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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
8章 コミュニティを街にしよう
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91話 おっさん少女は都会の凄さを見る

 東京駅、紛れもなく東京都の中心地であり、周辺地域全ての路線が行きかう場所である。東京駅内を普通に歩こうとしても、迷うことは確実である。複雑につながる地下道と多数ある路線を見て、地図を見ながらでも迷う場所。上京してきた人間が東京駅から降りて、その広大な駅を見て大勢の人が行きかう姿を見て、さすが都会と思う象徴でもある。


 遥は崩壊以前から、東京駅とかはバリケードを築けば天然のダンジョンになると思っていた。ちょっとファンタジー好きならその複雑怪奇な場所を見て一度は思う場所ではないだろうか? そのため、この駅は絶対にダンジョン化していると思っていたのだ。多分高レベルなのだろうなとも予想していた。


 大外れであった。予想外でもあった。遥がレキぼでぃにて秋葉原駅を南下して東京駅に向かったところで神田あたりから空間の歪みがあった。大幅な物であり東京駅どころか周辺の駅などを全て覆うドーム状の空間があった。恐らくは北は水道橋駅、南は品川、西は新宿までを覆っている可能性があるとサクヤが言っていた。


 ドームの大きさからしてそれぐらいはありそうである。そして空間の歪みによりドームの中は蜃気楼みたいなおぼろな幻影のようにしか中が確認できなかったのだ。


 そのため、遥は恐る恐るレキぼでぃで空間の歪みの中に入ってみたのである。


「ちょっと予想外だよね、これ。いや案外予想通りなのかな?」


 そうして、中に入った遥はその風景をみて呟く。


 その視線の先には広大な砂漠があった。どこまでも続いていそうな砂漠である。そして砂漠のところどころに崩壊したビルが砂に埋もれて存在しているのが見えた。


「まさに崩壊した世界感そのものだね。これ」


 はぁ~と感心する。その風景は広大であり砂漠が延々と続くのはある種の感動を覚えた。


「ご主人様、ミッション発生です。東京砂漠エリアを解放せよ。exp30000、アイテム報酬? ですね」


 まじですか。そうですか、経験値報酬30000ですか。やばい予感がしますねと怯む遥。そして東京砂漠とはまた気の利いた名前である。歌の題名にも何回かなっていたような覚えがある。人の人情が発生しない義理人情が枯れた東京。すなわち東京砂漠である。それが実際に砂漠と化していた。


 そして、これまでの経験から5000でも報酬の経験値が上がると敵が一気に強くなるのだ。30000だとヤバイレベルに敵はなっているだろう。


「う~ん、どうしようこれ……。進みたくないんですけど? 死ぬ予感がするんですけどサクヤさん」


 今日はもう帰ろう。そうしよう、帰ってお酒でも飲んでこれからのことを考えよう。東京砂漠は置いておくことにして地方の攻略に向かおうと考えるおっさん少女。


 以前ならそれでOKであった。問題なく帰還できたのである。


 しかし、今はそうはいかなくなっていた。


「面白そうです。進みますね」

 

