせ人間のお前がいたって役に立たねぇし」

「む。何よその言い方! 私も行くわよ、一人で待ってる方が不安だもん」


 多分大丈夫。ビートは今までだって簡単に強い魔獣を一人で倒してきたのだから。


 この会話を聞いていた者がいたことにも気づかずに、私は野菜スープをかき込んだ。

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