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初見殺し

「司令、余はラスボス!になるためにある者に会いに行こうと思う」


 「誰ですかな?四天王最強のハーデスですか?それとも魔王軍の始末屋モンドですかな?」

 

 余の宣言に司令は魔王軍でも指折りの戦闘力をもった二人の名前を上げる。

 

 だが、余の考えは違う。


 「いや、あやつらでもあの化け物どもには全く歯がたたぬだろう」


 「まあ、そうですなあ。では、いったい誰ですか?」


 司令はいつも同意の言葉を反射的にに言った後に、これまた自分で考えることなく反射的に質問してくる。


 こいつ・・・マジで役に立たなくなってきているな。もうこうなったら質問に「そうですなあ」って答えるだけの魔法人形でも置いておけば司令の代わりになるんじゃないか?


 余がそんな事を考えているのも知らずに司令は何やらキラキラした期待の眼差しで余を見ている。子供か!魔界最高齢のくせに!


 いや、年を取りすぎると子供帰りすると言うしな。


 ・・・はあ、教えてやるか。

 

 「余が会いに行くのは・・・〔初見殺し〕だ。モンスターには特にイベント戦のあるボス等ではない普通にそこらで出会うモンスターなのにやたら強くて勇者を苦しめる〔初見殺し〕というやつがいるらしいじゃないか。あの化け物どもに対抗するには中途半端に強い中ボスよりもそういうモンスターの方が参考になるんじゃないかと思ってな」


 「なるほど。一理ありますな」


 余の提案に司令もうなづいている。うなづいているだけじゃなくてお前もたまには考えろよ?

 

 余の作戦もうまくいった試しがないが、余の知恵袋的存在である司令が全く知恵を出さないのも考えものだ。


 しかし、そんな司令にも使い道はある。


 「ちなみにわが軍にも〔初見殺し〕はいるのか?」


 「そうですなあ。・・・おお!サイショ地方に〔初見殺し〕がいるようですぞ!」


 司令は少し考えたのちに声を弾ませて答える。


 今の司令は知恵の面では期待できないが知識の面ではまだまだ他の者には負けていない。今後はデータベースとして活用していこう。


 「では、さっそく向かうぞ!」


 「はっ!・・・でどこへ行かれますかな?」


 司令・・・。昔の知識はあっても短期記憶に不安がありすぎるだろ。


 今度脳トレでもさせようかなあ。あと、適度な運動もいいらしいな。塗り絵なんかも色の組み合わせを考えるから刺激になるっていう話もあるし・・・。


 余の司令への心配は尽きないがとりあえずサイショ地方に向かうことにしたのだった。



                     *



 「このあたりにいるのだな?」


 余の質問に司令は自信ありげにうなづく。少し前まで「サイショ地方・・・。なんでここにきたのでしたかな」と来た目的を忘れたことで自信をなくしてオロオロいた姿からは想像もつかない。


 「はい。〔初見殺し〕は本来勇者どもがごく初期に訪れる町の周辺に現れるモンスターですからな。おーい、〔初見殺し〕!大魔王様がお呼びだぞー!ででこんかー!」


 司令がじじい特有のデカい声で叫ぶと、


 「お呼びでちゅか!魔軍統括司令ちゃま!」


 かわいいネズミの様な小動物が現れてなんか言っとる。


 「司令・・・これはなんだ?」


 「こやつこそ〔初見殺し〕デスハムスターですな。デスハムスター、こちらは大魔王様だ。あいさつをしろ」


 司令の言葉に小動物はその小さな首を必死に折り曲げて


 「デスハムスターともうしまちゅ!大魔王ちゃま」


 と頭を下げている。

 

 なんか変な語尾が聞こえた気がするが余はつっこまんからな。


 「・・・帰るか」


 余が城に戻ろうとすると司令が必死に止めてくる。


 「いやいや、大魔王様お待ちください!この者はこのような容姿をしていますが、これこそが相手を油断させるための策なのです。油断したところを、こう、ガツンとやるわけですな!」


 「・・・油断したところをねえ」


 つぶらな瞳で見上げてくるデスハムスターを余はいまいち信用できない目で見てしまう。


 確かに油断はするだろうが、これじゃあ油断されても仕方ないんじゃないか?


 「百聞は一見に如かず。こちらで用意した、〔普通〕の勇者一行の力を持たせたゴーレムでその実力を測ってみましょう。ちなみにこの周辺の〔普通〕の勇者の適正レベルは5でこのゴーレムにはレベル50の〔普通〕の勇者の能力を持たせています」


 「十倍のレベルの相手をさせるのか?」


 〔普通〕といちいちつけるのが気になるが、まああの化け物どもと同等の力を持たせることなどできないだろうからこれでよしとするか。


 「まあ、見ていてください」


 ニヤリと笑う司令は自信たっぷりだ。デスハムスターとやらも小さな手で胸をドンと叩いている。


 「じゃあ、やってみてくれ」


 余の言葉を合図にデスハムスターが勇者一行ゴーレムに襲い掛かる。



                *


 〔デスハムスターは仲間を呼んだ!〕


 〔デスハムスターが100匹現れた!〕


 って100匹?援軍の呼び方がなかなかえげつないな。


 〔デスハムスター①の攻撃!勇者ゴーレムに3のダメージ〕


 ふむ、ダメージは思ったより普通だな。


 〔勇者ゴーレムは眠った、麻痺した、猛毒になった、混乱した、幻惑された、石化した、下痢になった!〕


 うわー・・・。状態異常ヤバいな。最後のはいらない気もするが、まさに状態異常のオンパレードだ。これは〔初見殺し〕なのもうなづける。


 しかも100匹も出てくるし。


 「どうですかな?大魔王様」


 ドヤ顔できいてくる司令。


 「すごいな・・・。〔普通〕の勇者ならレベル50でも形無しだな。ていうかこいつらならあの化け物どもでも苦戦するんじゃないか?」


 「一度試してみますかな?あの化け物勇者どもはサイショ地方を一瞬で駆け抜けたのでまだデスハムスターは遭遇していないそうです」


 「そうか、よし!試してみよう!」


 余はいつになく手ごたえを感じていた。ただ、何か不安がある。その正体はわからないが何かがひっかかっていたのだった。

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