 おっさん少女の主導権をレキが握り、ピョンと砂漠に降りる。砂が小柄な足に踏まれてキュッとなる。砂場や砂浜ではない砂の上を歩くのは初めてである遥。


「いやいやいや、お待ちくださいな。レキさん。ここは危険度が高い場所ですよ? 多分強い敵がバシバシでてきますよ?」


 遥がレキを説得しようとするが、戦闘民族な少女は強敵がいると私わくわくすっぞとばかりに歩き始めるのであった。


 はぁ、しょうがないなぁ我儘を聞くのも大人の役目かと、いつも我儘と行き当たりばったりの行動でレキに迷惑をかけている遥は思ったのであった。




 砂漠に踏み入れて移動をしようと脚を踏み入れたが2歩目にして驚いた。


 ズズズと足首まで砂漠の砂に飲み込まれたのであるかなりの柔らかさの砂である。まるで新雪のようだ。


 そりでも作らないと駄目かと遥が思っている間にレキも沈み込む足首を確認する。


「ふむ、これだけ密度の低い砂ですと足首が飲み込まれてしまいますか」


 3歩目も足首までズズズと砂に飲み込まれるのを確認して、うんうんと頷くレキ。


 次の一歩を踏み出す。そうしたところ、足首までは飲み込まれなかった。せいぜい靴が埋まるぐらいである。


 次の一歩で靴は飲み込まれもせずに、硬い地面を踏んだように靴裏が接地したようになった。


「これで大丈夫ですね」


 レキは呟き、また歩き始める。その歩みは砂に飲み込まれなく、普通に靴裏が砂に接地して歩けるようになっていた。


 あっという間に砂漠の歩き方に適応したレキである。さすがレキ! どこかの新人類かな? 砂漠戦にプログラミング変更完了だねと遥は感心したのである。おっさんではこうはいかないだろう動きである。極限までスキルを使うレキに許される行動だろう。おっさんならたぶん車両を作るために退却していただろう。砂漠戦特化とかロマン溢れる車両を作りに戻ったと思われる。遥は特化型機動兵器が大好きなのだ。


「でも、どこから調べようかなぁ」


 きょろきょろと周りを確認する遥。歩き方はレキが教えてくれたので後は遥の操作に戻ったのだ。戦闘以外は興味がないレキである。そして後退も許してくれないみたいである。


 周りは見渡す限りの砂、砂、砂である。ところどころに崩壊したビルが砂に埋もれかけて存在している。砂埃が舞い、空は青く雲一つない。そして日差しが照っており普通の人間ならば熱中症で簡単に倒れるだろう暑さである。そろそろ秋も深くなってきているが、ここは関係ないらしい。そして砂以外は何もない虚無の世界を感じさせる。


「とりあえず、あのでっかいビルを目指しますか」


 遠くに見える半分崩れている高層ビルまで向かうことにする。小柄な愛らしい体躯を動かし、砂の音をキュッキュッとたてながら、テクテクと歩いていく。その後ろにはカメラドローンがレキぼでぃの姿を入れて珍しい砂漠での撮影をどこかのアイドルのPVを撮影するが如くしていた。


「ご主人様、お気を付けください。全く敵の反応がないことはおかしいです」


 サクヤの忠告にうんと頷いて周辺を見るが、やはり敵の姿が見えない。砂漠なので、見渡しは良いのだ。それなのにかけらも敵を感じない。ここは東京駅周辺なのだ。恐ろしいほどの数の敵がいるはずなのに、全く見えない。


「どこかに隠れているか。ダンジョンとかにひしめき合っているのかな」


 呟くように遥が言うのをサクヤが断言できませんと伝えてきた。


「注意して進むことにするよ。サクヤも敵が見えてきたら教えてね」


 元気よくサクヤは了解しましたと笑顔で言ってくるのであった。


 そうして1時間ほどのんびりと歩いて高層ビルがあと少しというところである。周りにも崩壊したビルだらけになってきて、まさしく崩壊した世界感まんまだと遥が考えていたときである。


 足元の砂に違和感を感じた。柔らかい砂ではなく硬い感触があったのだ。


 何か埋まっているのかなと遥が確認しようとしたときに、後ろから砂を突き破り尻尾が襲い掛かってきたのだった。


 まるで温泉を探すボーリングみたいな太い杭であり、先端はどろりとした液体で濡れている。明らかに毒の感じがする。金属らしき装甲に包まれており、日差しを照り返している。


 砂から不意打ちしてきた尻尾を見て遥は焦りもせずに思った。


 やったね、レキちゃん。新しい敵だよと。


 レキにたいして飛来する尻尾。砂を突き破ったために周りに砂粒が浮き、レキまで飛び散ってくる。そうして風を切りながら、鉄すら簡単に貫通しそうな鋭いとげが先端についた尻尾が飛んできた。


