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13.情報屋

「でも情報屋なんて見てわかるものではありませんよ? さすがに私にもそのようなコネはありませんし」


 言いながら、オルガンスさんは麦酒を一口含み、喉を潤わせるように飲み込んだ。何かを誤魔化したいというか、避けようとしているように見える。


「……なんですか?」


 そして、ビートの怪しい笑みに眉を寄せる。


「だからお前に頼みたいんだよ。俺の役に立ってくれるんだろ?」

「……やはり、魔騎士を言い当てたのは不味かったですね」


 はぁ、と深く息を吐き、オルガンさんは降参するように言った。

 オルガンスさんには〝鑑定〟のスキルがあるそうだ。ビートの空間操作や物質操作のように、誰にでも簡単に使えるわけではない特殊な能力のことをスキルと呼ぶ。

 鑑定の力を使えば、隠していても相手の種族や職業がわかるのだとか。

 オルガンスさんは薬学を学んでいく上で鑑定のスキルを身に付けたらしく、植物の鑑定は比較的簡単にできるようになるのだとか。

 そしてその応用で魔物にも使えるようになった。鍛えてスキルを強化すれば更に様々なことがわかるようになるらしい。


 まだまだ修行中ですよ、と謙遜して見せるオルガンスさん。

 ギルドの受付にも大抵同じ力を使える者がいるため、種族を偽ることはできないらしい。


 つまり、この先ビートが悪魔であり、私が人間であると気づいてしまう者が出てくるということを覚悟しておかなければならないのだ。


 大きな町に出れば気づく者も増える。ビートは初めからその覚悟をしていたようだけど、一体私が人間だとバレるとどうなるのだろうか……。


 気にはなるけれど、それはまた今度聞くことにする。


 ともかく、今はその力でこの場に情報屋がいないか探ってくれと、ビートはそう言っているようだ。


 一人一人見ていくのはさすがに労力を使うし、あまりジッと見ていると怪しまれるので気が進まなかったらしいのだが、必ず役に立つと言ってしまった手前、オルガンスさんは断れない立場なのである。


「仕方ありませんね」

「助かる。お前を仲間にして良かったよ、オルガンス!」


 どう見ても嫌々頷いているオルガンスさんに、ビートはカラカラと笑って見せた。


「だが大方の見当はついている。あの男とあっちの奴等、さっきから周囲を気にしてコソコソしてやがって、いかにも怪しいんだよ」

「それは助かります。では、見てみましょう」


 言うと、オルガンスさんはそちらの席に顔を向けた。特に何かが起きるということはないけれど、一瞬彼の目が鋭く光った気がする。


「……さすがはビイトさんですね。あの、中央にいる帽子の男が情報屋のようです」

「やっぱりな」



 めぼしい人物が見つかり一安心したのか、ビートはようやく麦酒に口をつけた。

 そして空になった皿を見て「俺のチーズは?」と聞いてきた。食べていいと言ったのはビートである。私は何も悪くない。



 *



「よぉ、旦那。いい仕事入ってねぇか?」


 先に店を出ると、情報屋を待ち伏せした。

 仕事が纏まったのか、上機嫌に出てきた男をすかさず店裏へと引っ張り、脅すにも近い格好で問うビート。


「なっ、なんだよあんた、急に……! 仕事が欲しいならギルドに行きな!!」

「そんなつれねぇこと言うなよ」


 ビートよりも背の低い、ドワーフと思われる男はビートの威圧するような姿勢に完全に怖じ気づいている。


「俺がお前に聞いてる意味、わかんだろ?」

「……金ならないぞ! 小僧が!」


 ビートに凄まれているというのに強気の姿勢を崩さない男。なかなかの度胸である。しかし、ビートを睨み付けるその瞳が、帽子の下で怪しく光った。


「……まさか、あんた悪魔か!? それも下級じゃないな!?」

「ふぅん。そういう旦那もその目は節穴じゃないってわけか」


 鑑定持ちか。オルガンスさんほどの性能がないのか、その言い方は確信的ではないにしろ、ビートが悪魔であることは見抜いた。

 仕事相手のこともきちんと見定めているのかもしれない。ギルドで働いていないのは何故だろう……。


「当たりか。悪魔が俺に何の用だ。魂ならやる気はないぞ!!」

「お前の魂なんかいらねーよ。それよりもっとでかい仕事を知らねぇか?」

「……見ない顔だが、あんた何者だ? どこから来た」


 チラチラと、ビートの後ろに控えている私たちに目配せしながら、男はビートに問う。


「……トスキアより西の森だ」

「トスキアって……じゃあまさか、あんたがあの大猛猿(ラージコング)を一人で討伐したっていうトスキアの英雄か!?」

「……」


 目を見開いて興奮気味に言う男から唾が飛び、ビートは顔を顰めた。


「最近トスキアからやたらと質のいい魔獣がギルドに納品されていて、終いには大猛猿(ラージコング)の親玉まで一刀で倒しちまった奴がいると専ら噂になっていたんだ。やったのはあんたか!」

「……まぁ、な」

「そうか、あんたが……! 今度はバナーレに……。いや、あんたのおかげでこっちは大赤字だったんだぜ!?」

「大した量は狩ってねぇよ」


 大袈裟に騒ぐ男に、ビートは怠そうに答える。


「そういうことなら是非あんたに頼みたい仕事があるが、引き受けるか?」

「その為に待ってたんだ」

「うむ。ここから少し北に行ったムーアン湿地で、最近大毒蠑螈(ベノムニュート)が増えているらしい。ギルドの奴らも対処しかねている。あんたがさっさと退治してきてくれりゃあ、かなりの大金が入るぞ」

大毒蠑螈(ベノムニュート)にそんなに手こずってるのか?」

「ああ……、それがまだ情報が少ないんだが、相当でかいのがいるらしい。討伐しに行って戻って来れた奴は少ないんだよ。生きて戻れても重傷でろくに話せないか、逃げ帰った奴のどっちかだからな」

「へぇ……重傷ねぇ」

「やめておくか? まぁあんたが本当にトスキアの英雄なら、他の仕事を紹介してやってもいいが、どっちにしろまずは実力を見せてもらわねぇとな」


 この男、なかなか抜かりない。ビートが噂の人物であると信じたのか不明だが、うまく餌を垂らし、ビートが食いつくように導いている。


 まぁ、トスキアから来た中級悪魔ということで、おそらくは信じているのだろうけど。


「行くに決まってんだろ」

「……そうか。では、早速頼むとしよう」


 そして案の定、ビートは怪しい笑みを浮かべて頷いたのであった。

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