大魔王、勇者一行の強さにビビる
「あれ、マジでやばくないか?」
余は千里眼でやつらの様子を見ながら冷や汗をダラダラと流してつぶやいていた。
大魔王たる余が恐怖のために冷や汗を流すなど本来あってならないが、そんな体面にこだわっていられないほどの状況なのだ。
「司令!司令はいないか!」
余の叫びに魔王軍の長老で余の率いる魔王軍を統括している魔王軍総司令が闇から出現する。
「およびですかな?大魔王様」
うおっ、相変わらずいきなり現れるな。このじいさんは。
余は自分で呼んでおきながらすこし驚いてしまう。
まあ、それはいい。
「おお、司令!よく来てくれた!あいつら、ヤバくないか?」
余の〔あいつら〕という言葉に司令は一瞬考えるがすぐに司令も思い当ったようだ。
「あいつら?ああ、勇者一行ですか。いや~、かなりヤバいですなあ」
司令はヤバいと言いながら妙にのんびりした口調で答える。
こいつはじじいだからか、いつも言動に緊張感がない。
こんなのでも昔は魔界の破壊神なんて呼ばれてたのだが、今はそんな面影もないただの好々爺だ。
「千里眼で見てたんだが、四天王の最初の一人が勇者に一撃で殺されてたぞ!一撃だぞ、一撃!しかもなんのスキルも使っていない素の攻撃だ!その上あいつら、倒したのが四天王ってまだ気づいていないみたいだぞ?ただのザコとして現れたモンスターを倒したくらいにしか思ってないようだ」
「ええ。知っています。今も四天王を探して城中のモンスターを倒してまわってますからなあ。実に悲惨な光景ですな。あの城の主はすでに死んでいるのに」
司令は見ていられないと目を背ける。司令も余と同じく千里眼が使えるから状況が把握できているようだ。
うわー・・・。マジでみんな逃げ回っとる。
すまんな。皆の衆。助けに行ってやりたいがあの様子では余が行ったところでどうにもなりそうにない。
とにかく逃げてくれと祈るくらいしかできないのだ。
しかし、実際いまのあいつらと余が戦ったらどうなるかな?
魔王軍最強たる余だが、あいつらには勝てる気が全くしない。
それどころか瞬殺されてしまいそうな気がする・・・。
いやいやいや、それはないか!さすがに!
勝てないまでもさすがは大魔王!と苦戦させるくらいはできるはずだ。たぶん・・・。
「ちなみに今、余があいつらと戦ったらどうなる?」
ドキドキしながら司令に聞いてみる。司令は魔王軍の中でも随一の分析能力をもっているので相手の力を図ることには定評があるのだ。
司令は宙を見ながらしばらく考えると、
「勇者一行が四人で1回づつ大魔王様を攻撃したとして、つまり1ターンで・・・2回死ねますな」
「1ターンで2回死ぬ!?どういうことだ!?」
ちょっと言っている意味が余には分からないが、司令はたんたんと答える。
「まず最初の二人の攻撃で大魔王様が第二形態になって、残りの二人の攻撃で第二形態も死にますなあ」
「ターンの途中で第二形態になんの!?そんなのあんの!?」
驚愕する余に対して、
「まあ、ダメージが限界値を超えるとそう言うこともありえますなあ」
司令は顎を撫でながら冷静に答える。
「ヤバいじゃん!下手したらあいつらが余に勝ってもラスボスって気付かない可能性がないか?」
おそるおそるきくと、司令も言いにくそうに
「・・・まあ、それもありえますな。残念ながら」
ダメじゃん!大魔王なのにラスボスって認識されないって、致命的じゃん!物語が終わらないじゃん!ラスボス探して永遠に旅を続けちゃうじゃん!
大魔王を倒したのに大魔王を探して回る勇者一行がいたらもう世界中のモンスターは絶滅しちゃうよ。
「もしかして余はラスボスじゃないのか?余を倒した後にもっと強い魔神とかでてくるのか?」
「それはありえませんな!間違いなく大魔王様は魔王軍最強の正真正銘の支配者ですからな!」
司令は妙な自信をもって断言する。
そっか、よかった・・・。
いや、よくないよ! 結局、ラスボス(笑)には変わりないじゃん!
しかし、なんでこんな事になったんだ?
「そもそもあいつらはなんであんなに強いんだよ!」
「もともとかなり強かったんですが、やりこむタイプの者たちだったのでああなってしまったようですなあ」
「もともと強いってなんだよ?」
「ええと、勇者は異世界からの転移者でこれは異世界から来たという理不尽な理由でめちゃくちゃ強い、戦士は外れスキルだと思っていたら飛んでもなくレアスキルで成長率もアホの様によくてめちゃくちゃ強い、魔法使いは先代の大魔王様を殺した魔法使いの孫で幼いころから英才教育でめちゃくちゃ鍛えられてるのにそれが普通だと勘違いして魔法学園で無双するくらいめちゃくちゃ強い、僧侶は天界を支配している大天使の一人が転生しててめちゃくちゃ強い。まあ、こんな感じですなあ」
「・・・パーティ全員、チートじゃん!そういうのって、いても一人か二人だろ!なんで勇者パーティが全員チートなんだよ!バランス悪いよ!」
「私に怒られても困りますなあ。勝手にそうなったんですから。まあ、最近流行ってますし、そういうのもありなのかも知れませんなあ」
こいつ、他人事だと思いやがって・・・。
しかし、余にも大魔王をとしてのプライドがある。
「よし!決めた!余がラスボスとしてちゃんと認識されるようにせめてやつらを苦戦させてから敗北しよう!」
「負けるのは確定ですかな?」
「まあ、どう頑張ってもあんな化け物どもには勝てないからな。せめてラスボス!!!って意識してもらえるくらいの状況にはなっておこうと思うのだ」
いろいろあきらめた着地点を目指す事にした余に対して
「えらい!あの化け物たちに対してそう思えるなんてさすがは魔王様!わしも微力ながら協力いたしますよ」
司令も力強くうなづいている。
「うむ、頑張ろう!」
こうして余のラスボス!!!計画は始まったのだった。