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魔王のお宿②

 「あー、食った、食った!うまかったなあ!」


 「戦士は本当に食べる事ばかりですね」


 腹を撫でている戦士を呆れたような目で魔法使いが見ている。


 「それじゃあ、部屋に戻って休もうか」


 勇者どもが腹がいっぱいになって満足した様子で各々の部屋に入っていくの見届けたのか、


 「大魔王様!ご無事で何よりです!」


 司令は完全に勇者どもが見えなくなってから余にすり寄ってくる。


 このじじいは・・・。


 「ともかく、奴らを睡眠薬で眠らせる作戦は失敗したな。まさか魔界の超強力睡眠薬すら効かないとはな」


 司令が厳選して用意した睡眠薬は間違いなくこの世界で手に入る物では最高級の物だ。

それが全く効果がなかったのだ。悔しいを通り越して清々しくもある。


 「全く、非常識な化け物どもですなあ。それでこれからどうされますか?」


 「どうもこうもないだろう。とりえあずあいつらを刺激しないように過ごすしかない。下手に刺激したらこのあたり一帯は焦土と化すだろう・・・。今回の作戦はこれまでだ」


 余があきらめたように言うと、司令も


 「まあ、そうですなあ」


 いつものように余の言うことに逆らわないのだった。


 余を勇者たちの前に行くようにけしかけていたのが嘘のように。全く、このじじいは・・・。


 




                  *




 「なんか普通に寝てるな」


 「そうですなあ。普通に寝てますなあ」


 余の宿に泊まっている勇者どもの部屋は部屋と女部屋に分かれているが両方ともすっかり寝入っている。


 同じ建物内なのだがわざわざ千里眼で確認したので間違いないだろう。まあ、普通に探るのが怖かったから千里眼を使っただけなのだが。


 余の特製の超強力睡眠薬入りの料理はあの常識外れどもには全く効かなかったが、やつらは勝手に熟睡しているようだ。


 「くくくっ。これはチャンスだな。この機会にやつらを弱体化させておこう」


 余の言葉に司令は、


 「そうですなあ。それはいいお考えです!」


 適当に相づちを打ってくる。こいつにはもはや期待できそうにないな・・・。


 「しかし、大魔王様。弱体化させるってどうされるのですかな。寝込みを襲って一人くらい殺しておくのですか?」


 余の視線に気づいたのか司令はそれらしいことを提案してくる。


 「いや、寝込みを襲ってもそれは無理だろ。あいつらだぞ?間違いなく返り討ちにあうぞ。それこそこの町ごと滅亡してここら辺が全部真っ平になるぞ」


 「まあ、そうですなあ。ではどうするんです?」


 ちょっと考えた意見を言ったと思ったらこれだ。少しは考えてくれないかな。昔は魔界でも知恵者で通っていたはずなんだがなあ。


 「当初の予定通りでいく。あいつらが睡眠薬で眠ったらやるはずだったあの作戦を実行するのだ」


 「あの・・・?作戦・・・?おおっ、ではさっそく準備いたします!」


 こいつ!!今回の作戦の事をちょっと忘れてたな?


 はあ・・・。こんなので大丈夫かなあ。


 余はそこはかとなく不安になるのだった。



                *


 「うへへへ。魔法使い・・・。僧侶・・・」


 余が隠身を使って部屋の中に忍び込むと、勇者が気持ち悪い顔で不気味な寝言を言っている。こいつは二股かけようとしているのか?


 「むにゃむにゃ、俺は!強くなる!・・・むにゃむにゃ」


 戦士は夢の中でも脳筋らしい。お前はそれ以上強くなる必要ないだろ!誰を倒すつもりだよ!お前は今でもタイマンで大魔王を楽勝で倒せるんだぞ?!


 いかんいかん、あまりにもツッコミどころ満載な寝言を二人そろって言うから気になってしまった。


 さっさと用事を済ませてしまおう。


 おっ、あった。あった。こいつら強すぎるせいかホントに無防備だなあ。


 まあ、寝ていてもこいつらは大魔王たる余が渾身の一撃を叩き込んでも少々痛いくらいで済むのだろうから、この世界でこいつらが何かを警戒する必要もないのだろうが。


 さっそく用意した物とこれをすり替えて・・・。


 よし、次は女部屋だ。



               *


 余は女部屋でも同じ作業を繰り返す。


 ただ二人の寝言はそろって「戦士・・・のバカ」(ツンデレ風)だったが。


 勇者の奴、可哀そうに。


 異世界から来てもモテねえやつはモテねえんだなあ・・・。



              *


 

 「大魔王様、うまくいったようですな!」


 仕事を終えた余に司令が声をかけてくる。


 「ああ、うまくいった」


 お前はビビってぜんっぜん手伝おうとしなかったけどな!


 「まあ、これで勇者ども少しは弱体化したでしょうな。なにしろやつらの伝説級の武器をそれとそっくりな普通の威力の武器とすり替えたのですからな」


 そう。余が司令に用意させたのは勇者どもの武器のパチモンだ。


 勇者どもが寝ている間に武器をただ盗ることも考えたが、あえて偽物とすり替える事で威力のない武器を勇者どもにこれからは使わせるように仕向けたのだ。


 「なあ、司令。これでやつらは余を倒すのにどれくらいかかるようになった?」


 余はちょっと緊張しながら司令に分析させてみる。


 司令は目を細めていろいろ考えていたが、やがて嬉しそうに断言する。


 「・・・そうですなあ。私の計算によりますと・・・おおっ!なんと大魔王様が倒されるまで2ターンかかるようになりましたぞ!」


 「1ターンしか増えんのんかい!」


 余の魂の叫びが真夜中の空に響いたのだった。

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