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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
9章 東京観光をしよう
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98話 おっさん少女と天然超能力者

 半分岩でできている道をテクテクと叶得と一緒に歩いていく。山賊は回復したばかりの妻が気になるみたいだし、別に叶得もついてこなくても良かったのだが、おっさん少女が心配だとついてくると言い張ったのである。まさにツンデレ褐色少女である。砂漠に生きる褐色少女とかいう題名で映画が作れるかもしれない。


 そんなおっさん少女は、只今ヒャッハー系の男たちに連れられて、お姫様とか言われている女性の家まで連行中である。


 叶得の家のドアを叩いてきた奴らである。腰には銃が括り付けてあった。このコミュニティで初めて見る武器である。


「あいつらは生き残りの機動隊の奴らよ」


 おっさん少女に顔を近づけてきて、耳にこっそりと小声で話してくる叶得。


「結構な数の機動隊がいたのでは?」


 なんか小説で皇居前戦闘とかをしていた時に結構人数がいたような気がする。それに警視庁が近かったのだ。助けにくる警官も多かったのではないだろうか。


「砂漠化したときに、逃げ出そうとする大勢の避難民を護衛して出ていったの。救援隊を呼んでくると言ってたわ。戻ってこなかったけどね。残った少しだけまともな警官もいたけど、物資調達に無理をして死んでいったわ。彼らは逃げ出すこともできずに、物資調達で人を救おうと行動もできずにいた腐った警官たちよ」


 肩をすくめて軽蔑の眼で前方を歩く男性を見る叶得。


「今はお姫様の護衛官とか名乗って、僅かな弾丸を頼りに人々に威張っているのよ。まぁ、威張ったって私たち以外からはサボテンしか取れないのだけどね」


 皮肉気に口元を歪めて男性たちを馬鹿にするように笑う叶得。


 あぁ、たしかにサボテンしか略奪できないんじゃ、ヒャッハー系もあんまり怖くないなぁと思う遥。水は岩からしみだしているのを使っているため、コップ一杯の水を争い奪う必要もない。


 どうやら、世紀末救世主伝説は発生しない環境のコミュニティだ。略奪品が無ければ、ヒャッハー系も活躍できないのである。


 それでも、命懸けで採ってきたサボテンを奪われるというのは嫌に決まっている。テントのあちこちからは男性たちに憎しみを伴った視線を人々が向けている。


「ほら、おしゃべりなんぞしていないで、さっさと歩け!」


 のっしのっしと歩いていた、連行している男性の中でも大柄なやつが振り返って怒鳴ってくる。


「うるさいわね! こちらはか弱い女の子なのよ。ちょっとは紳士的にエスコートできないのかしら? この野蛮人!」


 怒鳴り返して、常に喧嘩を相手に売るような言い方をする褐色少女である。凄いな、この子と感心してしまう。崩壊前の世界では、かなり生きづらい生活をしていたのではないだろうか。


 おっさんなら、はい、わかりましたとへいこらと頭を下げて揉み手をしながら進む脇役であろう。


 怒鳴り返すその声に、あぁ~ん? と睨み、肩をいからせて威圧をしてくる男性に、あぁ~んと肩をいからせて負けずに睨み返す叶得。か弱い女の子はどこに行ったのだろうか。


「おい、かまうな。さっさと進むぞ。無上さんに怒られるのは俺らなんだからな」


 わかったよと、他の男に怒鳴られて渋々と矛を収める男性。


 そして、無上さん? どうやらこの人たちのボスっぽいねと思いながら、おっさん少女はついていくのであった。



 しばらく丘を登り、中心地点ぐらいに着いたのだろう。半壊して今にも崩れそうな家についた。この家が元々は誰が住んでいたかは考えたくないおっさん少女である。


 天井とかも崩れかけて崩壊しそうな感じがする中を進んでいく。凝った内装や高そうな装飾品から、前は豪華な豪邸だったことがわかる。そこらに護衛官とか言うやつらがニヤニヤとしながらこちらを見ながら、何かを話している。


 そうして奥に進むと大きなドアがあり、護衛官が二人ショットガンを持って守っていた。


「無上さんに言われて連れてきたガキだ! 光井の娘もついてきやがった」


 怒鳴るように門番に言う遥達を連行してきた男性。その言葉に頷いて、ドアを開ける門番たち。


 ギギィと音がしてドアが開き始める。中の部屋は元は豪華な会場だったのだろうか? 随分と広い部屋である。そしてここまで来るのと同じように、天井はそこかしこ崩れて壁も壊れている。床はかろうじて綺麗になっていた。


 遥ならこんないつ壊れるかわからない半壊した家には絶対住みたくないと思う。


 世紀末覇者はよく半壊したビルとかを居住地にできたもんだと感心する。地震が起きたらあっさりと崩れて死にそうである。世紀末救世主のライバル、震度2の地震で住んでいたビルが崩れて死す。完である。


