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初見殺せない

「なーんか大事な事を忘れている気がするんだよなあ・・・」


 「変な顔をしてどうされましたか?大魔王様」


 「ああ、司令か。デスハムスターを化け物勇者どもの元へ向かわせたのはいいが、何か大事な事を忘れている気がするんだが・・・」


 余の言葉に司令はしばらく宙を見て、


 「デスハムスター・・・?ああ、そうでしたなあ」


 司令の短期記憶は相変わらず怪しいが、それには触れずにおこう。


 「デスハムスターは確かに〔初見殺し〕と言われているだけあってなかなか厄介なモンスターなのは余も認める。しかし、攻撃力は弱いな。レベル50〔普通〕の勇者に3ダメージしか与えられないからな。余なら通常攻撃でもレベル50の〔普通〕の勇者なら200オーバーのダメージを与えられる」


 「そうですなあ。確かに攻撃力の弱さは気になるところですが、デスハムスターの真価はそこではないでしょう」


 「うむ。デスハムスターの真価は攻撃に伴っての状態異常付与がめちゃくちゃ多いところだと思う。そこに関しては異存はない」


 あの状態異常の付き方は異常だ。余でも一度に付与できるのはせいぜい二つだからな。


 「そうでしょうな。あれだけの状態異常を受けたらあの化け物勇者どももさすがに苦戦するかもしれませんな」


 「間違ってあの化け物勇者どもを倒したりしないだろうな?」


 余の不安を司令は笑って否定する。


 「それはないでしょう。さすがにあの化け物勇者どもを倒すのは不可能でしょうな。倒せたらそれそれで良いでしょうが、せいぜい苦戦させるのが関の山ですな」


 「そっかー。やっぱり苦戦で終わるか・・・。ん?あの化け物勇者どもが苦戦する?」


 「まあ、可能性の一つですな。あやつらは本物の化け物どもですから苦戦しない可能性もありますが、苦戦する可能性も十分にありますな」


 司令はのん気な口調で言っているが、余にはひっかかる。


 「もし化け物勇者どもが苦戦するとなると・・・余より印象に残る可能性があるじゃないのか?」


 「あ・・・」


 司令も余と同じ考えに思い当ったらしい。


 もしデスハムスターに対してあの化け物勇者どもが余よりも苦戦したらラスボスである余を倒しても 「え?この程度?デスハムスターの方がよっぽど強かったな(笑)」ってなりかねないぞ。これではまさに余はラスボス(笑)じゃないか!


 「司令!こうしてはいられないぞ!急いでデスハムスターの元へ行くぞ!やつらと出会う前に止めるのだ!」


 「はい!」


 余と司令は急いで転移するのだった。



                            *


 余が転移した先にはすっかり変わり果てた姿になったデスハムスターがいた。遅かったか・・・。


 「デ、デスハムスター・・・」


 余が恐る恐る声をかけると


 「あっ、大魔王様じゃないっすか。いやー、参りましたわ、あいつらには。ムリ、ムリ、ぜってえムリっすわ。あんなのを倒そうなんて。正気の沙汰じゃないっすわ」


 デスハムスターは顔を真っ赤にして酒瓶をラッパ飲みしながらくだをまいている。つぶらな瞳だったのに完全に目が座っている。


 「俺、自分がそこそこ強いって自信があったんすけどザコだって思い知らされたっすわ。上には上がおるんすね」


 こいつ・・・完全にお酒に逃げとるな。ていうかその語尾はどうした。お前さっきまで「でちゅ!」とか言ってただろうが。


 「いったい何があったんじゃ?お前がここまでなるとは」


 司令が諭すように言うが、デスハムスターはやさぐれた感じをまったく隠さずに答える。


 「なんもないっすわ。いや、むしろなんもできなかったすわ。あいつら見た瞬間にわかったんすわ。勝てねえって。俺は狩られる側ってわかったんすわ。次元が違い過ぎるって。後はもう命惜しさにもうひたすらに普通のハムスターとして愛嬌ふりまくしかできなかったすわ」


 うーむ、デスハムスターのプライドはひどく傷つけられているようだな。


 「しかし、よかったではないか。結果こうして生きているわけだしなあ」


 司令が慰めるが、デスハムスターすごい剣幕で反論する。


 「ぜんっぜんよくないっすよ!俺はこれでも魔王軍の鉄砲玉として命なんぞいつでも捨ててやるっていう覚悟があったんすよ!それが、情けねえっすわ。あいつらを目の前にしたら・・・命乞いみたいなまねを・・・っ!」


 デスハムスターは悔し涙を流している。こいつ、見た目に反してめちゃくちゃ漢な奴だな。


 「デスハムスター、情けない奴だな!勇者が怖くて酒におぼれるなど魔王軍の恥さらしだ!」


 余のがあえて強い言葉で非難すると司令は「大魔王様、そこまで言わなくても」と止めてくるが、


 「・・・大魔王様の言う通りっすね。俺、強くなります!強くなってあの化け物どもをぶち殺してやるますよ!」


 デスハムスターは余の檄に答えるまっすぐ余を見返してくる。こういうタイプは下手に慰めるよりもこうやって厳しくする方がいいのだ。


 「うむ、期待しているぞ」


 余はデスハムスターにそう声をかけながら(あの化け物勇者どもはホントやっべえな)と改めて思うのだった。


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