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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
9章 東京観光をしよう
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96話 おっさん少女は褐色少女のお宅に訪問する

 闇が砂漠に迫り焼きつけるような日差しが終わり、凍える空気が世界を覆い尽くす。


 砂漠の夜の世界の到来である。テレビとかで知っていたが、砂漠は夜になると本当に寒くなるんだなぁと遥は思いながら、乗っている砂いかだはオアシスに入ろうとしていた。


 吐く息は白くなり、寒さを防ぐために叶得たちはリュックからマントを取り出して身体に巻き付けている。


 この半年間で学んだ生き残るための術なのだろう。寒いとは思うが、人外の耐性を持つおっさん少女はビクともしていない中、呑気にそう思っていた。


 だけど、私もマントを巻き付けないと変だよねと、ぐるぐるとデザートマントをちっこいカラダに巻きつけると、謎のミイラみたいになった。ちょっと恥ずかしいおっさん少女である。


 チビミイラ姿も可愛らしいですねとサクヤが言っているのが聞こえたのでますます恥ずかしくなるのである。


 そんなコントをしているとオアシスに接近してきた。


 近寄るとわかるが、岩でできているだろう丘であった。その高さから小さな山と言っても良いかも知れない。


 地面は岩でゴツゴツとしており、その中を砂が少しばかり覆っている。岩のひび割れから水が流れ出しており、小さな川が形成されているのが見えた。


 転ぶと怪我しそうなぐらい周辺は鋭利な岩が続いており、オアシスに近づくと段々土に地面が変わってくる。


 オアシスの周りには木々が生えており、ポツポツとテントらしきものが張られており、かがり火が道らしきものの前に置いてある。そしてその道はバリケードらしきものがあり、ボロそうな粗大ゴミでできていそうな扉が塞いでいた。


 ますます核戦争後の世界らしいじゃんと心躍るおっさん少女。気分はこの新たなオアシスに旅で訪れたストレンジャーだ。何処までも気楽なゲーム脳である。


 まぁストレンジャーでも南極を調べたりはしないし魔界を旅もしない予定であるが。


「そろそろ到着よ。ローブで顔を隠して、門番のアホに絶対に見られないでね。厄介な事になるわ」


 叶得がおっさん少女を見ながら真剣な表情で約束してねと伝えてくる。


 厄介な事に興味津々な遥。ローブを外したらヒャッハー系な門番に絡まれてしまうのだろうか?世紀末救世主伝説の始まりだろうかとドキドキしている。


 そんな遥の内心をよそに、砂いかだはホバークラフトの如く飛んでいたのを、山賊が帆を絞り始めてブレーキをかけ始めた。


 ズザザと地面に砂いかだが接地し始めてこすれる音がする。そうしてギギギと揺れが発生しボロい木の床が軋みながら遥たちは身体が揺られる中で停止した。


 到着した所はちょうど門の前であった。夜になり周りは暗くなる中、ボロいつぎはぎの木でできた扉がかがり火で照らされて不気味な様子を見せている。


 砂いかだが到着したことに気づいた革の鎧のような物を装備して汚い服を着たゴツい門番が、門の上にある監視所の人間に手を振る。それを合図に門が軋みながら開いていく。


 なかなかの迫力である。今のところ、おっさん的には80点をあげる舞台設定だ。普通の汚れたボサボサ髪の門番がパンクな髪型なら尚良しと、謎の上から目線で映画の評論家のように点をつける。そのおっさんはB級映画が大好きであり、チープな映画ほど点が高かった。ゾンビ映画は勿論高得点である。


 でも、よく考えればあの髪型を維持するのは凄い大変である。きっとあの髪型の維持費が必要でヒャッハー系な仕事をしていたんでは無かろうかと、相変わらずしょうもない考えをするおっさん少女であった。


「今日は随分遅いじゃないか、大分稼げたのか?羨ましいねぇ」


 体を揺らしながらウヘヘと笑い、絡む気満々な門番みたいである。モジャモジャ髭に、汚い髪と世紀末にぴったりな門番だ。何がぴったりなのかは、おっさん少女の基準である。


 何しろ今までのコミュニティは生存するのに一生懸命な善良な人々ばかりであったのだ。ハッピーエンドが好きな遥はそれも良かった。しかし崩壊した世界である、遂に現れたヒャッハー系な門番を見て、この先のコミュニティを想像してフンフンと興奮しているのである。さすが都会、一味違う世界だと思っていた。このおっさん少女は何を都会に期待しているのだろう。


「ふん、あんまり稼げなかったわよ。もうこの辺も駄目ね」


 叶得が門番を見て、吐き捨てるように目を細めて睨みながら答える。周りの山賊も腕を組んで威圧するように頷く。おっさん少女もチビミイラのまま、周りに合わせて腕を組み可愛く頷く。


 このおっさん少女の可愛すぎるマスコットみたいな行動のおかげで、山賊たちが頑張って作った威圧感がシュルシュルと消えていく。


 その可愛らしい行動を見て、慌てておっさん少女を背に隠そうとする叶得。明らかにこのメンバーの中で浮いており目立ってしまっている。そして叶得の慌てた姿も目立ってしまっている。