 部屋の奥には椅子が二つ置かれていた。さすがに玉座とはいかなかったようであり、貴族椅子みたいであった。その二つの椅子に二人の人間が座っていた。一人は少女。もう一人は神経質そうな顔をした男性である。なんと汚れ切ってはいるが白衣を着ている。


 少女を見ると髪型は綺麗にロングのおさげにくみ上げており肩に下げている。そして、なんと金髪である。やる気のなさそうな目にゆるんだ口元。ぼ~っとしながら、入ってきたこちらを見ており、その最中もお菓子を食べていた。背丈は140センチぐらい。まだ子供だろう13歳ぐらいだろうか。


 男性の方は眼光鋭くこちらをみやり、声をかけてきた。


「よく来たね。外の生存者の少女よ。そして君も超能力者なのかな」


 酷薄そうに口元を歪めて笑い、そうおっさん少女に聞くのであった。




 奥にいた二人の前に連れられて、叶得と遥は立っている。どうやら迎えたのにもかかわらず、立たせたままのつもりのようだ。疲れるので座りたいと思う。


 超能力者という言葉にピクリとおっさん少女の眉が動いたのを見てとったのだろう。ニヤリと冷酷な感じで笑い男性は続けてきた。


「驚いているようだね? 私の手は長いのだよ。簡単にそれぐらいの情報は入ってくるのだ。あぁ、私は無上勝利という。ふふふ、素晴らしい名前だろう?」


 確かにアニメや漫画で出てきそうな名前である。無上の勝利なんて、子供時代にいじめられなかっただろうかと同情する遥。でも本人は満足そうであるから、まぁいいかと考えるのをやめる。


「リィズの名前は無上リィズ」


 隣のお子様がぽそりと言った。遥たちが視線を向けても気にしないで、ぱくぱくチョコレートらしきものを両手で持って食べている。多分非常食のチョコレート味のやつだ。


「フフフ。この危険な砂漠を抜けて、このオアシスまで来る子供なんて、理由は一つだ。君は超能力者なんだろう?」


 その言葉で叶得も、今更ながらそうなの? と驚いた表情で遥を見てきた。叶得は本当にか弱い子供があの鉄サソリのエリアを無事に抜けられることができると思っていたのだろうか。


 しかしこの男性、たしか無上とか言ったか。超能力者だろう。私は簡単に見抜いたよというドヤ顔で見てくるが、崩壊前にそんなことを見知らぬ子供に言ったら、怪しさ爆発、通報間違いなしである。崩壊したからこそドヤ顔ができて良かったねと思う遥。


「どうやって、外から来たとわかったわけ? 誰にも言ってないんだけど」


 叶得が強気でじろりと無上を見ながら聞いていた。


 その問いに馬鹿にしたように叶得を見ながら、余裕の表情で腕を組んで答える無上。


「門番が馬鹿で乱暴なやつとでも思っていたのかい? 彼らは元は機動隊、すなわち警察だ。怪しい人間を見定めるのは簡単なのさ」


 まぁ、小柄な子供だし、リュックにはモンキーガンを担いでいるし怪しさ爆発であった。どうやら叶得たちの演技は見抜かれていた模様である。見抜いていたにもかかわらず、その演技にのり、苦労して手に入れた物資を持っていったのかと狡猾さに舌を巻く遥。


 ウググと叶得が黙るのを見た無上は遥に視線をずらし聞いてくる。


「さぁ、君は超能力者なんだろう? まぁ、私の娘には劣るだろうがな」


 自分の絶対的な立場を確信している物言いである。こいつはボスなのかなぁと思う遥。ちらりとウィンドウに目を向ける。


「ダメですね。今はまだわかりません、ご主人様」


 申し訳なさそうに言ってくるサクヤ。


 まぁ、仕方ないかと無上に返答をする遥。


「そうですね。私は財団大樹所属エージェントの朝倉レキと申します。超能力者かどうかは黙秘します」


 眠たそうな目で平坦な声音で無上に答える遥である。黙秘なのだ。超能力者かどうかは、活躍できそうなイベントで判明するのだと内心で思う厨二的存在のおっさん少女。そのイベントでまた黒歴史日記を書いていくつもりなのだろうか。


「財団大樹? 聞いたことが無い名前だね。貧乏な田舎の名前だけの零細団体だったのだろう? それでも超能力者を所属させているとは驚きだ。私みたいな人間のみにしか、その価値はわからないと思っていたのだが」


