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大魔王、勇者たちに呪いをかける。

勇者どもが余の宿を旅立ってから余は再び魔王城に戻っていた。


 どうもあいつらは武器なんぞに頼らなくても規格外に強いらしい。余があいつらから盗んだ武器は間違いなく伝説級の代物で駆け出しの冒険者が使っても中級モンスターくらいなら楽に倒せるというものだが、そんな物を必要としないくらいあの勇者どもは強いのだ。


 勇者や戦士は例え素手だとしても魔王軍の中でも頑丈さには定評のある魔竜ですら簡単に叩きのめすことができるし、肉体的にはそうでもないはずの魔法使いや僧侶ですら鉄素材のゴーレムくらいなら足蹴りで粉々にできるようだ。


 さらに勇者はありとあらゆる魔法を同時に高威力で使いこなせるし、魔法使いは余でも使うのをためらうような邪悪な禁術も連発することができ、僧侶は完全に息絶えた者たちを数百人規模で一度に蘇生する事もできる。


 うん、改めて化け物だとわかるな。


 こんな連中だから武器なんてどうでもいいのだ。


 実際、今も千里眼で勇者どもの様子を見ているのだが、余がやつらの武器をしょぼい威力の偽物とすり替えてた後でも出会うモンスターを全て一撃で倒しているので、弱体化したことすら気づいていない。

 

 はあ・・・。これ以上こいつらを見ていたらウツになりそうだ。


 余は千里眼で勇者どもを見るのを止める。


 武器を奪ったりするような回りくどい事ではなくて、ここはひとつあいつら自身を弱体化させる必要があるようだ。


               

                * 




 「大魔王様、何をつくっているんですか?」


 「おお、司令か。いいところに来た。お前も手伝え。勇者どもの力を減少させる呪いの人形をつくっているのだ」


 余は司令に作成中の呪いの人形を見せる。


 「ほほお、これはなかなかよくできていますなあ」


 司令は一目見て感心したように言う。


 ふふん、これの良さがわかるようだな!司令もだてに歳はとっていないということか。勇者のアホ面が地獄の苦しみを味わっている表情をしているのが我ながらなかなかキュートな出来になっている。

 

 「そうだろう。今ようやく十体目ができたところだ」


 「十体も!?魔王様が作れば一体で人間の百人分の力を弱体化できる呪いの人形を十体も作ったのですか?」


 司令は目を丸くしているが、その認識は甘いとしか言いようがない。


 なにしろ余の相手はあの人外どもだ!


 ・・・いや、人ではあるのか。一応。いろんなものがはみ出ている気がするが。


 あのはみだし勇者どもに対してはこの程度の呪いの人形では少なすぎる!


 「まだまだ作るぞ!司令も作るのだ!あの勇者どもを弱らせるにはとにかく地道な努力をするしかないのだ!


 「わかりました!微力ながらお手伝いしますぞ!」


 こうして余と司令は黙々と呪いの人形作りに励む。



           *




 「大魔王様、何されているんですか?」


  今度は余の宿でウエイトレスをしていた女魔族がやってくる。


 「おおっ、お前もいいところに来たな。手伝ってくれ」


 「え?あっ、はい」


 女魔族も呪いの人形作りを手伝ってくれる。


 「大魔王様、お食事の時間ですが・・・」


 給仕の魔族が声をかけてくる。


 「ん・・・ああ。ここに持ってきてくれ。司令ともう一人の分もな」


 「何をされているんですか?」


 「呪いの人形作りだ。そうだ、手の空いている者がいたらここへ来るように言ってくれ。魔法軍総出で作ることにしよう」

 

 「私は料理は得意ですが不器用なのであまり上手に呪いの人形が作れませんが・・・」


 「気にするな!要は気持ちだ!あの非道な勇者どもに好き勝手されないように、祈りながら作ればいい。ただ、雑に作ってはいけないぞ!例え下手でも丁寧に作ればきっと役に立つ呪いの人形ができるはずだ!だから、お前の力を余に貸してくれ!」


 「だ、大魔王様!私も頑張ります!」


 「うむ!期待しているぞ!」


 「私も頑張ります!」「我も!」「拙者も!」


 いつの間にか集まっていた部下たちのやる気のある声が続いてく。


 「大魔王様もみんなも熱くなっちゃって・・・。やだやだ」


 そんな風に斜に構えたモンスターもいたが、


 「まあ、しゃあねえな。俺も一緒にやるますよ!」


 と参加してきてくれていた。


 「おっ、その凶暴な顔は戦士にそっくりじゃないか?」


 「お前の魔法使いの呪いの人形も貧乳具合がよく似てるぞ」


 「あたしも僧侶のアホみたいにデカい乳の呪いの人形がつくれたよ!」


 余は呪いの人形作りを通して魔王軍が一体感を持ちだしているのを感じていた。


 うん、こういうことが幸せなのかもしれないな。




               *


 呪いの人形作りに夢中になっていて、気が付かなかったがすっかり日が暮れていた。


 「ふう、かなりの数ができたな。足の踏み場がないくらいだ」


 「そうですなあ。みんなで頑張ったかいがありましたな」


 司令もみんなも満足そうな笑顔浮かべている。


 余たちは疲れていたがそれ以上に満ち足りた気分になっていた。


 そうそう、肝心な事を確認しておかないとな。


 「ちなみにこれでどれくらい勇者どもの力を抑えれるんだ」


 余はドキドキしながら司令に尋ねる。今回のドキドキはいつもと違ってかなり前向きなドキドキだ。さあ、こい!


 司令はいつものように少し考えるように目を細めると・・・。


 「おお、なんと大魔王様がやられるまで2.5ターンかかるようになりましたぞ!」


 「これだけ作っても1ターンいかないんかい!!」


 余の叫びが魔王城に響き渡ったのだった。

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