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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
8章 コミュニティを街にしよう
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89話 銀行業を始めるおっさん

 荒須電気会社が設立してから一週間たった。今度は本当に経過した。1週間経過し電線の配線も終わり、夜も明かりが灯り、冷蔵庫で食料を保管できるようになり、ようやく人々はかつての生活水準に戻りつつある。


 まだまだミュータントも多く、外にでるのは危険である。だが、水と電気の使用が可能になったことで大分余裕が出てきたのだろう。高度成長期の昭和の時代みたいに騒がしく、人との付き合いを大事にしているコミュニティとなっていた。


 そのコミュニティの名は若木である。防衛隊に買わせたワッペンに適当に大樹だから、防衛隊は若木で良いよねと名付けて渡したら、いつの間にか財団大樹管理若木コミュニティと名乗り始めたのだ。


 まぁ、財団に頼り切りだし、その名前を使えば何かあれば助けてくれるだろうという人々の思惑も感じるのだが、別にいいだろうと遥は思う。


 今は新たに建設した店の方を片付けないとと、面倒だなぁと溜息をついて、どうしてこんなことになったのかと思っていた。


 店を見ると皆が貴金属やお金を持って店に並んでいる。新しい店の名前は銀行ルームである。名前通り人々のお金や貴金属を預かる銀行業みたいなものである。但し、崩壊前の銀行と違うのは毎月1000円の保管料を取ることである。そしてお金を出し入れするたびに手数料100円を取る。


 正直、銀行みたいなのに、保管料を取るんだから誰も使わないでしょうと思っていたが、コミュニティの人々は我先にと預けに来た。

 

 どうやら自分の家にお金や貴金属を置いておくのは不安だったらしい。貯金が好きな民族ということもあるかもしれない。


 まぁ、不安もわかる。何しろオフィスを改造した家とかがほとんどなのだ。今普通の一軒家を持っているのはナナぐらいかもしれない。勿論、基地をもっている遥は除く。


 保安など考えられない場所である。不安を持っていた人々は銀行ルームに頼るために来たのだ。


 そうして今建設した店に人々は訪問しており、それに対応するために雇った人やまとめ役としてツヴァイ銀行タイプを置いているのだ。ツヴァイ銀行タイプは他と変わりがないが、銀行業に関わっていることがすぐにわかるように命名したのだ。なぜだか、ツヴァイたちに大分人気だったようで我も我もとツヴァイたちが争うように遥の前に来たのが印象的であったが。


 銀行ルームに預ける人には水晶でできたような透明な色をしているSFチックな生体認証式カードを渡される。


 通帳替わりであるこのカードは基地に新設した銀行とリンクしており本人以外の使用は不可能である。本人が死亡あるいは使用を委任した場合はカードの生体情報を調査して死亡を確認する。そして死亡時は生体認証で確認されている親族しか使用不可である。委任時は本人に確認をしにいかなくては使用できない。または遺書などが本物か調査後に使用可能となる。


 物凄い性能であるが建設lv4で作った銀行である。預かった荷物はリンクされている本店か支店に設置されているトランクルームに入れると転送されて基地内の銀行の倉庫に保管される。拠点聖域化があるので泥棒も不可能である。現代とは違うSF的なゲーム仕様の防衛も完璧な凄い施設なのである。


 そもそもの始まりはナナが財団に口座を作ったと豪族に口を滑らせたことから始まる。それを聞いた豪族が自分たちも財団に預けたいと言ってきたのだ。物資は財団が掴んでいるし、口座からだまし取られることもあるまいと判断した模様である。


 それ以上にコミュニティを運営している大金や貴金属をいつまでも金庫にも入れずに監視を置いているとはいえオフィスの部屋に置いているということに危機感を覚えていたらしい。


 しょうがないなぁと豪族の口座を作ることを許可したところ、それを聞きつけた周りの人々も自分たちも同様に預けたいと言ってきたのであった。


 はぁ~。面倒だとまた溜息をつくおっさんである。そう、今日はレキぼでぃではなくおっさんぼでぃなのだ。


 ゲームの基本仕様であるどちらかしか存在できないという縛りのためである。ゲーム仕様に縛られている以上、小説や映画のように最終的に二人の身体が分かれるということは絶対に無いのだ。ゲームで職業を変えてキャラを育てていたら、別々の存在になるといったことがないように、遥たちも別々の存在になることは永遠にないのであった。


