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トランスpt.  作者: 夢のもつれ
第2章 旅は道連れ
6/14

6.春の旅はチュールスカートで

 自分の部屋にやっとこさ戻ると、はあはあと息が上がって苦しい。若いくせになんだこれ。ジョギングくらいしろって。


 買ってきたものを冷蔵庫にしまう。お茶もミネラルウォーターもスポーツドリンクもない。全部飲んでしまって、ビールしかない。しかし、今、外に出るのは危険だ。買ってきたカマンベールチーズをつまみにビールを飲むことにした。…


 あ、19歳だからまずかったかな。でも、昔はそんなにうるさく言わなかった。大学のコンパで19歳の先輩が酒に弱いくせに飲むもんだからひっくり返って、救急車やパトカーが来てるのにぼくらがまだはしゃいでたら、警官に、

「未成年に飲ませるんじゃない!」って叱られた。それくらいのものだった。…なつかしいな。


 あれ?あの頃に戻った?しかも誰しも惚れる(に違いない)美少女に。…これって時間遡行?TS?転生?ラノベの設定盛り過ぎっしょ。しかし、このビールおいしくないな。好きな銘柄なんだけど、この子には合わないのかな。でも、酔いが回るのは早い。


 せっかくの豪華な設定、自由な時間だ、仕事探しなんてつまらない。真坂先生が言ったように旅に出よう。次の診察まで1週間ある。冒険の旅にちょうどいい。今は春、武器は美貌、防御魔法はアフターピル。脳が男だから、その戦闘力のすごさはよくわかる。ほんわかした全能感が身体中に漲ってきた。


 無理してビールを喉に流し込みながら、青春18きっぷを調べるとちょうど発売・利用期間になっている。足りない服や旅行用品はユニクロや100均で買えばいい。必要なのはおカネとスマホだけ。本当にいい世の中になったものだ。リュックサックにいそいそと荷物を詰める。


 どこへ行こうか?北か西か。コイントスで決めようかなって思ったけど、東北はまだ雪が残ってるかもしれない。ブーツもないのに無謀ってことで、東京駅に向かった。

プラットホームの行き先案内を見ると次は沼津行のようだ。そばにいた駅員に、

「あの、静岡行はいつ出ますか?」と訊くと、一瞬、妙な顔をして、

「今は運行しておりません」と答えが返ってきた。

「へ?じゃあ、いちばん遠くに行くのは?」

「沼津行きです。次の列車です」


 座席に着いてからググって見ると静岡行は8年も前に廃止になったらしい。20歳前の女の子が訊けば変に思うのは無理もない。18きっぷ旅には便利だったんだけどなぁ。

 ビールのせいか、品川を過ぎて、EGO-WRAPPIN'の『サニーサイドメロディ』を聴いてるうちに眠りに落ちた。…


 ここはどの辺りなのか、駅名を捉えようと窓の外を見る前に、前の席にいる女の子に目を奪われた。黒地にいっぱいマンガが描かれたパーカーを着ている。よく知らないが生徒同士で殺し合うマンガのようだ。襟とスカートの感じから下はセーラー服を着てるらしい。

 ツンデレ?クーデレ?いや、たぶんヤンデレってやつだろう。いちばん厄介な。スニーカーも靴下もパステルカラーで左右違っている。大昔、シンディ・ローパーがやっててカッコいいなって思った。


 鮫島も真坂先生もヤバい人たちだけど、社会常識をわきまえたフリはできる。この子はあたしは常識に反抗する、常識だから従わないと全力でアピールしている。関わり合いになりたくない。寝たフリをしよう。

「あんた、変だね」

 いきなり言われてしまった。そりゃあ見た目と中身が全く違うんだから変だろう。しかし、一言も交わさずに喝破できたなんて、あんたも変。

「でも、すごくかわいい。触っていい?」

「やだっ!」

 思わず座席に身を寄せる。我ながら女の子らしい仕草だと思う。

「ケチ。あたしがこんなこと言うの中学以来なんだよ」

 知るかよ。こっちはJKのあんたよりおねえさんだよ。


「そのパーカーカッコイイね」

 媚びが半分、賞賛が半分でコメントする。

「あげないよ」

「要らないって」


 ぼくはトップスは黒のU首シャツに、最近よく見る上が透けたピンクの二重のセミロングのスカート。その上に薄手のトレンチコートを着ている。女の子のファッションなんか興味なかったが、梯さんが、

「これあたしのお下がりなんですけど、あたしにはちょっと甘すぎたので。…もう!美原さんって何でも似合いますね」と言って、プレゼントしてくれたものだった。

 確かに甘口だなって思うけど、こういう方向性が好きなような気がしてる。男の自分が好きな服装を女の自分に着せるっていうのは倒錯してるようで、真っ当じゃないかな。


「うん、あんたにはその服が似合ってるよ。あたしの趣味じゃないけど」

 んなこたわかってるよ。電車が停まった。

「二宮か」

「よく寝てたね」

「どこから乗ったの?」

「大船」

 大船と二宮の間に何駅あるのかさっぱりわからない。乗り鉄っぽいところはあるのに記憶力が悪いからダメだ。


「どこまで行くの?」

 よく知らないけど、小田原かなと思いながら訊いた。ヤンデレが出掛けて行くのはそれなりの街かなと。

「あんたは?」

「沼津の…先」

 ちらっとこっちを見る。かわいい。

「じゃあ、あたしもついてく」

 ん?ヤンデレに依存された?これって百合?女になって初めてのお付き合いが百合?!

今回のサブタイトルにあるように主人公はチュールスカートを履いていますが、中身がおっさんなので名前を知りません。

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