大魔王、アピールする。
「どうされましたかな?大魔王様。そんなやる気のない顔されて」
司令に言われて余はめんどくさそうに答える。
「なんかもう嫌になったんだよ。どんなに頑張ってもあいつらほとんど弱体化しないし、実力差が全く縮まらないんだよな」
「まあ、そうですなあ。でも大魔王様、このままでは大魔王様はラスボス(笑)になってしまいますぞ」
ぐっ、痛いところをズケズケとついてくるな。
だが、どうすればいいんだ?あの化け物どもはどうやっても余が対等に戦えるまでに弱体化できる気がしない。
大魔王としては情けない話だが、力がないならば考えるしかないか。
勇者どもを弱体化させるのは難しい・・・。
余があいつらほど強くなるのも難しい・・・。
となると余がラスボス(笑)にならないためには他の手を考えないといけない。
そうだ!いい事思いついた!
「余はやり方を変えようと思う。今まで余はあいつらを弱体化させることばかり考えていたがそのやり方ではあの化け物勇者どものラスボスになるのは難しいようだ」
「まあ、そうですなあ。それで、どうなさるので?」
司令は相変わらず何も自分で考えようとはしない。本来なら参謀的な役割のはずなんだが、まあいい。じいさんだしな。
「あいつらに余がラスボスだとわかるようにアピールをしていくのだ!そうすれば少なくともあいつらが余がラスボスだと気づかずに倒すこともないだろう!」
余の言葉に司令はポンっと手打って納得する。
「なるほど。発想の転換ですなあ。確かに今まで大魔王様はあやつらに会っていませんから大魔王様に会ってもそれとはわからないかもしれませんが、大魔王様がラスボスであることをはっきりわからせておけば少なくとも最後の敵だとはわかりますな。2.5ターンで倒されるとしても」
最後に余計な事を付け足す司令が気になったが、余はさっそく勇者どもの元へ向かうのだった。
*
「貴様らが勇者どもか。余こそ大魔王・・・」
どがーん!
おわー!や、山が跡形もなく吹っ飛んどる!魔法使いの魔法で余の後ろにあった山が跡形なく、吹っ飛んどる!
「無駄だ。これは余の幻影にすぎない」
あ、危ないところだった。
念のためちょっと離れたところで幻影を映しておいてよかった。生身だったらいきなりエンドロールが流れるところだった・・・。
「何の用だ!大魔王!」
勇者がすぐに反応してくる。ていうか余が大魔王であることを全然疑わないんだな?いきなり攻撃してきた魔法使いといい、こいつら受け入れ早いな。
「ふっ、何の用だと?」
何の用だっけ?特にないな。とりあえず余のアピールに来ただけだしな。
「わからないようだな。ならば教えて・・・」
ドビュシュ!
うわー!今度は戦士のアホの真空斬で森の木々が全て千切りなっとる!割りばしがいっぱいできとる。とんでもない環境破壊だよ。
「ちっ、これでもダメか・・・」
だから幻影だと言っとるだろが!人の話をきけ!この脳筋!
「無駄だと言ったろう。それよりも勇者一行がそんなに簡単に山や森を破壊していいのか?」
余が思わず心配の言葉をかけると、僧侶がツッコミをいれてくる。
「まさか、世界を破滅させようとしている大魔王に破壊をとがめられるとはね」
それはそうなんだが、もう少し計画的にやっとるぞ。余は。
「でも、大魔王の言うことにも一理あるわね。再生!」
僧侶の一声でさきほど魔法使いが吹っ飛ばした山と戦士が千切りにした森が何事もなかったかのように元の姿に戻る。
・・・こいつ、一番ヤバいな。元大天使らしいけど、ほとんど神の所業だぞ、今の。
なんか幻影とはいえこの場にいるのが怖くなってきた。なんかお腹も心持痛いし。
「今日はこのくらいにしておいてやろう!」
とりあえずこいつらに余がラスボスだという認識はできただろうからさっさと帰ることにしようと思うが、
「まて、大魔王!」
勇者が制止してくる。
やはり勇者として大魔王を見逃せないと言うことか?殊勝な心掛けだが・・・。
「まだ、俺の見せ場がないぞ!」
違った。単に目立ちたいだけだった。勇者以外は何かしら目立ったからその気持ちもわからないでもないが。
「さらばだ!」
余はお腹も痛いしすぐに幻影を消す。
さーて、魔王城に帰るとするか。ん?なんか揺れてるな。地震か?
うわーっ本格的に揺れだしたぞ!早く魔王城に転移しよう!
*
「お帰りなさいませ。大魔王様」
「おお、司令か。なんとかアピールできたぞ」
「しかし、すごかったですなあ」
千里眼で覗いていたのだろう。司令は興奮している。
「ああ、勇者の力は見れなかったが他の者たちも無茶苦茶だな」
余の言葉に司令は怪訝な顔をする。
「勇者の力が見れなかった?ああ、大魔王様はあの後すぐに転移されたのでしたな」
「勇者も何かしたのか?」
「ええ。あの後一つの国を丸ごと蒸発させましたからな。おかげで僧侶がそれを直すのに力を使いすぎてさすがに寝込んでいるようですな」
「なんかもう、無茶苦茶だな」
たんたんという司令に、司令もあいつらの非常識に慣れてきたなあと思うのだった。