表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/62

14.ベノムニュート

 今回の討伐は、ギルドを通さない非正規の依頼である。

 その分報酬は大きいらしいけど、危険な仕事も多いとオルガンスさんは危惧していた。


 ギルドからの依頼は危険度が設けられ、自分に合った仕事を選択できる。

 登録者であれば依頼を受ける前に魔獣を討伐し、その後素材等を持ち帰って報酬を得るというやり方もあるが、登録が無いと報酬はもらえない。


 情報屋は依頼主から訳ありの者に直接仕事を流している。

 一部には裏ギルドと呼ばれる集まりもあるらしい。


 正規のギルドより早く動けることが多かったり、ギルドに登録できない強者がいたりするので、こちらに仕事を依頼する貴族や地主も結構多いそうだ。


 つまりギルドのライバル的な存在になる。


 まぁ、ビートは強い魂が収穫できるのならなんでも良さそうだけど。


 ともかく、大毒蠑螈(ベノムニュート)討伐のため、早速湿地へと向かうことになったのだ。



「なんか不気味なところね」


 町から北へ進むと、建物や道が整備されていない森林地帯に出た。更に進むと、辺りは薄暗く、霧が出始める。


 湿地帯が近いのだろうけど、いかにも魔物が出そうな感じ。


「大丈夫ですか、カナデさん」

「うん……」


 オルガンスさんに声を掛けられ頷くも、足場も悪く、さすがに少し疲れてきた。


「俺に乗れ」

「えっ、でも……」

「構わない」

「……ありがとう」


 すると、隣を歩いていたルウが立ち止まり、私を背中へと誘う。

 ビートもそうしろと言うように頷いたから、私は素直に甘えさせてもらうことにした。

 休憩を取っていては日が暮れてしまう。だったらきっと、この方が迷惑は少なく済む。


 ルウの背中は温かくて気持ちが良い。

 この感触……久しぶりだなぁ。

 

 つい、久しぶりのもふもふを堪能し、しがみつく。


「……急ぐか」

「ひゃ……っ!」


 そんな様子を見てかはわからないけど、足手まといの私をルウに預けたビートが走り出すと、遅れを取らないよう、二人も走り出した。


 私は落ちないよう、必死でルウにしがみつく。


 まったく……、魔物とは本当に元気である。

 一体どれだけ体力があるのだろうか。



 それから間もなく、湿地帯に到着するとビートたちは再び進む速度を落とした。私もなんとか振り落とされずに耐えたのである。


「ビイトさん、あちらに誰かいます」

「ああ、行くぞ」

「わぁっ!」


 霧が濃く、視界が悪い。けれど二人は何かを感じたらしく、再び走り出す。気が休まる間もなく、再びルウにしがみついた。



 *



「くそ、どれだけ湧いてくるのよ、コイツら!!」


 霧の中から姿を見せたのは、二人の男と、一人の女。


 男は鋼のような鎧の装備を身に纏い、剣や杖を手にしている。女は、二人に比べて軽装だった。


 そして池のようなところから、何かの生物がウネウネと這い出て、三人を襲っている。

 大きなワニのような……黒地に赤い斑点が浮かんでいる、ずんぐりした体と短くがっしりした四肢の生き物。

 あれが大毒蠑螈(ベノムニュート)だろうか。


炎柱円環(フレイムサークル)!!」


 女が叫ぶと、一面に炎が出現した。魔法だ。王道の、火炎魔法だ!!

 かっこいい……!!


 興奮を覚えつつ観察していると、炎を浴びた大毒蠑螈(ベノムニュート)が「ギャ、ギャ、」と金属を擦り合わせたような奇妙な声を上げて苦しみだした。


「さっさとくたばりやがれ!!」


 そして、炎から逃れてきた少し大きめの大毒蠑螈(ベノムニュート)を、剣士の男が斬りかかる。やったように思えたのだが、


「う、うわぁ!!」


 斬られて傷ついた皮膚は、すぐに再生して見せた。

 再び振り下ろした剣が大毒蠑螈(ベノムニュート)の足を切断するも、あまり効いていないようだ。

 すぐに男を威嚇すると、乳白色の塊が放たれた。


「た……、たすけ……!!」


 それを受けた剣士の男は、助けを求める声を上げたのとほぼ同時に蒼白の顔で倒れ込み、ガクガクと不自然に痙攣を起こす。


「くそぅ、これでも喰らいやがれ……!!」


 それを見て今度は杖の男が大毒蠑螈(ベノムニュート)に向けて光の玉を放つ。これも魔法だろう。女の方とは違い、いかにも魔法使いっぽい杖を持っているのだ。


 光の玉を受け、大毒蠑螈(ベノムニュート)は苦しんだ。

 しかし、これでは致命傷にはならないようである。威力が弱い。数を打とうにも、遅い。


 ――ああ、あの男の魔力程度では勝てないだろう。


 直感で私は悟った。


 そして、案の定後からやってきた大毒蠑螈(ベノムニュート)から放たれた乳白色の塊を体に受け、魔法使いの男も倒れ込む。



「ね、ねぇ、ルウ、なにあれ……ヤバいって」


 ルウの背中で気分が悪くなっている私に、ルウもそれ以上近づくことなく口を開いた。


「あれが大毒蠑螈(ベノムニュート)だ。耳の後ろから猛毒を放つ、蠑螈(イモリ)の化物だよ」

「本当に化物なんだけど……」


 猛毒ってことは、あの男たちは毒を喰らって死んでしまったのだろうか……。

 人(人間ではないのだろうけど、見た目は人型の者)の死を目の当たりにし、目眩がする。


 剣では倒せなかったようだし、ビートでも倒せないのではないだろうか。

 不安と恐怖でどうすることもできない私は、ただルウにしがみつくだけ。

 その感情を読み取ってくれているのか、ルウも動くことができずにいる。


「もう、なんなのよ……使えないわね!」


 仲間が殺られて不味いと感じたのか、残された女は再び炎を放つと大毒蠑螈(ベノムニュート)を足止めし、自らは退却することに決めたらしい。こちらに向かって走ってくる。


「誰か知らないけど、貴方たちも早く逃げた方がいいわよ!」


 そして私たちの存在に気づくとそう声をかけてきた。


 確かに、ここは一旦引いた方が良さそうだ。


 というか、そうしたい!!


「ねぇ、ルウ」


 同意を求めようと窺うも、ルウの視線はビートに向いていた。

 私の視線も自然とそちらを向く。


「ちょっとあんた、何して――」


 女の前に出ると、ビートは追ってきていた大毒蠑螈(ベノムニュート)に対峙し、腰に佩いている太刀に手を掛けた。

 その口元には笑みが浮かんでいる。


 ザシュ――ッ


 空気を斬るような一撃だった。


 女を追ってきていた三体の大毒蠑螈(ベノムニュート)が毒を吐き出す前に、ビートが大きく太刀を払った。


 まだ少し距離があったはずなのだが――


 そのずんぐりとした体は、同時に上下真っ二つになったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