 レキは砂を突き破る音ですぐさま戦闘態勢へと移行していた。貫かんとする尻尾をゆらりと柳のように体をゆらせ、風切り音をたてながら肉迫して当たる寸前にぎりぎりでその体躯をずらし、まるで風に煽られたようにゆらりと回避をした。


 すぐさま回避後に砂を蹴り、高々とジャンプをするレキ。ジャンプする前にレキがいた場所に今度は両脇から砂を突き破り、レキを挟み切り裂かんとする鋏が現れる。2メートルはあろう鋏である。やはり尻尾と同じく金属のような装甲をしている鋏である。


 ガチンと金属が噛みあう音がして鋏が閉じる。そこに居たままであれば確実に上半身と下半身が断たれていただろう勢いのある閉じ方であった。


 そして獲物が逃げたことを知り、ズザザザと砂から全身が現れる。零れ落ちていく砂。


「なるほど、砂漠にはサソリですね」

 

 スタッと離れた場所に着地して、動揺もせずに眠たそうな目で出てきた敵を見るレキ。甲殻が金属みたいな鉄色をしている10メートルはありそうなサソリである。


「レキ、あれは鉄サソリと名付けました!」


 レキが敵の攻撃を避けられたことを確認して遥が叫ぶ。ウィンドウに写っていたサクヤがパクパクと口を動かして涙目になる。


 そしてサクヤはくすんくすんと顔を手で覆い泣き始めた。


「ごめん、ごめん、ちょっと魔が差したんだよ。もうしないから」


 慌てる遥である。まさか泣くとは思っていなかったのだ。


「もうしませんか?」


 とサクヤが指の隙間を少し開いて遥に聞いてくる。


 その時点で嵌められたと気づいたが仕方ない。美女の涙に勝てる男性はいないのだ。


 しょんぼりともうしません。ごめんなさいと言う遥。


 「わかりました。今回は許しましょう。その代わりに後でお風呂に一緒に入りましょう。砂を落とさないといけないので、それはもう念入りに入りましょう。しっかりと素手でにゅるにゅると洗って差し上げます」


 うんうんと頷いて、顔を覆っていた手を外すサクヤ。言い方が凄い卑猥な感じがする。勿論、涙など欠片もないどころか、よだれを垂らしそうな勢いで頬を染めて目を輝かせて言ってきた。


 はぁ~と溜息をたてて、自分が今のは悪かったかと思い貞操は守ってねと言って了承をするのであった。


「そんで、今の敵はなんていう名前にするの?」


「はい、あれはアイアンスコーピオンと名付けました!」


 目をキラキラとさせながらサクヤが言う。


「それ英語にしただけでしょ! 私の名付けのパクリじゃん!」


 遥がツッコミを入れると、最初から決めていました~と口を尖らせて口笛をぴゅーぴゅーと吹き始める。意外と上手なのがまた癪であるサクヤであった。


「もうコントは終わりで良いでしょうか?」


 冷たい眠たそうな目でレキが再び主導権を取り言ってきたので、はい、とサクヤと遥はうなだれてお互いに反省しながら謝るのであった。


 なんだか二人に分かれたら、もっと酷くなったおっさん少女である。第三者が見たら、突如叫んだり、冷たい声で突っ込んだり、うなだれたりと、そのおかしな様子から病院を勧めてくるレベルだった。


 そんなコントを鉄サソリが待つわけもなく、レキに向かって多脚をシャカシャカ動かして近づいてくる。大きなサソリがそれをやると凄い気持ち悪い。そして予想以上に速い。


 レキ、任せたよと戦闘を任せる遥。任されましたとレキは戦闘モードに入る。


 まるでトラックが暴走しているような速さで接近してくる鉄サソリ。近づいてきたと思ったら尻尾を持ち上げてこちらにその先端の針を向ける。


 そうして超常の力が満ち溢れていき、尻尾の先端が赤く光る。すぐにチュインと音がしてレーザーみたいな赤い光が飛んできた。


 しかし、たとえ光の速さでも、レキには撃つタイミングも射線も丸見えである。そんな攻撃に当たるはずもなく、少し足をずらし、身体を僅かに傾けただけで、横を赤い光が通り過ぎていった。ズドンと回避した先の砂に大穴が空く。かなりの威力みたいである。