 勿論、その様子を門番が見ておかしく思わないわけがなく、叶得たちにおっさん少女のことを不思議そうな、何でこんなところに子供がいるんだという表情で聞いてきた。


「おい、その子供は何だ? 何でお前らと一緒にいるんだ?」


「この子はね、え〜と、この子はね」


 オロオロして冷や汗をかきながら慌てた表情で言い淀む叶得。


 全く設定を考えていなかったらしい。駄目だなぁ、ちゃんと設定は考えておかないとと、いつも適当な、いきあたりばったりな設定を決める遥は自分のことを棚に上げてそう思った。


「その子は俺らのいかだに乗ってきていたんだ。どうやら自分も物資調達をしたかったらしい」


 渋い重々しい声音で眉を顰めて迷惑だったのだと顔に出して門番に話す山賊。上手な演技である。どこかのおっさんとは比較もできないだろう。


「そうよっ! この娘のおかげで死にかけたんだから! 危ないところだったのよ」


 叶得も父親のフォローで立ち直り、門番を睨み返しながら話にのる。人と話す時は睨むのがデフォルトの褐色少女なのだろうか。


「あ〜ん? テメエらが死にかけたとは穏やかじゃねえなぁ。貴重な物資調達隊だからな」


 おっさん少女を睨みながら門番が凄みを出して怒鳴ってきた。どうやら褐色少女隊は、それなりには大事にされているみたいである。


「おう、小僧!こいつらはな貴重な物資調達班なんだよ! それの足を引っ張るんじゃねぇ!」


 チビミイラなおっさん少女である。見た目では顔は隠れているし貧乳ということもあり男に見えたのだろう。


 怒鳴りながらすばやく叶得を腕でどけて、おっさん少女にノシノシと向かってくる門番。


 なかなかの筋肉でできた丸太のような右腕に力を込めて殴りかかってきた。


「ちょっと! 何をするの!」


 殴ろうとする門番に向かって叶得が叫ぶが遅い。門番はその汚い顔を喜色にして口元に笑いを浮かべて殴りかかってきた。


 どうやら殴る理由が欲しかっただけのようである。ストレス発散のサンドバッグにしようとでも思ったのだろう。


 しかし相手が悪かった。この身体は小柄で脆弱そうに一見見える子供な姿である。だが、中身は超高性能なチートな体躯のレキぼでぃなのだ。


 おっさんなら、ぶけっとか言いながらあっさりと殴られるだろう。崩壊前なら絶対に近づかない人種である。


 門番の力を込めた右拳が飛んでくる。筋肉が膨張し、顔は力んでいるために赤くなっている。イジメが大好きな人種らしい。


 そんな右拳はあっさりとつきだしたおっさん少女の左手のひらで受け止められた。紅葉みたいな可愛いおててに、野球のグローブみたいな拳がパシッと音がして、止められる。そして受け止めたにもかかわらず、全く体幹も揺るがず微動だにしないおっさん少女。


 驚愕の門番。まさか受け止められるとは思わなかったのだ。周りもそれを見て驚いている。


「あまりにもテンプレ過ぎて、逆に笑いそうですね」


 冷静な声音で眠たそうな目で門番を見る遥。


 レキが出るまでもない。遥だってスキルを使いこなせるのである。こんなのは余裕綽々だ。テンプレ過ぎるのを爆笑しそうで、頑張ってお腹に力を込めて耐えているのだ。色々力の間違った使い方をする遥であった。