 零細どころか、名前だけの財団です。所属は私だけですと内心で思う遥。それを聞いたら周りは皆驚愕するだろう。


 腕を組み話を続けてくる無上。どうやら語りモードに入るらしい。長い話だと眠いモードに入るおっさん少女は耐えられるか不安である。


「私はね、常々超能力者の力が必要だと、新人類だと周りに言ってたんだよ。だからこそ、超能力者の価値というものがわかる。お偉いさんは崩壊前は、ちっともその愚鈍な頭では理解していなかったが、今ならきっと土下座をして謝るだろうね」


 ふふふと笑いながら教えてくる得意満面な無上である。


 なるほど、学会除名系の博士らしい。いつか学会に復讐するのだと昔の漫画ではその設定を多くもつマッドサイエンティストがいたものだ。


 そして、その言葉でピンとくるものがあった。


「リィズさんがその超能力者なんですか? 政府のエージェント?」


 小首を傾げて疑問の表情で疑うように聞いてみる遥。


「ふ、その通りだ、政府はリィズの力を見込んでエージェントにしたのだ。そしてこの拠点の防衛を任せたんだよ。私はアドバイザー兼研究者かな」


 ドヤ顔でいつまでも語る無上に、冷酷にツッコミを入れる。


「エージェント? 嘘ですね。政府がそんなあやふやな力に頼るわけがない。自分で名乗っているだけでは?」


 もし政府が認めるエージェントだとしたら、お偉いさんを守るようにして手放さないに決まっている。可哀想だが、この小さなコミュニティを守れと命令が出るはずがないのである。


 煽るように確信に満ちた声音で聞く遥。その言葉に動揺を見せる無上。焦りながら返答をしてきた。


「違う! 奴らはヘリで逃げる前に、私に向けて視線を送ったんだ! あれは君にこの拠点の防衛を任せるという意味だったはずだ」


 視線を向けられただけで、エージェントに任命されたと思ったのかよ、どんなテレパシーをもっている男だよとツッコミたい遥。周りの護衛官も無上の言葉を聞いて動揺している。おいおい、真面目に政府のエージェントを護衛しているつもりだったのかと内心笑ってしまう。


「あはははははは、おっかしい! なにそれ? 視線を向けられただけで、エージェントに任命された? どんなテレパシーをあなたは持っているのよ。あ、超能力者はあなたじゃなくて、娘の方だったわよね? あなたもテレパシーをもっているのかしら?」


 無上の返答を聞いて、腹を抱えて大笑いをして煽る言葉を言い放つ褐色少女である。その毒舌の切れ味はなかなか凄いものがある。というか内心でみんなが思ったことを素直に口に出す胆力に感心してしまう。


「うるさい、うるさい! お前らを守っているのは本当だろう! リィズの力はこの崩壊後に突如強くなった。今までの機器の誤差だろうとか、周りに馬鹿にされて言われないレベルだ! 私の研究は正しかったのだ」


 怒鳴り返し、叶得を睨む無上。それを放置して遥はリィズに視線を向けて窺うように声をかける。


「あの、本当に超能力が使えるんですか? 生まれたときから?」


 その問いにリィズがチョコレートバーみたいな非常食をぱくぱくと食べながら可愛く頷いて答える。どうやら食いしん坊な子供みたいだ。


「うん、リィズは生まれたときから使えたよ。こんな世界になる前は少し何かを揺らすだけだったの。でも今はもっとすごいよ。見る?」


 可愛く首を傾げて聞いてくる。素直そうな子供である。どうも無上の方に問題がありそうだ。


 そういうパターンも映画や小説で学習済みさと遥は思いながら、ウィンドウに目を向ける。


「そうですね。ご主人様、彼女は天然の超能力者ですね。ライトマテリアルを元々微粒子レベルで持っていたのでしょう。そういうのは滅多にいないのですが、どうやら崩壊時に活性化して、その力がある程度強力になったと思われます」


 サクヤの答えに、なるほど解答ありがとうと、頷く遥。そしてサクヤの微粒子レベルは、人外レベルの可能性が高い。比較対象が惑星レベルの力をもつ遥なので。遥の残滓程度で超能力に目覚めた主人公な女警官もいたわけであるし。


「どんな力なんですか? 見せてもらってもいいでしょうか?」

 

 そう問いかける遥に、こくんと頷くリィズ。


「いいよ、あなたの超能力も見せてくれたら」


 ふむと顎に手を当てて、その提案内容を検討する。だが、天然の超能力者の力なんて、見たいに決まっているのだ。サイキックブリッツでも見せればいいでしょうとその提案に乗ろうとしたところであった。


 がちゃんとドアが慌ただしく開いて護衛官が入ってきた。


「無上さん、また化け物が侵入してきました。助けてください!」


 汗だくで焦りながら怒鳴る護衛官を見て、さっきの提案に乗らなくてもよさそうだねとおっさん少女は思うのであった。




 

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