「レーザーですか。なるほど、ここの敵は今までとはレベルが違うみたいですね」


 感心したように呟き、レキは砂を蹴りジグザグに高速移動し始める。残像が生み出される勢いの速度で移動するが、しっかりとそれに合わせて撃ち続ける鉄サソリ。


 チュインチュインと横をレーザーが通り過ぎていくのを、平然としながら回避してサソリの真正面に接近する。


 すぐさま、サソリは両鋏をレキに向かって振りかざす。その図体に似合わずに恐ろしい速さである。それを証明するように風をビュオンと切る音が聞こえてくる。


 その鋏が到来したときに、ぴょんと軽くジャンプするレキ。ガチンとまたもやレキがジャンプした真下で鋏が噛みあう。その噛みあった鋏に降り立ち、すぐにもう一回ジャンプをした。


 ジャンプをする前の場所にレーザーが飛来して通り過ぎていく。レキは飛翔した体を捻り、そのまま鉄サソリの胴体の真ん中に降りながら、右足に力を込めて蹴りぬいた。


 ガーンという金属音がして多少の亀裂が入る鉄サソリ。


 その硬度に僅かに眉を上げて驚くレキ。パワーアップ後は、オスクネーすら耐え切れずにあっさりと刀に切られるが如く、切り裂いたのだ。それが亀裂のみである。余程の硬度だということがわかる。


「硬度はスカイ潜水艦程度ということですね」


 レベルが上がると序盤のボスと同じ強さを持つ敵が雑魚として現れるというゲームにありがちな仕様である。どうやら、この鉄サソリはスカイ潜水艦と同等の力を持っているらしい。


 ふ、と口元を可愛く綻ばせてレキが亀裂の入った場所を見る。


「では、どれぐらいで壊れるか試しましょう」


 高速で蹴り足を連続で繰り出すレキ。胴体の真上にいるので尻尾のみしか攻撃が届かないサソリが場所を移動させて仕切り直そうとするが遅かった。


 連続で銅鑼を鳴らすような音がする。砂漠にガガガガと金属音が響き渡り、その猛攻に耐え切れなかった鉄サソリの外骨格は胴体ごとプレスされるみたいにその小柄な体躯から繰り出される蹴りで潰れていった。そうして少し経った後には鉄サソリの死骸が生まれたのであった。


「ライトマテリアル(大)にアイアンマテリアル(R)かよ。まさにここは高レベル地帯に間違いないな」


 戦闘が終了した後に遥がドロップアイテムを確認すると驚愕のドロップアイテムであった。額に冷や汗が流れる。今まではボスしか落とさないアイテムを雑魚キャラが落としたのだ。


「いやいや、待てよ。こいつが雑魚ではない可能性もある。もしかして、ここのエリアボスだったのかも」


 希望的、楽観的観測をして現実逃避をしようとする遥。だって敵が強すぎなのだ。適正レベルからかなり外れていると思われる。


「ご主人様、その可能性は低いかと。あの敵は超術で隠れていたと思われます」


 あぁ~、超術看破はlv1なんだよねと、うんざりした表情になるおっさん少女。ここでは看破系スキルが必要になりそうな予感である。


「それに雑魚であるという証明もできそうです」


 レキが眠そうな目で冷静に言うので、遥がなんで?と疑問に思い質問しようとしたが、レキが指さす先を見て聞くのをやめた。


 ズササッと砂が零れ落ち、何体もの鉄サソリが砂の中から現れてきたのだ。


「そうだね。あれは雑魚だね」


 と納得しておっさん少女は連続戦闘に備えるのだった。


 













 


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