 すなわちいい加減で面倒くさがりな、くたびれたおっさんと戦闘民族で戦うこと以外は寝ることしかしませんという残念美少女レキは一生を同じ体で過ごすのである。


 まぁ、それは別に良いんだけどと、それに苦悩を全くもたないおっさんは単にここに来るのが面倒だったのである。


 なぜかと言うとエリートな頭の切れる冷酷な男を演じないといけないみたいだからである。人々の勘違いもあるが、自業自得の面も大きいおっさんであった。


「ありがとうございました。このカードは生体認証式なので気を付けてくださいね」


 新たなお客にニコリと笑顔を浮かべて対応する銀行員。雇った受付の女性である。ツヴァイをこんなことに使うのは嫌だったので、ツヴァイ一人だけを専任にして後はコミュニティの人間を雇ったのだ。カード作成もPCでできるし、トランクルームへの仕舞い方もPCの横に置いてある引き出しを開けてしまうだけだ。物凄い簡単であり、どう考えてもそんなにたくさん仕舞えないでしょうと思うはずなのに、皆疑問を覚えないのだ。


 この人たちもゲーム仕様に大分慣れてきたなぁと、色々と人々にやらかして慣れてきた原因を作っている遥は感慨深く頷いて思った。自覚は全くないおっさんである。


「いやいや、素晴らしい。開店おめでとうございます。先生」


 にこやかに腹黒そうな顔で遥に話しかけてくるのは狐男である。その取り巻きもいる。銀行を開店するとなると、さすがに美少女ではあるが、子供にしか見えないレキぼでぃに任せるわけにはいかなかったのである。大人でないと安心感が全くないだろうと内心苦笑する。


 そして、この人たちは邪魔だなぁと思っていた。遥が顔を出してきたら、どこから聞きつけてきたのかすぐに傍によってきて、おべっかを言い始めてきたのだ。


「たかが5000人程度の銀行ですよ? 今は投資先もない。趣味程度のものです」


 つまらない表情を作り、本音は怪しげな財団が作った銀行もどきによく預けるねと驚きながら遥は答えた。


「確かに先生にとってはたかが5000人でしょう。もっと大きい仕事をなさっている先生にとっては趣味程度! わかりますとも」


 狐男が頷きながら大げさなアクションをして遥にお世辞を言ってくる。


 何をわかるというんだ。この狐男はと思うが仕方ない。これも自分の撒いた種である。まさかナナに口座を作ったり、上野に気を利かせて発電機を設置したことが、ここまで大きくなるとは想像していなかったのだ。

 

 わかっていれば、絶対にそんなことはしなかったのだ。生活が厳しそうだけど頑張ってねとマイハウスでナインの膝枕をうけてゴロゴロしていたはずである。


「そのですな……、先生がお忙しいのは重々承知しております。そんな先生の忙しさを緩和するためにも不肖わたくしめがこの銀行をお手伝いしてもよろしいと思うのですが?」


 狐が考え深げなあなたのために提案をしましたという感じで提案をしてくる。


 それを聞いて遥は内心驚いた。まじかよ。たった5000人の銀行だよ? 実質預けに来るのは2000人から、いいとこ3000人ぐらいだ。だって家族持ちは夫か妻しか作らないし。従業員も3人しか雇っていないよ? ツヴァイを入れても4人だよと突っ込みたかった。儲けなどほとんどない仕事だ。従業員も格安で雇っている。崩壊前ならブラック会社である。週休二日制だけど。


 こんな小さな銀行もどきでも権力を欲する人間の欲に感心をしてしまう遥。


 でも、この面倒な願いはどうするべきかと考える遥。面倒で仕方ない。また豪族でも来ないかなぁと思うが最初に預けに来たのが豪族たちなので来る可能性は無い。しょうがないなぁと返答をまた後日にとか言って濁そうかと考えたところに声をかけてきた人がいた。


「すみません、頭取。えっと電気会社の荒須社長がいらっしゃいました」


 仕事に慣れていないのが丸わかりである従業員の一人、サイドテールのセミロング、パッチリお目目をしている織田椎菜である。


 崩壊前なら高校生であった彼女であるが、今はそんなことは言っていられない。力もあまりなく女性であり、なおかつ若く家族もいないという悲しすぎる彼女である。今までは鉄くず拾いとかをしていたが、可哀想であり若い女性なら受付としてぴったりでしょうという適当さで遥が雇ったのだ。


 レキぼでぃの時の知り合いであることが、その中で極めて大きい。他に同じような境遇の子はたくさんいるからして。紛れもなくコネであり、彼女もそれはわかっているだろう。だが、コネのどこが悪いの? と遥は思う。コネがあれば自分なら間違いなく使うし、そこは自分の運と環境が良かったのだ。