 だが今回はその爆笑を耐える姿が勘違いされた模様。


 ふるふると震えているのがバレたのだ。多分ハッタリを出して、実際は力いっぱい防いでいると門番は遥の姿を見て思ったのだろう。


 ニヤリと笑い、もう一回腕を振り上げて殴ろうとしてくる。


 だが次は無かった。それを見て叶得が怒鳴ったのだ。


「やめなさい! それ以上殴るつもりなら通行料は支払わないわよ!」


 この言葉を聞いて、門番の動きが止まる。叶得へと振り向き直し視線を向ける。


「稼ぎが悪いんじゃなかったのかよ?」


「そうね、悪かったわ。でも貴方たちに一箱ぐらいは分けられるかもね」


 叶得の言葉に、いやらしそうな笑顔になり拳を引く門番。


「そうこなくっちゃな。貰っていくぜ」


 山賊たちを邪魔そうに退けて、砂いかだに近付き、乗せていた箱群から一箱選び肩に担いで持っていく門番。


「毎度。小僧お前のおかげで良い稼ぎになったみたいだな」


 ワハハと笑いながら、最後まで皮肉を言ってきた門番である。


「良いぞ、通って良し!」


 門番が塞いでいた道を開けてようやく遥たちは中に入れるのだった。


 テクテクと歩いて行くと、テントが軒を並べて、テントの入り口から人がやつれた顔を出して覗いていた。


 所々にかがり火が焚いてあるがテントの数に全くあっていない。燃料が足りないのだろう。


「アイツ等に絡まれなくて良かったわ。危ない危ない」


 胸をなでおろし一安心する叶得。心配だったらしい。遥も一安心である。多分戦闘になったら雑魚は死ぬ運命だからだ。おっさんと門番のどちらがより雑魚かは不明である。


「叶得さんたちは何を調達していたんですか?」


 崩壊したビルから持ってきたのであろう箱が何か不思議な遥である。その質問に叶得が得意げな表情で教えてくる。


「あぁ、ここは都会のビルよ? 安全も考慮されている企業が多かったのよ。詳しく話せば災害用の非常食を貰ってきているのよ」


「それに引き出しにはお菓子類。冷蔵庫にも飲料水が入っていることが多い」


 山賊も叶得の話を引き取り続けてくる。


 なるほどね〜と感心して頷く遥である。確かに言われるとその通りである。ビルにも色々な物が溢れていたのだなぁと思う。


「盲点だったでしょ? お父さんが考えついたの!」


 表情から父親を尊敬してるということがわかる。最近少ない稀少な良い子である褐色少女だ。


「どうぞ、ここが私の家よ!」


 叶得が手を向けるその先にはバラックで作られた掘っ立て小屋があった。


 周りがテントの中で掘っ立て小屋とはいえ、よくぞ手に入れたと感心する。その思いに感づいたのか叶得は得意気に伝えてくる。


「私が作ったのよ! 凄いでしょ」


 何と砂いかだに続けて、家らしい。この娘はクラフト褐色少女なのだった。


「それは凄いですね。家を建てるなんて驚きました」


 掘っ立て小屋を建てたと聞いて、遥は本当に驚いた。寝ている間に豪邸になったり、基地が建設されているのも驚いたが、人力でこれを作った叶得は本当に凄いと思うのだ。


「フフン、どうぞ入ってもいいわよ」


 遥の返答にご機嫌な表情になり、ドアを開けて中に勧める叶得。山賊の仲間は家に帰るのだろう。挨拶をしてバラバラに分かれていった。


 お邪魔しますと中に入ると暗かった。


「ちょっと待ってね」


 カチカチとランプらしきものに、ライターで火をつける叶得。火がついて少しして明るくなってきた。暗かった中で、そんなに明るくはないがそれでも貴重な灯りだとわかる。


 感動する遥。ここまで作る大変さが想像できないぐらい大変だったとわかるからだ。ぱちぱちと可愛いおててで拍手をして褒めちぎってしまう。


「これは凄いです。一人で作ったのですか?かっこいいです。叶得さんは本当に凄い!」


「それほどでもないわよ」


 と顔を反らしてツンなところを見せるが、頬は赤く染まり照れていて、口元がニヨニヨして喜んでいた。


「座って座って。一休みしたら外の話を聞かせてよ」


 叶得がやはり自作っぽい椅子を勧めるので叶得と山賊の対面に座る。叶得が、はい、どうぞと缶コーヒーを出してくる。この状況だ。火を使えないので仕方ないのだろう。


 いただきますとペコリと頭を下げて、こくこくと両手で缶コーヒーをもって飲み始める可愛い姿のおっさん少女。


 しばらく休んでから、うずうずと叶得が待っていたとばかりに聞いてきた。


「ねぇ? 外はどうなっているの? 本当に外も危険なの?」


 まだ外は普通だと信じていたいらしい。


「砂漠ではありませんが、様々なミュータントが徘徊しています。生存者はその中で懸命に生きています」


 遥が真っ直ぐに、眠たそうな目で真摯な声音で叶得を見ながら話す。叶得も真面目な表情で、考えながら聞いてくる。


「そう……。でもそれじゃ貴方はどうしてここに来たの? 生きるのに精一杯じゃないの?」


「私は文明復興財団大樹に所属しています。財団は他のコミュニティを支援しつつ復興を目指している団体なんです」


 それを聞いて椅子を倒し、勢いよく立ち上がる叶得。興奮気味の表情で遥に顔を近づけて勢い込んで問いかけてくる。


「やっぱり政府みたいなのがあるんじゃない! いつ助けに来てくれるの? 他のマトモなエージェントはいつ来るの?」


 まぁ、そうくるよねと内心苦笑して、冷静に答える遥。後、おっさん少女はマトモなエージェントではないと、さり気なくディスられている。


「やっていることは政府に近いかもしれませんが、政府ではないのです。営利団体でもあるので、ある程度調査をして安全を確保しないと来ないと思います。後は知っている限りではエージェントは私だけですね」


「貴方だけが送られてきたエージェントなの?」


 はぁ〜と溜息をして、期待できなさそうな組織ねと呟いて倒した椅子を直して座り直す叶得。


「私は凄腕のエージェントですよ?意外とすぐに状況を変えられると思います」


 ニコリと笑顔で遥は話を続ける。こちらも聞きたいことがあるのだ。


「ところで政府の超能力者に興味があるのですが、教えてくれませんか?」


 家の外で耳をそばだてて盗み聞きをしている男がいるのを察知しながら、おっさん少女は褐色少女の話を聞くのであった。





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