 崩壊前のおっさんはコネなど欠片もなかったので羨ましかった。自分も使いたかったといつも思っていたのだ。だから、ひいきと言われようとコネと言われようと気にしないし、そんなことを言ってくる人間は無視をする。


「あぁ、ありがとう。すまない、これから荒須社長と会う予定が入っていたのでね。また後日」


 酷薄そうに口元を歪めて、尊大な態度で狐男に言い放ち応接室に向かう遥。正直アポイントメントなんてないし、予定なんかなかったがナナさんはナイスなタイミングできてくれたと内心喜ぶ遥である。


 狐男は口を挟んできた椎菜を一瞬睨んだが、それでも遥に悪感情を持たれるのはまずいと思ったのだろう。それでは先生、また後日と頭を下げて帰っていった。


 応接室に入ると緊張したナナが珍しくスーツ姿で座っていた。隣には豪族もいる。どうやらアドバイザーに呼んだらしい。


 そんなに緊張するような内容を話すつもりもなかったのに、どれだけ自分は恐れられているんだかと内心で苦笑して、表情は冷静に取り繕い挨拶をする。


「どうもお待たせしました、荒須社長。この度は電気会社設立おめでとうございます」


 にこやかに冷酷そうな表情を頑張って作りながらナナに話しかける。珍しく左ウィンドウが開く。


「マスター、その表情もいいです。最高です。私の遥様の体躯シリーズに加えておきますね」


 頬を染めてうるうるした目でナインがそう話しかけてくる。どうやらサクヤが目立っていたのでわからなかったが、ナインは遥の時におかしくなるらしいことが判明した。どうもレキの人格が生まれたことによりサクヤへの遠慮が無くなったらしい。サクヤはレキをナインは遥をということで分担完了したらしい。


 日ごろから可愛いナインにこのような態度を取られると戸惑いが大きいんだけどと、嬉しい気持ちも大きいので苦労してウィンドウから目を離しスルーする。そして怪しいその題名は訴えても勝てるかもしれないと思ったが需要のなさそうなおっさんの撮影内容だろうから、敗訴する可能性もあると遥は考えたのだった。


 そんなコントをしているとは露知らずナナたちも頭を下げて挨拶をしてくる。


「この度は発電機や貯水池の作成のため、ご尽力していただきありがとうございます」


 こんな場面など慣れていないのが丸わかりである。自分も慣れていないんだけど練習したのだよ、と思いながら遥も話を続けた。


「いえ、こちらにも利益があることでしたのでお気になさらずに。それと我が銀行での電気料金のカード支払いということで人々は納得していただけました。これで料金の取りはぐれも少なくなるでしょう」


 ありがとうございます。とナナが返事をする。


 人々が作ったカードには勿論、管理者権限が存在している。銀行が認める企業へのカード払いも本人の同意があれば可能なのである。


 あんまり銀行には人が来ないだろうなぁと思っていたら、予想以上にきたので恐らくは電気料金の取りはぐれも少なくなるだろう。ちょっとナナに肩入れしすぎのような気もするが、まぁそれも良いだろう。所詮は適当で気分次第なのだと遥は考える。


 しかし、その善意をこの人たちは別のとらえ方をされた模様であることが次の言葉でわかった。


 豪族がこちらに眼光を鋭くして、お前の考えは全てわかっているぞという感じを見せながら話してきた。


「いやいや、これで電力も人々の資産も、そして我が防衛隊の力にも影響をもたらすことができて財団としては大きい利益が発生しましたかな? 復興が始まった後も十分な主導権をお持ちになれる端緒となれたことでしょう」


 嫌味的に言ってくる豪族。なんとそんな風に思われたのかと遥は驚いたが、確かにそう言われるとそう見える不思議な流れである。


 はぁ、こちらは善意でやっているんだけどと思うが仕方ない、この流れに乗るしかないと内心嘆息する。ここで否定すると今までの練習が無と化してしまうのだ。


「ははは、どうとっていただいても構いませんよ? こちらとしてはやることをやっているだけですので」


 そうして冷酷な表情と口元を薄く歪めて微笑み返答する、内心は悲しいおっさんであった。




 


 



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[気になる点] 最終的に二人の身体が分かれるということは絶対に無いのだ。 ↑ 人物紹介であったレキが遥の新妻は不可能じゃね?w 最終的に分かれることも可能にならんと無理だな…
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